第二回戦SS・豪華客船その1


~前回までのあらすじ~

所有者を様々な並行異世界での戦いに誘う迷宮時計。
時計の欠片を集めたものは願いを叶える事ができるという。
しかし敗者は戦場となった異世界に置き去りにされるか死ぬしかない。
かつて自分に挫折を味あわせたビッチ魔人に復讐を誓う猟奇温泉ナマ子は古代寺院において恋人との再会を願う少年を撃破。
交通事故で死んだ幼馴染の復活を願う撫津美弥子はサバンナにて妖精と共に闘うトレジャーハンターに勝利した。
なんとなく巻き込まれた門司秀次は過去のロンドンで家族の為に闘うガラス使いの少女を倒した。
そして20世紀初頭、大海原をゆく豪華客船にこの三人が呼び寄せられる。


~登場人物~

猟奇温泉ナマ子:ビッチ魔人。自分の周囲に気体状のオナホールを充満させた結界を生み出す能力『プレローマ』を持つ。復讐の為に世界をレイプする「人類フル勃起化計画」を目論む。
撫津美弥子:魔人の少女。ツッコミによって異常な状況を無かったことにする能力『"木瓜殺手刀"の美弥子』を持つ。交通事故で死んだ友人を蘇らせたい。
門司秀次:居合を得意とする魔人剣士の高校生。注意書きを現実のものとする『ベカラズ』という能力を持つ。書道部所属。戦闘力は随一。他の魔人と違い2018年世界の住人。

金持ち:美術商を営むイギリス紳士。とても気前がよくお金持ちで良い人である。
飴びいどろ:ガラスを分解する能力を持つ魔人。元迷宮時計所持者。
森久保眞雪:あらゆる武器を作り出せる魔人。元迷宮時計所持者。撫津美弥子の友人。
読小路麗華:ワープ能力を持つ魔人。撫津美弥子の友人。
道之部長:希望崎学園書道部部長。他人の精液を墨汁にして搾り取る能力『インクバス』を持つ。
墨川さん:書道部員。影を操る書道能力『シャドーショドー』を持つ。
ビッグザショドー:書道部の元部長。本名は真野大。モヒカン男を筆として操る巨漢。通称ビッグさん。
筆男:書道部の部員。モヒカンの頭部を筆にしてビッグザショドーの筆になる。
ミスター解説:さすらいの解説者。
中年男性:身なりの良い中年男性。猟奇温泉ナマ子に殺された。
ファン:アイドルのファン。たくさんいる。

~エピローグ・2~
2018年某月。

日本武道館。

揃いのTシャツを着込み、股間に輝くサイリウムをいきり勃つイチモツの如く挟んだ老若男女。
そう、今日、この場所は聖地。
私の為の聖地。
彼らは私の元に集う巡礼者たち。

無数の人間から、多数の照明から、発せられる熱気が場内を満たす。
熱気に当てられた人々の汗が、汗以外の何かしらの匂いが混じり合い一つになるの。

ああ、私の元に観客の狂乱と興奮が届いている。
ああ、私はステージへと階段を駆け上がる。
ああ、私に人々の視線が突き刺さる。

胸の前に指でハートを作り私は叫んだ。

「らぶらぶらぶらぶ!!」

私はマイクを客席に向ける。

「ブ~ラブラブラブラブ~ラ!!」

私の声に野太い数多の声が応えます。
観客は股間に輝くサイリウムを腰の振りだけで器用にブラブラと振りあげます。
歌う!!時が!!きました!!

「私の歌を聴いてください!!」

「うおおおおおおおおおっ!!」

ああ、私のことを愛してくれるファンが、雄叫びが、私を高みへと押し上げるのです。
これが愛なのね。
ダンゲロスミュージックプレゼンツです。

『キミのムスコに恋してる☆』

作詞:猟奇温泉ナマ子
作曲:チン子♂
振り付け:ラズベリー☆ミント流星群
うた:猟奇温泉ナマ子(&ファンのみ・ん・な)

ラブラブラブラブニョインニョイ~ン

ラブラブラブラブニョインニョイ~ン

キミのことを嫌いになったわけじゃないゾ
でもネ、でもでも気になるの
普段は小さいあの子だけれど、いざというときビッグなの

キミのことは今でも好きヨ
でもネ、でもでも気になるの
普段は隠れているけれど、私だけには姿を見せる

ああ、それでも
ああ、いまでも
ああ、愛しているわ、キミの事

でも、それでも
でも、いまだけ
でも、恋しているの、キミのムスコ

ラブラブラブラブニョインニョイ~ン

ラブラブラブラブニョインニョイ~ン

連続ラブラブ時空間超越スワップ
愛に距離なんて関係ないの
瞬間的に交換するの!?
これはホントにキミのムスコ?

