第1回戦:荒野STAGE
獅童 アキラ VS 朝顔 修羅子
『第13279話! 悪魔の計画! エプシロン王国の黒い罠!』の巻!
広い荒野で、二人の影が対峙する!
一人は六本の腕を持つ少女、朝顔修羅子!
その腕を駆使した多彩な技で戦う戦士だ!
「六武夢式、其ノ陸百陸拾伍っ!! 六花氷閃刃ッッ!!」
少女から放たれる、六本同時の手刀!少年はその美しさに雪の結晶を幻視する!
「さすが修羅子、すげー技のキレだぜッ!だが悪いな…俺には見切れる!だってその技は俺との修行で磨いたものだろッ!」
「ふっ さすがはアキラ。この技は見慣れて……ん?一緒に修行?私たち初対め…」
「俺はまだ、倒れるわけには行かないんだッ!」
疑問を遮るように畳みかけるのはご存知、我らが獅童アキラ!
修羅子の凄絶な攻撃をすでに六十六は受けているが、だがその目の光は消えることがない!
闘志を燃やし、半袖短パンの少年は立ち上がる!
「エプシロン王国をぶっ潰す……それまで、俺は負けてなんかいられねえんだ!お前もそうだろ、修羅子ッ!」
「え!?……そりゃまああの王国に思うところはなくはないけど……」
「忘れちまったのかよッ!……あの日、一緒に約束したじゃねえか!」
「いや、だから、私きみと初対面――」
その時!修羅子の脳裏にあの日の思い出が蘇る!
あの日、二人でエプシロン王国打倒を誓った思い出が……!
「どうやら、忘れちまってるようだな……!じゃあ思い出させてやるぜ!オヤジが殺されたあの日、お前と誓った約束をよ……!」
「えっ知らない!あれ… 知ってる…?怖い怖い!何この思い出!」
「知らないはずはねえ!命を弄ぶ卑劣なエプシロン王国をぶっ潰そうって約束したのは嘘だったのかよッ!」
「いやまあそれは……うん……許せないかも……」
あの日!サンプル花子の軍勢にアキラの父親が襲われ、命を奪われたあの日の約束が鮮明に浮かび上がる!
修羅子は新たに生まれた『あの日の記憶』に必死で抵抗しつつも、それはそれとしてサンプル花子を量産し命を弄ぶエプシロン王国への疑念が浮かび上がる。
「…そうかッ!そもそもこの戦いも、奴らに仕組まれたものなのかも知れねえ……!俺達を潰しあわせて、あわよくば共倒れにしようって魂胆かよッ……!」
「流石にそんなことはない……とは言い切れないような……ううっ、自分の記憶が信用できない……」
「そうに決まってるぜ!許せねえ……許せねえぞ、汚え王女め!」
「よくわからないけど、なんか許せないような気がしてきた!」
王国の敵同志を戦わせ戦力を削ぐ!エプシロン王国……なんたる悪魔の計画か!
二人の怒りは今や頂点に達していた!
そこへ。
カツン、カツン、と足音が響く。
「――汚い王女、と言ったか?キミ」
そこには荒野に不似合いな格好の男――いや、男装の少女がいた。
まるで物語から飛び出してきた王子様のような装いだ。
その女が、鋭く冷たい目でアキラを睨む。
試合中だというのに乱入者とは、いったい運営は何をしているんだ…!
「訂正したまえ。我が麗しき王女を貶めることは許さない」
「なんだてめえッ……!まさか、王女の手先か!」
「えっ、さすがに試合に手先を乱入させるなんて…」
アキラの絆に飲まれながらも、正常な判断をする修羅子。
彼女の強い精神力のあらわれであるッ!だが。
「フ。そうだ!僕は『地底王』ボイ・ターチ・リリィ・アスガルド!フェム王女の敵を滅ぼす騎士……そして麗しき王女の婚約者だ!」
「ええー!?本当にそうなの!!?というか婚約者!?」
王女の婚約者と名乗った女は銀色のレイピアを二人に向け宣告する。
「フェム王女を守るため、キミ達はここで叩き潰させてもらう。そしてグロリアス・オリュンピアには私が出場させてもらおう!」
「へっ……やっぱりそういうことかよ!だが、お前は昔はそんな奴じゃなかっただろッ!幼馴染のお前がこんなことになるとはな……!」
「え!?アキラとこの人、幼馴染なの!?」
その言葉と同時にボイの脳裏にかつての思い出が蘇る!
