オンリー・マイ・アミ
二度と踏むことのないと思っていたミソラ商店街の道。
並んでるのはお馴染みキタジマ模型店、修羅と廃人が集うゲームセンター、滅多に開かないたこ焼き屋に、いつも静かなブルーキャッツ…
久しぶりに戻ってきた故郷の変わらない様子に、ちょっとした感動すら覚える。
少し前、ディテクター、という組織の起こした事件が世間を騒がせた。主犯は友だちの親父さん、共犯は俺。
罪状は狂言テロ。あと器物破損、誘拐、軽いけど傷害も多数。
いろいろワケありだったとはいえ犯罪を働いたんだから、当然罰を受けるもんだと思ってた。
でも山野博士が調子よく便乗犯に責任を押し付けてくれたおかげで、俺も晴れて無罪放免になったわけだ。
一生日陰者でいる覚悟を決めた割には、あっけなく逃亡生活が終わってしまって、ちょっと拍子抜けした。
LBXをテロの道具にしたってことでバンにはめちゃくちゃ怒られたけど、「これからLBXを正しく使ってくれるなら、いいよ」って笑って許してくれた。
やっぱバンはスゲーや。俺が心配するまでもなかったな。
そんで今はバンたちと一緒に世界を守るために、例の便乗犯と戦ってる真っ最中だ。
悪魔みたいに思ってたアキレス・ディードも、使ってみれば意外に素直で扱いやすく、今や俺の気持ちをダイレクトに表現してくれる一番の相棒になった。
おかげでバンたちの力になれたこともあるしな。
てなわけで、俺の生活はぜんぶ元通りに戻った。
たったひとつの、いや、ひとりの変化を除いて。
「あのさ、アミ」
「いやっ……!」
後ろから呼び止めようとして肩に置いた手が、振り払われた。
振り返ったアミの顔には恐怖の色が浮かんでいて、でも俺と目が合ったらすぐにハッとした表情をして何もなかったみたいに取り繕った。
「あ、ああ、なあんだカズだったの…ごめんなさい、ちょっとびっくりしただけだから」
「どうしたんだよ、アミ。最近なんか変じゃないか?」
「そんなことないわ、いつも通りよ。なんでもないから……心配しないで」
近頃、っていうかNICSに協力し始めてからのアミは、ずっとこんな感じだ。
口ではなんでもないって言ってるけれど、見ただけでわかるほど様子がおかしい。
ひとりでいるときは決まって、何かに怯えるみたいにいっつもおどおどしてる。
アミはどんなつらいことがあっても自分だけで抱え込もうとするヤツだ。
何があったかわからないけど、できることならアミの力になりたい。大切な友だちだから。
アミの異変の原因がわかったのは、本当に偶然だった。
ダックシャトルのレクリエーションルームに入ろうとしたとき、中から話し声が聞こえてきて、ついドアの前で聞き耳を立てた。
なんで盗み聞きなんかしたかっていうと、その声の片方がアミの声だったから。
もう片方の声の主、ジェシカがコーヒーらしきものを口に運びながら、アミに尋ねていた。
「ずっと聞こうと思ってたんだけど……アミ、アナタって男性恐怖症?」
「え…な、なんでそんな風に思ったの?」
「なんとなく、よ。平静を装ってるみたいだけど、アナタの仕草を観察してたら少し男の子たちと距離を置いてるように感じたの」
ジェシカもアミの異変に気づいてたらしい。
でも『男性』恐怖症? 俺はアミがおどおどしてることばっかり気になって、アミが『何』を怖がってるかなんて考えてもみなかった。
言われてみれば自由時間は俺やバンよりも、ランとかと女同士で固まってることが多かった気がする。
俺が……アミを怖がらせてたのか?