連続交換ニョインニョイ~ン
この気持ちよさが愛なのネ

ラブエモーション、大きくなって
ラブレボリューション、早く動く

時には小さくなっちゃうけれど

ラブエレクチオン、蘇るのネ
ラブフィニッシュ、白く染まる

ラブラブラブラブニョインニョイ~ン
ラブラブラブラブニョインニョイ~ン

愛しているのね
キミのムスコ

………………
…………

「い、いきましゅ~っ!!」
「らめー!!」

最前列のファンが絶頂を迎え、倒れていくのが見えます。
私の魔人能力『プレローマ』は周囲の空間を不可視の気体状オナホールで満たすことができます。

ああ、今や私の能力は完成をみました。
以前はたった半径20mほどだった愛撫空間も、いまやこの日本武道館の大半を覆えるまで成長しました。
見ていますか、鏡子さん。

愛、これが愛なのですね。
あなたの言っていた事がようやくわかった気がします。
レイプだけではダメなの。
私は歌い続けます。

次々と観客が倒れますが誰も気にしません。
私の股間から滴る愛の雫。
快楽の波が押し寄せても歌い終わるまで倒れることはできません。
みんなが私を愛してくれる、私もみんなを愛している。
ラブセックス。

ああ、見ていますか。
ようやく。
ようやく、この時代にたどり着きました。
門司くん。

いま、貴方は何処にいますか?
いま、私の歌を聴いていますか?
いま、私はここにいます。


~エピローグ・1 参考文献『恋海(らぶ・しー)』著者:猟奇温泉ナマ子~

もし、あのとき彼にあえなければ
私はどうなっていたのかな

出会ったのは何年前なのかしら
いまも海を見ると思い出す

あの夏のことを
あの海の豪華客船のことを
あの冷たい海のことを
彼のことを

(これは私の体験をもとにした実話です かなしい恋のものがたり あなたにとどけ)

あの頃の私、荒れてた
とても悲しい出来事があって、悔しい思いをして
挫折、初めて味わった

今思えばとても素敵な先輩で私のことを心配してくれてた
でも、あの頃の私、頭悪かったから

あの頃の私、セックスとレイプばかりしてた
はじめて彼にあったとき、彼は別の女といたの
はじめは遊びのつもりだった
豪華客船で女といるなんてどうせ遊び慣れてるクダラナイ男だと思ってた

