~1~
今から十数年前。
その日、世界地図からブラジャルは消滅した。
ブラジャーを愛し、世界中のブラジャー生産のシェア98%を占めていたその国は。
南米の地図からその名を消された。
浮遊国家エプシロン王国の存在が知られていなかったのには理由がある。
エプシロン王国に目をつけられた国が容易く滅ぼされるからだ。
故に各国はエプシロン王国の存在を恐れ隠した。
しかし当時のエプシロン王女の
「私だけにブラジャーを作りなさい」
という気まぐれな命令に背いた事によって。
ブラジャルはあっけなく消滅し。
世界にブラジャー恐慌が起きた事で世界の人々はエプシロン王国を再発見したのだ。
~2~
背が高い、格好良いと思った。
…ザザ…ブラジャル政府庁舎…消滅を…
ザザ…ジャル陸軍…ケベス中将は…
ザザ…エプシロン王国の降伏勧告…受諾…ザザ…
ガシャ…。
長い脚が雑音を垂れ流すラジオを踏みつぶした。
「ハッ!ケベスの坊やもサ。もうちょっと根性があると思ったんだけどネ」
年齢を感じさせない背筋の伸びた姿勢で軍装の老婆、悪食の魔女は空を見上げる。
魔女は狼のタトゥーが彫られた手で壊れたラジオを拾い上げるとバリボリと噛み砕いた。
「ぷかぷかと偉そうに浮かんで居やがるじゃないカ」
廃墟と化した街の上空にはあの国が浮かんでいる。
魔女の猟犬達がへらへらと笑いながら主の周りに寄り集まってきた。
老人の様な若いような奇妙な兵士たち。
「どうします?マム」
部下の質問に対して壊れたラジオを飲み込み、殺した敵兵の腕をまるでチキンか何かのように掴んで喰らいつく。
その様もおぞましいというよりはどこか品があって美しい。
「てめえらも、随分と洋風な言い分になっちまったナ。前は姐さんとか大佐とか言ってたのにネ。まあ仕方ないサ。喰い足りなイ喰い足りなイ、まったくもって腹がへって仕方ないがネ。依頼人がいなくなっちまったんダ。大人しく引き上げるしかないだろウ?」
「ちがいねえ、うはははは」
魔女と猟犬が笑っている。
あれはこの国の味方ではなかったのか。
涙と呻き声が俺から流れ落ちていく。
「なんダ、生きてるのかイ?」
驚いたような声で魔女が俺を見下ろした。
俺の事をその辺の石ころとでも思っていたのか。
確かに街に転がる死体の数はあまりにも多かった。
そのうちの半分、つまりエプシロン軍の兵士の死体は。
魔女と猟犬が喰い散らかしたものだ。
そして魔女の猟犬も多く死んだ。
こいつらのおかげで少なくない住人が助かったのも事実だろう。
「何ダ何ダ、泣いてるってのかイ?」
俺は。
魔女の足を掴む。
「アハッ、汚らしい塵だと思ったけどネ。どうやら生き物みたいだヨ」
「ぎゃはは、ちがいねえや。塵なら動きやしねえ」
黒い影が俺を取り囲み無数の三日月のような口が汚い笑い声を垂れ流す。
「笑っておやりでないヨ。」
その中でも魔女の笑い声は綺麗だった。
「ババァ…あんたは、何なんだ」
「このガキ!マムに向かって!」
「しっ。黙りナ、坊やの声が聞こえないじゃないのサ」
魔女は人差し指を口に当て、猟犬ども黙らせた。
「私かイ?私達は怖イ怖イ人喰い鬼サ」
「あいつらを殺したのは、なんでだ」
「腹が減ってたからサ」
「この国に来たのはなんでだ」
「しばらく喰ってなかったからサ」
「あんたらは何を喰ってるんだ」
「言っただろウ?私達は人喰いなのサ、宴があれば出向キ、喰って死ヌ」
「なんでこの国に味方したんだ」
