グロリアス・オリュンピア 1回戦第12試合
天和祈王 VS 白狼・グレゴリオ・丁月
戦闘地形:動物園
「うわははははははは!その程度か!その程度か小僧!」
所々がひしゃげた巨大な檻の上――普通ならばチンパンジーの生態を存分に見るために作られたであろう4m程度の高さにもの。
その上に軍服のような服を着た男、天和祈王が立ち大声で嗤っている。
彼の視線の先には地面に片膝をつき肩で息をしている少年、白狼・グレゴリオ・丁月がいた。
GO運営の恣意的なマッチングにより対戦カードが決まる1回戦、この戦いのテーマは『時代錯誤のテロリストVSテロリスト狩り』
天和の願いとはエプシロン王国の隠された技術を全て入手すること。
その先に待つのは彼の率いる過激思想集団「天地人統一党」による日本の支配。そして修羅のみが棲まう国と化した日本による世界統一。
白狼の願いとは不死の肉体の入手。
その先に待つのは白狼から全てを奪ったテロリスト達への終わらない復讐の旅。
無論政府関係者が殆どを占めるGO運営は天和の敗北を願った、故に既に天和と殺し合った経験を持つ白狼に天和を狩る役目を背負わせた。
しかし天和はあまりにも強すぎた。天より強烈な火力を持つ光弾を落とす天和の能力「日はまた巡る」。
これをただ何も考えず相手を目掛け落とし、近づかれれば異常に発達した勘により正確に繰り出される鍛え上げられた鉄拳が迎撃する。
思考による戦いを超越した域に達したその単純な戦法は白狼の体力を手出しを許さないまま削り続けた。
「この……この野郎が……殺す……ブッ殺す……」
悲鳴を上げる肉体を殺意を以て動かす白狼。しかし光弾を回避し続けるのも最早限界が近い。
再び天和が手を空へと掲げ、光弾が落ちてくる。寸前での回避。寸前でなければ気づけない程に消耗している。
しかし次の瞬間白狼の姿は天和の背後にいた。白狼の能力「ファントム・ストライク」による敵の死角へのワープ。
裏拳による迎撃を読んでわざと檻の間へ落ち天和のズボンの裾を掴む。
落ちる瞬間に地面を見るであろう天和の死角へと能力で周り込み天和をクッションにする、人間ならばこの戦術から逃れられないはずだ――
だが檻の上から引きずり落とされた天和が選択したのは檻ではなく天へと手を掲げること。
白狼、いや天和自らを目がけ光弾を落とし諸共焼き尽くす。正気では辿り着かない戦術。
「とうとう狂ったか天和!」
「俺が狂った?何を言っている!狂っているのは貴様だ!何故俺の邪魔をする!」
「お前はまた人の命を踏み躙りながら自らの道を進もうとした!それ以上の理由は無い!」
光弾が着弾、2人の肉体が光の中で焼かれ死へと近づいていく。
「ぐ……カカッ……まだ生きているか小僧、その修羅の目こそ我らが望む究極の国に相応しい」
「ほざきやがれ……!」
間違いなく両者満身創痍である。しかし2人は立ち上がり目の前の敵を見据える。
次の一手で勝負が決まる。
白狼は低く構える、天和は天へと手を掲げる。
天和が選択したのは『確実に勝つ一手』、自らの周囲を囲むように複数の光弾を落とし白狼がどこに出ようが焼く。
落とせる光弾の数に制限が無いとは白狼は知らない筈――実際は同時に撃った数だけ次に撃てるまでの時間が長くなるがこの一撃で仕留めれば関係は無い。
そして天和はその通りに行動した。
しかし、白狼が出たのは天和の真上だった。そして頭上に乗った白狼はそのまま天和ごと後ろへ倒れ込む。
かつて池袋を焼きスラム街へと変貌させた光、白狼はその正体を知っている。
「小僧……勝ちを捨てたか!?」
「違う」
白狼は読み通り塊になり落ちてきた光弾を見上げ最期の言葉を言った。
「お前の負けを選んだ、それが答えだ」
GO1回戦第12試合でまさかのDKO発生、2回戦12人目の枠はVR空間バトルロイヤルで決定
本日、グロリアス・オリュンピアは1回戦の最終日が行われた。戦場:動物園にて行われた第12試合は1時間を超える戦いの末DKOに。
これを受けてGO運営本部は第12試合の両者を敗北とし、急遽エントリー者の中からリザーバーとして2回戦へ進む選手を決めるためのバトルロイヤルを開催することを発表した。
なおリザーバー戦に貴重な秘薬を消費したくないとの王国側の申し出によりバトルロイヤルはVR空間上で行われる模様。
グロリアス・オリュンピア リザーバー決定VRバトルロイヤル
参加者:総勢100名
戦闘地形:VR大浮島(VR空間内に作られた10km四方程度の大きさをした戦闘地形:浮島)
エプシロン王国内にも近年作られ始めたと言われるビル街。
穿月糸保はその再現されたビル街の中のビルの一つに隠れていた。
(うぅ~むしゅーちゃんのために頑張ってるけど怖いです……むしゅーちゃんをぎゅっぎゅしたい……)
このバトルロイヤルにおいて無暗矢鱈に動くことは余程の強者か馬鹿でなければやらないことである。
しかしひたすら籠り続けることもまた愚策。定期的に無差別に決められた区画が崩落。
現在彼女が籠っているビル街は未だ崩落の予告が来ていないがいつかは来るだろう、その前に動かなければいけない――
『A-2区画が崩落。開始から40分が経過。現在生存者数は52名。次は5分後にB-3区画が崩落します。』
(ここじゃないですか!)
