なんとなくラッコのぬいぐるみ探してたら見つけたんですけど安くないですかこれ。
ぼくが見た時799円でした。一番でかいやつでも1999円だよ。すごい。
もしGKがアマゾンアソシエイトを設定していたらお金が入るので、みんなどしどし買うといいと思います。
アマゾンアソシエイトの設定方法(GK用)
◆◆◆
「間もなく始まります、グロリアス・オリュンピア一回戦! 対戦カードはチョコケロッグ太郎VSファイヤーラッコ!」
「エプシロン王国を忠実に再現した特設ステージ・浮島を舞台に、二人の強者が激突します! 客席の皆様、エプシロン王国へ言ったことはあるかなっ!?」
なーーーい!!
「ですよねですよねー! わたしもでーす! 鳥は歌い花は咲き誇る天上の楽園、今ここにご開帳で~す!」
◆◆◆
大地が朱に染まっている。
粘度を伴って水音が跳ねる。
空気は生暖かく、立ち昇る湯気は鉄の味がする。
死んでいる。
死んでいる。
死んでいる。
今、また死んでいる。
鳥は既に飛び去った。
花は既に躙られた。
天上の楽園。
シリアルキルのエデン。
チョコケロッグ太郎が、笑っている。
◆◆◆
「ハッハ~! 久し振りのシリアルキルだぜ~!」
「NPCジャナイデンガナ! アー! NPCジャナイデンガナ!」
シリアル死骸が浮島を埋め尽くす。蹂躙されるは、エプシロン王国に生息する『NPCじゃない太郎』の群れだった。決してNPCではないので戦場にも当然再現されていたが、狂気の殺戮者に目をつけられたのが運の尽きである!
「NPCジャナイデンガナ! ヤメテ!」
「おらおらおら、無辜の民を殺すのは最高だぜ~! お茶の間のみなさ~ん! みなさんも今にこうなる運命だからな~!」
「アー! NPCジャナイデンガナ!」
このままでは、シリアルキルオールコンプリートしてしまう! 決してNPCではない、無辜の儚き命たちが今絶滅しようとしている! うなぎ!
「NPCジャナイデンガナー!」
「おらおら!」
シリアルキル!
「NPCジャナイデンガナー!」
「おらっ」
シリアルキル!
「NPCジャナイデンガナー!」
「…………」
シリアルキル!
「……反応が単調で飽きてきたな! NPCですらねえ奴にはここいらが限界か! 大物の登場はまだかな~、楽しみだな~!」
◆◆◆
「いやいや、あんなんの前に出ていけるかよ……こわ……」
一方のファイヤーラッコは、王城内部から静観を続けていた。
戦場に到着して早々目にしたのは、暴虐の限りを尽くす対戦相手。千切れ飛ぶNPCではないいきもの。
「なんであいつクソ派手に殺しまくってんの……? あれか、何か狙いがあるのか……能力に関係しているとか……?」
殺戮は開けた場所で行われていたため、ファイヤーラッコは警戒を解かぬまま戦場の把握に務めることができた。
反対側は未確認であるものの、恐らく円形のステージだろうことが推測される。
小高い丘に立つ王城を中心として、ささやかな城下町が広がり、その向こうが縁まで続く平野。ちょうどスプラッター現場だ。
半径500mといったところだろうか。
「……いや、うん、狂人だなあれ……あの行動に理性的な意味があってほしくねえもんな……」
ひとまずの結論を出し、地形の理解を再開することとする。
視線を廊下へと落とすその時。
視界の隅で、眼下のチョコケロッグ太郎の瞳がこちらを捉えた。ような、気がした。
「やべえ。見られた」
外からの死角へ身を潜める。
「いや、見られたか……? あの位置から、俺を? そう見つけられるものか?」
再度、窓の外へ目を向ける。
気のせいであってくれることを信じたかった。
ああ。
見ている。
指を指している。
手を翳し、振り下ろす。
業火が、真っ直ぐにこちらを目指す!
「うん、ダメだなこれ!クッソマジかあいつ!」
射程が足りないのか炎は途中で掻き消えたが、チョコケロッグ太郎は満面の笑みを浮かべて駆け出した! それも、およそ信じられない猛スピードである!