「人喰い鬼だって言ってもネ。わりと好き嫌いはあるんだヨ。悪食、悪食。好きな奴らとつるんデ、喰いでのある獲物を喰ウ。そういう意味じゃケベスの坊やは悪くなかったシ、あの空のやつらは不味くて最高だったネ」
魔女の口角が美しく吊り上がる。
「坊やはどうしたいんだイ?死にたいのなら喰ってやっても良いヨ」
俺は。
「犬でいい」
「アハッ」
「あいつらを喰い殺す牙が欲しい」
「アハハハハハハハ!」
「ぎゃはははははは!」
グイと魔女は俺を掴み上げた。
背が高い。
「私の周りじゃア、ヨボヨボの老犬どもが死んでいくだけだと思っていたけどネ」
「ぎゃはははは!確かに俺たちゃ老いぼれだ。死ぬに死ねない老犬だ!」
「アハハ、なんとも勇ましく可愛い子犬だこト」
「笑うなよ、俺は何でもする」
「ギャハハハ!子犬に何ができるんだ!俺たちは死ぬだけだぞ!喰って喰って死ぬだけだ!」
「それでもいい、死ぬまでに何かする」
魔女が片腕を上げると猟犬どもは規則正しく整列した。
「いいヨ、いいじゃないカ。鍛えてあげよウ。調教してあげよウ。私のすべてを叩き込んであげよウ」
「俺達の全てを教えてやる、老いぼれジジイ達の最後の楽しみだ」
魔女が歌い、犬が吠える。
「坊やが最後の人喰いサ、ただし、もうまともな物は食べられないヨ?」
「かまわない」
「可愛い子犬だネ」
魔女が俺の頭を優しく撫でた。
~3~
十数年後、現在。
南米エプシロン王国領ノーブラジャル自治共和国(旧ブラジャル共和国)。
ブラジャーを失った国の荒野を武装した兵士が進んでいく。
軍を指揮するのは大統領であるドス・ケベスその人だ。
しかし、指揮車両の上座に座っているのは大統領ではなかった。
あからさまな高級ブランドで身を固め、甲高い声で笑う男。
五賢臣死亡時の補欠候補の一人と目される日本の文部科学省下着部高級官僚ムナタカ。
「反乱と言っても小さな街です、反乱軍と呼ぶほどでもない。わざわざ軍を差し向けずとも良いのでは」
「ブラジャーの密造はねえ。ええ、いけませんとも。密造ブラジャーなどと。大統領自ら禁ブラ法を蔑ろにするわけですか?とても法治国家の元首の言葉とは思えませんがねえ」
「解りました。しかし日本の官僚は余程お暇な様ですな、反乱軍の鎮圧など視察する意味があるとは思えませんが」
ケベス大統領の流暢な日本語の嫌味もこの男には通じない。
ケベスは右目を覆う眼帯を触る。
「ほほ、これは余興ですからねえ。エプシロン王国の方々は娯楽を好まれる」
「戦いを娯楽などと」
「わざわざ大統領に軍を指揮させた意味、解らないわけではないでしょうねえ。ええ。もしかするとブラジャルの方々には阿吽の呼吸とか忖度などと言う事は難しかったですかねえ」
返すムナタカの嫌味をケベスは受け流した。
ドス・ケベスは旧ブラジャル共和国軍の軍人であり魔人だ。
今は傀儡政権の大統領の身ではあるが、かつてエプシロン王国との戦争では英雄と呼ばれ今も国民の人気が高い。
ケベスは僅かに歯を食いしばる。
エプシロン王国の第一王女、フェム=五十鈴=ヴェッシュ=エプシロンは魔人の戦いを好むという噂があった。
「悪趣味な…」
「何か言いましたかねえ?」
「いえ、なにも」
「フェム王女には日本人の血も流れておりますから。ええ、ええ。あの御方の希望を叶えることは国益にも叶うワケですな、最新の軍事技術もアッピールできる。うふ、素晴らしいじゃありませんか、エプシロン王国になら軍事技術を売り込んでも世界中から文句を言われることがないのでぇす。日本の技術の素晴らしさが、ええ!世界に!これはもちろん私の功績ですとも!ならばぁ、わばばばばばっ?」