レイプしてやろうと思ってた
でも彼が言ったの

「くだらねえ」って

意味わかんなかった
セックスってレイプでしょ、何が悪いの?
あの時の私、ホントバカ

見せつけるように色んな男をレイプしたわ
女もレイプした
でも、彼は興味がないようだった

「体を大事にしろ」彼が言ったような気がした

でも私、彼とレイプしたかったの
なのにできなかった
彼、セックスのできない体になってた

私は泣きたくなった
でもその時にね、彼がこういった気がしたの
「そんなお前は見たくねえ」って

ガーン。
衝撃だった。
頭に何かがぶつかったみたい。
私、その時思ったの、今まで何してたんだろうって。
愛ってなんだろうって

でも遅かった
彼、もう目が見えなくなってた
最後くらい一緒にいようって思ったのに

「俺、この時代の人間じゃないんだ」って言った気がした

知ってたよ、私
彼が未来から来たってこと

「声、可愛いね。アイドルにでもなればいいんじゃないか」って彼が言ったとき

私のハートを何かが貫いた気がした
あたたかい気持ちがあふれてきたの

「これは次に会う時まで預かっておくぜ」って彼は言った気がした

私の時計を彼が持っていた

「未来で会おうぜ」

彼が消えたときそんな声が聞こえた気がしたの
私が愛に目覚めたのはその時

もうレイプなんてしない

私はハートを入れ替えた
私のからだを暖かい空気が包んで
私はゆっくり海に沈んでいった

目が覚めた時、私は日本にいた
もう何百年も寝ていたようなそんな気持ち
新しい朝

私は私を見つめる男たちを眺めた
彼の言葉を思い出す
「愛のあるセックスをしろ、そうすればきっとまた会える、俺を信じろ」

だから私は男たちにこう言ったの

「セックスをしましょう」

………………
…………
……

パタン、と俺は本を閉じた。
深呼吸をして眉間に指を当てる。

「言ってねーし!!」

本を再び開ける
数行を読み進める。
本を閉じる。
天井を見上げる。

「言ってねーから!!そんなこと!!」

俺の名前は門司秀次。
あの豪華客船の戦いから数日。
今日は部活のメンバーと武道館にライブを見に行く予定だ。

~門司秀次・壱~

気がついたら廊下にいた。
うーん、今回の敵は二人か。
廊下には扉が並んでいる。
場所の把握をしないとダメだなあ。
少し揺れている気がする。

「どうしたんだい少年。さては迷って自分の部屋がわからなくなったのかな?可哀想に」

唐突に声をかけられて俺は振り向いた。
いかにも英国紳士って感じ。
当然英語だった。
だから俺は英語で応えた。

「おう。ありがとなオッサン。ところで此処は何処なの?今日は何年の何月何日?」
「ふむぅ、本当に大丈夫かね?それと私はまだ三十路だからおっさんと呼ばれると傷つくよ」
「わ、わりぃ」
「混乱しているのだね、可哀想に。今日はちょうど西暦で言うところの1900年12月24日。この船の名はクイーンプリンセス号、リヴァプールを発して数ヶ月ほどになるニューヨーク行きの豪華客船だ」
「へぇー、じゃあオッサ、いやアンタも結構な金持ちなのか」
「はっはっは、そういうことになるかもしれないね。少年、何か困っているのなら力になるぞ。何しろ船旅もそろそろ暇でね。私も妻も退屈してきたところだ。なんだったらお小遣いをあげようか?」
「アンタいい人だな!!」
「はっはっは、褒めても何も出ないことはないぞ、お小遣いくらいは余裕だ」
「じゃあ、船内の見取り図と…」

~猟奇温泉ナマ子・壱~

私の魔人能力は『プレローマ』。
半径20mに気体状のオナホールを充満させた結界を生み出す事ができる。

「や、やめろ。やめてくれぇっ!!」

私の下で情けない声を上げる身なりの良い中年の男。

「くく、やめてほしいのか?お前の体はそうは言っていないぞ?私の体に汚ぇモンぶち込みながら言っても説得力の欠片もないな」

私は腰を上下に振る。これはウォーミングアップに過ぎない。

「あ、が、ああ…」
「ふん、早漏め」

股間から白濁した液体を滴らせて私は立ち上がる。
男は目や鼻からも精液を吹き出し、死んだ。
ゆっくりと床が揺れているのを感じる。
水の動き、海の動き。

ここは船だ。
しかも、この男の身なりからして富裕層を客に持つ。
豪華客船といったところかな。
壁際に置かれたボトルシップに『QueenPrincess』の銘板。
クイーンプリンセス、それが船の名前か。

「部屋の広さもそれなりにある。だが、プレローマでカヴァーできる」

無駄に部屋を襲ったわけじゃない。
部屋の広さを確認したかった。
私の能力であれば部屋の外からでも攻撃できる。
『プレローマ』の恐ろしい所はそこだ。
空間があれば入り込める、壁があろうと関係ない。

20m、開けた場所なら短いと思うかもしれない。
だが、こういう建物内でなら、逃げ場はない。
建物内での戦闘において待ち伏せや不意打ちは非常に有効だが『プレローマ』は先手を打てる。
不可視、範囲、瞬間的に広がる結界。
この部屋の広さであれば廊下の外からでも十分に覆える。
気配なく忍び寄り、レイプできる!!
多少時間はかかるだろうが100時間耐久セックスすらこなす私の体力であれば可能だ。
この船のすべてをレイプしてやる。
門司秀次、撫津美弥子。
隠れていようと挑んでこようとレイプしてやろう。

私は移動する事にした。

~撫津美弥子・壱~

子供というだけで警戒されない。
私が勝つにそういう所にも頼らないといけないと判った。
前回の戦いは運が良かったんだと思う。
最初の相手が優しい人でよかった。

トレジャーハンターの人と妖精の言っていた事は多分正しい。

(次に会う相手が俺たちみたいに優しい相手とは限らない。)

