茹だるような熱の籠る室内であった。
真夏であるにもかかわらず障子戸は閉ざされており、部屋の中にはムッとする匂いが篭っていた。
畳の上に敷かれた布団の上、うごめく影が一つ……いや、二つか。
「あ……はぁ……っ!」
大粒の汗を滴らせながら、熱海真夏は空気を求めるように喘いだ。その呼気に含まれる熱は夏の暑さによるものだけではないだろう。
彼女の裸体の上を、ピンク色の触手が這った。触手から分泌される粘液と真夏の汗がまじり、ぴちゃぴちゃと淫靡な水音が辺りに響いた。
びくり、と真夏の体がはねた。目に浮かぶ涙の理由は……
(なんでこんなことになってるんだ……!!あふん!)
熱海真夏。心の声であった。ちなみに普段の儚げな夏少女っぽいキャラはキャラ作りである。傭兵だからそれぐらいはするのだ。
(私の能力で一方的に封殺して各個撃破!らくらく勝利を掴んで神事の報酬を手に入れるはずだったのに……なんでこんな触手とセックスすることにあふんあふん!)
彼女の能力『夏への扉』は相手の認識に夏を再現するとともに彼女への非夏干渉を夏化し事実上無効化するいわば無敵と言っても過言でない能力だ。
銃撃すらも無効化する能力を姦崎はどうやって突破したというのか。懸命な読者諸氏は既に理解しているだろう。
そう、汗だくセックスは夏の季語である!
これにより姦崎の全ての攻撃は汗だくヌルヌルぐちょぐちょになるだけで真夏へと届いているのだ。なんという相性の悪さだろうか。相手がもし悪逆非道セックス魔人でなければ封殺できたというのに。
とはいえ相性差は仕方ないものである。今頃相性差で圧倒的優位を確保した悪逆非道セックス触手魔人は笑いが止まらないであろう……と言われると、そうでもないのであった。
(やれやれ、またセックスか。勘弁してくれよ、俺は別に普通の触手として目立たず生きたいだけなんだけどな)
そもそも姦崎は今回の戦いに大したモチベーションはない。まあ、爺さんとその息子に迷惑がかからない程度には真面目にやろうと思っているが、優勝して目立つようなことは端から望んでいないのだ。
適当に戦い適当に敗退しよう……そんな目論見が崩れたのは相手が熱海真夏であったためである。
確かに熱の篭もる室内で汗だくセックスは夏の季語である。その点に関しては姦崎の絶対優位であった。だがしかし、逆に言うと姦崎の取れる手段の内、夏といい切れるのは気だるい午後風鈴の音を聞きながら汗だくセックスぐらいなのである。
流石にこのままではまずいと思って状況を変えようにも、全て非夏行動とみなされ汗だく変換されてしまうのだ。汗だくセックス封殺されているのは姦崎にとっても同じことだった。
というわけで流されるままに匂い立ち込める汗だく触手ックスをする二人だったが、熱海には懸念があった。
(あふんあふん!……セックス状況を打開出来ないことだけれど、それ以上にまずいのはここに第三者が乱入すること……もう一人にいま乱入されると為す術もなく負けてしまいかねなっっ……あふん!)
その時、締め切られていた障子が勢い良く開かれた。
そこに居たのは第三の参加者、お誕生日お祝い人間ver0714であった。
焦りつつも触手の快楽から逃れられぬ真夏を見下ろし、0714はきちんと靴を脱いで室内へと足をすすめる。
(まずあっふん!今は抵抗あっふん!あっふん!!)
そして0714は二人が絡み合う布団の隣に辿りつくと、そこで体育座りをした。
(!?)
更にちょっと表情を苦痛に歪めて、手からスイッチとイカを取り出すとプレイし始めた。完全に時間を潰す体勢である。
そう、神事の参加者であるとはいえお誕生日お祝い人間はお誕生日お祝い人間、お誕生日をお祝いする行為を邪魔することはできないのである。
そして0714に刷り込まれた情報によるとセックスはお誕生日お祝いに含まれるのだ。
故に、一段落するまでスイッチでイカをやって時間を潰そう、という判断を0714は行ったのだ。
「だったらせめて出てけや!!」
汗だックスで息も絶え絶えだった真夏が、最後の力を振り絞ってツッコミをした。
ばしーん!とツッコミ型で振られた手の勢いで、姦崎は真夏の体から振りほどかれる。0714はその光景をな眺めてから口を開いた。
「あ、終わりました?」
「この状況でその反応はないだろうが!」
セカンドツッコミ、そしてさらに真夏はツッコミ手刀を維持したまま振り返る。背後に忍び寄るはピンク色のぬるぐちょ!