ずずん、と車両が揺れムナタカが椅子から転がり落ちる。
「何事だ」
「わひゃあ、何なのですか。もっと安全運転をですねえ!」
「先鋒部隊が敵と接触したようです」
「そんな事で、ここまで衝撃が来るはずがないだろう」
「ああ、早く!早く私を起こしなさい!運転手は後で降格させなさい!」
喚くムナタカを後目にケベスは部下の報告を聞き送られてくるデータに目を通す。
「地雷に砲撃だと?ありえない、そんな武装を持つ相手ではないはずだ。しかもこの配置、このタイミング。バカな」
「先鋒部隊壊滅!」
「日本製の自慢の装甲車両はどうした!」
「数分持たず!超常戦闘能力と推測されます!第二部隊通信途絶!第三部隊より救援要請!」
「魔人かッ!」
~4~
「おい、なんだ貴様」
政府軍の車両から顔を出した兵士が怒鳴った。
あの顔はブラジャル人じゃない。
「邪魔だ、さっさと退け!轢き殺されたいのか?」
兵士は戦闘車両から生えた巨大なバトルアームを振り上げて俺を威嚇する。
「やってみろよ、轢き殺せるならな」
直後にいくつかの爆発が起き、数台の戦闘車両がひっくり返る。
地雷だ。
「な、なんだ」
「びびってるのかよ、その玩具は強いんじゃないのか?」
「なんだと、貴様。まさか貴様がこれをやったのか!」
遠くでも爆発音が聞こえてくる
「ナイスだ爺さんたち、良い遠吠えだぜ」
「反乱軍か!」
バトルアームの砲身がこちらを向くより早く俺は走る。
「違うな、俺は人喰いさ」
軍刀の一閃がバトルアームごと戦闘車両を両断した。
「人喰いおばあちゃん♪」
俺の口から歌が零れ落ちる。
周囲の茂みからにじり出る影のように。
地獄の猟犬どもが現れる。
「敵兵!敵兵!応戦しろ!」
生き残った雑魚が喚く声が聞こえる。
「人喰いおばあちゃん」
歌に合わせて俺の体が歪む。
「戦争(ウォーゥ)戦争(ウォーゥ)戦争(ウォーゥ)戦争(ウォー)戦争(ウォー)戦争(ウォー)!」
俺の歌に誘われるように人喰い中隊が叫び牙を剥いて哀れな生き残りに襲い掛かった。
~5~
「俺のお婆ちゃんは明治生まれの人喰い」
テクノ調のリズムに合わせて俺の体が変化する。
ババァの若いころの姿は大層な美人だったようだ。
まったく、女の体になった方が強いんだから俺の日々の鍛錬ってやつが虚しくなるぜ。
飛びくる砲弾を一刀両断する。
「奇襲!破壊工作!なんでもドンとこい!さ」
歌いながら猟犬ジジイ達と戦場を駆ける。
ジジイ達はこの十数年で随分と死んで数が減った。
ジジイ達は旧日本軍の非道な人体改造によって基本的に寿命がない。
実年齢は100を超える化け物ぞろいだが見た目は60~70の鍛え上げた爺さん達。
死に場所を戦場と定めた猟犬達。
俺の体が完全に若い女の姿に変わる。
戦場をジジイ達と駆け抜けるババァの姿の方がマジで格好良かったが。
若いころのババァは良い女だったのは間違いない。
爆発音。
伏兵に配置したジジイどもが橋を爆破したのだろう。
これで敵兵力は分断だ。
自分が女の姿になるのは複雑だが。
俺のイメージする最強ってのがジジイどもの昔話。
つまり若いころのババァの活躍なのだから仕方がない。
変身とか日本の魔法少女でもねえだろうが。
出るとこは出て引っ込むところは引っ込む。
変身前の俺と身長がほとんど変わらねえの以外は、いわゆる一般的な美人だろうさ。
前方に敵機動車両兵器、数3.
「要人暗殺! エネミー確殺!元気に ワン、ツー、スリー!(3キル!)」
歌いながら三機を撃破。
大した強さだ。
全てを叩き込むってのはこういう事かよ!
