「11月11日が何の日か答えなさい」
……デート開始5分後のセリフがこれである。
そういえば今日のデートは珍しく響子さんの提案だけど、
「冬服をみたいから11日付き合って。いい?11日よ」
とやけに11日を強調していたっけ……
これがやりたかったのか……
「えっと……ポッキーの日……だよね?」
「ええ、そうね。それも正解」
「それも?」
「11月11日には他の記念日でもあるのよ」
ポッキーの日が有名すぎるのよね。
響子さんがくすくす笑う。
「一番有名なものを答えるのは誠君らしいわ」
「まぁ……それしか知らなかっただけなんだけどね」
「ほかの記念日ももっと取り上げていいと思うのに」
確かに、僕のように他の日を知らない人も多いのではないだろうか。
「それに今日はポッキーの日であって、ポッキーゲームをする日ではないわ」
「あははは……そこは僕も気になるかな」
「恋人にキスをする口実なら、ポッキーでなくてもいいと思うのだけれど」
「そこはほら、言い出したもの勝ちというか、さ」
「ハイチュウとかそのままじゃない」
「……ハイチュウの日ってあるの?」
そんな会話をしながら衣類店に向かう。
まずは靴下を見るらしい。
「そういえば、さっき他の記念日って言っていたけれど、どんなのがあるの?」
「そうね……たとえば電池の日」
「電池が?」
「電池のプラスとマイナスで+、-ということね」
「ああ、なるほど。面白いね」
「恋人の記念日にはなりにくいでしょうけど」
「……うん、想像しにくいね」
別に恋人対象のものでなくても、一斉に電池交換しよう!
ぐらいのキャッチコピーぐらいしか僕には思い浮かべなかった。
確かに有名にしにくいかも、とは思ってしまう。
「そういう意味ではポッキーの日はぴったりよね」
「一番有名になっちゃったのもそういう理由かな、多分」
「食べ物で言えば、ピーナッツやチーズの日でもあるのだけれど、関連付けしにくいものね」
「うーん……いや、ポッキーも直接関係しているわけじゃ……」
というかそんな記念日でもあるのか11月11日。
全く知らなかった。
「でも、同じ日にこれだけ記念日があるんだね」
「なんでもかんでも記念日にしていいわけでないでしょうに」
まあ、こうして楽しめるのはいいことだと思うけれどと、響子さんがつぶやく。
「……あれ、響子さんも記念日を楽しんでるの?今日?」
「ええ、楽しんで…………違うわね、これから楽しむところ」
「?」
わけがわからない。
うーん……響子さんが今ポッキーを持っているわけでもないし。
もちろんチーズや電池も持っていない。
……まだ何か違う記念日でもあるのかな?
「ねぇ、響子さん。まだ今日が記念日になってることってある?」
「ええ、あるわよ。それはね……」
あ、やばい。
この顔は何かをたくらんでいて―――
そして、その内容は僕の反応を楽しむためのもの―――
そんな見慣れた響子さんの顔だった。
「今日はね、靴下の日でもあるの。逆さにした靴下が1にみえるからね。
それが4つ、つまり2足ある今日はペアーズディといってね……
恋人同士で靴下を贈りあいましょうって日らしいわよ?」
そこまで言った響子さんがとびっきりの、ちょっと意地悪な顔で微笑む。
「私に似合いそうなものを選んでね、誠君?
……靴下という、とても大切なものなのだから」
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「……どうせならポッキーゲームもやってみる?」
「え!?」
「ああ、ごめんなさい。ポッキーがなくてもするものね」
「……」
最終更新:2013年12月19日 14:42