ガーダインによるパラダイス占拠、及びアダムとイブの暴走による事件から、数か月の時が過ぎたある日。
一人の女性が重苦しい雰囲気の建物を後にした。
彼女の名は、その事件の首謀者とも言えるDr.マミーこと「檜山真実」
彼女の犯した罪、そしてやろうとした事を顧みれば、あまりに早すぎる釈放である。
だが、それには理由があった。
彼女に司法取引が持ちかけられたのだった。
『ある条件を受け入れれば、特別措置として即時釈放とする』
真実にその話が行ったのは、つい先日の事だった。
しかし、正直世界に興味を無くしていた真実にとって、受け入れる理由は特にない。
正直断ろうかと思っていたが、その話を持ちかけた人物の名を聞いて、その考えを変えた。
その人物の名前は、タイニーオービット社の社長「宇崎拓也」
彼女は彼に会う為、刑務所を後にしたのであった。
集合場所として指定されたのは、「ブルーキャッツ」という、店主不在のカフェであった。
その扉を開くと、古臭いドアのきしみと、そのドアに設置された、来客を知らせるベルが鳴る。
レトロな内装にどこか懐かしさを感じ店内を軽く見渡すと、テーブルに腰かけていた白いスーツの男と視線が合った。
「待っていたよ、檜山真実」
スーツの男…宇崎拓也が、真実に声をかける。
「こんなところに呼び出して、何のつもり?」
「いや、ただ話をしたいだけさ」
そういうと、拓也は自分の隣にある椅子を軽く引いた。
真実はその厚意を無視して、テーブルに腰かける。
「話がしたいためだけに、重犯罪人である私の身柄を引き取ったと?」
「…そうだったな、まずはそれから話そう」
拓也は脇に置いてあったアタッシュケースから、一枚の紙を取り出す。
何かと思って眺めてみると、それは社員契約書だった。
「単刀直入に言おう。君の力が必要だ。タイニーオービットに入らないか?」
「…はぁ?」
真実の口から、思わず声が漏れた。
「なんでアタシがそんな事をしなきゃならない?」
「断ればまた罪を償いに戻るだけだぞ」
「別にそれでもかまわないよ。そこらで騒ぎを起こせば、簡単なことだからね」
真実がちらりと店の外に視線を送る。
まるで今から、その哀れな被害者を探しているかのようだった。
「それとも…雇うってのは口実で、脛に傷持つアタシを囲ってどうこうしようって魂胆?
いかにもな成金の考えそうなことだね」
その視線を拓也へと戻し、指先で拓也の顔を撫でる。
だが、拓也は静かにその手を除けた。
「真面目な話だ。…正直、今のタイニーオービットは人材を必要としている。
目先の利益でなく、真にLBXの事を想い、その技術を正しく使える優秀な人材が必要なんだ」
「はっ…正しく?アタシがそんなお人好しだとでも?」
「あぁ、思うさ。君は伝説のLBXプレイヤー、レックスの妹なんだからな」
兄の名を出された事で、真実の表情が一瞬強張った。
「…少し時間をもらうわ。いくら何でも、そう簡単には決められない」
「あぁ、それは構わない。だが信じているぞ」
「フン…」
真実は無理矢理に拓也から視線をそらし、また店の中を物色していた。
ふと、一つの写真が飾られていることに気が付く。
小さいながらも見覚えのある姿が、そこにはあった。
「あれは…」
目を凝らしてその写真をよく見ると、幼い兄妹の姿が目に入った。
その姿を見て、真実が息を飲む。
(なんで…あの写真がここに…)
真実は思わず手で自分の口元を覆い隠した。
そこに映っているのは自分。
そして、その隣にいるのは、自分が渇望してやまない、兄の姿だった。
「気が付いたか」
その拓也の言葉で、真実はやっと現実に引き戻される。
「ここは、君の兄…檜山蓮が経営していた店なんだ」
真実が拓也に視線を移した。
拓也が言葉をつづける。
「いつも俺はここで蓮と話をしていた。世界を救うために、二人でな」
拓也は眼を閉じ、かつて自分の前に立っていた友人の姿を思い出していた。
「互いの真意は違っても、世界を救いたいという思いは同じだったと、俺は信じている」
拓也の言葉に、真実は言葉を失っていた。
その兄の言葉を知ることができないのが、たまらなく悔しかった。
同時に、自分の知らない兄を知るこの男に、深い嫉妬心を燃やしていた。
「…少し、場所を移そう」
拓也が椅子から立ち上がり、壁に隠されたボタンを押すと、地下へと通じるエレベーターが姿を現した。
真実は拓也に少し遅れてからエレベーターに乗り込み、地下へと降りて行った。
エレベーターを降りると、そこには広大な空間が広がっていた。
バーのフロアからは考えられない程の広さに圧倒される。
「…ここは…」
「檜山はここで、『アングラビシダス』というLBXの大会を開いていた」
拓也がステージの上に立ち、天井を見上げる。
「ルール無用の大会『アングラビシダス』…ここに集まるのはルール無用のプレイヤー達だった。
LBXを破壊する事を楽しむような輩も多かった。
だが、中には強すぎる力を持つが故に、満足にLBXで戦えないような者もいた。
檜山はそんな奴らも見捨てないために、ここを作ったんだと思う」
「…そう…」
真実はフッと軽く笑って、壁にもたれかかる。
「アタシは知らなかったわ、そんな事…兄さんが何を思って生きてきたか、どうして世界を滅ぼすべきじゃないなんて考えなおしたのか…」
そこまで言うと、いきなり真実は拓也を睨みつけた。
「お前はずっと兄さんといた…なのに、どうして気づけなかったの!?
