『第13275話! さらば友よ永遠に! 次なる戦いのプロローグ!』
真っ二つに割れたエベレスト。それぞれの頂上に二つの影が降り立った!
「我がジェノサイドブレイドの直撃を受けてもなお――心が折れぬか」
一つはこの世の闇を凝縮したかのような黒い影、全てを滅ぼすこの星の終末因子たる暗黒大帝シュヴァルツカイザー!
今しがたエベレストをその腕で両断したにも関わらずその声色は何の感慨もなく、虚無を思わせる!
ただ目の前の人物の様子を観察し、事実を確認する機械的なそれだった!
「心が折れるだって……? ふざけんじゃねぇッ! 俺はテメェをぶっ倒すまで倒れやしねぇ!!」
そしてもう一つ――暗黒大帝シュヴァルツカイザーに相対するように立つのは我らが主人公たる獅童アキラ!
人類を拒む秘境の地であってもトレードマークである半袖短パンが印象的な小学生男児、エベレストを両断するほどの威力の攻撃を受けてもなおその五体は無事だ!
燃えるような赤い髪はアキラの闘志に応えるように未だ赤く強く輝いている!
「矮小なる人類にしてはよく戦っただろう――だが、我と貴様との力は埋められん程の差がある。何故、そこまでして立ち上がる」
アキラは今の今まで暗黒大帝シュヴァルツカイザーの猛攻を凌ぎ続けているが――悲しいかな、暗黒大帝シュヴァルツカイザーの言葉通りだった! 勝負の天秤は刻一刻と暗黒大帝シュヴァルツカイザーの方へと傾いている!
一の必殺技、覇王十字拳! 二の必殺技、グランエクスブレイズ! 三の必殺技、獅子王龍臥斬!――それらを始めとした百の必殺技をもってしても暗黒大帝シュヴァルツカイザーに致命打を与えられずにいるのだから……!
だからこそ暗黒大帝シュヴァルツカイザーは疑問に思う!
地球創生とともに存在している全能の存在たる自分を相手に目の前の小学生男児がここまで食い下がるその理由を……!
「なんでだって……? へへっ、それをテメェが言うのかよ……そんなの決まってんじゃねぇか!」
「――人類の命運のため、という奴か。いずれ滅びる運命であろう、度し難き愚かさだな」
暗黒大帝シュヴァルツカイザーは感情のない声でアキラの理由を推測する……!
この眼の前の少年はいつも自分ではない誰かのために戦い、それ応じて潜在能力を引き出せる力を持っている! それが人類規模にもなればここまでの力を出せると判断してのことだ!
しかし――それは否定される! 他の誰にでもないアキラ自身によって!
アキラが暗黒大帝シュヴァルツカイザーと相対する理由は一つしかない!
「違ぇ……! そうじゃねえだろ!」
「何がだ、何が違うという」
「……そうか、そんなことも忘れちまったのかよッ! くそッ!」
その言葉には後悔と謝罪にも似た苦悩があった……!
だが暗黒大帝シュヴァルツカイザーはアキラの言葉の意味をはかりかねていた! なぜならば自身にアキラからその感情を向けられる心当たりがないのだから!
アキラは困惑する暗黒大帝シュヴァルツカイザーを見て、一瞬だけ悲しげな表情をしてから――覚悟を決めた!
「俺が戦うのはなぁッ! 暗黒大帝シュヴァルツカイザー! いや、俺の友達だった男、結城タクマ! お前との約束だからだ!」
「貴様――何を言って」
暗黒大帝シュヴァルツカイザーは困惑した、アキラの言葉が何を意味するのか理解できないでいる……!
結城タクマ、そのような名前に聞き覚えなどない――否、その名を聞いた瞬間に暗黒大帝シュヴァルツカイザーの脳裏に鮮明なビジョンがよぎる!
地球創生より存在していた暗黒大帝シュヴァルツカイザーにとってそれははじめての出来事だっただろう! 暗黒大帝シュヴァルツカイザーは戸惑い、恐怖するだろう!
「忘れてんなら教えてやる……! お前は引っ越したあと田舎の陰湿ないじめに耐えられなくなって引きこもっちまった……! そして世の中に絶望して闇のエネルギー体、ゼロ・スペルスと融合しちまったんだ!」
「いや、待て。貴様、何を――」
「いいや、待たねえ! お前が地球創生より生きている星の終末因子だって? 笑わせるぜ! お前は俺の友達の結城タクマだ! それ以上でもそれ以下でもねぇ!」
暗黒大帝シュヴァルツカイザーが思い出すのは一人の少年、結城タクマの悲惨な姿!
