【ミケナイトの大冒険!】


第1話『VS辻斬子&象』


ミケナイトは散歩が大好き。
今夜も独りでお散歩するの。
独りじゃ寂しくないかって?
大丈夫。タマ太はいつでも一緒だから。

ビッグ・マウスさんの掴んだ情報によると、この倉庫で番長グループの秘密会議があるはず……」

生徒会からの諜報行動を防ぐため、番長小屋から離れた極秘の場所で開かれる会議。
しかし、ひとたび開催情報が漏洩してしまえば、本拠地に比べて守りは薄く、逆に潜入は容易だ。
よく見るとミケナイトは靴を履いていない。
彼女の手の平と足の裏には蹠球(しょきゅう)と呼ばれる柔軟な構造があり、これによって足音を立てずに獲物に近付くことが可能なのだ。
普段は汚れるので靴を履いている。

二名いる見張りの死角をつきながら塀づたいに倉庫へ近づき、最後は張り出した木の枝を渡って倉庫にアプローチする。
揺れる枝の微かな葉音に気付いた見張りの一人が振り向くが、既にミケナイトは天井裏に滑り込んだ後だった。
潜入成功だ。

しかし、天井裏から中の様子を窺っていたミケナイトは、しばらくして異常に気付いた。
中にいる連中は、誰の胸がでかいとか、スゴいエロ動画を発見したとか、碌でもない話ばかりしてて肝心のハルマゲドンや能力に繋がる話が全くでてこない。
さらに、中にいるのは番長グループの名も無き構成員ばかりで、スタメン入りが目されるようなネームドは一人も見当たらない。

(何かマズい……すぐにこの場を離れなきゃ……!)

ミケナイトが倉庫から抜け出した瞬間!

「パオーーーン!(死ね! 泥棒猫め!)」

巨大なゾウが嘶き声とともに倉庫を踏み潰した!
中にいた数名の生徒たちは……? たぶん死んだ!

「危な……かった……!」
気付くのがもう少し遅ければぺしゃんこになってた所だ。
(マウスの奴ぅ……偽情報を掴まされたんだ……これだからネズミは信用できない!)
偽の秘密会議情報で敵をおびき寄せ、釣られてやってきた者を潰す。
それが番長グループの作戦だった。

「おいおい、脱出成功してるじゃないか。あー、欝だ」
「パオーン!(次こそ潰す!)」

見張り役をしていた二名がミケナイトに近付いてくる……!
こいつらが本当の敵だ!



ミケナイトは迫り来る二名の番長グループに自己紹介しました。

「こんばんは。私、生徒会のミケナイトです……あなた達はどなた?」

騎士にとって挨拶は大切なことです。死海文書にもそう書いてあります。
相手の二人は騎士ではありませんが、挨拶を無視するほど不作法者でもありません。
深くかぶった帽子を脱ぎ捨て、彼女たちも挨拶を返します。

「どーも。アタシは辻斬子」
「パオーン(我こそ小学生の440倍の体重であり、3mにも及ぶ鼻を持つ、草食系ニッチの最終到達点――すなわち、象だ)」

(くっ……ネームドか!)
ミケナイトは下唇を噛んだ。
もし注意深く帽子の下の素顔を観察していれば、倉庫内にいるのは囮で見張り役こそが本命の戦闘用員だと気づけたかもしれない……!
いや、悔やむのは後だ。
まずはこいつらを突破する……狩るにゃんフィールド展開!

「そんじゃあ、イクよ」
「パオーン!(潰す!)」

斬子が上着の内側から果物ナイフを取り出し三本連続投擲!
狩るにゃんフィールドを切り裂きながら飛ぶナイフ!
その後ろからは象の突進!

「速い……っ!」
ミケナイトは驚愕した。
ナイフの速度が異常だ!
斬子の能力でナイフに附与された切断属性が空気抵抗を無効化しているのだ……回避が間に合わない!

