プロローグ(陸賊王ベリー)
無論、何に対しても異議を唱えようとする政治家は居なくならないが、全てを受け入れて楽しまんとする物好きも確実に居る。
全てを叩きたい人、全てを許そうとする人。どちらも居るのは当然のことだ。
彼らは何も悪くない。むしろ、彼らのおかげで世界は上手く回っている――かもしれない、縁の下の力持ち達だ。
たとえば、都会の真ん中に船が建ったら――。
彼らはきっと、退屈しない日々を過ごせるのだろう。
その日は珍しい大雪に見舞われ、都心の交通機関は大きく麻痺していた。
滅多に止まらないと言われている京王線も早朝に白旗を揚げ、交通手段に乏しい調布の人々は途方に暮れていた。
山手線も中央線もノロノロ運転を続け、駅構内は老若男女が押し合い圧し合い、暑苦しいやら肌寒いやらの生き地獄。
けれど、口にしないだけで東京の人々はこう思っている。
「一年に一回、一度はあること。恒例行事だと思って、今日を凌ごう」と。
あるいは、このぐらいで止まる列車に文句を吐き出す人々も居るだろうか。
そして――雪が解けるよりも早く、彼らは冬の寒さも忘れて、あの話題を口にする。
「フェム王女がやってくる。彼女は能力バトルに目がないらしい」
「都知事が歓迎の催しを行うってさ。すぐに始まる」
「全国の魔人が集まるみたいだ。治安が悪くなるからやめてほしい」
「腕に自信があるなら俺たちも出られるらしいぞ。エントリーしてみないか?」
「ところで、あの大型デパートみたいな船はいつになったら撤去されるんだ?」
「抗議に出向いた連中が帰ってこないらしい。触れないほうが良さそうだ」
「あぁ、やっぱり、あの中にも――」
「だから魔人は嫌いなんだよ」
冬をやり過ごし、春を迎えようとする、いつものように。
けれど、今年の冬はいつもと違う。
異常と狂乱を孕んだ、魔人の宴が開かれる。
グロリアス・オリュンピア――。
呑気な人々は、これから起こる全てを、他人事のように眺めていた。
最終更新:2018年02月18日 20:49