それは、多分事実だ。

目の前には惨劇の跡があった。
生臭い匂いがする。
廊下に倒れた男の人は口から白い液体を吐き出して。
死んで。

「うっ、うえっ」

喉の奥から酸っぱいモノが湧き上がってくる。
吐きそうになる。
でもダメだ。
こんな事で心が折れちゃダメ。
周囲の部屋の扉の隙間からも異臭のする液体が流れ出ている。
血とおしっこの臭いもする。
目の前の死体は言いようのない表情で目を見開いていた。

「毒ガスか何かなのかしら」

門司秀次、猟奇温泉ナマ子。
この二人のうちのどちらかが、これをやったのだ。
許せない、とは思う。
でも勝つためなら、私も同じような事をしたのだろうか。

「隠れて様子を見ようと思ったんだけど、これは無理っぽいね」

私は別のフロアへ移動することにした。

~門司秀次・弐~

いつだって邂逅は突然だ。
そして、時代が違うのなら、やっぱり一目で判る。
あの女の子がおそらくは撫津美弥子。
転送前の24時間で辛うじて掴んだ情報通り。
ランドセル背負った小学生。

俺はオッサンに借りたこの時代の服を着ている。
なんとかバレなけりゃ良いんだけどなっ。

「そこのお兄さんが門司秀次?」
「おっと、変装してたつもりなんだけど?」
「もろ日本人じゃないですか」

ソッコーばれた。
これはちょっと恥ずかしいな。

「やるじゃん。で?俺はやる気だけど君はどうするの?戦う気がないとか共闘するとかなら…」

俺は仕込み筆をくるくると回す。

「私は譲るつもりはありません」
「ハハ、じゃあ俺も譲れないな、でも言っちゃあ悪いが俺は結構強いよ?」
「譲るつもりはないと言いましたっ」

美弥子ちゃんがポケットからナイフを抜き放つ。
俺はポケットから書き溜めていた注意書きを一枚取り出し壁に貼り付ける。
汎用性の高い注意書きはストックしてある。

「廊下を走っちゃいけないぜ!!転んじゃうかもしれないからな!!」

壁には『廊下を走るな、転ぶ』の注意書き。
美弥子ちゃんが走る。
そして転んだ。

俺の魔人能力『ベカラズ』は注意書きを現実のものにする。

~撫津美弥子・弐~

転んだ。
転ばされた?
これは、魔人能力?
廊下を走れば転ぶ、つっこみ難い。
どうする?ツッコミで態勢を立て直す?

(迷ったときにすぐ動くのが美弥子ちゃんの良いところだよね)

眞雪の言葉が頭をよぎる。

「ってい!!」

私は前に転がるようにして態勢を立て直す。
立て直し際にナイフを投げる。
投げナイフの腕前は、そこそこだ。
サバンナから帰ってから練習した。

魔人としての身体能力も相まってそれなりに正確に投げられるようになった。

(相手との距離をイメージすると良いじゃないかな)

とはワープ能力を持つ友人の麗華ちゃんのアドバイス。

「おっとぉ!!」

相手の男、門司って名前だっけ。
巨大な筆から刀を抜いてナイフを弾く。
刀?
仕込み刀ってやつなの?

「って!!そんな筆に刀が仕込まれてるワケないやん!!」

ずびしっ!!

「んなぁっ!?」

門司さんが驚きの声をあげる。
筆から刀は抜けない。
そんな刀は有り得ない、筆は筆。
門司さんの手から刀が消える。
だからナイフを弾けてはいない。

これが私の魔人能力『木瓜殺手の美弥子』。
「ツッコミ」をする事によって異常な現象をなかったことに出来る能力。
消せるのは魔人能力だけとは限らない。

投げナイフが門司さんの肩に突き刺さる。

~門司秀次・参~

「んなぁっ!?」

痛ってぇ!!
肩、痛い!!

なんだ?
決まってる、魔人能力だ。
あと見た目より動きがいい。
毒とかは塗ってないあたり、まだ戦い慣れしてないかッ?
転んだ時に攻撃して気絶させようって作戦はヤメだ。
こうなると、こっちも走れないってのはちょっと不味いかなァ。

「やるじゃん!!」

片手で肩に刺さったナイフを抜き。
もう片方の腕で筆を振るう。
壁に『床が劣化して壊れやすくなっています。飛び跳ねたりしないでください』の文字。

「お返しって奴だね」

そのまま抜いたナイフを美弥子ちゃんに投擲する。
美弥子ちゃんはジャンプして避ける。
想定通りの動きだぜ。

「ハッハーッ、飛び跳ねると危険だぜっ!?」

バキッ!!
美弥子ちゃんの足が廊下を踏み抜く。
これで動きを封じ…。

「って!!豪華客船の床がそんなに脆いわけあるかーっ!!」

床は壊れていないッ。
現実改変能力?
いや、キャンセルか無効化能力の一種なのかッ?
不味い!!