「タイム!一回仕切り直そう!このままだとセックスで全てが終わる!」
「やれやれ。ま、いいぜ。俺は別にセックスなんて面倒なだけだからな」
「散々やっといてその言い草もどうかと思うけど!」
とはいえ、乱入者のお陰で夏状態から脱却できたのも事実である。姦崎はしゅるしゅるとぐろを巻き、0714の隣に落ち着いた。
「あ、お誕生日おめでとう」
「やれやれ、俺は別に今日転生してきただけだから、誕生日とか言われても実感はないんだけどな」
「そうですか。スイッチ要る?」
「俺は別に」
「そうですか……」
少し残念そうに肩を落とす0714と、流石にちょっと申し訳なかったかな、という感じに触手をくねらせる姦崎。
真夏はそんな二人を睨みつけた。
「ともかく、さっきまでで分かったと思うけど私と触手の二人だと千日手になって終わらない」
「やれやれ、俺は別にあの状態でも負けるとは思わなかったけど」
「終わらない」
「はい」
姦崎は頷いた。
「で、あなたの方はお誕生日お祝いを邪魔する気がないから終わらないと困る」
「いや、別にそれならそれでお誕生日の人が楽しんでるので良かったなと思うけど」
「困る」
「はい」
0714は頷いた。
「なので、ここは一対一を三回やって総合結果で勝敗を決めるのがいいと思うんだけど。どう?」
「やれやれ、女の子にそう言われちゃ拒否しても角がたっちまうな。俺は別にかまわないぜ」
「俺も拒否する理由はないですね」
「よし、それじゃあそういうことにしましょうか」
そういうことになった。
○一回戦 熱海真夏vs姦崎成
茹だるような熱の籠る室内であった。
真夏であるにもかかわらず障子戸は閉ざされており、「まったぁぁぁあふん!」
真夏の叫びに、姦崎がだるそうに鎌首をもたげた。
「やれやれ、今度はなんだ?俺は別にこのまま進めても良かったんだけどな」
「だから!この二人だと千日手になって終わらないって話なのに!またここから始めちゃ意味ないだろうが!」
あー、と姦崎と0714は頷いた。
「だからここは引き分け!引き分け扱いで次行くよ!」
「やれやれ、俺は別にこのままやっても負けるとは」
「次」
「はい」
そいうことになった
熱海真夏vs姦崎成 勝敗:引き分け
○二回戦 お誕生日お祝い人間0714vs姦崎成
「次は君だよ」
真夏にそう言われ、0714はスイッチをスリープさせ立ち上がった。
「あっ……」
その拍子に真夏が体勢を崩し、0714の胸元へと倒れ掛かってきた。
0714はその体を受け止めた。薄っすらと汗の滲んだ肌が、ほのかに赤く上気していた。
0714の腕の中、真夏は潤んだ目で彼を見上げ、小さな声で囁いた。
「取引だ。君では絶対あいつに勝てない……だけど、私が協力すればそれを覆すことができる」
0714はわずかに眉を潜め、反論しようとした。だが、その唇を閉ざすように真夏の人差し指が触れた。
「静かに。気づかれる。言いたいことは大体予想がつく。一つ、協力する理由。これは簡単。君が勝ってくれないと、また私とあいつが戦うことになる。流石に三度目のセックスは避けたい。二つ目、君が勝てない理由。それは」
(以下、0714が姦崎に勝てない理由と真夏の能力があれば打破できる理由が説明され白熱の能力バトルが描写される予定でしたが、うまい理由づけが思いつかなかったので代わりに読者参加欄を設けておきます。
いい展開を思いついた人は読者参加欄に書き込んでおいてください。
思いつかなかった人はお誕生日をお祝いする言葉を記入しておけばいいんじゃないでしょうか)
- お誕生日おめでとう!
- ハッピーバースデー!
- お誕生日おめでとうございます!ばか!
- な……なんだこれ!? バカなのか!?
- ふ、ふざけんなよ!誕生日おめでとう!
- おめでとう…ございます…?
