なんだよ、なんか面白いこと話せって? いきなり無茶振りすんなよな。俺、お前と違って暇じゃねーし。
え、ちょっ、待っ、ごめんなさい! 生意気なこと言ってすみませんでした! すぐに何か考えますから許してください!
つっても、今のところアミと特に進展はないしなあ……
んー……じゃあ、こんな話はどうだ? 誰にも言うんじゃねーぞ。
これは、俺とアミの初めて…の少し前の裏話。
精神的に切羽詰まったときの行動ってのは、後々考えてみると相当おかしかったり恥ずかしかったりするもので、
「あの、セックスってどうやればいいんすか!」
「……スレイブ・プレイヤーの後遺症に精神錯乱は認められないはずだが」
ほとんど童貞で女の抱き方も知らない俺は、こともあろうにぐう畜、じゃなかった、山野博士に相談を持ちかけてしまっていた。
「俺は正気だ! 人を病気みたいに言うな!」
「ならばなおさら理解できない。その程度自分で調べればよいだろう。インフィニティ―ネットにはいくらでも君の望む情報が存在している、それこそ有象無象にな」
正直言うとこの人は苦手だ。何考えてるかわかんないし、どっか他人を見下してる感じがする。
でも、今の俺の事情を一番理解している人で、俺が今頼れるのはこの人しかいない。
「そういう面白半分じゃなくて、真剣なことなんです。俺は…罪を償わないといけないから…!」
「……なるほど、そういうことか」
「なのにマトモに取り合ってくれる人なんてほとんどいなくて…ディテクターとして一緒に地獄を見た博士なら、腹を割って話してくれると思ったんです! 一応仮にも一児の父だから経験も豊富そうだし!」
「一応仮にも、とは非常に不愉快な言い方だが、確かに私はバンの父親で、君はバンの友人だ。いろいろと協力してもらった礼もある。わかった、力を貸そう」
「ありがとうございます」
「だがこちらにも準備が必要だ。10分間、待っていてくれ」
「? はい、そのくらいなら待ってますけど」
ちょっくら経験談を話してくれるだけでいいのに、何を準備するんだ?
そんな疑問を抱きながら、どこかへ行った博士の帰りを待つことジャスト10分。
「待たせたな、準備は完了した。これを見てくれ」
博士の差し出したCCMからは、ハンターとクノイチの3Dホログラムが展開されていた。
プロポーションといい、ディテールといい、すごい出来だな……でもどうして今こんなものを?
二体のホログラムと、どこか得意げな博士の顔を交互に見る。
「フッ…これが君に伝えるセックス技法、四十八手だ!」
『セックス・ファンクション! 鵯越え(ヒヨドリゴエ)!』
…って、うおおおい!!! 俺のハンターに何させてくれちゃってんのー!!?
俺の目には、ホログラムのハンターがクノイチをうつ伏せに押し倒して、バックで貫く光景が映っていた。
ていうかCCM音声! 必殺ファンクションみたいに堂々と読み上げてんじゃねー!!!
「なんだよ、コレ! ハンターとクノイチのAVみたいな誰得のシロモノは?!」
『セックス・ファンクション! 乱れ牡丹(ミダレボタン)!』
博士がポチポチとCCMを操作すると、ハンターがクノイチを持ち上げ、大股開きにして自分の股間の上に座らせた。
うわ、実物のストライダーフレームだとこんなに股関節開かねえよ。
「安心したまえ。商業目的でない以上、タイニーオービットとサイバーランスの製品をグラフィックのモデルに用いた程度では版権の問題はない」
『セックス・ファンクション! 松葉崩し(マツバクズシ)!』
崩すのは炎(ホムラ)だけでいいっつーの!!
「いや、そーいう問題じゃなくて! なんでハンターとクノイチを…」
「アキレス・ディードとパンドラの案も考慮したが、干渉部分が多く四十八手のうち半分以上の体勢をとることが不可能だった。私の力量不足だ、許してほしい」
ちがーう!! コイツ本当は俺をおちょくってるんじゃねーの?!
お、落ち着け、落ち着くんだ、俺。山野博士が会話の通じない人間だってことはとっくに知ってただろ?
こーいう時はアレだ、主語と述語と目的語をはっきりさせて、誤解が生まれないように…
「どうして山野博士は、このセッ…セックスさせるのを、ハンターとかクノイチとか、アキレス・ディードとかパンドラとかにしようと思ったんですか?」
「君の相手はアミだと思っていたのだが、違ったのか?」
ぐふっ! 俺に会心の一撃! だ、だが、ここで引き下がるわけには…!
「えっ…いや……そうなんすけど…俺が言いたいのは! 俺にセックスの手本を見せるとしても、なんでわざわざLBXを使うのかってことだっての!」
「君の欠点は思考を即座に放棄することだ。人間のAVを十八歳未満に見せれば法に触れるだろう?」
この親父マジで腹立つ…!
