【口舌院VS一四一四】
「あはははははは! ほらほら、爆発するよー!」
「くっ」
口舌院(白金)言切と一四一四。2人の可憐な少女による命がけの鬼ごっこが行われていた。
一の能力「TOUCH de 爆発(BOM) Ver.CLAYMORE」。
一の大好きな爆破作業と鬼ごっこを融合させたこの能力は、鬼に捕らえられた者を死に至らしめる力を持つ。
当然のこと、鬼は一、逃走者は口舌院だ。
「ほらほら逃げろー!」
「言われずとも!」
一にとっては単なる遊びに過ぎないが、追われるものにとっては死の逃走。
幸い口舌院の速度は一を上回っているが、無限にも思える一の体力の前では、いつ力尽き追いつかれるか分からない。
鬼に触れられれば待つのは死。剣術の達人口舌院の力も、この単純な能力には敵わない。
しかし、口舌院は両親から2つの力を受け継いでいる。
白金からは一つの極みともいえる剣術を。
そして口舌院からは並ぶものはいないと呼ばれる話術を。
剣術が無駄ならば話術で。思考を切り替え口舌院は一に決死の説得を試みる。
「一! あなたは何を考えてこんなことをやっている!」
「え、何って? 鬼ごっこ楽しいじゃん!」
「そうではない! なぜ爆発をさせる必要があるんだ!」
「なんでって……鬼ごっこってこんなに楽しいんだよ? 爆発も合わせたらめちゃくちゃ面白いに決まってるからだよ!」
狂人の思考。しかし魔人とはおしなべてこのような思考を持つものだ。
数多の魔人を論破してきた口舌院は、会話を続けて論破の糸口を探す。
「あなたは鬼ごっこの何が好きなんだ?」
「えーと? 追いかけて捕まえるのって凄く楽しいよね!」
「追いかけられるのは嫌いなのか?」
「そんなことないよ! 追いかけられるのだって大好き!」
「なるほど。あなたは一体どんな鬼ごっこが好きなんだ?」
「たくさんあるよ! 色鬼だって氷鬼だって、どんな鬼ごっこだって大好き!」
「そう。ちなみに鬼ごっこは誰とやるの?」
「お兄ちゃんが多いかなあ。後は同級生の女の子とか。人数が少なくて寂しいけど……」
走りながら会話する2人。口舌院は一の答えから必死に論破の糸口を探し出す。
能力に昇華させるほど鬼ごっこが大好きな少女で、爆弾物の製造と爆破作業が大好きな爆弾魔。
2つの顔を持つ少女の論破は苦を極める。
それでもわずかに光明は見える。藁にもすがるように、口舌院は一を詐術にかける。
「一さん。あなたは爆弾も鬼ごっこも好きなんだね」
「うん! どっちも最高に大好き!」
「でも、あなたの能力で爆破させてたら鬼ごっこやってくれる人がいなくなっちゃうんじゃない?」
「そんなことないよ? 鬼に捕まったら死んじゃうんだもん! みんな頑張って逃げてくれるよ。あなたみたいに!」
一は笑顔でそう答える。たとえ命がけでも一の中では変わらず鬼ごっこであり、そこに何の違和感も感じていない。
けれど口舌院は一の発言の決定的な穴を見つけた。口舌院の名を持つ者が、その穴を見逃すなどありえない――!
「確かにあなたが追いかければみんな逃げてくれるね。でも、あなたが追いかけられることはないんじゃない?」
「え?」
「みんなあなたに追いつかれると死んじゃうから逃げるんでしょう? だったらあなたが逃げたって捕まえる意味ないじゃない」
「そ、それは……でも、お兄ちゃんが遊んでくれるもん!」
「2人だけ? 人数が少なくて寂しいってあなたも言っていたじゃない!」
「で、でも。でも……!」
追い込んだ。そう口舌院は確信する。
後ひと押し。口舌院は一の認識を切り刻む、言葉の刃を紡いだ。
「あなたの能力は鬼ごっこを楽しくなんかしていない。ただつまらなくさせただけ」
そう、断言した。
「そ、そんなことないもん! えいっ!」
足を止めた口舌院に一が触れる。けれど口舌院は爆死しなかった。
「え? な、なんで……?」
「捕まっちゃったね。じゃあ次は私が鬼。10数える間に逃げて」
「え?」
「いーち、にーい」
「わ、わ。に、逃げろー!」
何の効果もない口舌院の言葉に一は逃げ出した。
その顔は口舌院を追いかけているときに負けず劣らず、楽しそうなものだった。
(終わり)
最終更新:2014年07月02日 06:36