兄さんのそばにいて…何も知らずにのうのうと…!」
拓也は何も言わずに視線を落とした。その仕草が、真実を更に苛立たせる。
「君の言うとおり、俺は檜山の傍にずっといた…だが、今思えばそれだけだったのかもしれない。
正直に言うと、世界を救うという使命に酔っていたのかもしれない。
気づくチャンスはいくらでもあったんだ…俺だって、できる事なら救いたかった…!」
「今さらそんな…!」
「俺も兄を失っている!」
拓也の意外な告白に、真実が一瞬たじろぐ。
拓也は言葉を続けた。
「イノベイターの反乱の中、兄さんは最後まで戦って、そして…死んだんだ」
「…それが…何だっていうの。間接的に兄さんがあなたの兄を殺したとでも?」
「そうじゃない。確かにあの時は檜山を憎んだ…だが、俺も兄さんが何を望んでいたかを考えたんだ。
兄さんは一人、ずっとイノベイターと戦い続けてきた…LBXを、この箱の中に戻すために」
そういうと、拓也は格納されたままのDキューブを取り出す。
「俺はその兄さんの遺志を継いだ。それが、失われた者への最大の敬意だと、俺は思う」
「遺志を…継ぐ…」
真実は、その場にへたり込んだ。
あの時、アダムとイブによってもたらされた、兄の真意。
それが真実には未だに信じられなかったのだ。
「兄さんの遺志が分からないなら、どうすればいい…?」
「それを見つけるのは、君自身だ」
「私には…兄さんが全てだったのよ!?
いつか兄さんの望みを果たそうとして…そんな私に私にどうしろと…」
「人は獣に非ず…人は神に非ず…檜山の言葉だ。
人は考える事ができる。これからこの世界の中で、新しい生き方を見つけるんだ」
「できないわ…私一人じゃ…」
「一人ではない。…俺がいる。そして、君が望めば、俺はいつでも力を貸す」
「どうして…私にそこまで…」
「俺たちは仲間だからだ。いや、仲間になれると信じている。君は、檜山の妹なんだからな」
拓也が真実の肩に手を置く。
真実は自分の方の震えをようやく理解した。
真実が拓也にすがりついて、頬を流れる涙を隠した。
そして目に力を込めて強引に涙を抑えると、拓也の唇を強引に奪う。
突然の事で拓也も驚くが、真実の体を抱き返し、優しく背中を撫でさすった。
真実は拓也の体温を求め、その体を深く抱きしめる。
今まで感じてきた孤独を、消し去ろうとしているようだった。
誰もいない地下の空間で、二人は互いに生まれたままの姿となっていた。
拓也の白い肌と真実の浅黒い肌の対比が、闘技場のライトに妖しく照らされる。
真実は拓也の上に乗り、自分の頭を拓也の腰に、そして腰は拓也の頭に向けていた。
真実の手が拓也の足をなぞり、拓也自身を握る。
自身が反射的に震えるが、それを抑えて手を上下に動かし、先端を口に含む。
「っぅ…」
拓也が小さく声を上げる。
そのお返しとばかりに、拓也が真実の腰を抑え、その秘所に舌を這わせた。
真実の体が震える。
真実の攻めが緩むと、拓也は舌を奥へと侵入させ、その内壁を舌で蹂躙した。
「ん、んんっ…」
今度は真実が声を上げる。
だが、喘ぎながらも手は離さない。
拓也の手が、真実の胸に伸びる。
真実の体が大きく仰け反り、快楽に震えた。
耐え切れなくなった真実は、一度体を離した。
そして体の向きを変え、拓也に馬乗りをするような姿勢になる。
天を仰ぐ拓也自身を掴むと、自分の秘所へと誘った。
「…っあぁ!」
「く、ぅ…!」
二人がほぼ同時に声を上げた。
真実がゆっくりと腰を下ろし、拓也を根元まで飲み込む。
そのまま上下に腰を動かして、ペースを作る。
慣れてくると、その腰の動きを速めた。
拓也の快楽に歪む顔を見下ろす真実。
その表情が、たまらなく愛おしかった。
「あっ、あ…あんっ…!」
もう真実は、乱れる自分を隠そうとはしなかった。
拓也の上で喘ぎ、上り詰めていく。
やがて真実は絶頂を迎え、拓也をより一層強く締め上げた。
その直後、拓也が大きく震え、真実の中で果てたのを感じた。
絶頂の余韻を感じながら、真実は拓也の胸に自分の体を預け、拓也の鼓動を全身で感じていた。
バーのフロアに戻った二人は、外が夕日に染まっているのに気付いた。
少し前までの饗宴が嘘のように落ち着いている。
真実がカウンターに腰かけると、拓也がグラスに水を注ぎ、真実に差し出した。
その水を飲み干し、真実は大きく息をつく。
「…さっきの話、受けるわ。兄さんの言葉が本当か、この世界に信用に足る人間がいるかどうか、観察するのも悪くない」
その言葉を聞いた拓也は小さく頷いて、再び真実に契約書を差し出す。
真実がそれに軽くサインをして、拓也に返した。
「決まりだな。これから宜しく頼む」
拓也が真実に手を差し出す。
真実も、その手を握り返した。
「…宜しく、拓也…」
夕日のせいで、真実の頬が赤く染まっているのに、拓也は気づかなかった。
最終更新:2013年07月09日 21:58