東北の田舎へと引っ越しという環境の変化。田舎特有の都会への僻み。学校で玩具にされ、時には折檻棒で殴打される毎日――生き地獄がそこにあった!
結城タクマは家へと引きこもり、田舎を呪い世の中に絶望した! ゆえにそこを宇宙より飛来した闇のエネルギー体、ゼロ・スペルスに付け込まれたのだ!
その後は暗黒大帝シュヴァルツカイザーとして数々の邪悪を極めたのはこれまで見てきた皆も知っての通りだろう!
――違う、こんなものは知らない!
暗黒大帝シュヴァルツカイザーは自身より生まれるそれに恐怖した!
地球創生より存在した記憶が全て掻き消えつつあり、結城タクマとしての人生へと塗り潰されていく!
しかしこれが全ての『真実』である! 獅童アキラは暗黒大帝シュヴァルツカイザーに過去を『思い出させた』!
「な、なんだ……これは……こんな記憶。我にはないはずだ……!」
「まさか……思い出したのか? タクマ、ようやく思い出したんだな……ッ!」
「今すぐその妄言を止めろ――あっちゃん! ハッ!」
暗黒大帝シュヴァルツカイザーは自分の口からついて出たそれに気づく!
それは口にするまいとしていた懐かしき響き! 別れた親友たる獅童アキラへの親愛の情を込めた名!
最早、ここにいるのは暗黒大帝シュヴァルツカイザーではない! 一人の人間、結城タクマ!
「へへっ……その呼び方懐かしいな……なぁ、タクマ。もう、戻れねぇのか?」
「あっちゃん……止めてくれ……! もう思い出させないでくれ!」
暗黒大帝シュヴァルツカイザーが結城タクマへと戻ってしまったがゆえに決めたはずの覚悟は鈍り、アキラはそんなことを口にしてしまった……! しかし結城タクマはその説得を拒絶する!
結城タクマがアキラの説得を拒絶した理由は一つ! 彼は闇のエネルギー体、ゼロ・スペルスと融合していたとは言え暗黒大帝シュヴァルツカイザーとして数々の悪行を為してきたのだ!
結城タクマに人の心が残っているのならば、自分の罪に耐えられずに元の世界へと戻れぬと思うだろう!
――違う、そうじゃない!
嗚呼、我らが主人公である獅童アキラはそれを察し、己を恥じた!
親友たる結城タクマが今まで犯してきた罪を償うべく罰を受ける覚悟に対してなんと自分が軟弱なのかと!
そして覚悟を再び決める! アキラの親友である結城タクマをぶっ殺す覚悟をッ!!
「そうか――無理なんだな。なぁ、これ覚えているか?」
「や、止めろ――そんなものを見せないでッ! そ、それは……引っ越す前に渡したゼノ・リボルバー……! ハッ!」
アキラが取り出したるは玩具めいた銃! 五歳の折、タクマが引っ越す直前にアキラに託したもの!
結城タクマはそれがどんな存在であるかを『思い出して』いる! あれならばアキラは自分を討ち滅ぼすができることだろうと理解している!
――こんなものは知らないと言っているだろう!
これは単なる銃ではない! 古の神話より結城家へと伝えられた如何なる闇をも討ち滅ぼす究極の神具!! これならばアキラの如何なる技も通用しなかった結城タクマをこの世から抹殺出来るであろう!!
何故、そんなモノをアキラに託したのかッ! それはこれよりアキラの口より語られる!
「そうだ!あの時タクマ、お前が渡したゼノ・リボルバー!! お前がどんな風になっちまっても止められるようにお前が用意した最終手段!!」
そう、かつての結城タクマは己が闇に堕ちるであろう可能性を危惧してアキラへと託したのだ! 何という友情だろうか!
――なんなのだ、これは。一体何が起きている!!
ゼノ・リボルバーを構えるアキラの頬に一筋の涙が伝う……! 今、全てが決着する!
「いくぜ、タクマ……ッ! 俺とお前で作ったこの技、ハイパーボルテクスカノンで決めるぜ! バアアアアアアアアアアストオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!!!!!!!!!!!!!」
「グワアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!!!!!!!!!!!!!!」
ゼノ・リボルバーから放たれた極太の光線が結城タクマを貫き、天へと伸びる!
黒き闇に染まっていた空を突き抜け、全ての闇を光が払う……! 今、ここに世界は救われたのだ!
「じゃあな……たっくん。……お前がこうなる前に、助けてやりたかった」
しかし今のアキラの表情は世界を救った安堵も、喜びもない。その胸に訪れるのは虚無だけだ……!
その理由は言うまでもない、世界救済はアキラの親友たる結城タクマの命を引き換えに得たものなのだから……!