「去年のアルテミスで見たときはもっと活発で男にも負けない!って感じだったのに、今はすっかりおとなしいから」
「そんなこともわかるんだ……ジェシカはすごいのね」
「こんなにデータと違ってくるなんて、普通はありえないわ。何か心当たりがあるんじゃない? もしイヤでなければ話してみて」
そう言ってジェシカはアミの紙コップにひとつ、角砂糖を落とした。
A国人特有のフランクさで聞きづらいことも聞けるジェシカが羨ましいぜ。
俺はこうしてアミを見てることしかできないってのに。
だけどアミの返した答えを聞いて、聞かなけりゃよかった、って思った。
「怖い…夢を見るの。男の人に押さえつけられて、乱暴される夢…」
「それがトラウマになってるのね。でも夢の話よ。気にすることないわ」
「うん…ただの夢ならいいんだけど…」
「心配ないわ。もしそんな男が本当にいたとしたら、NICS長官の娘の名に懸けて、ワタシが絶対に逮捕してあげるから!」
「ふふっ…ありがと、ジェシカ。話したらちょっと楽になったわ」
なんてこったい……
アミがスレイブにされていたとき、俺はアミの冷たい態度に逆上してアミをレイプした。冷静になってから死ぬほど後悔した。
山野博士はそのときのアミの記憶を消してくれたし、俺もできるだけ思い出さないようにしてた。それも、無意識のレベルで。
でもそれでぜんぶチャラになったわけじゃなかった。
俺自身も思い出したくなかった、忘れてしまいたかったあの悪夢は、アミの身体に確実な恐怖として刻まれてしまっていた。
俺にアミの友だちでいる資格なんかない。
公的に追われることがなくなっても、アミが覚えてないとしても、俺の犯してしまった罪が消えることはないんだ……
知りたくなかった事実を知ってしまって、俺はたぶん、すごく情けない顔をしてると思う。
でも、知ってよかったとも思う。知らなければ一生、罪を償うチャンスさえ得られなかったかもしれないから。
今の俺は、昔の俺とは違う。嫌なことからすぐ逃げ出してた、あの頃とは。
だから逃げちゃいけない。逃げたら二度とアミの顔を見られない。
俺は覚悟を決めて、レクリエーションルームのドアをくぐった。
「アミ」
「あ……カズ。どうしたの? マジメな顔しちゃって」
「アミに…大事な話があってさ」
「じゃあワタシは席を外した方がいいわね。またね、アミ。いつでも相談してちょうだい」
そう言いながら飲んでいたコーヒーの紙コップをゴミ箱に捨てたジェシカは、ちらり、と一瞬俺の方を見てから部屋を出て行った。
その視線がなんとなく痛かったのは、俺の気のせいなんだろうか。
これから告げなければいけない内容を思うといやでも気が重くなる。
「な、何かしら。カズ、なんだか怖いよ…」
「どうしてもアミに言わなきゃいけないこと、あるんだ」
もしかしたらアミにつらいことを思い出させてしまうかもしれない。
それでも俺は、けじめをつけなきゃいけない。
「アミがディテクターにいたとき、俺、無理矢理アミのこと…レイプした」
「……え?」
「俺がヤったんだってば! レイプ、ゴーカン!!」
俺は自分のやらかした罪をアミに話した。
アミのトラウマは夢なんかじゃなくて、実際にあったってことを。
アミが洗脳されてるのをいいことに、暴力でアミを押さえつけて、めちゃくちゃに犯したことを。
ぜんぶ、何もかも、洗いざらい話して、最後にゴメン、と付け足した。
拳の一発くらい飛んでくるだろう、と覚悟してた俺の予想とは裏腹に、返ってきたアミの声は意外にも穏やかだった。
「なんだ、カズだったんだ。よかった…」
よかった…ってなんだよ。もしかして……相手が俺で嬉しかったってことなのか?
「もし知らないオジサンとかにされちゃってたらと思うと、ほんと、ゾッとするもの」
あ、そういうことか…
勘違いして浮かれそうになってた自分を諌める。
そうだよな、俺はアミにヒドいことをしたんだ。好きになってもらえるわけがない。
殴って、レイプして、限界まで追いつめて……どんな仕返しされたって文句は言えないくらいの悪事。
なのに、アミは俺を責めない。じっとこっちを見つめてくるだけだ。
「アミ……怒らないのか?」
「だってカズは私を元に戻そうとしてくれたんでしょ? そんなの怒れないわ」
「違う。最初はそうだったかもしんないけど…途中からわけわかんなくなって、イライラして、ぜんぶ投げ出したくなって、アミに八つ当たりしただけなんだ」
「…仕方ないわよ。周りは変なことばっかりで、カズひとりだけが正気に戻ったもの。
もし私がその立場だったとしても、おかしくなってたと思う。だから…仕方ないの」
「それじゃダメだ!」
アミが提案してくれた逃げ道を、声を荒げて否定した。
アミのためにやったことじゃない。仕方ない、ですませられることでもない。
ぜんぶ俺が悪いんだから、そんな憐れむような目で見るなっての…!