つーか、あんたもう立派な犯罪者だろ! ……まあ、俺もなんだけどさ。
「いいか、カズ。四十八手は我々の祖先が遺した伝統であり、未来に伝えていくべき希望だ。夫婦関係を円滑にすることで人類の発展に貢献する道具でもある」
「はあ……」
「性生活における最大の脅威はマンネリだ。セックスに飽きが来ればパートナーへの感情も悪化し、ひいては離婚にまで発展するおそれがある。
その問題を回避する手段が四十八手だ。摩擦、密着、締まりの観点から体位が考察され、実に四十八ものバリエーションが生み出された。
先人たちが編み出した努力の結晶であるこの四十八手に取り組むことで、新たな目標が生まれセックスへの意欲を保ち続けることが可能になる」
この人が厄介なのは、これで大マジメだってことなんだよな…
いや、科学とか研究以外に無関心だと思ってた博士が、ここまでとんでもないエロ親父だったのは意外だけど。
「私もかつて妻とともに実践し、幾度も互いの絆を深めた。特に百閉や菊一文字では、改めて妻のふとももの素晴らしさをこの身で感じることができたものだ」
あんたがふとももフェチだとか、果てしなくどーでもいいっつーの!!
「しかし、私には四十八手のうち、その半分も成し遂げることができなかった。時間、体力、環境……どうしようもない障害があったのだ。
だが君は若く、体力もある。私には不可能だったが、君に四十八手のすべてを成し遂げられる見込みは十分にある」
なるほどな。自分ができなかったことを俺にやってほしい、ってことか。
それでも、この人の考えはわけがわからない。
博士が四十八手にかける情熱はわかった。
それもこんな、LBXのホログラムに複雑なセックスの動作をプログラムするなんて、才能の無駄遣いみたいなマネまでするほどの情熱。
…でも、その情熱を継がせる相手は、俺じゃなくてもいい。なんで俺を選んだのかが、全然わからない。
「そういうのは、バンに頼めばいいじゃないすか。あいつ、博士に頼られたらきっと大喜びしますよ」
「バンに恋愛はまだ早い」
「俺もバンと同い年なんすけど」
「童貞でもあるまいし、女子を強姦しておいて今更何を言う」
それは言うなー!!
あんた絶対Sだろ! 人の痛いトコを突いたり、人が困ってるのを見たりするのが大好きなドSだろ!!
「そう落ち込むな。私は君にこの使命を任せたいのだ。未来への希望を、どうか君の手でつないでくれ」
やめてくれよ…! なんであんたは俺にプレッシャーをかけようとするんだ!
バンじゃなくたって、ヒロでも、拓也さんでも、コブラでもマングースでも、博士を尊敬して、博士の力になりたいって人はいくらでもいるだろ。
俺には…ひとりで何か大きなことをする力も覚悟もないんだよ!
「俺なんかにそんな大それたこと、できるわけが…」
「…君のもうひとつの欠点は、自己評価が低すぎることだ。もっと自信を持て。
ディテクターの活動中、君は私の想像以上の働きをしてくれた。本当のことを言えば、改造したアキレス・ディードを君が使えるとは思っていなかった。
だが、君は私以上にアキレス・ディードを使いこなし、私のどんな無茶な指示も尽く応えてくれた」
ああ、うん。あんたの命令で実際何度死にかけたか数えきれない。今生きてるのが不思議なくらいだ。
「だからこそカズ、私は君をバンの友人という以上に、確かな実力を有する一人の男として認めたのだ。君になら成し遂げられると、私は信じている」
博士が俺を信じている…?
そうだ、すっかり忘れてたけど、元はと言えば俺がセックスについて聞きたいって言ったから、博士はこのホログラムを作ったんだぜ?
パラダイス対策で忙しいってのに、俺のワガママのためにわざわざ時間を割いてくれた。
…なんか方向性がズレてる気がしないでもないけど、この人はこの人なりに俺を信じて、俺のことを思ってくれている。
だったら俺も、この信頼と厚意に報いたいと思うのが筋ってもんだろ!
「わかりました。俺…やってみます! 博士の意志を継いで、四十八手をマスターしてみせます!!」
「それでこそ、私が選んだ戦士だ。頼んだぞ、カズ」
こうして、俺と山野博士は同志になった。歳も、社会的な立場すらも超えて。
博士のCCMからデータを転送してもらい、俺はダックシャトルのアミの部屋へ向かった。
よーし、四十八手のコンプリート目指して、これをアミにも説明して……ん、待てよ? そもそもなんでアミとセックスすることになってたんだっけ…?
……そうだ! 俺は罪を償わないといけなかったんじゃねーか!
ハンターとクノイチのAVなんて、こんなもん見せたら完全に嫌われる!!
しっかりしろよ、俺! ほんと、何のためにここに来たんだよ!!
…………無理、絶対無理!! あーもう、どーすりゃいいんだ!!!
まあその後、どうにかアミと気持ちを伝え合って、その件は一件落着ってことになった。それは知ってるよな。
これで、この裏話はおしまい。
ちなみに、俺が博士の言っていたのと同じことを力説して案の定アミにドン引きされたのとか、
例の四十八手ホログラムをこっそり起動しているところをアスカに見つかって『歩くエロ教材』のあだ名を頂戴したのは、もう少し経ってからの話だ。
でも俺はまだあきらめてねーぜ。いつか絶対アミにも理解してもらって、一緒に四十八手をマスターしてやるつもりだ。
だってこの四十八手の夢は、俺と山野博士、元ディテクター同士をつなぐ強い信頼の絆だからな!
え…気持ち悪い? 日本の男は変態ばっかり?!
自分で聞いといて、お前までドン引きしてんじゃねーよ!! そりゃねーだろ、ジェシカ!!!
最終更新:2013年11月03日 22:59