……だから、逸らした。
ナイフへの切断エンハンスは刃部分のみ。
故に持ち手部分はレイノルズ数操作によって生み出した非定常狩るにゃん渦に巻き込むことが可能なのだ。
ミケナイトは軌道がブレたナイフを紙一重で伏せて回避! そこに振り下ろされる象の鼻!

狩るにゃん渦による動作阻害をものともしない丸太の如き大質量鼻打撃!
迫り来る鼻を見ながら、ミケナイトは鬼雄戯大会を思い出していた。
水星が操るカドケゥスの鎖を。
蒲郡委員長が揮う荊の鞭を。
それらに比べれば象の鼻が描く軌道はいかにも単純!
ミケナイトは側転! 象の鼻が空を切って大地を叩く!

だが、象の鼻の圧倒的破壊力が大地を砕いた!
砕けた大地が飛礫散弾の範囲攻撃となって襲い掛かる!

「うぐうっ」
ミケナイト被弾!
そして面前に迫る斬子が懐から大小二丁の包丁を取り出して斬りかかる!
斬馬大円匙はスニーキングの妨げになるので持って来ていない。
頼れるのは己の爪と牙のみ!
ミケナイトは普段は指に収納している鋭い爪を伸ばして斬子の刃を迎撃する!



しかしミケナイトの爪は、斬子の凶刃の前では無力だった。
切断力を強化された二本の包丁は、ミケナイトの猫爪をいとも容易く斬り落とす!
そのまま全く勢いを殺さず青いサーコートの胸部と腹部を横一文字に斬り裂く!
流れ出す血により赤黒く染め直されるサーコート!

「パオーン!(トドメだ!)」
象足による踏みつぶし攻撃!
ミケナイトはよろめくようなサイドステップで回避!

「パオーン!(しぶとい奴め!)」
象鼻による水平スイング打撃!
避けられない! 狩るにゃんミスディレクションも効かない!
ドゴォッ! 巨大な鼻の直撃を受けてミケナイトは吹き飛ばされ破壊された倉庫の瓦礫の山に突っ込んだ!

(ぐっ……駄目だ……こうなったら最後の手段!)
ミケナイトは血染めのサーコートの内側から、ソフトボール大のミケカラー球体を取り出した。
(猫爆弾っ!)
瓦礫に挟まれて容易に起き上がれないミケナイトは、そのままの姿勢から球体を投げて地面に叩き付けた!
球体が爆発し、中から黄色い煙が立ち上る!
(狩るにゃんブリージング……!)
そしてレイノルズ数操作による流体制御で、二名の敵が効率的に煙を吸引するように仕向ける!

「なんだこの煙は……!?」
「パオーン(なんだか良い匂いだ)」
「う……なんだか力が抜けて……」
「パオーン……(いい気分……)」

煙の正体は、強化濃縮マタタビエキスでした。
普通の人や象はマタタビ酔いを経験したことがないので、効果覿面です。
だったら最初からコレを使えば良かったのではないかと思う人もいるでしょう。
でも、そうもいかないのです。

「うにゃーん、ゴロゴロゴロ、ふにゃーん」
だらしなく涎をたらしながら、ミケナイトがもじもじと身を捩らせています。
そう、マタタビ爆弾は使った本人が一番ダメージが大きく、3日はまともに歩けなくなるほどです。

「ふにゃ? こんな所に豆乳があるにゃー」
ミケナイトは懐から豆乳を取り出し、斬子と象にあげました。

「どーも」
「パオーン(ありがと)」

すっかり酔って戦意喪失した斬子達は、普通に豆乳を受け取って仲良くみんなで飲みました。

「狩るにゃん! 狩るにゃん! 狩るにゃん!」
「どーも! どーも! どーも!」
「パオーン! パオーン! パオーン!」

ぐだぐだのマタタビパーティはそんな感じで盛り上がり、どさくさでミケナイトは無事生還したのでした。

めでたしめでたし。
最終更新:2014年07月15日 22:53