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フェム王女と双子として生まれ落ちたボイは、いつもふたりで行動していた。城壁の穴から城に忍び込むアキラと三人で遊ぶことも多かった。うん?うん。間違いない。
フェム王女の聖女としての振る舞いは、幼いころから完璧だった。生まれついての資質と後天的な努力、彼女はどちらも兼ね備えていた。
そんな彼女を一番間近で見ていたボイが、彼女を好きになることは運命だったし、だから、王位を継承するのがフェム王女だと裁定された時も、当たり前だと受け入れた。
ただ哀しかったのは、いつも一緒にいたフェム王女と、二度と会えなくなることだけだった。
エプシロン王国には、『王の血を引きながら王位を継承しない者は、10歳を迎えるとともに天空の国から地へと落とされる』という習わしがあった。
あの時、一番怒っていたのは、私でもお姉ちゃんでもなくて、アキラだったっけ。
どうして仲のいい姉妹が離れ離れにならなきゃいけないんだって、王様に殴り込みに行きそうなほどだった。
「私は王女。エプシロン王国の決まりを違えることはできません」
凛とした声で言い放つお姉ちゃん。
それは、いつもの聖女ではなく王女としての顔で、私を切り捨てるその姿さえ、美しいと思ったんだ。だけど。
「でも、エプシロン王国の決まりを変えていくことはできます。ボイ、待っていて。またふたりでずっと暮らせるようにしてみせるわ」
そう、10歳になる少し前、私は大好きなお姉ちゃんからプロポーズをされたんだ――!
「う… うん!待ってる!その間に私も、フェム王女の隣に立てるように、立派になってみせるから…!」
フェム王女の言葉を聞いても、アキラは納得していなかったっけ。
今すぐにでもこんなおかしな決まりはぶっ潰すって息巻いていた。
でも、私の決意を聞いて、しぶしぶ怒りを収めてくれた。
そして栃木へと降り立った私は、フェム王女の隣に立ってもおかしくないように、地帝王になることを決めたんだ。
===
「ボイ……!もうフェム王女は悪の化身になっちまった!だが、俺とお前なら、アイツを止めることができるッ!……だから頼む!目を覚ましてくれ!」
「……フフッ!何を言ってるんだ!フェム王女が悪の訳がないだろう。彼女の為すこと全ては正義だッ!そして、その彼女に敵対するというなら、いくら君でも容赦はしないぞ、あっくん!」
「ちくしょう!ボイも完全に悪に落ちちまったって言うのかよッ…!俺は、大切な人も救えずに、なんて無力なんだ……!でもだからこそ、お前は俺が止めてやらなきゃならねえッ!」
「こ、この二人の会話、成り立ってるの!?なんか通じ合っているようで通じ合ってない気がするけど!」
完全に蚊帳の外になってしまった修羅子をよそに盛り上がる二人。
かくして激闘の幕が開かれたのであった――!
~~~~~~~~~~CM~~~~~~~~~~
「ミルキーレディグミ……?普通のグミでしょ……」
パクッ
「ジューーーーーーーーーーシーーーーーーーーーーーーーー!!!!!」
(少女の皮が破れ中から汚いおっさんが登場)
ミルキーレディグミ、好評発売中!
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トイ・ゴールドの将棋マンシリーズに新しい仲間が登場!
角行くんは変形して竜馬くんに!
飛車くんは変形して竜王くんに!
さらに合体して……?
シリーズを揃えて対局しよう!
~~~~~~~~~~CMおわり~~~~~~~~~~
「……くっ、なかなかやるじゃねえか……!強くなったな!」
「キミもな、思ったより手強い」
数度の激突を経た二人だが、決定打に欠け未だにお互いに大きなダメージはない。
だがボイが手にしたレイピアは剣の中程から真っ二つに折れている。
「だがその武器じゃもう戦えねえだろ!終わりにしてやるぜ!」
「……フ。そう見えるかい?」
ボイは何を思ったか折れたレイピアをその場に置く。
そして、地面を拳でノックするように3回叩くと、地面から剣の柄がにょきっと生える。
それを掴み、引き上げると……その手には、同じレイピアが握られていた。
「いい武器だ」
「……!へっ、上等だぜ……!そうでなくちゃ張り合いがねえ!」
その様子を、(主にアキラに)巻き込まれないように遠くから見守る修羅子。
「あれは……武器生成能力かな?でも条件とか規模がわからない…。もう少し様子見たほうがよさそう」
彼女は生来のカンの良さで危険を察知し、被害を受けないように隠れていたのだ!