- Happy Birthday!
- バ、バカ!そんなssがあるか!オメデトゴザイマス!
- オメデトウゴザイマス!
……もう、立ち上がってくれるなよ。
真夏と0714の祈りも虚しく、畳を貫通した穴からはピンク色の触手がはいでてきた。
「そんな……!あの天才的な能力応用で生み出されたお誕生日お祝いガジェットを持ってしても勝てないというの!?」
「やれやれ、あんなものが何の役に立つと思ったけど、まさか君の能力と組み合わせてああんなことができるとは。俺の魔法であれができなければこうなってはいなかったよ」
「そうか……魔法と剣術を体術してあれをああすることであのお誕生日ガジェットをああしたのか!く……俺の負けなのか……」
「やれやれ……勘違いしてもらっちゃこまるな。俺はただ立ち上がれただけなんだけどな」
「え?」
「ということは……」
「やれやれ、本気をだした俺がここまでやられるなんて……前世を通してもはじめて何だけどな……」
(感動的なBGM)
「やれやれ……今回は敵同士だったけど、もう一度戦うのはごめんだな……(光の粒がファーっとし始め姦崎の体の色が薄くなる)……次に召喚される時は、仲間だったら面白い……かもな(ファー)(シュイーン)(キラキラキラ)」
「か、姦崎……」
「姦崎ぃー!!」
お誕生日お祝い人間0714vs姦崎成 勝者:お誕生日お祝い人間0714
(続き)
「か、姦崎……」
「姦崎ぃー!!」
そうして、蝉しぐれの響く夏の森で、姦崎は去っていった。
膝をつく0714。彼の頬を伝うのが汗なのか、それとも涙なのか。
そんなことは真夏にとってクソどうでも良いことだった。
(作戦通り……厄介な姦崎をこいつに倒させ、さらに奇襲で能力をかけて何もさせないまま倒す。こういった封殺こそが、本来は私の真骨頂だからね)
無防備な首筋を晒す0714、真夏はそこへ無慈悲に手刀を振り下ろし……
0714は身をひねった。回避と言うには小さく、手刀は問題なく0714の首を落とすことができる。
だが、身をひねったことで見えた体の下には何か筒状のものが……
どん、と低い破裂音が響き、真夏の体が弾き飛ばされた。
「ガッ……!!」
「……今回は、君にとって不運な戦いだったと思う」
0714は体の下に隠していた打ち上げ花火の筒を手に持ち、立ち上がった。
「姦崎は君の能力をほぼ無効化できる……そして、それは俺も同じだ」
ただの爆発物であるのならば真夏の能力で無効化することができる。
だが、花火なら?
花火は夏にふさわしいアイテムであり……そして、お誕生日プレゼントとしても申し分ない。例え、人を傷つける用途に使われたとしてもだ。
「だ、だけど……なぜ私の能力にとらわれなかった!なぜ、避けようのない郷愁を弾くことができたんだ!」
真夏の問いに、0714は首を横に振った。
「俺のお誕生日は今日だ」
「それは全員……」
「いいや、違う。お誕生日お祝い人間の寿命は1日。俺が生まれたのは、今日……十数時間ほど前なんだ。感じるべき郷愁なんて……」
脳裏によぎるのは、0713の姿。
だが、これを郷愁と呼ばない。呼ぶことができない。だって彼女は、俺が迎えた未来こそを祝ってくれたのだから。
「郷愁なんて、ないんだ」
0714は再び打ち上げ花火を生成する。そして、それをまるで大砲のように真夏へと向けた。
「は、はは……なるほど……じゃあ、君は勝って神様に命でも願おうっていうんだ?」
0714は曖昧に笑った。
「そうだ。そうだけど、違うんだ。0713にお誕生日を祝われて、俺はお誕生日を祝われることがすごく幸福なことだって知った……だから俺も、もっとたくさんの人のお誕生日を祝いたいんだ。今日だけじゃなくて、明日も。明後日も……あと一年、毎日お誕生日を祝い続けたい。それが俺の願いなんだ」
導火線は短くなる。真夏はくだらない、といいたげにため息をついた。
炸裂音が響き、0714は小さくつぶやく。
「ハッピー・バースデイ。熱海真夏」
お誕生日お祝い人間0714vs熱海真夏 勝者:お誕生日お祝い人間0714
最終勝者:お誕生日お祝い人間0714