「火だ! あいつも火炎系能力ってことか? いや、それだけじゃない。わからんが、俺の勘が何かヤバイと告げている! 狂人だからか? それだけなのか? この行き場の無い不安はなんだ……!?」
チョコケロッグ太郎はその足を止めないまま、更なる炎を生成する! 頭上に掲げられた豪火球、人一人を包むほどの大きさのそれを、やはりこちらへ向けて射出した! 未だ射程は足りない! 掻き消える!
「クソッ、クソッ! てんで届いちゃあいない、からきしだ! 慣れ親しんだ俺の能力とそう変わりはしない! なのに何故だ!?」
チョコケロッグ太郎は足を止めない! 生成されるアンカーの如き火柱が、幾条も王城めがけて襲い来る! 城壁すれすれまで伸びては、掻き消えていく!
「絶対……絶対おかしい! 俺は、俺はアレを見る度……」
チョコケロッグ太郎が迫る! 火球は十を超えるほどに生成され、次々と窓辺へ突き刺さる! 爆発に次ぐ爆発! ファイヤーラッコは、既に城内での逃走を開始している!
「アレを見る度、来月のガス代を心配している……!!」
チョコケロッグ太郎が城壁に足をかけ、蹴り出す! 壁を走っている! 火を身に纏い、纏い……これは、無意味に火を纏っているだけだ! 垂直走行は単に己の常識外れた身体能力の為せる技だ! チョコケロッグ太郎が、城内へ侵入した! ファイヤーラッコは手近な部屋の中へと身を潜める!
「信じたくねえ……信じたくはねえが、クソッ! アレは! 俺の能力だ! 制約の処理おかしいだろ!! GKコーーール!!」
◆◆◆
特殊能力『ファイヤーラッコ』
ファイヤーラッコは、炎を操るラッコめいた男だ!
ただし、火炎生成を使うほどにガスの利用料金が心配になるぞ!
◆◆◆
「どうやら、互いに能力内容に察しがついたようですね」
グロリアス・オリュンピア特設会場、貴賓室。
ディスプレイの向こうに映る二人の戦闘を、当然フェム王女も見守っていた。
「あら? でもそうね、学生さんはラッコにはならないのね。すると、あのラッコさんは、生まれた頃からラッコだったのかしら」
「選手登録時の資料によれば、えー……幼少時のおたふく風邪の治療によるものだそうです」
「……おたふく風邪というと、あのおたふく風邪?」
「そう書いてあります。それまで病気がちだった彼は以来健康そのものとなり、普通に学校へ通い、普通に暮らしてきたようです」
「……日本の医術も変わっているのね?」
◆◆◆
城内、回廊にて。
めちゃくちゃな侵攻を続けるチョコケロッグ太郎の前に、痺れを切らしたファイヤーラッコが姿を見せる。
「お、ようやく現れたな。お前の能力、すっげえんだな! ははっ、自分の炎で焼き鳥になる覚悟は決まったか?」
掲げた右手に炎が灯る。あかあかと照らされる笑顔からは、無邪気な殺意しか読み取ることはできない。
「ま、待て待て待て馬鹿野郎! わかったから! 火は節約しろ! いたずらにでかい炎をつくるな! 種火に使うに留めて延焼させろ! お前……お前マジでやめろ!!」
「そうは言っても、だってすごいぜこれ!ほら、頑張れば、この城だって火柱で包めちまう!」
「ああああああああ!! ガスが止まる!!!」
焼け落ちる城下町。炭と化すNPCじゃない太郎。全てを灰に帰し、赫々と城壁を炙る悪魔の炎!
ファイヤーラッコは悲鳴を上げ、遁走する!
「ん?鬼ごっこか?いいぜ、追いかけるのはなれてるんだ!」
◆◆◆
そうして俺は、鬼の勤めを果たすためにあいつを追いかけている!
時折、炎や小爆発が飛んでくる。牽制のつもりらしいが、ナメられたものだぜ!
知ってるかよ? ラッコみてえな下等生物と違って、人間様は炎でビビんねえんだぜェ~!