あとは指揮官を落とせば。
「ッ?」
何人かの猟犬の気配が消えた。
死んだのは加藤の爺さん達か、あのジジイがやられる相手。
「魔人か…」
俺の前に、屈強な軍人が立っていた。
~6~
「女の姿をしているが」
ケベスは右目を覆う眼帯を外す。
「男だな、しかも若い」
「妙な目だな、オッサン」
ケベスの右目は青白く輝きを放つ。
「俺の『真実の魔眼』は全ての欺瞞を見通す」
ドス・ケベスが中学生のころ。
こっそり手に入れたAVを見た時、絶望のあまり目覚めた魔人能力だ。
見たいものが隠されるという欺瞞。
この世のあらゆる欺瞞を見抜くその目は確かに戦士や指揮官向きの能力だ。
「ジジイはこれ以上こっちには動かせねえ、他にやることがあるからな」
「指揮官は君か、ならば君を倒せばすべては治められるな」
ガギィン!
俺が無言で繰り出した一撃はケベスのナイフで受け流される。
ドゥン!
流れるような動作で繰り出された銃撃を俺は避けた。
戦闘において攻撃にフェイントなどの動作を混ぜるのは当然の事だ。
それすらも欺瞞として予測するのが『真実の魔眼』の力。
「肉体強化を伴う変身能力か、あの兵士達は幻影かとでも思ったが違うようだな」
「アンタも相当だな、オッサン。見ただけでそれがわかるのか」
「あの兵士達には見覚えがある。君は、あの悪食の魔女の関係者なのか」
ギィン、ガギィン。
ドン、ドゥン。
剣閃が火花を散らし、銃弾が舞う。
「かの魔女には礼を言いたいと思っている、君がその身内であるならば。ここは退いて欲しい」
「どうだかなあ」
ねっとりと軍刀の刀身を舐めて俺は曖昧な返事をする
「刃物を舐めるなど、まるで悪役の様だな。それに注目させて何か悪さをするという事でもないようだが」
「悪役ね、人喰いってのはさあ、そういうもんじゃねえの?」
遠くで爆発音が聞こえる。
ジジイ達が敵を追い詰めている。
「早くケリをつけなければ我が軍は壊滅だな」
「トラップ楽々 戦場蹂躙♪」
ケベスの呟きに俺は歌って返す。
刀を鞘に納め抜き放つ居合の一閃、この一撃が。
「甘いぞ!少年!」
ガギ!
俺の一撃をケベスはナイフで受ける。
だが。
パキィン!
とケベスのナイフが砕け散った。
「なんだとッ!」
「得意のA(attack)B(break)C(critical)!」
ナイフを粉砕し斬り上げた一刀を返す。
上段から振り下ろす一閃でケベスの銃を叩き斬る。
「これでチェックメイトだな、オッサン」
刀を鼻先に突き付けた。
「なるほど、ただの変身ではないのか。その能力は」
「その変な目は伊達じゃねえんだな、ケベス大統領」
「コピーか。肉体能力だけではなく魔人能力までもコピーしたな。あの悪食の魔女の力を」
「それだけだ。俺がコピーできるのは、あの人の能力だけさ」
~7~
人喰いの悪食の魔女。
歩峰鬼子の魔人能力『人喰い』は。
どんなものでも食べる事ができる、悪食のサバイバル能力であると言われている。
だが。
実のところ彼女の魔人能力は唾液の変質であった。
通常、唾液に含まれるアミラーゼはでんぷん質を分解し、人のエネルギーとなる糖に変える立派な消化液だ。
もしも、宇宙から来たでんぷん生命体が居るとするなら。
人間は口から消化液を分泌する恐ろしいモンスターに見えるだろう。
魔女の魔人能力によって変質した唾液は。
自分自身以外のあらゆるものを分解し、砂糖に変える性質を持つ。
故に、魔女の骨から作り出された軍刀と魔女の髪を編み込み固めた鞘は唾液に浸蝕されなかったが。
受けたナイフは容易く砕け散ったのだ。
魔女の能力を含めてコピーする。
それが歩峰マーゴットの魔人能力『人喰い』だった。
