「なーえぎ君、どこ行くんですか」
「わ、舞園さん?」
ボクが廊下を歩いていると、ふいに両肩に体重がかかる。
普段おとなしい彼女がこういうことをするのは、珍しいかもしれない。
「うん、図書室に行こうかなって」
「何か借りたい本でもあるんですか?」
「というよりも、霧切さんに」
舞園さんが、ボクの言葉に彼女のすっとした眉を寄せる。
「…私が言うのもなんですが、苗木君、霧切さんにいいように働かされてませんか? 苗木君は優しいから、断れないのかもしれませんけど」
顔が真面目だ。…いやいや、パシラれてはいない…つもりだけど。
霧切さんはどう思っているのだろうか。
「それは違うよ。霧切さんがたまに推理小説を薦めてくるから、一緒に読もうかなって」
「そうですか…。まあ、苗木君がそう言うなら。
じゃあ、いきましょうか」
「え…いくって、どこに?」
「もちろん、図書室です!」
当たり前のように言わないでほしい。
「いいじゃないですか。二人で探せばすぐ見つかるでしょうし、ギブアンドテイクですよ」
「それだと、ギブがないけど」
「…私は、こうしているだけで充分なんです。
さあ、いきましょう!」
すたすたと足早に歩いていってしまう舞園さん。
あわてて後を追いかける。…あれ?なぜ三階に行っちゃうんだ?
「図書室、二階なんだけど」
「…っ」
戻ってくる彼女の顔は、少し赤くなっていた。
そんな表情も、いつもとは違うかわいさがあって。
「にやにやしないでください。……すねますよ」
ちょっぴり怒ったようにいう舞園さん。
そんな彼女も見てみたいけど。ここはケーキをおごって、外出に付き合って、彼女の機嫌を直してもらおう。
アイドルだけど、どこにでもいる女の子と同じようなところがある、彼女の。
とびきりの笑顔を、見られるように。
最終更新:2012年02月02日 10:13