クソ野郎をぶちのめす度にアキラの心は沈む。なぜこんなことが起こるのか! なぜこの世界にクソ野郎共は現れるのか!
「アキラ、終わったんだよね」
アキラが声の聞こえたそちらを向くとそこに居たのは一人の少女!
名を上凪ハルカ、アキラの幼馴染でありアキラと同じく小学五年生である!
「ああ……」
「じゃあ、日本にもどろっ! いまグロリアス・オリュンピアってお祭りをやるんだって今から戻れば間に合うかも!」
今しがた終わったばかりの戦いがどれほどアキラを消耗させたのか、ただの傍観者であるハルカにその程を知ることは出来ない……!
それでも空気を読めないと思われようとも、ハルカはアキラを元気づけるためにいつもの調子で話しかけるのだ! なんという気遣いだろうか!
アキラもまたそのハルカの気遣いを察してつもどおりに振る舞おうとする、アキラは察しのいい男なのである!
「へぇ、祭りか。いいじゃねえか、どんなのなんだ?」
「えっと、最強の魔人を決めるための大会なんだってなんでもエプシロン? とかいう国のお姫様が好きだからって国でもてなすみたいだよ」
「……ッ! エプシロン!?」
そのアキラの反応は期待に胸を膨らませていたハルカにとって(ハルカの胸自体は小さい)不意打ち以外の何物でもなく、水を頭からかけられたような気分になっただろう!
それほどまでにアキラの様子は尋常ではなく、それはまるで探し求めていた仇敵を見つけたかのような――しかし、いつものアキラがいた!
なおアキラの暗黒大帝シュヴァルツカイザーを倒す旅にずっとついてきたハルカがいつ、どこでこの情報を手に入れたのかは不明である!
「エプシロン……? いま、そういったのか! ハルカ!」
「え、う、うん……そうだけど……」
「くっ……なんてこった! そりゃそうだよな……ッ! そうでもなきゃタクマがああなるはずなんてねぇ!」
「アキラ……? どうしたの?」
エプシロンの名を聞いてアキラは何かに合点がいったようだがハルカにはまるで理解できなかった!
アキラとは共に自身が胎児の時分より親同士との付き合いがあるがそんなハルカにもアキラを理解できぬ時が存在する!
それも仕方がないだろう……なにしろ小学生とは言え男女なのだから……ッ!
「ハルカ、まだ俺の戦いは終わらねぇみたいだ……」
「え……どういうこと?」
嫌な予感をハルカは感じた……! 一つの戦いが終わった後、これで終わりかと思ったときに必ずそれは現れる!
それとは言うまでもなく、戦う敵を見つけたアキラそのものだ!
「……俺の親父はエプシロン王国の奴らに殺された。それは知ってるだろ、ハルカ」
「う、うん……」
アキラはそのように言うが、実際のところハルカにとっては初耳であった! というよりもアキラが語るアキラの父親の仇の数はもう既に数千にも登っている!
当然、アキラが仇を語った後は仇をブチのめし、ブチ殺してきた! 幾度となく繰り返された光景の一つだった!
だがハルカはそれを疑問に感じることはない! なぜならばアキラがそう語った以上はそれが『真実』となるのだから!
「その親父が死ぬ間際に言い残したんだ、奴らはこの世界を地獄に変えようと今の今まで表舞台に現れないようにしていたって……そんな奴らがこんなに大々的に出てきたんならもう“準備”が“終わっちまった”って事だろ!」
既にハルカは数千回以上アキラの親父の遺言を聞いており、その度に遺言の内容が変わっているような記憶があったのだがそれでも気に留めることはない!
なぜならばアキラが語ることは全て『真実』しかありえないのだから!
そしてアキラが父の遺言をハルカに明かした後の次の展開は既に決まっている!!
「……アキラはどうするつもりなの? また戦うの……?」
それでもなおハルカはアキラにそれを尋ねる、無駄だと分かっていても! アキラならばそうするだろうと分かっていながら!
幼馴染として、それ以上に一人の女としてアキラを見ているがゆえにアキラを心配してしまうがゆえに! 嗚呼、なんという愛だろうか!
「ああ、そのとおりだぜハルカ……! エプシロン王国を――ぶっ潰す!」
しかしアキラにハルカの想いは通じない! 男には戦わなければならない時があるのだから!
獅童アキラはエベレストを下山し、新たなる戦いにその身を投じる……次なる相手はエプシロン王国ッ!
待ち受ける敵は強大だが、それはアキラの歩みを止める理由にはならない! 戦えアキラ! 負けるなアキラ! 全ての敵を打ち倒すまで!
『第13276話! 帰還! そして新たな戦いの舞台、東京へ!』へと――続く!