美弥子ちゃんはランドセルから取り出した手作りっぽい火炎瓶をこちらに投げようと。

したところで。

言いようのない悪寒が俺の足元をかすめた、体が一瞬痙攣する。
美弥子ちゃんの方も同じ。

何かヤバイ感じがする。
ゆっくりとしかし警戒しながら俺は後ろへ下がる、同じく美弥子ちゃんも反対の方向へ。
この場にとどまるのは危険だ。

ベカラズの範囲外に出た瞬間走る。
走りながら俺は股間に違和感を覚えた。
気がつくと俺のちんこは勃起していたのだ。

「ビッチ魔人か、これはまた厄介な相手だな」

~猟奇温泉ナマ子・弐~

「はは、はははは!!見つけたぞ!!」

私は天井を見上げて笑う。
『プレローマ』の射程である半径20mは3階建て程度の小さなビルくらいは覆える。
流石にこの船は大きい、2階層上のフロアか。
私の『プレローマ』に触れて即座に反応した。

二人。
男と子供。
動きからして戦闘中だったか?
先に潰しあってもらった方が楽だったかもしれないが。

どちらを狙うか。
どちらにせよ逃がしはしない。

~撫津美弥子・参~

なんなの?
なんなの?
あれは何だったの?
体中から汗が吹き出る。
体が熱い!!

足に何かが触れたのはわかった。
毒ガスじゃ、ない。

床を抜けてきていた。
感覚は、ある、あの感覚は、あの感覚は。

(まず考えるんだ美弥子ちゃん、ほら。必要なことだけをね)

眞雪のいたずらの後の言葉を思い出す。
あれは、自分に何かあった時に私が困らないようにする為だったと今なら思い起こせる。
考えろ、撫津美弥子!!

見えない攻撃。
障害物をすり抜ける。
触れてすぐ死んだりはしない、でもちょっとでも長く触れていればどうなるか判らない。
でも普通じゃない、普通じゃなければ私の能力で消せる。

私は階段を下りる。
…下りる。
……下りるべきじゃなかった。

視界の先にいる。

いや、私を追うか門司さんを追うかという話だ。
上手くいけば、門司さんの方を追ってくれれば、私は裏をかけた。
その賭けには負けただけ。
戦わなければならない相手。
おそらく話は、通じない。

階段を下りた廊下の先に、女の人が立っている。

女の人は私を見てニヤニヤ笑った。
私はランドセルからナイフを取り出す。

~猟奇温泉ナマ子・参~

約40m。
ガキと言っても魔人。
戦闘力は甘く見ない。
大人しく降伏するならレイプを後回しにしても良かったが。
やる気なら容赦はしない。
走る。

敵がナイフを投げる。
だがナイフは私には当たらない、当たりはしないっ!!
私を逸れて、あらぬ方向へ飛んでゆくっ!!

『プレローマ』は気体状のオナホールで空間を満たす。
オナホール自体で敵の攻撃を防ぐことはできない。
ソフト素材だからだ。
乱暴に扱うと破れてしまう。

しかし、オナホールは穴だ。
『プレローマ』は空気中に無数の穴を創りだす能力でもある。
陰茎を時に優しく、時に激しく導くようにっ!!
穴で飛来物の軌道を逸らすことができる。
一瞬で百人の男を相手できる私のスピードならば。
どんなにデカイイチモツでも扱える私のテクニックならば。
無数の銃弾であろうが極太ビームだろうが好きな方向に流してみせる!!

オナホールは、そえるだけ。

~撫津美弥子・肆~

「って!!ナイフがそんな急に曲がるわけあるかいっ!!」

ずびしっ!!
ツッコミ。
何らかの能力で軌道をそらされたナイフが元の位置に戻る。

「があっ!?」

相手のナマ子さんだっけ。
ナイフを腕で受けたようだけど傷は浅くはないはず。
このツッコミでは能力自体は解除できていない。
ナイフを逸らす事をやめさせるのが精一杯。
敵の能力を受けるのは覚悟しなければならない。
なるべく早く相手に近づいて攻撃するだけだっ!!