「このままだと俺の気がすまないんだ。殴っても、NICSに突き出してくれてもいい。なんでもいいから、俺の罪を裁いてくれよ!」
罪には罰を。裁かれない罪が許されることはない。
罪を償えなかったら、俺はこの先ずっと後ろめたい気持ちを抱えながら生きてかなきゃならない。
…許されることだとは思ってないけど、許してほしい、って思ってしまうのは調子よすぎるかな。
「私がはっきり覚えてないことで怒れって言われても困るけど……何かしないと、カズは納得できないの?」
黙ってうなずく。
「じゃあ、やり直して」
やり直す……何を?
アミが俺の顔を覗き込む。距離が近くて少しドキッとした。
「初めてのときの思い出が怖いままなんてイヤじゃない? だから私の初めてをもう一度やり直してほしいの」
何を言ってるんだ、アミは。
だってそれはつまり、強姦魔にまた抱かれることになるんだぜ?
…いや、違うか。アミは俺を『強姦魔』じゃなくて『友だち』に戻そうとしてくれてるんだ。
あの悪夢をなかったことにして、普通の女の子が好奇心で経験するようなどこにでもある初めてにする。
そうすれば俺とアミはまた、元通りの友だちに戻れるかもしれない。
たぶん俺自身は、罪を忘れることなんて一生ないだろうけど……
「アミが、それでいいなら」
「うん、いいわ。今夜、私の部屋に来て」
わかった、と返事をする。
アミが部屋を出て行って、その場には俺ひとりだけが取り残された。
今夜、ケリをつける。俺の気持ちも、アミのトラウマも、できることなら今日でぜんぶ終わらせよう。
将来アミがどっかの男と付き合とき、セックスに変なトラウマ抱えたままだったら不幸だ。
アミが普通の人生を送っていけるように、初めての経験をごく普通のものにする。
上手くできる自信なんてないけど……それが俺の責任の取り方。
ふとテーブルを見ると、アミが置き忘れた紙コップの中に、飲みかけのコーヒーが残ってるのに気付いた。
苦い。
そのコーヒーには砂糖がたっぷり入ってたはずなのに、むせるくらいに苦かった。
ヤバいヤバいヤバい。
アミと話してたときはなんか妙に落ち着いてたけど、今になってプレッシャーに押しつぶされそうになる。
だってセッ……セックスなんて、あの一度きりしかしたことないんだぜ! それを、今夜またアミと……
無理、絶対無理。心臓バクバクだし、頭グラグラだし。あーもう、どーすりゃいいんだ!
