■クオリア■


スーパー科学者マリーのことを知ってるかい?
マリーは白黒の部屋で生まれ、白黒の部屋から一歩も出ずに育ったんだ。
だけど、マリーは天才的頭脳を持っていた。
白黒の本を読み、白黒のテレビを見て、マリーは学習した。
マリーの関心はただひとつ。
自分の回りに存在しない「色」とは何なのかを知りたかったのさ。

そして、マリーは視覚についての神経生理学では世界最高レベルの知識を得た。
様々な波長の光を受けたとき、網膜がどのような反応を示すか、視神経を伝わってきた電気信号を脳がいかに処理するのか、人は何を「赤い」と言うのか、何を「青い」と言うのか。
マリーは色についてのあらゆる知識を、すべて手に入れた。
すごいよな、天才としか言いようがない。

何故マリーが部屋に閉じこめられていたのかは、解らない。
しかし、やがて彼女が白黒の部屋から解放される時が来ることになっている。
ここで問題だ。
色についての完全な知識を持っているが色を見たことがないマリーが、色で溢れる外の世界に出たときに、何か新しく知ることはあるだろうか?

あー。あー。そうだ。
これはな、フランク・ジャクソンって哲学者が考え出した思考実験なんだ。
だから、白黒の部屋で育ったスーパー科学者なんてのは実在しない。
だが、マリーは実際にいるんだ。
……俺が、マリーだ。

俺はすべてを知っている。
色も、形も、匂いも。
口に含んだらどんな味がするのか、こすりつけたらどんな感触なのか、頭に被ったらどんな気分になるのか。
すべてを知っている。
生地の繊維一本一本も、目には見えない微粒子レベルの染みすらもすべて知っている。

『アンダーワールド・ドミネイター』
パンツに関する完全なる知識を得る能力。
神がうっかり俺に与えちまった、最強の能力だ。
お陰様でオカズに困ったことは一度もない。
だがな、畜生、こんな能力は、本当にパンツを見るのにはちっとも役立ちゃしねえ。

パンツが見たい。
パンツが見たい。パンツが見たい。パンツが見たい。
パンツを見せてくれ。俺にパンツのクオリアを教えてくれ。
そして……できたら……パンツの中身のほうも……。
最終更新:2014年07月02日 05:55