「こころの旅、げんしばくだんの旅」


 げんしばくだんは彷徨い続ける。
 彼には帰る家などないのだから――。

 ある荒廃した土地を訪れた時、そこには虫けらのように横たわる一人の男がいた。
 男は気息奄々といった体で息を荒らげていたが、通りがかったげんしばくだんの
姿を見ると自嘲するような仕草を見せた。

「なあ、聞いてくれるかい。オレの話を……」

 男はぼつぼつと詰まりながら、口から血反吐を吐きながら、切々と語りだした。
 彼の悲しい半生を…………。

 男は不良だった。しかし、ちくわ高校の不良だった。
 そして、男は事件に巻き込まれ――、再会した。
 かつて好きだった同級生の女の子に。
 その女の子と共に命を敵と賭けて戦った。
 男にとって、それは満ち足りた時間だった。
 プールにだって誘ってもらえた。
 何度メールをしても一度も返事はなかったけれど。

 だが、男は親友のために一時女の子と別れることになった。
 気掛かりだったのは小学校の時のいじめっこ――。
 そのいじめっこが女の子と一緒にいたことだった。
 それでも彼は親友のために別れざるを得なかった。

 再会したとき、彼女はいじめっこのものだった。
 彼女の精神は二つに分裂ていたが、そのどちらもいじめっこを愛していた。
 彼が蚊帳の外にいた間に、全ては終わっていたのだ。
 さらには彼と一緒に過ごした時間さえも、彼女の記憶からは消え失せていた。
 そして、彼に巨大なコンピューターが手渡された。
 その時、彼は自覚したのだという。
 ――自分は荷物持ちなのだ、と。

 ついに戦いは終わった。
 みんなは元の世界に帰ろうとしている。
 だが、彼は動けなかった。
 いじめっこたちと敵将との戦いで飛んできた石がボンヤリしていた彼の腹部を貫いたからだ。
 親友も悲しい目をして何処かへ去った。
 彼はいま、遠い別の世界で、たった一人で、ひっそりとその生命を終わろうとしている。

 げんしばくだんは光った――。
 同情ではない。
 それがげんしばくだんの使命だからだ。

 光の渦の中で――。
 男の手の中には女の子があった。
 彼女は幸せそうに彼の胸に抱きついていた。
 いつメールしてもすぐに返事が返ってきた。
 いじめっこは悔しそうに、でも、彼なら仕方ないか、と言わんばかりの表情で見ている。
 仲間のアイドルは、キミこそがヒーローだ、と肩を叩く。
「やっぱミラクルドラゴンは最高ッス」と親友が笑いかけてくる。
 すべてが満ち足りた――。幸せな世界だった。

 男は満足気に微笑んで、静かな眠りに着いた――。
 彼の最期を看取ると、げんしばくだんは悲しげな目を泳がせて……


 ――そして、げんしばくだんは彷徨い続ける。
 火の国に可哀想な女がいたはずだ。今度はそこへ行ってみよう、と――。


最終更新:2010年09月11日 20:22