「あっちの人はともかくアキラくんに近寄ったらなんか……コワイからね、アレ!自分が自分じゃなくなりそう!」
「オラァッ!」
「ハッ!」
再び激突する二人。
ボイの鋭い剣戟をアキラの拳が防ぎ、アキラの荒々しい拳をボイは華麗なステップで躱す。
まさに一進一退の攻防が続く!
「ああ、あっくん。やはりキミは強い!だが勝つのは僕だ!」
「いいやっ!もうお前はもどれねぇ!だから俺が叩き潰すぜッ!」
「そうはいかないよ、……これはどうかな!」
ボイはステップを踏みながら飛び退き、カツン!と大きく地面を踏み込む!
「おいで!『ミスリルノッカー』!」
次の瞬間、地面から無数の武器が剣山のように突き出す!
ボイはすでに地面をノックしていたのだ――華麗なるステップによって!
突然現れた剣や槍に突き刺されるも、アキラは致命傷はなんとか避ける!
しかし体中が傷だらけでボロボロだ…!主人公っぽい!
そしてその光景を見て、修羅子はボイの能力を分析する。
「あんなことも出来るんだ!さっき地面を叩いてたし、叩いたところから武器を出す能力かな……?あんまりスキがなさそう」
「くそッ!この程度で……俺がやられるかよッ!」
「……ああ。そうだろうね。そう思って、こんなものを『見つけて』きたんだ」
ボイの爪先がタン、タン、タン、タンとリズミカルに地面を『叩く』。
すると地面から長い柄が飛び出し、ボイがそれを引き上げると、巨大な戦槌が現れた。
「少し眠っていてもらうよ……!」
戦槌を軽々と振り上げ、満身創痍のアキラに迫る!
「動け……動けってんだよッ……!俺の身体…!」
そのまま、戦槌をアキラの脳天に振り下ろし――
「――六武夢式」
ボイとアキラの間に、割って入るは朝顔 修羅子!
「其ノ弐百捌拾伍!六刀流・阿修羅六道輪廻!」
その六本の腕には、先程ボイが産みだした武器が握られている!
六方同時斬撃が超重量の必殺の戦槌をそらした!
ズンと鈍い音がして着弾したそれは、ただ地面に衝撃を与えるだけに終わる!
もしも彼女が、アキラを囮にしてボイに斬りかかれば戦いは終わっていたはずだ。
しかし、彼女はアキラを救うことを優先した!
なぜなら彼女は正義感が強く、――そして、アキラと打倒エプシロン王国を誓った盟友だからだ!
「修羅子ッ!!助かったぜ!!!危なかったが……、これで形勢逆転だなッ!」
「……やれやれ。おとなしく眠らせてあげようと思ったのに」
「やっぱり、思っていた通り、エプシロン王国は悪だった……!アキラと私で、悪は成仏させて見せる!」
「いや、もう終わりだよ……『ミスリルノッカー・巨神の鉄拳』」
そう言ってボイは指を鳴らす。
次の瞬間、地面から生えた巨大な”拳”が、周囲一帯の地面ごとアキラと修羅子を天高く殴り飛ばした!
巨大な戦槌によるノックが呼んだ規格外のミスリルの塊である!
二人はそのまま地平線の彼方まで飛んで、キラーンと空に輝く星となってしまった。
「クソッ!新章によくある敗北イベントだったかッ……!だが、飛んだ先で師匠と出会ってめちゃくちゃ修行して修得した奥義で師匠を殺してパワーアップしてやるからな~~~~~~~ッ!!」
「わーーん、このままじゃ終わらせないんだからーーーーー!」
という台詞が遠くから聞こえたような気がした。
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「……大会運営から、2回戦から正式にボイ様を参加者としても問題ないか、という問い合わせが来ています」
侍女・ピャーチは疲れた顔でフェム王女に告げた。
「ふふ。忖度で決めていただいてよいのに。そもそも私には決める権限などないわ。でも」
地に降りた妹が、なにやらおかしな方向へ成長していることは知っていた。
大量のサンプル花子を国民として、地帝王を名乗り始めたと聞いたときはさすがにちょっと立ちくらみがしたが、それでも幸せにやっているのならよいと思っていた。
だけど、まさか自分と婚約した気でいるとは――!
というかなんでこの大会は自分を狙うレズがこんなに多いのか!
でも。
ボイには、能力も技能も、そして大会にかける想いも確かにあった。
私の妹への想いは家族愛でも、その彼女の闘いと行く末にならば、恋に落ちてしまいそう。
「ひとりの観客として、感想を言わせてもらうなら、彼女の戦いには興味があるわ」
そう笑顔でこぼす王女に、ピャーチは小さく溜息をついた。