とうとう来た。動かなければそのまま島から落ち試合終了。
無論巻き込まれて死ぬのは愚の極み、糸保は急いでビルの窓へ向かい走り出す。
しかし対面のビルへ能力の針を打ち込もうとした瞬間、窓から洋風の鎧を着た男がヌッと顔を出した。
「きゃああああああああああーっ!?」
「よっしゃ!こんな所に獲物がおるわアアアアアアアアーッ!?」
ビルの中に参加者がいるのを見て直ぐ様背負っていたポンプショットガンを構えようとした鎧の男。
しかしそれよりも先に鎧の男の頭へ針のヘッドショットを食らわせた糸保はそのまま糸を縮め鎧の男を引き寄せる。
高速で糸保のジャマダハルへと吸い寄せられた鎧の男の頭は当然の如くジャマダハルに貫かれ、命もろとも真っ二つになった。
「びっくりしました……でもむしゅーちゃんの願いを邪魔しようとした人が悪いんです、安らかに眠ってください」
当然これはVR空間での戦いであり実際には安らかに眠るどころかむしろ現実の肉体が強制的に起こされる羽目になるのだがそこは糸保は気にしない。
再びビル街から脱出するべく窓の外を見ると、そのすぐ下には階段状に拵えられた足場が設置されていた。
(さっきの人の能力でしょうか……?罠ではなさそうですし使わせてもらいましょう)
そのまま階段を使い地上へと進む糸保。
しかし地上が近くなったところで不穏な気配を察知した。
後ろか?右か?左か?下か?いや、答えは――
(上っ!)
「おっと危ねえ鋼鉄玉座防御!」
上を反射的に斬り払った糸保、しかし上から降ってきた謎の存在は謎の盾でそれをガードしていた。
エネルギー量の差故に弾かれる糸保、そのまま地上へと転がり落ちる。
「くぅっ……」
「何だよ、まだガキじゃねえか。その歳で俺の&ruby(デビルフォールンダウン){天墜悪魔急降下}を防ぐか」
謎の大男――"ハードコアプロレスの伝道師"アイアン・マッド・デビル大塚は先程ガードに使用したパイプ椅子を再び背負うと地上に転がる糸保へと歩を進める。
途中街路樹の枝をチョップでへし折るとそれを更に2つに割り両手に構えた。これが今回の凶器となるのだろう。
「こいつは楽しめそうだ、行くぞオイ!」
体勢を立て直した糸保目掛けIMD大塚が走る、左手の枝を糸保の足を薙ぐように振る。
当然糸保はそれを飛んで交わし、当然IMD大塚はその空中の隙を右手の枝で狩ろうとする。
しかし寸前で地面に打ち込んだ針へ自らを引き寄せることで糸保は枝を回避する。
「それがテメエの能力か、小賢しい真似をしやがる」
「小賢しい真似はしていません、私は常に一直線にむしゅーちゃんのために走っています!」
「だったらこれを受けてみやがれーッ!」
次にIMD大塚が選んだのはスピアータックル。身長2m、体重120kgの巨体による破壊の行進。
糸保はビルへと針を打ち込み空中へと回避する。しかし。
「甘え!」
IMD大塚の体は不自然に宙へ浮き糸保の体を捉える。その勢いは空中においても一切失われていない。
直撃を受けビルへと激突する糸保。一瞬意識が遠のきかける。
「ちーと読みが甘かったなあ嬢ちゃん、神殺槍突撃が地上だけの技と思うなよ」
「ぐっ……ううっ……」
IMD大塚の能力「天地不問闘争劇」、空中を地面のように踏み歩き異次元の動きを可能にする魔技。
そしてその能力はこの超奥義を生み出した。
「行くぞォーッ!地獄第九層大落下ーッ!」
ジャマダハルを落とし倒れている糸保を肩に担ぎ上げ飛び、更に何度も空中を踏みしめ高度を上げていく。