精神的に切羽詰まったときの行動ってのは、後々考えてみると相当おかしかったり恥ずかしかったりするもので、
「あの、セックスってどうやればいいんすか!」
ほとんど童貞で女の抱き方も知らない俺は、NICSやシーカー関係者に手当たり次第こんな質問をしていた。
てっとり早く実践的な知識を増やすには、他人の経験を聞くのが一番、と思ったんだろう。
(同年代のみんなと郷田には聞くだけ無駄だから聞かなかった)
真野さんに聞いたら思いっきりビンタされて「10年早い!!」って言われた。
拓也さんに聞いたら飲んでたお茶吹き出してそのまま固まった。なんだったんだ、あの反応。
とまあだいたいの大人たちは真剣に取り合ってくれず、結局参考になりそうなこと教えてくれたのは、八神さんと仙道だけだった。
そんなこんなで夜になって。俺はダックシャトルのアミの部屋の前に立っていた。
立っていた、っていうか立ちっぱなしでもう10分。約束の時間を過ぎたってのに、俺の優柔不断はなかなか引っ込んでくれない。
しっかりしろ、俺。なんのためにここに来たんだよ。罪から逃げるな。アミを解放してやるんだろ。
フウッとひとつ大きく深呼吸をして、気持ちを落ち着かせる。
よし、とりあえずノックを――
プシュッ
「……カズ、何してるの?」
――しようとした瞬間、ドアが開いて中からアミが顔を出した。
「あ、ええと、今アミのとこ行こうとしてた」
「ふうん、あんまり遅いから来ないかと思っちゃった。あんまり、女の子待たせるものじゃないわよ?」
「…わりい」
「もういいわ。入って」
いたたまれなさを感じながら、アミに続いて部屋に入る。
アミの部屋は俺の部屋と違って、キレイに整理整頓されていた。その中で結構なスペースを占めるベッドの存在感が半端無い。
……なんかめちゃくちゃ気まずい。
「えっと…」
「シャワーはもう浴びたから、早く始めましょう」
背中を向けたまま、アミはそそくさと着ている服を脱ぎだした。
ほのかに上気する白い肌、胸から腰にかけてくびれた色っぽいボディライン。普段なら絶対お目にかかれない光景が目の前に現れる。
あまりにも刺激の強すぎる急展開について行けず、俺は慌ててアミの肩に手をかけた。
「ちょっ、ちょっと待てよ、アミ! もう少し落ち着いてから…」
「いやっ……!」
肩に置いた手が、また振り払われた。
「あ…違うの、イヤじゃないの。ただ…早くしないと決心が鈍りそうで……」
薄い下着だけを身に着けたアミが、キュッと俺の手を握る。アミの手は小刻みに震えていた、ように感じた。
どんなに平気なフリしてても、怖いんだよな、やっぱり。
俺以上にアミの方がよっぽど不安なはずなのに。怖いのを我慢して、必死に勇気を振り絞って、今俺に向かい合ってくれてる。
…ったく、男の俺が煮え切らないでどうすんだっての。
さっさと終わらせて、アミを自由にしてやれよ。それが罪を犯した俺の責任だろ。
いったん手を離して、アミも俺も着ていたものをぜんぶ取り払った。
前に見たことがあるはずなのに無性に恥ずかしくて、お互いろくに直視できない。
ためらいを消し去るように、アミの身体を引き寄せ重心を奪う。
柔らかい中に潜むこわばりを感じながら、そのまま、ゆっくりベッドに倒れこんだ。
…アミって、こんなに小さかったかな。
背丈も頭ひとつ分くらい違うし、腕だって俺の半分の太さもない。
こんなに細い身体で唯一胸だけは大きくて、でも俺のとはやっぱり全然違って。
1年前はほとんど変わらない体格だったのに、今はもう全く別の生き物になってしまったんだと思い知らされる。
それを寂しく感じる一方で、女っぽくなったアミの裸に欲情してしまうのは、どうしようもない男のサガ。
俺の逸物がアミの中に入りたくて勃ってきてるけど、今はまだ早い。
仙道がタロットをいじりながら言った言葉を思い出す。
『経験の浅い女がセックスでよがると思ってんなら大間違いだ。突っ込む前に十分イかせてやるんだねえ』
ちなみにタロットの結果はジャッジの正位置だったらしい。意味は知らない。
余計な肉のついてない脇腹を撫でる。手に余るほど大きな胸を揉む。
「は……ぁっ…」
熱い吐息と一緒に、アミの口から喘ぐような声が漏れ出る。
手を脇腹から腰、そして太ももに移動させ、とうとう脚の間に触れた。
薄い茂みの中の割れ目はわずかに湿っていたけれど、本当にわずかだった。
エロ漫画みたいに少しさすったり撫でたりすれば濡れまくる、ってわけじゃないらしい。
おそるおそる湿った割れ目に手を近づける。
「んんっ……!」
指一本挿れただけなのに、アミが痛々しく呻いた。
アミの中は狭くて、きつい。
無理矢理押し込んだといっても、この中に一度でも俺のが入ったなんて、とても信じられない。
中に指をこすり付けたり、クリをつまんだりして入口をほぐす。愛撫と呼ぶには拙すぎる刺激。
さっきよりは濡れてきた気がするけど、アミを気持ちよくできてるとは思えない。
ほっぺたが真っ赤に染まって、息が荒くなって、むしろ苦しんでるように見える。
無理だ。こんなんでイかせられるわけがない。
上手くできなくて内心焦りまくってる俺の手に、優しくアミの手が添えられる。
「ね、もういいよ。私はもうできるから、カズも無理しないで」
緊張を和らげるようにアミが微笑んだ。
微笑む、っていっても前みたいな明るい笑顔じゃなくて、同情からきたみたいな作った笑顔。
女の子に気い遣われるなんて情けねー…
つっても確かにこれ以上は俺の方がもたない。
ぬるま湯に浸かったような指の感覚とか、色っぽい大人びた喘ぎ声とか、女の子特有の匂いとかで、もう俺の逸物はギンギンに暴発寸前だった。
挿れる前に出しちまったらもっと情けねーし、目も当てられない。
アミが言う通り、そろそろ始めても大丈夫だよな?