ランドセルから取り出したスタンガンは眞雪が出した武器の中ではまともだったので貰っていた。
アフリカ象だって一撃で気絶させられる!!

足に力をこめろ!!
まっすぐ走れ!!
全速で突破を…。

「あがっ!?あああっ!!」

な、に、これええ。

「ってこんな、こんなのあるわけ、あ、る、わけぇ…」

体が痙攣する。
時計が落ちる。
眞雪の時計が転がっていく。
相手に吸い寄せられるように。

眞雪……ごめん。

~幕間~

この話は単純だろう。
彼女は幼すぎた。
性に関する知識が少なすぎた。

当然だろう、仕方のないことだ。
撫津美弥子の魔人能力『"木瓜殺手刀"の美弥子』は異常な状態にツッコミを入れて無かったことにする。
異常な状態を正しく認識し表現できなければ。
効果を発揮しない。

ただ、それだけの事だった。
幼気な少女に性的快楽というものを、オナホールというものを表現しろという方が酷な話だ。
撫津美弥子は猟奇温泉ナマ子との相性が致命的に悪かったのだ。

~猟奇温泉ナマ子・肆~

「はは、はははっ!!」

私は時計を拾う。
これでコイツは脱落か
『プレローマ』の結界に全速で突っ込んでくるとはね。
何らかの勝算はあったのかな。
そりゃ正体不明の能力に最速で当たる判断は悪くないんだけどね。
運が悪いって。
私に当たったのが運の尽き。
さて、こんなガキでも私に歯向かった報いは受けてもらわないとね。

「うおおおおおおおおおおおおおっ!!」

なんだっ?!
ちっ、もう一人いたな!!
門司秀次!!

~門司秀次・肆~

戦いを覗いてるだけのつもりだった。
まあ、仕方ねえ。
ナマ子の能力大体の間合いは判った!!
美弥子ちゃんの倒れている位置はギリギリだなっ!!

美弥子ちゃんが気絶した事で能力は解除されたようだ。
なら刀は使える。
この仕込み小刀も。

「くらいやがれっ!!」

俺が投げた小刀は空中で向きを変え逸らされる。
しかし、能力を使用する一瞬でも動きを止めれば良い。

右手だけを使って美弥子ちゃんを掴む。
右腕に凄まじい快楽が走り思わず射精する。
癖になっちゃいそうだ。
だが下手すりゃ体中に精液が逆流して死ぬだろう。
ビッチ魔人と闘うってのはそういう事だ。
ウチの部長とかと同じ。
だが、ここまでなら耐えられる。

走れ、ここから逃げるんだ。
移動速度だけならまだ俺の方が上だ!!

~門司秀次・伍~

バタンッ!!
扉を乱暴に開ける。

「おう、オッサン居るかい!!」
「なんだ少年、やはりお小遣いが欲しくなったのか?あとオッサンは傷つくからやめれ」
「わりぃ」
「で、何の用かな」

金持ちのオッサンの部屋番号を聞いていて良かった。
俺が勝つにしろ負けるにしろ美弥子ちゃんは脱落だ。
このオッサンは良い人っぽい、確証はないが悪いようにはならないはず。

「あっ!ああああああああああああっ!!門司秀次っ!!」

いきなりの絶叫に俺は驚いて振り向いた。
いい感じの美人がそこに、俺を指差して立っている。
見たこと…ある?

「おお、ビードロ。なんだこの少年を知っているのか?」
「え?オッサンこの人知ってるの?」
「知っているも何も、私の愛しのワイフさ、我が商会ではガラス細工の輸出もしていてね。腕のいい女性職人だった彼女と出会って、そのまあ何だ、ハハハハハ」
「ちょっ、何話してんのよダーリン?それ必要なの?」
「愛してるよハニー」
「え、ええ。私も」

確か前の戦いから考えると12年経ってる。
ありえない話じゃない。
つーかキスとかイイから。
確かにオッサンはイケメンだし似合いの夫婦で幸せそうで良かった。

「とりあえず、ただで済むと思わないことね、門司秀次!!」
「ちょっと待て、待ってくれ、話を聞いてくれ。この船はヤバイ。逃げたほうがいい」
「はああっ!?」
「どういうことだね少年」

ガクン。
船が大きく揺れた。
くそう、やると思ったぜ。

~猟奇温泉ナマ子・伍~
まもなく船は沈む。
航行に関わる船員はヤリ殺した。
エンジン部分のギアも破壊した。

船が沈めば魔人でも溺れ死ぬ
だが私は溺れない。
『プレローマ』は気体状のオナホで空間を満たす。
文字通りみっしりと満たすのだ。
普通なら空気が入る余地がない状態になり窒息するだろうが。
だがそれでも呼吸はできるんだよね。
つまり気体状のオナホからは酸素を摂取できるってこと。
海に沈もうと『プレローマ』を展開すれば呼吸ができるから。
私は溺れることがない。

乗客が避難を始めている。
門司の仕業か?
だが門司は逃げれば負けだ。
船に残っても溺れ死ぬだけ。
じゃあ闘うしかないだろう。
どこで戦うつもりだ。

おっと探すほどでもなかったか?

