<予選結果発表会場>
「澪木祭蔵 対 則本英雄。ステージ……。天国ッ!」
五賢人が1人、才蔵が最後のマッチングを言い終えると、
大日本国ホテル「鳳凰の間」はまばゆいフラッシュに包まれた。
国内随一と言われる宴会場は立ち見席まで埋まっており、GO大会の関心の高さがうかがわれる。
才蔵はフラッシュが止む間、自分たちが成し遂げようとしていることの大きさに胸を躍らせていた。
この先、もっと大変な仕事になる。働き方改革のモデルケースとして、無理な残業もできない。
だが今隣りにいる四人。俺たち、五賢人で力をあわせればどんな困難も乗り越えられると確信していた。
「以上が第一回戦の組み合わせになります。では質疑にうつりますが……あーでは、最前列左のそちらの男性」
「月刊ダンゲロスの石田です。一回戦のマッチングはどれも大変興味深く、今から本戦が楽しみです。
少し気が早いのですが、二回戦以降のマッチングも気になってきます。
そこで質問です。一回戦は11戦しかないのですが、二回戦のマッチングはどのようになるのでしょうか?」
え…?
才蔵は思わず他の五賢人を振り返る。
やってしまったにゃー、というオジサンの顔が4つ並んでいた。
もー、こいつらー。悪夢かよ。俺が時間を稼ぐから考えておけよー。
「えーと質問の意味ですが、11人。つまり奇数だと、マッチングで1人余るという質問でいいでしょうか?」
「はい、あっています」
「我々は一言も二回戦は1on1だと言っていません。二回戦は……十一巴になります」
「「決勝という意味なのか!」」「「戦闘力以外の交渉・運要素が多すぎ!」」「「サッカーかよ。地球の裏側でやれ!」」
会場がざわつきに飲まれる。全く納得できていない様子だが問題ない。俺の発言は時間稼ぎでしかないのだから。
「ハハハっ、冗談ですよ。正しくは彼、真澄寺から説明が説明します」
そう言って才蔵は寺生まれの真澄寺にマイクをたくした。
「説明させていただきます。二回戦前に一名参加者を補充する予定です。
選考基準としては第一回戦の結果を見て、それ以降の大会を盛り上げるに相応しいという観点を第一に…」
「「合流者が有利すぎないか!?」」「「トーナメントの結果をコントロールしようとしている!」」」「「私でも大丈夫かしら。エステ行かなきゃ」」
有り難し。先程よりはいい感触である。
私の発言が駄目でも五賢人は後3人いる…!
ふふ…次は平等院。五賢人の中で一番割り勘にうるさい男だ。
「皆さんの懸念点、理解しております。補充する選手はあくまで本選出場者の中から選ぶことで一定の公正さを…」
「「戦略的な負けを認めるのか!」」「「恣意的に操作をしようとしていることにはかわらない!」」「「先程予約したものですが、エステキャンセルでお願いします」」
あっ、ちょっと雰囲気悪くなってきた。
だが俺はしゃがみだ。次の五賢人が高くジャンプするための頭脳プレイだ。
頼んだぞ、アンタッチャブル聖夜。
「やーん、もう。皆さん。おわかりだと思ってたのにー。アンタッチャブル、正解を言っちゃいますぅ。
童貞男とモブおじさんのマッチングは中止中止!倫理的にダメよ。
第一回戦の勝者は10人。これで偶数ピッタシーー」
「「淫魔人差別だ!」」「「筋が通っている!チンコだけに」」「「王女が悲しむ!」」
やだ~~。魔人差別意識が薄いじゃないの。もう、日本の未来はホープふるふる。
ここまでの質問で会場にいる皆のことわかっちゃったでしょー?
がんばってね、矢野ちゃん。なに、お腹痛そうな顔しているのよ。ほら、マイクマイク!
「え~。マッチング基準の出場者選抜はですね、かねがね評判を得たと思っています。はい。
そこでですね。第二回戦もマッチング形式で決めたいと思います。
第二回戦に進んだ11人の中から5つのマッチングを選び、1人は脱落ということでよろしいでしょうか?」
「「鬼か!」」「「いいぞ!」」「「殺し合えー」」
「もういいぜ!五賢人の兄ちゃん達!」
立ち見席で座っていた、足腰とガラが悪い男が立ち上がった。
「はっきり言えよ!考えていなかったんだろ!あっ!?変な感じになるだろ!まずはごめんなさいだろ!」
「そうだ!こんな初歩的な見落とししやがって!開催スケジュールに無茶があったんだ!!」
「他にももっと隠しているだろ!」
微妙に優しい言葉の後に続く辛辣な台詞。
矢野はウンコを漏らしていた。
炎上商法を良しとするメディアが場をかき回す。
矢野はウンコを漏らしていた。
「お前たちじゃ話にならない!責任者出せ!責任者!」
ーーーーーーー予が責任者だ
透き通った低い男の声に全員の視線が一箇所に集まる。
開け放たれた会場の扉の前には、1人の男性。
後光で顔ははっきりと見えないが、彼を囲う2、4、6、8…16のサンプル花子が彼が特別な人間だということを物語っていた。
扉付近にいた者から順に彼の正体に気が付き絶句する。
入り口からはなれた登壇席間近で罵声を浴びせていた青年がいち早く謎の人物に啖呵を切った。
「あんたが責任者っ、ッガー……」
青年は床にキスをして、初めて誰かに襲撃を受けたことを理解した。
…誰かに押さえつけられている。
テニサーで鍛えた瞬発力が全く反応しなかった。
…そいつは極上の女だ。
テニサーで研ぎ澄まえた雄の本能で理解した。
瞬時に100mの距離を駆け、青年を床にふせたサンプル花子は大きく息を吸い込んだ。
「わきまえなさい!この方はフューラ=五十鈴=グラリオ=エプシロン。エプシロンの現国王であられる!!」
静まり返った会場を歩みながら、エプシロン王は会場全体に語りかける。
「マスコミの皆さん。予から真実を話しましょう。
第二回戦は第一回戦の勝者11名と予の計12名で行われます。これは決定事項です」
ざわつき始めた空気の中を、変わらぬ歩調で歩み続ける。
「サプライズとして追って公開する予定でした。五賢人の苦しい弁明にはそう言う理由があったのです。
彼らが隠し通そうとしてくれたことには感謝しています。
でもそれは彼らが悪役に仕立てられてもなお隠す価値があるものでしょうか?