と、その前に。
脱いでその辺に放り出したズボンのポケットに手を伸ばす。
「…ゴムつけるから待って」
「用意、してたんだ。そんなに気が回るなんて…なんだかカズらしくないわ」
「こ、このくらい男として当たり前だろ!」
実は八神さんに忠告されるまで避妊のこと完全に忘れてた。もう子供を作れる体になってる、って自覚が無かったから。
でも、実際裸で向かい合ったらすぐに、俺たちが大人になっていってるんだって理解した。アミは立派に女だし、俺は男だ。
慣れない手つきで男の部分にゴムをつけてから、アミに覆いかぶさる。
先端が入口に触れた瞬間、アミの身体がビクッと跳ねた。レイプの恐怖がぬぐえないのか、目を固く閉じて、全身を硬直させている。
あんま怖がられると、自信がなくなってくる。最後まで続ける自信が。
「怖いかもしんないけどさ…我慢して、力抜けよ」
今度は殴ったり、首を絞めたりしないから。優しくするから。
俺の言葉に応えるように、ふっと、一瞬アミの身体の硬直が解けた。
それを見計らって、アミの奥深くへ押し付ける。
「あうぅっっっ! んっ…おっきい……」
どうにか、ギリギリぜんぶ入った。
…なんだ、これ。この感覚。動悸、息切れ、それに意識が朦朧とする。
ふわふわするような、痺れるような、風邪を引いてひどい熱を出したときみたいだ。なのに、嫌悪感は全くない。
きつい締め付けに抗ってアミの中を往復するうちに、だんだんと滑りがよくなって、新しく生まれた興奮が俺をもっと激しく突き動かす。
アミが俺にもたらす快感は、俺をすぐにでも限界に追い込もうとする。
限界? ……いやだ。まだ終わらせるもんか。あのときみたいに、身も心も壊れるくらい、アミを犯してしまいたい。
キレイな顔も、柔らかい胸も、今俺を咥えこんでるソコも、髪の毛から爪先までアミのぜんぶを俺のものにしたい。
アミ、アミ。俺の大切な――
「だ、め…カズ…わたし、へん……こわい、やだ…!!」
……大切な、なんだよ。
嫌がるアミを犯して苦しめて、一方的に快感とか満足感を得ている俺に、その続きを言う資格はない。
八神さんはなんて言ってた?