外に通じるエントランスの前に門司秀次が立っている。
乗客を守るつもりでもいるのか。
それとも最後の決着とでもいうつもりかしら。
これだから男のセンスはいやになるんだ。

勝負、してあげようじゃない。
ただし一方的なレイプになるのは覚悟してもらうけどね。

~門司秀次・陸~

オッサンと飴びいどろさんに美弥子ちゃんは預けた。
悪いようにはしないだろう。
びいどろさんは事情を知っているんだ。
俺が負けても上手く逃げてくれるはずだ。

ナマ子がゆっくりこちらへ近づいてくる。
俺も前に進む。

~幕間~
その戦いは、時間にして2分とかからなかった
豪華客船上での決着はつく。
門司秀次は『プレローマ』の結界に入った瞬間に居合を放った。

~猟奇温泉ナマ子・陸~

こ、この野郎っ!!
白い精液をブチまけながら陰茎が空中を飛ぶ。
自分の性器を切り落としやがった!!
精液の逆流はおきない。
快楽の一番はやはり性器にある。

だが、皮膚でも絶頂を与えることはできる!!
私の能力は性別にとらわれない!!
プレローマで快楽を与え動きを止めれば!!
あとは触れさえすれば私のテクニックでコイツは終わりだ!!
無駄な努力だったな門司秀次!!
玉無しになってまで無駄な努力を!!

私は近づいてくる門司にゆっくりと腕を伸ばす。

「ハッ、斬って欲しいのか?」
「うごあッ!!」

右腕を斬りつけられる、が。
プレローマのオナホで腕を包みちぎれ飛ぶのは辛うじて抑え後ろに下がる。

「てめぇっ!!」
「悪い、俺さ。良く先輩に言われるんだ『変態じゃないのか?』ってさあ」
「……!?」
「多少の自覚もあるさ、俺は可愛い女の子と本気でバトルするのが興奮するんだ!!」

痛みで快楽をごまかしているのもあると思ったが。
まさか、こいつ!!

「この変態がっ!!」
「アンタに言われたくねえさ、それにちんこがあるならそっちの方の快楽には負けてるんだからさ!!闘うのが好きってだけで無差別に襲ったりはしないわけ!!ほら、ま。性的趣味はそれぞれさぁ!!問題を起こさなけりゃ正常でもあるよ!!それにそのくだらねえ能力もビビってるんだぜぇ!!」

ゆっくりと近づいてくる。
接近戦はヤバイ。
だが私の『プレローマ』はまだ負けてはいない!!

「ハードなプレイが好みなら合わせてやる!!」

オナホールの吸引力をなめるな!!
目を鍛える事はできはしないんだ!!

「一発ヌいてやる!!プレローマ、眼球ファック!!」

門司の両目に不可視のオナホールが吸い付き、凄まじいバキュームで眼球を抜き取った。

~門司秀次・漆~

うぼあっ!!
目が見えねえ。
だが、希望崎の格闘魔人なら!!
目が見えなくなった程度で戦いをやめることはないんだ!!

相手は気配を消した。
あの動き、太極拳っぽい動き。
ゆっくりと音を出さない慣れた動き。

俺のの消耗を狙えば勝てるだろうし。
相手がこちらに触れてもヤられるだけだ。
ならばッ!!
俺は筆で壁に文字を書く。
そして廊下に並んだ扉を一枚引き剥がし、ナマ子に向かって全力で投げた。

~猟奇温泉ナマ子・漆~

能力でそらすまでもない!!
そんな攻撃があたるはずもない
声でも上げさせて位置を探る程度だろうがそうは行くか!!

「おっとぉ!!気ィつけなよ!!物を投げると人に当たって大変危険なんだぜ!?」

壁に書いた文字を読んだ。
ヤツの魔人能力か、これは。

ゴン!!
見当違いの方向に投げられた扉が私の頭に激突した。
か、書いた文字が現実に!?