ちょこまかとすばしっこい野郎だったが、スタミナ勝負なら鍛えている俺のほうが上だ!
さーて、とびっきりの冥土の土産を考えてやらねえとな!
「この部屋だな!さあ、二回戦と行こうぜゲホゲホ!と思ったらいないぜゲホゲホ!」
なんだこの白い粉はゲホゲホ!標的に逃げられているようじゃ、プロになるなんて夢のまた夢。なんとしても逃げられる前に始末しなくては!ゲホゲホ!
「いや待て!なんとなく覚えがあるぜゲホゲホ!」
「ハッ、一手遅れたな火力バカ! これがインテリジェントだ! 節約の仕方を教えてやらァ!」
「う、うわああ~!」
ボウ!チュドドーン!ボンボンボーン!
灼熱沢ファイヤーラッコの能力が発動!小麦粉に引火し、俺達のいた建物は粉塵爆発でバラバラに吹き飛んだ……。
「ヒャハハー!キレイに吹き飛びやがったぜ!さてそれじゃあ死体の顔でも見ておくか。まあ丸焦げで誰が誰だかわからないだろうがな~!えっ、なんか思ったより爆発した……まあいっか! これはやっつけただろ!」
灼熱沢ファイヤーラッコが得意げな顔で瓦礫に近づいていく。すると瓦礫の一角が崩れて、中から黒幕死男と、例の女の子が現れた。
「ほう、まだ生きていたか。だが二人しかいないと言うことは、あのコピー野郎は消し飛んだようだな。ククク、おおかたお前ら二人を庇って灰になったってところかぁ!?」
「ケロッグー!俺なんかのために……俺なんかのために……!」
「だが馬鹿な野郎だぜー!粉塵爆発を生き残っても俺様に殺されるだけだってのによ~!むしろ楽しみが増えたってもんだ!つま先からジリジリ炙り殺してやるぜ~!」
「俺なんかのために、制服を燃やしちまいやがって!うちの制服はメッチャ高いんだぞ!またお前がお母さんに怒られちまうじゃねえかー!」
ドッゴーン!黒幕が叫ぶと同時!黒幕達の更に後方、瓦礫の山を吹き飛ばし、制服の焼け焦げた、しかし無傷のチョコケロッグ太郎が現れた!
「ば、馬鹿な!あの粉塵爆発を受けて全くの無傷だと!一体どうやって……!?はっ!そ、そうか!その女!そもそも俺の炎に包まれたはずなのに今生きているのがおかしい!そいつが実は耐火能力者で、それをコピーしたのか!なんてラッキーボーイ!えっえっ、全然わかんない!」
「へっ。何言ってるんだ。俺を助けたのは、この殺したくなるほど眉毛がプリティーな女の子の能力じゃねえ。この子はそもそもただの人間だしな。粉塵爆発を無傷で生き残れたのは、お前の能力、そして日々の鍛錬の御蔭さ!」
「な、ど、どういうことだ一体……?!発火能力でどうやって粉塵爆発を耐えたと言うんだ!」
「発火能力なんて嘘をつきやがって。俺は能力をコピーできるけど、内容まではわからないからな。危うく騙されるところだった……だが見抜いたぜ、お前の能力の正体!」
「何を言ってるんだ!?俺は正真正銘生まれた時から}(生まれた時は元気な赤ちゃんでした。体重4375g!)名前通り発火能力者だぞ!」
「何を言っても無駄だ。力を思いっきり込めたら、粉塵爆発を耐えられたことで確信した。お前の能力は、発火能力なんかじゃねえ!粉塵爆発を筋力で跳ね除けられるレベルの……発火能力に見せかけた、超強力な、身体能力強化能力だ……!」
+
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畳んどきますね |
心当たりは、最初からあった。あれは中学三年生のときのことだ。俺は日課である3000kgダンベルを使った筋トレを終え、シャドーボクシングをしていた時のこと。
何度目かに拳を奮った瞬間、俺の服が炎に包まれたのだ。何が起きたのか分からなかった。だが後に、拳を振る速度が早すぎて、服が空気との摩擦熱で燃え上がったのだと気付いた。
灼熱沢ファイヤーラッコの能力を見た瞬間、その時の事がフラッシュバックした。
あの手から出たと思った炎は、多分摩擦で火をつけてガソリンとかで延焼したもの……そして俺が相殺したと思っていたのは、何の事はない。ものすごい速さで手をかざしたから、起こった風が火をかき消しただけだったのだ。
そう、発火能力者っぽい名前も、態々能力をコピーされた時に「同じ発火能力者だと!?」と驚いてみせたのも、全ては己の真の能力を隠すためのブラフ……!
