プロローグ

 太陽が燦々と輝くある日のこと。子供は遊具で元気良く遊び、高校生と思わしき男子は二人でキャッチボールをし、ママさんたちはベビーカーとともに世間話をしている。
 様々な人間が各々の目的をもってこの公園に集っている。そんな中、一人の男がベンチでうなだれていた。
「はあ……このままだとあと二日で金を使い果たしちまう……やっぱり俺ってダメなやつだな……」
 残り所持金が4桁を切った財布の中身を見ながら羽白は呟いた。1周間前に行われた地下魔人格闘大会で優勝賞金100万円を手に入れた羽白だったが、1週間でほぼ使いきってしまった。
 賞金を手に入れたその日にキャバクラに出かけ9割を使い果たし、その後もちょくちょく無駄遣いと浪費を重ねる生活をしていたのだ。当然の結果である。
「ああ~またやっちまったなあ~。無駄遣いしないって決めたのになあ~。どうして世の中ってこんなに誘惑が多いんだろうなあ~もしこの世界がもう少しまともだったら……」
 自分の発する後ろ向きな発言で、更に落ち込む負のスパイラルへと突入しかける。さらっと世間に責任転嫁しかけたその時。
「危ない!」
 声がした方向に顔を向けると、硬球が羽白に向かって迫っていた。認識できたはいいが、このままでは避けられない。通常なら。
「うおあっ!」
 ネガティブムービング。硬球を認識した瞬間、能力を発動した。ベンチのちょうど1メートル後ろに移動し茂みに倒れこんだ。
「いててて……あぶねー、ぶつかるかと思った……」
 立ち上がろうとした瞬間、右手に何か異物があることに気づく。
「何だこりゃ?」
 手にとった物は懐中時計だ。新品かのように傷ひとつ付いてない。
「メーカーとかは……特に書いてないな。ブランド物なら売れるかと思ったけど……無理そうだな。」
 羽白がしばらく時計を眺めていると、ふと違和感に気づく。
「なんだ、この数字?日付じゃなさそうだな……」
 時計の中央と文字の6との間に、数字が記されているのに気づく。最初は日付かと思ったが、スマホで確認してみたところ日付ではないことがわかった。
「うーん……まあいっか」
 羽白は懐中時計をポケットにしまうと、のそりと立ち上がる。先ほど倒れこんだ茂みが、不自然に「消滅」している。
 先ほど使ったネガティブムービングの効果だ。移動後の羽白と茂みの重複していた部分が、羽白の体によって上書きされたのだ。
「あー……この茂み、やっちまったな……どうしよう……ナントカ罪に問われたりしねえかな……」
 しばらく考えるが、答えは出ない。
「バチが当たらないことを祈ろう……うん」
 そそくさとその場から退散する羽白。だが、この懐中時計が彼の運命を左右するとは彼自身予想だにしていなかった……

最終更新:2014年10月06日 02:51