プロローグ(久々津 取次withG)


久々津取次は激怒した。必ず、かの邪知暴虐(かどうかはわからないが)の王女を訴えねばならぬと決意した。取次には政治がわからぬ。取次は、希望崎学園の一年生である。下宿の一人暮らしで、亡霊さんと遊んで暮らしてきた。けれども自身にふりかかる理不尽に対しては、人一倍に敏感であった。きょう未明取次はイクラ漁のファッキンワンオペバイトを亡霊さんの助力で終え、貸した射影機を回収しに下宿からはなれたグロリアス・オリュンピア会場にやって来た。取次には父も、母もいる。女房はいない。左手に纏う、亡霊さんと二人暮らしだ。

取次にはGO会場に先に滞在している超特急に会うという目的があった。理由としては彼に貸したポラロイドカメラの回収である。本来彼にはもうちょっと上等なカメラを渡す予定だったが、うっかりものの特急パイセンが取次の私物であるお祓い用射影機を借りていってしまったのだ。

その事実に気づいたのは超特急が到着セレモニーに向かった日の夜、射影機購入の際に発生した借金返済のためにイクラ漁バイトへ向かう前に身辺整理をしていた時のことであった。
「どうしようか、亡霊さん」
久々津は無造作に散らかった荷物の中から児童向けのお絵かきボードを拾う。
(僕が/する話の/返事を/書いて)
そう念じた久々津の左手から青く透き通った何かが蠢き、お絵かきボードに纏わりついていく。紐付けされたペンが白紙の画面に文字を描き始めた。
『おねがいっ☆亡霊さん』を発動させたのだ。
『バイト先の人に迷惑をかけるのもいけないし、先輩に連絡入れてからバイトに向かいましょう?帰ってから回収しに向かえばいいわ』
亡霊さんは、常識人(霊)であった。
こうして取次は超特急のラインに射影機返却の用件を送信し、イクラ漁のバイトへと向かう。

高級品である金色のイクラを守る鮭を始めとしてどすこい祭り、肩パット、爆弾、塔など鮭でやばいが亡霊さんをインク砲台に憑依させたサポートなどを駆使してナントカGO一回戦開始の日にノルマ達成をして帰宅できたのであった。

そういう事情で超特急の行方を超家で聞いた後、会場にやってきた取次は受付に向かい、彼が、なんやかんやで参加した予選選考にて木っ端みじんになって死んだ為現在面会謝絶の状態であることを聞く。貸し出した射影機がセレモニーの『もどき』騒ぎの中で彼にぶっ壊されたことも。
カメラを走る電車の前に放り込めば粉砕される。皆知ってる事だな。

聞いて、久々津は激怒した。「呆れた男だ。生かしておけぬ。」
もう死んでるよ。何とか蘇生の目途は立つとのことらしいが。
しかし久々津は、それなりに思慮深い男であったようだ。亡霊さんと相談をして超特急に弁償金の支払い能力が無さそうな事実を確認すると、セカンドプランに移行することにしたらしい。
「『王女に会って慰謝料をむしり取ろう!』」
馬鹿の考え休むに似たりとはよく言ったものだ。そもそも王女を訴える以前にこいつらはその方法も知らないのではなかろうか。

──まあ、超特急という奴はいい漢だ。そいつがここまでボロボロになるまで頑張る理由なんぞそうはあるまい。何とかして元凶のツラを拝みたいのが本音だろうな、取次の奴。
手助けをしてやりたいが、『私』にできる事はこうして二人?を眺めることぐらいだからなぁ……
まったく、自分の能力の一部くらいさっさと治してほしいものだ。
最終更新:2018年03月06日 22:37