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粉塵爆発を耐える力を俺はコピーできていない……そう錯覚させるための……巧妙な心理誘導だったのだ!
「えっ、そうなのか……!? お、俺は炎を操るラッコではない……? えっ」
「そう……お前の名前、ファイヤーラッコというのもよく練られた罠だったぜ! そうなんだろ……マッスルラッコ!」
「マ……マッスルラッコ!!」
そんな! 騙していたのかマッスルラッコ!
「お、俺は……俺はマッスルラッコなのか……!?」
「自分すら欺いてみせるとはな! 人殺しの祭典は、とんだ魔窟ってわけだ! さあ、ここからは搦手なんてなしの、正々堂々殴り合いと行こうぜ!」
「せ、正々堂々の! ……あっ、もしかして火は使わない?」
「そうだ!」
「やっっっっった!!!!!」
チョコケロッグ太郎の身体が僅かに沈み込んだその刹那、マッスルラッコの眼前へ迫る。
上体を捻り、渾身のストレートがマッスルラッコの顔面を捉「の、ノーーーッ!!」
咄嗟の爆発で無理矢理身を躱すマッスルラッコ!
振り抜かれたストレートは空を切るが、その殺意は衝撃と化して瓦礫を粉砕する! 腕のリーチを完全に無視した天然砲弾だ!
「全然やってねえ! さては当たったら即死ぬやつだなそれ!?」
「ああ、すっげえ能力だぜ! お前、一体この能力でどれだけの人を殺してきたんだ? ずっと俺のものにしたいくらいだ!」
「ひ、一人も殺ってねえよ……! こんなんが普通に学生やってんの!? 勘弁してくれ!!」
マッスルラッコは思案する。
王城は既になく、瓦礫散乱する荒れ地と化した。
周囲を取り囲む火柱は燃え広がり、依然変わらず包囲する……どころか、延焼し勢いを増している。
目の前の相手は、耐久、攻撃共に規格外の性能を誇る。
正道では勝ち目はない。ならばどうする。
活路はどこだ。考えろ。考えろ。燃えている。炎。奴がこれまでに生成し、放ってきた炎は如何程か。いくらだ? 今までこれほどの炎をつくったことはない。まるで想像がつかない。大丈夫か? 取り敢えず大丈夫ではない。退路がない。えっこれ負けたらどうなんの? ガス代って踏み倒せたりする? しないよね? アレ? 負けらんなくない? 不労所得パーリーエブリデイYoutuberの未来が俺を待っているはずではなかったのか? えっちょっと待って、てっきりノーリスクな博打だと思ってたのに何これおかしくない……? いや、えっ……ちょっと待て……マジかこれ……ガス代……はーーー……マジか……マジ額半端ないでしょこれ本当いくらになん
「のかなってウッワあっぶねえ!! 集中!! ハイ集中!! あっぶねえ!! 死ぬ!!」
ガス代に惑わされるな! 死が拳となってお前の顔面を貫くぞ!
マッスルラッコも、チョコケロッグ太郎も、あるのは発火能力に見せかけた、超強力な、身体能力強化能力のみだ!
「へっ、また躱されちまったか! 流石だぜマッスルラッコ! だがこちらもそろそろ時間だ! 畳み掛けるぜ!」
絶体絶命のピンチ! 綱渡りが如き回避も、単発だからこそ成せた業! 連打の前には限界がある!
「いや、そうか。待てよ……」
あっなんかひらめいた!
「俺はマッスルラッコ!!」
彼はマッスルラッコ!!
「俺の能力は、粉塵爆発を筋力で跳ね除けられるレベルの……発火能力に見せかけた、超強力な、身体能力強化能力!!」
彼の能力は粉塵爆発を筋力で跳ね除けられるレベルの発火能力に見せかけた超強力な身体能力強化能力!!