『無思慮でただ行為に及べばパートナーに負担をかける。身勝手な快楽に溺れるな。相手を思いやるならば……な』
そうだ、俺が気持ちよくなってちゃダメなんだ。心の交わりなんてない、身体を重ねるだけのセックス。こんなことしてアミはつらいに決まってる。
だって、ほら。
「ひくっ、んんぅ…っ……」
嗚咽を殺して、涙を流して。今、アミは泣いている。
アミは怖がってるんだ。俺のことが怖いのか、男が怖いのか、セックスが怖いのか、それはわからないけど。
もう終わらせよう。
これで最後だから。最後にするから。アミの嫌がることなんて、もう二度としないから。
だから、今だけは俺のワガママに付き合ってほしい。
今まで必死に抑えつけていた気持ちが、のどをせり上がってくる。
「アミ…俺、ずっとアミのこと…」
「え……?」
やめろ、それ以上言うな。同情で余計アミが苦しむだけだ。
わずかに残る理性を振り絞って、続く言葉を飲み込んだ。黒くて重い澱が腹にたまる。
そして俺はアミの中で射精した。まるで、たまったその澱を吐き出すように。
薄い膜に遮られたせいで、ほんのわずかでもそれがアミに届くことはなかったけれど。
セックスを終えて、後始末もすんで、俺は裸のままアミと背中合わせでベッドに腰掛けていた。
事後に抱きしめるとか触れ合うとかは、恋人同士のためにある行為で、俺たちがしていいことじゃない。
恋人でもないのに抱いたから、アミを苦しめて、怖がらせて、泣かせてしまった。
結局、俺が罪を償うことはできなかったってわけだ。
心は重いまんまなのに、性欲を晴らした身体だけが妙にすっきりしてて、アミに申し訳なくなってくる。
「アミ、ゴメンな」
「なんで謝るの」
「だって、アミはつらかったんだろ。その…ずっと泣いてたから。
俺みたいな好きでもなんでもないヤツに抱かれるなんて、本当はイヤに決まってる…」
「違うわよ!」
突然張り上げられたアミの声に、俺の言葉が止まる。
驚いて振り向くと、アミは怒ってるというより呆れてるように見えた。
「なんか態度がおかしいと思ったら、カズ、そんなこと気にしてたの。…えっと、あのね。誰にも言ってなかったことなんだけど、」
アミがうつむいて、どこかばつが悪そうにもじもじする。
「私、気持ちいいと涙出ちゃうの」
はあ?!
するとあれか、セックスの間中ずっと泣いてたのは気持ちよかったからで、少なくともそのことに関して俺が気に病む必要なんてなかったってわけで…
「だから謝る必要なんてないの。それに…」
ちょっと待って、まだ頭の中混乱しっぱなしなんだけど。
「好きでもない人とこんなことするわけないじゃない」
「えっ…それってつまり…」
アミは俺のことを……?
「何よ、女の子から言わせるつもり?」
顔を赤くしながら拗ねたように口をとがらせたアミは、1年前の小生意気なアミのまんまだった。
いつも勝気で、非常識なくらい頭が回って、臆病な俺をぐいぐい引っ張ってくれる女の子。
俺はそんなアミのことが好きになって、でも気持ちを伝えられなくて、自分勝手にアミを傷つけて、そしてたった今、アミのおかげでようやく答えにたどり着けた。
ハハ、ほんっと、俺はどうしようもないヘタレ野郎だったってわけだ。
三つ子の魂百まで。どんなに体が大人になってっても心の根っこは変わんないんだな。俺も、アミも。
フウッとひとつ大きく深呼吸をして、気持ちを落ち着ける。
俺がアミに言わなきゃいけないことは、ゴメン、じゃなかったんだ。
本当に俺がアミに抱いていた気持ち。それは、
「アミ、大好きだ!」
「うん! 私も、カズのこと大好きよ」
チュッ
――ヤバいって。このタイミングでキスなんかされたら…俺、もうダメだ。
「きゃあっ?!」
爆発した感情を抑えきれずに、つい、またアミを押し倒してしまった。
だってさ、好きな女の子が俺のこと好きって言ってくれて、キスまでしてくれたんだ。こんなの我慢できるわけねーじゃん!
それで誘ってる自覚がないなんて、アミは男って生き物を全然わかってない!!