通常のプロレスではあり得ない高度からのパイルドライバー、まともに喰らえば当然頭部は砕け散るだろう。
(なんとかして……抜けないと……)
肩に担ぎ上げた姿勢からパイルドライバーの姿勢へと変えるその一瞬。
糸保は右手をビルへと向け針を撃とうとする。
「その動きはもう読んでんだよ!」
動きを察知し右腕を固めようとするIMD大塚、しかし糸保の右手はビルではなくIMD大塚の足首へ狙いを定めていた。
針の射出、糸の収縮、これによってIMD大塚の空中での姿勢は崩れる。
「ぐおっ!?」
直ぐ様「天地不問闘争劇」を使用し体勢を整えようとするIMD大塚。
しかし改めてビルへと針を打ち込んだ糸保の体はIMD大塚に高速で激突しながらビルへと引き寄せられていく。
「き、貴様ァーッ!」
体勢を立て直す時間を与えられなかったIMD大塚はそのまま地面へと激突。巨体が血と肉をばら撒き弾け飛んだ。
「はぁ……はぁ……危なかったです……」
残り1分、もう区画崩落まで時間が無い。
ロープを少しずつ延長させ速度を調整しながら地面へと降りた糸保はそのまま区画脱出のために走っていった。
リザーバー決定バトルロイヤル、生存者残り41名――
「え……あれ……糸保ちゃんは一体何を……?」
穿月家のリビングのテレビを見た無州 小燕は信じられない物を見たような顔で糸保の母を見る。
テレビに映っているのはGOリザーバー決定バトルロイヤルの中継、糸保が元気に有象無象の戦闘魔人と殺し合っている光景である。
確かに自分は呪いで困っていると言った。呪いを解く方法が未だ見つからないとも言った。
しかしだからと言ってグロリアス・オリュンピアに参加するなんて!
「いやー糸保ちゃんは昔から何かやると決めたら言うことを聞かなくてー」
「言うことを聞かなくてーじゃないですよ!?何参加させてるんですか!?」
「お父さんも喜んでたわー『糸保にも守りたいものができたか、ならば私はそれを応援しよう』って」
「止めましょうよ!?今やってるの殺し合いですよ殺し合い!」
「なんでも治してくれるんでしょ?大丈夫大丈夫」
無州の叫びも流され糸保の母は再びテレビへと目を戻す。
気が遠くなっていくのを抑えつつ部屋(糸保と共有中)に戻ると持っている携帯電話が鳴った。
画面には【親父】と表示されている。
「……もしもし親父?」
「おう小燕か、最近大丈夫か?お前を拾ったっつー娘になんかされてねえか?」
「今は大丈夫だよ……というか糸保ちゃんは今いないし」
「あん?その糸保っつー娘はお前にベッタベタだったんじゃないのかよ」
「それがさ……俺の呪いを解くとか言ってGOにエントリーしちゃってさ……」
「行動力の塊かよ、もうお前ら結婚していいんじゃねえの?多分幸せにしてくれっだろ」
「それ糸保ちゃんの母親にも言われたけどさあ……」
無州 小燕は己の体を見下ろす、呪いがかかる前とは比べ物にならないほど小さく華奢に……色々と失った体を。
「……まだ正体のこと言って無いんだよ、言うのも罪悪感で死にそうになるし言わないのも罪悪感で死にそうになる」
「あー……好きにしろよ、もし何かあったらすぐ駆けつけれるように近いダンジョンで呪いの手がかりを探してっから」
「生物学的に死にそうになる可能性を前提にしないでくれよ……」
ぼやきつつ通話を切る小燕、彼女にできるのはただこのどこを見てもカオスな状況を前に乾いた笑いを出す事だけだった。