「つまり……燃え盛る炎でさえも、筋力で跳ね除けられる超強力な身体能力強化能力!!」
やったーーーーー!! めっちゃすごい!!
チョコケロッグ太郎に背を向けて、取り巻く炎の中へ飛び込んでいくマッスルラッコ!!
本来であれば炎を操る能力でもなければ不可能な芸当だが、そこは流石のマッスルである! 彼の筋力の前では、炎など敵ではない! すっげー!!
「へっ、考えたな! 頭のキレる野郎だぜ! だが残念だったな……粉塵爆発を筋力で跳ね除けられるレベルの発火能力に見せかけた超強力な身体能力強化能力なら、俺にだって使えるぜ!!」
◆◆◆
「だめだケロッグー! 他に何か打つ手を考えるんだ! それだけじゃあ、あいつはシリアルキルできねーぞ!」
観客席に座る黒幕の助言が、虚しく空へ消える!
チョコケロッグ視点のディスプレイに映るのは、ただ炎の赤一色である! これではマッスルラッコの姿を追うことはできない!
当然それはマッスルラッコも同じであるが……。
「俺たちには時間がねえんだ! ちくしょう、10分……10分を迎えちまったー! ケロッグ!」
◆◆◆
10分。
そう、チョコケロッグ太郎がファイヤーラッコの会敵から、10分が経過した。
なんか逃げ回ったりダラダラ戦っていたのでもっと時間経ってそうじゃない? とお思いの方もいらっしゃることだろう。でも10分でーす。
なんか命の危険に晒されていると時間が長く感じたりするそういうやつでーす。
ともかく、シリアルキラーにとっての10分は非常に重要な意味を持つ。
プロローグに
邂逅から9分20秒。時間ギリギリだったが……シリアルキル、コンプリートだ!
と書いてあったから、たぶん重要な意味を持つのだ。
キャラ説にも能力にもプロローグ内にもこれ以上の言及が見つからなかったので詳しいことはよくわからないけれど、自分なりにがんばってかんがえました。
たぶんこうだと思います。
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というわけで、 |
というわけで、
「はい!突然ですがここでオレ様爆発オチ太郎の出番でーす!」
(爆発オチ太郎は、文字数や時間や気分的な問題やシリアルキルチャレンジで10分が経過することによって自然発生する形而上存在です!)
「よいサイズの石油コンビナ……既に火に巻かれてる……」
(ダイナミックな音)
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◆◆◆
「ケロッグー!爆発オチなんかのために……爆発オチなんかのために……!」
握った拳から血が滲む。黒幕は、己の無力さに涙していた。
「爆発オチなんかのために、制服を燃やしちまいやがって!うちの制服はメッチャ高いんだぞ!またお前がお母さんに怒られちまうじゃねえかー!」
◆◆◆
お詫び:よく考えたら既に一度爆発してました。なんでこんなに爆発ばかりしてるんだろう。
◆◆◆
「へっ、粉塵爆発どころか石油コンビナート爆発すら筋力で跳ね除けられるレベルの発火能力に見せかけた超強力な身体能力強化能力で助かったぜ! スースーすらあ!」
「能力はコピーできても、粉塵爆発どころか石油コンビナート爆発すら筋力で跳ね除けられるレベルのキュートなラッコ体毛だけは俺のものだ。残念だったな!」
爆炎の中から、二人の男(全裸)の姿が飛び出す! 至って健在だ!
ただ一点……コンビナート爆発により、遥か戦場外まで投げ出されたことを除いては――!!