アミのせいですっかり回復した逸物に、また新しいゴムを装着する。
「うそ…さっきイったばっかりでしょ?! なんでもうそんなに元気なのよ!」
「アミがいけないんだぞ、そんなにカワイイから。安心しろよ。今度はアミも足腰立たなくなるほどイかせてやるって」
「信じらんない! カズのエッチ、スケベ、強姦魔、犯罪者!」
「へいへい、どーせ俺はエッチでスケベな強姦魔の犯罪者ですよ。そんな俺が相手じゃ…やっぱりイヤか?」
「う…イヤじゃない、けど」
「じゃ、決まりだな。行くぜ」
腰を押し進めると、アミのソコは驚くほどすんなりと俺を受け入れてくれた。
「はああぁん…! ばかぁ…調子に乗りすぎよ……!!」
「アミの中、すげえ気持ちいい」
「んんっ…おかしなこと言わないで、恥ずかしい」
へっへっへ、何度だって言ってやる。だってこんなに気持ちいいんだぜ。
さっきのとかレイプしたときも、正直言うとたまらなくよかった。
でも今回のはまるで違う。
アミと、体だけじゃなくて心も繋がってる。
あったかくて、柔らかくて、癒される。アミがすぐそこにいるのが実感できる。
「すんっっっげえ気持ちいい。アミは気持ちよくないのか?」
「えっ…ん、あぅっ…………き、気持ちいいよぉ…でも、変になりそうで…こわい……」
「変になれよ。ぜんぶ受け止めてやるから」
「ほんと? エッチな女の子になっちゃっても嫌いにならない?」
今ならわかる。アミが一番怖がってたのは、好きな人に嫌われること。
まあ男とかセックスへの恐怖が全然なくなったってわけじゃないだろうけど、少なくともさっき言ってた『怖い』ってのは、そういうことだと思う。
俺も、アミに嫌われたと思ったとき、本当に怖かった。たとえ、そのときアミがスレイブにされてたとしても。
ディテクターに誘拐されたことよりも、テロリストとして追われたことよりも、アミに嫌われることが怖かった。
俺はアミに、情けないとこも、カッコ悪いとこも、ずるいとこも、汚いとこも見せてきた。
それでもアミは俺を好きだって言ってくれた。
だから…ってわけじゃないけど、俺も、何があってもアミを好きでいる。その自信はある。
あと、個人的にはエッチなアミも大歓迎だし。
「絶対俺はアミを嫌いになんかならない。だからさ、もう怖くないだろ?」
「うん……平気、怖くない。カズ…すき…」
アミの目から涙がこぼれ落ちた。
俺も、もう怖くない。この涙が拒絶の意志じゃないってわかったから。
つうかむしろ、俺がアミを気持ちよくさせてると思うと、興奮の度合いがとてつもない。
アミの中はゴム越しでもわかるくらいグチャグチャでぬるぬるだし、俺を欲しがってるみたいにきゅうきゅう締め付けてくる。
ちっくしょう、仙道め。経験のない女の子は挿入で感じないとかウソつきやがって。
俺もアミも気持ちよすぎて止まらないじゃねーか!
「アミ、俺、もうっ……」
「いいよ…カズ、私も…!」
俺たちはふたり一緒に絶頂に到達した。
強く身体を抱きしめて、深く心を重ねて。
今日が俺たちの初めて。初めて気持ちを通じ合わせた日。
これから先アミがいればきっと、俺はどんな困難にも負けず前に進めるだろう。
…なーんて、これじゃまるっきりロマンチストだ。
現実はそんな甘いもんじゃないし、たぶんこれからも泣きごとだって散々言う。
でもそれでいいと思う。
情けなくたって、カッコ悪くたってさ、アミが好きでいてくれるなら、俺自身もそんな俺を好きになれるから。
ただ、まだわかんないことがひとつ。
俺はその疑問を、俺の胸元に顔を寄せているアミに投げかけた。
「あのさ、なんでアミは俺のこと好きになったの?」
「それが自分でもよくわからないのよ。去年かな。イノベーターとの戦いのときくらいから男の子として意識するようになっちゃって、気がついたら、ね。
ほんと不思議よね。カズって不良っぽいのに弱虫だったし、頼りなかったし。好きになるなんて思ってもみなかったわ」
「そこまで言うのかよ」
「いいじゃない。どんなカズでも私は好きだもん。ね、カズも言いなさいよ。なんで私のこと好きになったの?」
「んー、おっぱいが大きくなったから」
「…サイテー」