~8~
キコキコ…。
車椅子に乗った老婆が壊滅した軍の中心にたどりつく。
「そういえば加藤は何をしているのかネ」
「加藤の爺さんは死んだよ、ババァ」
「ああ、そうだったそうだったネ。忘れっぽくていけなイ」
かつて魔女と呼ばれた女には足がない。
鋼鉄の義足でそれを補っている。
足の骨から削り出した軍刀を今は俺が持っている。
「そういえばお昼ご飯はどうしたのかネ」
「もう喰ったよ、ババァ」
「そうだったネ」
「ひ、ひぃぃぃ!くるな、命だけは!」
俺達の前で汚れてボロボロになった男が泣き喚いた。
「そういえば敵はどうしたんだっけネ」
「もう片付けたよ」
「そうだったそうだったネ」
「おいババァ!」
「なんだイ?」
「ボケたふりするんじゃねえよ!爺どもが死んじまったのにピンピンしやがって」
「ババァのお茶目くらいゆるしてほしいネ。まったく」
と言って鋼鉄の魔女は立ち上がった。
「ひい!」
泣き喚く男ムナタカがさらに怯えて悲鳴を上げる。
「さてコレを見てもらおうかな」
俺が指さすと尾藤の爺さんがタブレットPCをムナタカに向ける。
武藤の爺さんや佐藤の爺さんや、残り少なくなった人喰い中隊の猟犬達がニヤニヤと笑っている。
「あれ?ええ、あれとは何でしょうか?いえ!動画配信ですね!ハイ!」
「懐かしい顔もうつってるネ。まだ小僧だと思ってたのに立派なジジイになってサ」
TVでは魔人の戦いが中継されている。
高齢の魔人も戦いに参加しているようだ。
「私は、もうああいうのは面倒だからサ、参加する気は無いんだけド」
「は、はい!」
「うちの孫が我儘でネ、あんた偉いんだろウ?」
「は、はいいいいいい!」
ムナタカは恐怖のあまり失禁しながら答える。
「可愛い孫の為に参加権を一つおくれでないかイ?」
「も、もちろんですとも!ええ!私の権限に懸けましても!ええ!」
「偉いわムナタカ。ケベス、そのように取り計らえるのかイ?」
「ああ、できるだろう。確実ではないが。この男の権限なら」
ケベス大統領が端末をムナタカに渡す。
ムナタカは端末を操作する。
「こ、これで。申請はOKです。ハイ!おそらくは!いえ必ず!」
「返事はいつになるのかナ、それを受け取るのハ?」
「申請が通れば返答は直接ですね、お孫様にですね。ええ!」
「偉イ偉イ。では返事を受け取るのにムナタカは必要ないのネ。ケベス」
「えッ?」
「ああ、そうだな不慮の事故だ。反乱軍との戦闘中に事故死したと報告しよう」
「ま、まって!いやだ!助けて!」
ケベスの冷徹な返答にムナタカは情けない悲鳴を上げた。
「マーゴット、可愛い孫。まったく若いころの私にそっくりネ。アハ」
少女のように笑い魔女が俺に声をかける
そういう能力なんだから仕方ないだろう。
「喰らいなさいナ。最後の人喰い」
俺はペロリと不味そうな男を舐める。
傍から見れば美女のご褒美に見えるだろう。
「うひぃッ!?」
最後まで情けない悲鳴を上げてムナタカは砂糖菓子になって崩れ落ちた。
不味い!不味い!不味い!最悪の味だ!
だが、最高だ。
クズがこの世から消えてなくなるのはな!
ぼりぼりと砂糖菓子を喰う俺を魔女が見つめている。
「おい、子犬ちゃんよ、俺達のお守りは必要かあ?ぎゃはは」
ジジイ達が笑う。
要らねえよ、ジジイどもはババァの犬だからな。
「女の子はお砂糖で出来ているとかいうけれどネ。この世界なんてみんな砂糖菓子のようなモノなのサ」
「復讐するのも良イ、何か願いがあるなら叶えるのもいいサ」
「私の可愛い孫、可愛い子犬、立派な猟犬。最後の人喰い」
~マーゴットプロローグSS おしまい~