プロローグ(近衛 蓮華)


某日某所、二人の男女が並び立っていた。
「この病院で間違いない。」
男の名は池谷 雄也、能力を持たない人間である。
「ようやく着きましたねー!」
女の名はサンプル花子、池谷の補佐兼護衛として派遣された。性格は個体によって異なり
、この個体はやや軽い性格であった。
二人は目の前の病院に住まう魔人、近衛 蓮華にグロリアス・オリュンピアへの参加を要
請するため、面会しようというところである。
「それにしても、入院中の人がバトル大会なんて出られるんですかねー?」
「それに関しては問題ないらしい。どうも、怪我や病気で入院しているわけではないよう
で、運動能力に問題はないと聞いている。」
「じゃあなんで入院してるんでしょうね?」
「そこまで詳しい話は聞いていない。」
そんなことを話しながら、二人は病院の中へ入っていった。
~~
「初めまして、か。池谷君に花子ちゃんやね。ウチが近衛 蓮華や。エレンって呼んでな
。」
病室で二人の名乗りを受けて、近衛は挨拶を返した。
「単刀直入に言いますが、魔人能力バトル大会、グロリアス・オリュンピアに参加しても
らえませんか。」
「ええよ。何の手伝いすればいいかね?」
「いや、参加選手として出場してもらいたいのですが…。」
「あ、そっちか。まあ、出ろといわれたら喜んで出るよ。」
やや齟齬があったものの、意外なほどあっさりと近衛はGO出場を承諾した。
「しかし、なんでウチにこの話が?他にもっと大会向きの魔人はおったような気がするけど
。」
「それは何とも…。」
「ま、気にしてもしゃあないな。」
「ところで!エレンさんが希望するなら、私と模擬戦を行うこともできますが!」
花子が割り込んで模擬戦の提案をする。
「んん、花子ちゃんと?どうしようかね…。」
「サンプル花子とのスパーリングの際には、本戦同様、戦闘後にエプシロン王国の秘薬に
よる治療を受けることが認められています。」
「なるほど、安全は保障されていると。」
近衛はその能力「フラッシュラッシュ」により、多くの人間の記憶を取り込んでいる。そ
の記憶を保持する自分が危険にさらされるようなことは極力避ける傾向にある。
「それで、模擬戦についてはどうしますか?」
「受けとく…が、2日ほど時間を空けてくれ。」
「わかりました。」
こうして池谷と花子の、近衛との交渉は今日のところは何事もなく終わった。
~~
二人が帰り、一人になった病室で、近衛は考え事をしていた。

なぜ、“私に”GO出場の指示が下りたのだろうか。二人がいた時は深く考えなかったが、「
フラッシュラッシュ」は弱い能力ではないものの、この大会で十全に生かせるかというと
疑問符が付く。確かに対戦相手に発動すれば、この大会に参加していたこと自体の記憶を
封印し、相手の戦意を奪うなどすることにより容易く勝利できるだろうし、直接発動でき
ずとも、“記憶”しているスキルを使って戦闘することは可能である。それでも、戦闘より
の能力を持つ相手に勝てるかとなると…
「いや。何を弱気になっとるんや、ウチは。」
戦う前から負けることを考えていても仕方がない。そもそも戦えるかどうかすらまだわか
らないのだ。今回の大会は参加希望者が予想以上に多く、本戦参加者の審査は倍率が3倍
近いという噂まである。本戦に出場できない可能性を踏まえると、自分の参戦に特に深い
意味はないような気もしてくる。
考えるならほかのことを考えようか、といいながら、近衛は花子がお見舞いなのでと置い
て行った林檎をむき始める。
さしあたっては、二日後の花子との模擬戦である。どんな装備で戦おうか?
花子の能力「サンプル・シューター」は中距離戦向けの能力なので、こちらは遠距離から
狙撃するか、至近距離でナイフを使って戦おうかな?
花子も私の「フラッシュラッシュ」に対して絶縁性の防護服を着てくるだろうけれど、エ
ネルギー弾を放つ手のひらは覆えないだろうからそこを狙うかな?
花子との模擬戦が終わったら、次は戦闘地形の確認だ。この大会で使用される25種の戦闘
地形、細かく見るのは試合前の告知を受けてからでいいが、軽い下見は行っておこうか?
そして、対戦カードが決まったら、まだ見ぬ強者の情報を集めるのだ…
と、ここまで考えたところで、近衛は苦笑した。自分がまるで遠足前の小学生のようには
しゃいでいることに気が付いたのだ。さっきまでの弱気はどこに行ったのか。
自分の感情の揺れを感じつつも、今はこの沸き立つ感情に、今この瞬間だけの感情に身を
任せてみるのも悪くないと思う近衛であった。
最終更新:2018年02月18日 21:11