「冗談だって。俺もアミと同じ。アミのこと見てたら、いつの間にか好きになってた」
「そっか。いっつもそばで戦ってきたもんね。これからまた前みたいに一緒に戦ってたら、お互いもっと好きになっちゃうかしら?」
楽しそうにアミがクスクスと笑った。
お節介なのに強くて、負けず嫌いのくせに明るくて、意地っ張りだけど優しいアミ。
俺の力でこの笑顔を守っていけるのか、心にふっと不安がよぎる。
そのとき、俺はちょっとだけ感傷的になっていた。
「本当に俺、またアミやみんなと一緒にいてもいいのかな…」
「私ね…ううん、私だけじゃないわね。バンも、ジンも、みんなカズが帰ってきてくれて、すごく嬉しかったのよ。
また黙ってどこかに行っちゃったら、それこそ許さないんだから。これからも、よろしくお願いね」
「…サンキューな、アミ。俺、絶対みんなの力になってみせる」
犯してしまった罪が消えることはない。
でもアミが、バンが、大事な仲間たちが受け入れてくれるなら、俺は罪を忘れなくても生きていける。
LBXを悪者にした罪は、LBXを使って世界を救うことで償う。5年後には、アキレス・ディードを世界中で大人気のヒーローにしてやるぜ。
アミを傷つけた罪は、これからアミをとびっきりの笑顔にすることで償う。5年後には、……ちょっと想像つかねーや。
でも、できれば5年後も、10年後も、アミやバンや仲間たちと笑い合っていたい。
そんなビジョンを思い描きつつアミを見つめてたら、顔を上げたアミと目が合った。
俺の心の中を見透かしたみたいに、アミはニッコリ笑う。
可愛げがないくらいの、とびっきりの笑顔。…めちゃくちゃカワイイんだけどさ!
なんだか照れくさくなって、顔が見えないように、俺はアミにキスをした。
アミ、アミ。かけがえのない、俺の大切な――
軽くシャワーを浴びて、服を着て、すやすや寝てるアミが風邪を引かないように布団をかけてから、俺はそっとアミの部屋を出た。
あー、眠い。できればアミに添い寝したかった。
でももし明日の朝早くアミの部屋から出て来るのを誰かに見られたら、なんて言われるかわかったもんじゃない。
ま、今だったらみんな寝てる時間だし、大丈夫だろ。
このときの俺はアミと気持ちが通じ合って浮かれてた上に、疲れてたし眠かったしでとことん気が緩みきってた。
だからさ、廊下で俺を待ち構えてた人影に気付かなくても、それは仕方ないことだよな?
「どうやら、逮捕はしなくていいみたいね」
「わっ、うぇっ、ジェシカあ?! なっ、なんでこんな時間に…あ、お、俺はアレだアレ。夜の散歩というか、眠れなくてぶらぶらするとか、よくあるだろ!」
突然背後からかけられたジェシカの声に驚いて、聞かれてもいないってのに下手すぎるごまかしを連発してしまっていた。
そんなあからさまに怪しい俺をよそに、ジェシカはいつもみたいな人を食った態度で俺の質問に答える。
「Oh、ワタシがどうしてここにいるか? それはね、少し気になることがあったから。
ダックシャトルってNICSの管轄だから、一応全室に監視カメラがあるのよ。解像度と音質はイマイチだけどね」
へえ……って、おい! ちょっと待て!!
それってつまり、さっきのアミとのあれやこれやが筒抜けだったってことかよ!!!
動揺が顔に出てたのか、ジェシカは俺をなだめるように笑った。
「安心して。記録は残らないようにしておいたし、それにね……」
ジェシカが俺の肩にポンと手を置いて、耳元で囁く。
それはもう、女の悪魔みたいな黒い猫撫で声で。
「アナタがエッチでスケベなゴーカン魔だってことは、みんなには内緒にしておいてあげるから」
冷や汗が止まらない。
固まってしまった俺を見据えながら、ジェシカは相変わらずニヤニヤと嫌な笑いを浮かべている。
「時々ノロケ話でも聞かせてくれればそれでいいわ。日本人の恋愛様式には個人的に興味があるの」
なんてこったい……
どうやら俺はまだNICSの魔の手から逃れられないらしい。
俺はこの手がアミに及ばないことを祈りつつ、事態を面白がるジェシカに引きつった苦笑いを向けることしかできなかった。
はあ……俺、ダッセェかも……
最終更新:2013年11月03日 23:10