2月某日、寒風吹きすさぶ中、
生徒会メンバーは夢の島内の海に来ていた。
「今日は風が騒がしいな...」
海パン姿の犬守がつぶやいた
「明日からまた大雪らしいぞい」
独り言のつもりだったので、背後からの返答に驚いて振り返る。
そこにいたのはドテラを着込んだ菅原道子だった。
(おかしいなあ。みんなで水着になれって言われたはずなのに…)
人見知りの犬守は心の中の言葉を口に出すことは出来なかった。
大体、彼女一人を責めてもしょうがない。
言われたとおり水着になっているのは自分くらいのもので他には見当たらない。
というか、むしろ彼女は来てるだけマシで、殆どのメンバーが無断でサボっているくらいだ。
「若いもんが情けないのぅ。ほれ、やつを見てみい」
1コしか違いませんよね?という言葉を飲み込みながら道子の指す方を見ると
「俺はやるぜ!俺はやるぜええ!」
シベリアンハスナイトが、とても浜辺とはいえない砂利だらけの水辺を全力で走り回っている。
どうしてそんなにテンションが高いのかと思えば、雪がちらほら降り始めている。道理で寒いわけだ。
ザバァン
「ふう、泳いだ泳いだ。腹減った~」
なんと鬼が海から上がってきた。来てないと思っていたのにこの寒さの中をずっと泳いでいたのか!
そして驚いたことにその手はマグロを一匹まるごと引きずっている。一体どこまで泳いだというのか。
「カメラマン!寄れ寄れ!じっくりと舐め回すように撮れ!」
荒巻がスタッフに指示を飛ばす声がする。
撮っているのは衝撃映像ではなく鬼の見事な水着姿の方だ。
引き締まった細身の白い肌に、濡れた紫色の髪が絡みついてえも言われぬエロスを醸し出している。
「ううむ。流石はしーちゃんじゃ。見事なハワイっぷりじゃのう」
何を言っているのかさっぱりわからない。この人の中でハワイのイメージはどうなっているのだろうか。
「ところでカントク、背景の方はどうなっとるんじゃ」
「あー、あれね。チリバツできあがっちゃってるわよーん。オラッ、大道具、いつまで手間取ってんだ、さっさとセッティングしろ!」
怒鳴られながらスタッフが木材にペンキで塗った巨大な書き割りを組み立て始める。
青い空、白い雲、そして松の木。赤い明朝体で「おこしやすハワイ」の文字
俺の聞いたことの有るハワイと違う。
(続く)
(続き)
そもそもこのトンチキな行事は一体何をしているのかというと、発端は最近落ち込んでいる知縁路舞流をなんとか励まそうとところから始まっている。
田舎から通っている舞流は最近の豪雪で慣れない雪かきをやらされたことにすっかり参っているらしく。
「ハワイには雪なんてないのに。ハワイ。ハワイ」とうわ言のようにつぶやき続け、完全にノイローゼ状態だった。
生徒会でなんとかハワイに連れていけないかと検討されたものの、予算の無駄使いをするわけにも行かず、議論の末にそれっぽいPVを撮影して気分だけでも晴らしてはどうか、という結論に落ち着いた。
そして次年度の予算をタテに荒巻率いる映画研究部をタダ同然で働かせての撮影が開始されたのだった。
「よーし、じゃあ次はバナナボートの撮影じゃ」
「えっ、そんなもの有るんですか…って、これシベリアンハスナイトにイルカ形の浮き輪くっつけてるだけじゃないですかー」
「かっかっか。細かいことを言うでない。似たようなもんじゃろうが」
「次はビーチバレーじゃ」
「ここ、砂とか無くて足元砂利ばっかりですよ…」
「パラグライダーじゃ」
「またハスナイトに巨大な凧を括りつけてるだけじゃないですかー」
こうして撮影は順調に進んでいった。
「うーん。どうにも今一つパンチが足りないわよねえ。みっちゃん」
「カントクもそう思っとったか」
「これ以上何をやらされるんですか…」
「ふむ、思いついたぞ。ハワイと言えば活火山。活火山といえば…」
「(嫌な予感…)」
「爆発オチじゃな」
「それ頂き!」
「ちょっと、それ誰がやるんですか!僕絶対嫌ですよ、僕はやりませんからね!」
「ハイそれじゃあクライマックスシーン、犬守ちゃんグーッと言ってガーとなってドカーン。本番行ってみよう!」
「いやだ、いやだ、いやだああああああ」
ドカーーーーン!!
※SS設定指定
登場人物:鬼、シベリアンハスナイト、犬守
シチュエーション:唐突な水着回
オチ:「爆破オチじゃな」
セリフ:鬼「腹減った~(小並み」
セリフ:犬守「今日は風が騒がしいな...」
出てくるアイテム:ハワイ
(編註:陣営掲示板でアンカーを撃った御題SSです)
最終更新:2014年07月02日 06:14