◆◆◆
特設ステージ・浮島。戦場の指定範囲は、浮島、並びに、周囲1km。
即ち、先に落下した者の敗北が決定する。
より下を落ちるのは、チョコケロッグ太郎だ。
「いや、本当にビビった……悪いが最悪の戦いだったぜ。空の空気はキンキン冷えやがるな。お陰で頭も冴えてきた」
「まだ終わりじゃねえ! お前の能力と、俺の日々の鍛錬があれば……不可能だって、超えられる!」
両腕を空へ翳し、勢いよく、全力を込めて振り下ろす。鳥が空を羽撃くように。
空を舞う鳥。
そんな芸当は、今の彼には不可能だ。鍛え続ければ、或いはその境地へ達することもできたかもしれない。
だがそれは今ではない。
そして、今必要なことも、それではない。
ただ、僅かに。落下の速度を遅らせるだけ。
その程度の足掻きには十分すぎるほどの努力を、チョコケロッグ太郎は積み重ねていた。
「シリアルキルがお預けになっちまったのは心残りだが……悪いなマッスルラッコ。人通りの少ない夜道で、また会おうぜ」
マッスルラッコのマッスルボディが、チョコケロッグ太郎を追い抜いていく。
「……驚いた。俺、てっきり衝撃波パンチで殴りかかってくるものと思ってたよ。お前も、意外とクレバーなとこあるんだな」
チョコケロッグ太郎をゆっくりと見上げる。
「しかし、危うく勢いに呑まれるところだった。いや、実際呑まれてたけど。俺の能力は、やっぱり身体強化じゃあない」
ちりちりと、煌々と、炎が全身を焦がす。
「俺はファイヤーラッコ。炎を操る、そんなラッコだ。じゃあな」
爆発。
推力を得たファイヤーラッコは、筋力を超える。
斯くして、戦闘はここに終了した。
「……ケロッグ! ケロッグー! 目を覚ましてくれー!」
声が響く。聞き慣れた声だ。
いつだって俺を気にかけてくれる、相棒の声。
思えば、心配ばかりかけていた気がするな。
「死男。おはよう」
「ケロッグ! よかった! お前、浮島から落ちてさっきまで笑えるくらいグッチャグチャだったんだぜ!」
「まじかよ。ははっ、まだまだ鍛え方が足りないみてーだな」
グロリアス・オリュンピア。人殺しの祭典。
ここで実績を積めばプロシリアルキラーへの道が拓けるかと思ったけど……俺はまだまだ未熟みたいだ。
「なあ、死男」
「なんだ?」
「……俺、進学するよ」
「! ……シリアルキル学部のある大学は、まだどこにもないぜ。プロを目指すならやっぱり、」
「シリアルキルなら、大学でだってできる」
「…………」
「プロになるには、俺はまだ力が足りないよ。テニサー、飲みサー、宗教サー。きっと、大学だからできる経験もあると思うんだ」
「……それが、お前の決断なんだな」
「ああ」
失望しただろうか。
こんな選択をした俺を、相棒は、やはり相棒でいてくれるだろうか。
俺らしくない不安を隠すように、笑ってみせる。
「……いいぜ。俺はお前についてくさ! それに、なんだか大学も楽しそうだ!」
「だろ?」
俺達はまだ若い。
今でなくても、明日。明日でなくても更にまた明日。
俺が諦めない限り、鍛錬を続ける限り。
シリアルキルは終わらない――。
◆◆◆
治療室を出る。
ケロッグが完治するまで、もう暫くかかるそうだ。
「ああ、ケロッグ。それでいい。お前の中に、シリアルキルがある限り」
黒幕死男の身体が軋みをあげながら膨れ上がっていく。
小柄なシルエットはなりを潜め、そこにあるのは鍛え抜かれた肉体であった。
容姿を骨格から操作できるレベルの……超強力な、鍛錬だ。
黒幕死男、真の名をワサビスフィンクス鉄郎。
チョコケロッグ太郎の父その人であり、ただ鍛錬のみによって人外の域に達した――人間である。
「俺が、お前をシリアルキラーをシリアルキルするシリアルキラー……シリアルキラー・キラーとしてみせよう」
ワサビスフィンクス鉄郎は、最凶のシリアルキラーである。
彼を満足させるシリアルキルはとうにこの世には存在せず。
シリアルキラーをシリアルキルするシリアルキラーをシリアルキルするシリアルキラー・キラー・キリングを求める、舞台装置へと成り果てていた。
チョコケロッグ太郎の物語は続いていく――。
◆◆◆
※ファイヤーラッコの勝利者インタビューは、謎の爆発によって急遽中止となりました。