この場を納めるためには真実を話すしかない。そう思い独断で公開させていただきました」
登壇上にたどりついた王は、全員に向けて深く礼をした。
その姿に多くのマスコミは雰囲気に流されて罵声を浴びせたことを反省した。
そして彼の方が本戦で戦う姿に心を踊らせた。
だが、花子に押さえつけられている青年だけは牙をむけ続けた。
「俺は納得していないぜ。王様は予選どころか一回戦も免除かよ。不公平じゃないか」
「申し訳ない。正体を隠して予選を突破したのだが、その後に正体がバレてしまったのだ。
セキュリティ的な懸念から本戦辞退を勧められた。だが、余は諦めきれなかった。
五賢人に交渉を重ねた結果、不確定要素の大きい一回戦をパスして二回戦から合流することで手打ちとなったのだ」
王は彼の前にひざまずき、男に近い目線で語りかける。
「一回戦の免除に関しては、貴方の言うとおり公平さにかけている。
そこは一回戦終了後に予の魔人能力を公開することで、できるだけ公平にしたいと考えている」
「「一回戦を戦わないというのは戦闘経験値で逆に不利でもあるな」」「「エプシロン王を出さない理由がないだろう」」「「もう決まりだな。このパターンを最優先で書き始めろ」」
会場は興味は既に『二回戦のマッチングはどうあるべきか?』から『いかに早くエプシロン王参戦を伝えるか』にうつっていた。
「そっ、それでも…。俺は不公平だと思う…」
「貴方は脱糞する覚悟はあるか?」
「だっ、だっぷん?」
「五賢人の1人は脱糞してまで、この秘密を隠し通そうとした。
立派ではないか。日本の武将は脱糞するような状況でも勇敢に闘い抜くと聞いている」
青年の目が動揺で震えるのをジッと見つめて、言葉を続ける。
「貴方に脱糞する覚悟があるのであれば、予は話に付き合うつもりだが。どうだね?」
「俺は…脱糞もできない…糞野郎だ…」
花子は青年が抵抗の意思を失ったのを感じとり、押さえつけるのを止めた。
王は彼を抱きかかえて立たせると、初めて笑顔を見せた。
「その時ではなかったというだけだ」
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「「「「「申し訳ございませんでした!」」」」
マスコミが帰りがらんどうとなった宴会場に五賢人の声が響く。
自分たちの凡ミスの尻拭いをエプシロン王にさせたなど国際問題だ。
しかも王は嘘の結果、魔境に送り込まれる。この失態、償えない。
だが当の本人の目は好奇心で輝いており、あのフェム王女の父親なんだなと再認識させられる。
「気にすることはない。娘には悪いと思い参加を諦めていたが、こういう理由なら渋々でも承諾はしてくれるであろう」
「そう言っていただけるのは有り難いのですが、本選出場者は曲者ぞろいです。特に危険なのはあの…」
「陛下。ご歓談中申し訳ないのですが時間です」
青年を押さえつけていた花子がうやうやしく会話をさえぎる。
いったい彼女はどこから表れたのだろうか?国王の親衛隊であることからも察せられるに、相当な使い手には違いない。
「国王陛下、忙しい身であられるのに時間をお取りして申し訳ございません。また日を改めて謝罪を!」
「気になされるな。すぐに終わる」
失礼。そう言って、王はマッチをするかのようにピッと自身の指の腹を切った。
花子はそこから滴る血の雫を甘い蜜を味わうかのように口で受け止める。
こぼれた一滴が化粧気のない彼女の唇を赤く濡らす。
血を飲み終えた彼女は、慣れた手つきで指の消毒手当をすませると、どこかへと消えていった。
この数分の出来事は、五賢人を困惑させるには十分な出来事だった。
「彼女には護衛のために定期的に血を飲ませているのだよ」
彼らのむず痒い表情を見るに言葉が足りないらしい。
損はしていないとは言え、尻拭いをしたことにはかわらないのだ。
これくらいの意地悪は許されるだろう。
「魔人能力というのは説明するには厄介であるな。
続きは記者会見の成功を祝した食事をしながらでもどうだね。
時間はあるのだからな」
そう。時間はある。
この血のざわつきを抑え続けるに長過ぎる時間が。