『001 ユア・アイズ・オンリー』


[任務開始1日目]
 入国完了。事前に入手していた情報の通り、ターゲットの住居を確認する。近隣の適当な賃貸物件を拠点としてターゲットの監視を行う事とする。
 間を置かず、ターゲットとの接触に成功。本来ならもうしばらく様子を見てからの予定だったが、不慮の事故と偶然が重なった結果だ。予期せぬハプニングはあったものの、警戒されずにターゲットと接触できたのはかえって幸運だったのかもしれない。

[任務開始2日目]
 調査を始めて改めて分かった事だが、ターゲットの近辺は非常に魔人密度が高い。勿論ターゲットの家族が世界でも稀に見る程の魔人一族という事実を差し引いても、である。現に私が入居しているこのアパート内にも数名の魔人の存在が確認された。彼女たちはいずれもターゲットと顔見知りであり、単なる知人以上の関係性を感じさせた。念の為、監視対象に加える事とする。

[任務開始3日目]
 初回の遭遇時の出来事が思いの外有益に働いたようで、ターゲットとは会えば自然と挨拶や世間話を交わす程度の友好関係を築けている。予想外だったが恥ずかしい思いをした甲斐はあったようだ。事前の調査書を参考に、胸の谷間を強調した服装を心掛けているのも一因かもしれない。可愛らしい女の子のような容姿をしていても、そこは年頃の少年といったところか。

[任務開始4日目]
 ターゲットとの親密度をより深める為、リゾートプールでのデートに誘う。やや性急かもしれなかったが、問題なく成功した。幾つかのトラブルはあったものの、目論見は概ね果たせた。…………少しサービスしすぎたかもしれない。ともかく、手段はどうあれターゲットの心を奪ってしまえば後は容易い。

[任務開始5日目]
 知らず知らずのうちに疲れが溜まっていたのか、少し体調を崩してしまった。エージェントとして体調管理は任務以前の基本事項であり不覚としか言いようがなかったが、不幸中の幸いでターゲットが心配したのか見舞いにやってきて食事の用意や身の回りの世話を甲斐甲斐しく焼いてきた。私が素性を偽っているとも知らず、実にお人好しな事だ。任務でなければ素直に感謝していただろう。いや、今後の事も考えて当然、表向きの態度としては感謝を示した。玉子粥が非常に美味だった事も事実だ。

[任務開始6日目]
 昨日の不調が嘘のように回復し、任務に復帰する。早速ターゲットに会い、礼を述べておく。地道な好感度上げで取り込みを続ける事は任務の成功に直結する。その為には頻繁にターゲットと接点を持っておく必要があるが、幸いにしてターゲットとの接触に嫌悪感はない。仕事に私情を挟むべきではないのは重々承知しているが、脂ぎった敵国高官に愛想笑いを浮かべて取り入るのに比べれば格段に好ましく、身が入るというものだ。


[任務開始S日目]
 随分とターゲットとは親しくなれた。任務は順調に進んでいる。そろそろ行動に移して良い時期だろう。


[任務開始X日目]
 本日の調査内容をここに記すのは不適切だと判断した為、詳細は差し控える…………。


[任務開始Z日目・最終報告]
 調査の結果、ターゲットに関する事前調査は誤りで彼に特別な能力は認められなかった。よって我々がターゲットを確保する意味は無いと結論する。


(報告書はここで終わっている)
最終更新:2014年06月28日 09:07