ウィッキーさん敗戦SS『Tai-kansoku last edition S.B.M.』その1


そして私は瞑り閉じた眼を開ける。

誰もが望まない朝が来る。

私はこの光に晒された傷跡を心に刻もう、流れる涙を受け入れよう。次の一歩を踏み出すために。



○二回戦終了後「並行世界NY」

ニューヨークに差した日の光に眼を向けると私の前には”何もなかった”。

そう何も。

あるのは喰われ空白となった大地ばかり。
眼を凝らすと流れ込んだ海水が底に溜まり、全てを飲み込むような黒く淀んだ水たまりを作っているのが見えた。

地に降りたった自分の周りを私は見る。世界有数の景観を誇る都市は、北海道の動物達に蹂躙され、
見る影もない瓦礫の山と化していた。
遠めに連なるビル群からは黒煙が立ち上り、墓標のような悲壮感を醸し出している。

私は背筋をのばすとその光景を目に焼き付ける。声にならない人々の悲鳴の声を心に留める。

気づくと私は地に座り正座をしていた。正座した上で、NYに向かい手のひらを地に付け、額が
地に付くまで伏せ、しばらくその姿勢を保った。
理性によることではない、この不要で不毛な争いがために犠牲となった人々やそのFamily達への
ただ湧きあがる心より突き動かされた結果だった。


††

どれほどそうしていただろうか。

彼はまた立ち上がる。請け負った仕事は”まだ”終わってはいない。
依頼主への『報告』だ。

リークス・ウィッキーは、ゆっくりと懐に仕舞った携帯電話を取り出すと短縮のボタンを押す。
記録された0120から始まるダイヤルは表示される数字が10を越えたが、
その電話はどこへにも繋がることがなかった。当たり前だった。


何故ならばダイヤルはまだ粛々と続いているからだ。

…20…30…ダイヤルは続く。

異常に長い。
そして表示され続ける数字が「50」に達した時、ようやく機は表示を止め、コールをはじめた。

そしてワンコール半。
電話口を通じてウィッキーの耳に以前聞いた、聞き覚えのある能天気な声が響いた。
、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、
「『転校生』はご利用ですかー こちら転校生派遣サービスです。ウィッキーさんグッドモーニング!」

「Mr.siki.残念ながらミッション失敗です。『彼』に繋いで貰えますか?」

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ここより全ての『物語』の価値は反転する。

最終更新:2014年11月29日 19:42