「んあああっ!?」
「これ、あんたが飛び道具もってたらこっちもヤバイんだ、お互い回避不可ってヤツだから」

頭がゆれ、る。
目の前に、おとこ、門司。

「それに結構可愛い声してるじゃん。その悲鳴さ。アイドルにでもなれば良かったのに」

馬鹿に、し、やがって。

「胸を触ってもセクハラとか言わないでね?もう外さねえ」

ズブリ。
刀が心臓を貫く。
血が溢れる、クソ。
死んでたまるか、死んで。
私は、世界中の、レイプ。
セックスで人を。

~エピローグ・0 参考文献 新聞各紙~
1900年12月25日未明。
イギリス、リヴァプールを出港した『クイーンプリンセス号』が途中寄港予定であった横浜の沖で沈没した。
船内にて数十名の人間が謎の病気で死亡するという事件が起き。
船長以下、船の航行に関わる船員も犠牲となった事が直接的な原因とされる。

この際、いち早く避難誘導を行ったイギリスの美術商夫婦の功績について、政府は表彰を検討しており…。

養子縁組のお知らせ
イギリスの美術商の夫婦が先の海難事故で身寄りをなくした少女を養子に…。
美談として。

2015年某月
横浜沖に沈んでいた『クイーンプリンセス号』の引き上げが行われた。
内部に残された美術品などは所有者が権利を放棄している為…。
歴史的資料価値が…。

海の底から少女が発見される?信憑性の薄いスポーツ紙によると引き上げの際…。
地元の漁師の話によると、引き上げ作業員数名が美女と性交を行ったと意味不明の事を…。

~エピローグ・3~

「ねえモージー。声かけないのォ?あれがアンタが戦ったとかいうナマ子ちゃんでしょ?随分と性格変わってるみたいだけどォ」

書道部部長の道之が門司くんに声をかける。
武道館の最後列。
ナマ子の『プレローマ』の届かない位置で希望崎学園書道部が歌を聴いている。
歌はちょうど三曲目『私のハートはオナホール』になったところだ。
続けて部員の墨川さん。

「雑誌のインタビューとか見ると門司くんのこと探してるみたいでしたよ、ホントはナニしてたんだか。あれ?門司くん?おーい」
「おお、門司の顔が面白い色になってるぞ、ガハハ。汗もすごい」

と元部長のビッグ先輩こと真野大。
門司くんの顔色は、面白い感じだ。

「ちんこ斬るの怖い、あと目が見えないの怖い」
「ああっ!!モージーのトラウマが再発したァ!!キャハハ」
「ちょ、だいたい何で生きてんの?心臓だよ。心臓突き刺したのになんで生きてんの?」

「ガハハ、多分ホレ。この歌がその答えだろうよ」
「歌ですかァ?ビッグさん」
「彼女の能力は門司の話を聞く限り、気体状のオナホっとセクハラと言わんでくれな?」
「大丈夫です」
「うむ、気体状のオナホールを創りだす能力だったのだろう」

「そ、それで?」
「失った心臓をオナホールで代用したのだよ。ほれこの雑誌にも心臓の難病を魔人能力で克服したと書いてある。オナホの吸引とポンプの力を心臓の代わりにしたんじゃなあ『わったしのハートはァオナホールぅ』ってことだろ」
「ビッグさんの歌マネ、面白いっす」

「じゃ、じゃあどうやって100年も生きてんだっ!?」
「自分をオナホールで包んで仮死状態となって海の底に沈んでいたのだろうさ、まあ頭部打撲のうえに酸素は欠乏していて、記憶というか性格が混乱したようだな。いい感じにお前の言葉を受け入れて真人間、いや真魔人になったようだから良かったじゃないか」
「う、良かったの、か?」
「つまり、今をときめくアイドル魔人にして恋愛小説家でもある猟奇温泉ナマ子を作ったのはモージーってわけねェ」
「やーい門司ぴー」
「ガハハハハ!!」
「ちょっと待ってくれ、歴史改変とかもういいよ!!」

ポン、と門司の肩をモヒカン部員が叩き軽くサムズアップした。
希望崎学園書道部は今日も平和である。

『ダンゲロスSS4 大短編ダンゲロス 門司くんと迷宮の時計 エピソード2 時をかけるあいどるますたー活動』 了

最終更新:2014年11月11日 19:58