SSその2


青い空!濁った空気!立ち並ぶ高層ビルの数々!ここは疑う余地もなくオフィスビル街!
にもかかわらず通行人の一人も見当たらないこの異常事態…ということは!や、やった!ここはグロリアス・オリュンピア第2回戦の戦場、【オフィスビル街】STAGEに違いないぞ!遂にたどり着いたんだ!
ああ、そして見るがいい!その中でも一際高いビルの屋上で、既に戦闘が始まっている!

向かい合うは二人の戦士。一人は警視庁所属の魔人公務員、澪木祭蔵。もう一人は…えっ!?
いや、ちょっと待て!そんなはずがない!ここは…ここは【オフィスビル街】だぞ!雪村桜(初号機)、澪木祭蔵、そしてモブおじさんの三人のためだけに用意された特殊空間だ!だというのに…その姿は!


そこにいるのは、「異形」だった。人間の身体に、獅子の頭が乗っている。さらにそのたてがみからつま先に至るまでが、鈍く半透明に輝く結晶体で出来ている。見たままを言い表すならば…それは、この場にはひどく不似合いな、獣人の彫像に他ならなかった。


【第2回戦:オフィスビル街STAGE】

【雪村桜(初号機)vs澪木祭蔵vsモブおじさん】

『異形』



「全くもう…っ!」

嫌になるわ、という言葉を発する暇もなく腕に衝撃が走る。不意に死角から放たれた打撃を、寸でのところでガードしたからだ。
戦闘開始から既に10分以上。このようなギリギリの攻防を何度も凌いだ。あと何回凌げるかは分からない。澪木は、自身の劣勢を冷静に受け止めていた。

「ククク、粘るじゃないか澪木くん…それでこそ犯りがいがあるってもんよぉ~~~!!」

澪木と対峙するその男の名は、モブおじさん!この醜悪な言動からして間違いない。
間違いないのだが…先ほど説明したとおり、その外見は獅子を模した獣人の彫像。さらに全身から発されるこの甘い匂い。材質は氷砂糖だろう!ああ、みなまで言うな分かっている!

その姿はまるで、つい先日澪木を苦しめた…第102代日本国総理大臣、則本英雄ではないか!?

無論、モブおじさんは則本英雄ではない。すなわちこの状況はただの偶然。澪木の能力『TDL』により変身した結果が、偶々二人とも同じだっただけ。なるほどそれなら納得…できるかばか!
『TDL』はその者の心の在り様、深層心理が反映される能力である。則本総理ならいざ知らず、モブおじさんが雄雄しき獅子…ましてや甘い氷砂糖だと…?冗談も休み休み言え!

…否。我々は、そして他ならぬ澪木は知っている。
澪木の能力によって体が菓子に変わる者。その多くは、秘めた夢想の如き理想を、捨てず、曲げず、まっすぐ半生に打ち出して来た人間。

……確かに、条件は満たしている!この男は、好きな時に好きなだけ他人をレイプするという夢想の如き理想を半生に打ち出しまくっている!嘘はついていない!
だ、だがライオンは!?このようなケチな性犯罪者に、百獣の王たる器があるとでもいうのか!?

ところで読者の皆様はライオンのセックスを知っているだろうか。
彼らにはいわゆる繁殖期は存在せず、一年中いつでも発情すればセックスをする。
そして一度始まれば1日のうちに数十回もの射精をこなし、長ければ平気で数日間腰を振り続けることもあるのだ!すごいすごーい!

もうお分かりだろう…この衝動性!この野生!セックスにおいて、モブおじさんはほとんどライオン!困ったことにかなり辻褄が合う!どうせ則本総理も夜はライオンだったんだろ!

「ハァッ!」
「フハハ、効かんわ!」

お返しとばかりに繰り出された澪木の正拳突きを、モブおじさんが余裕綽々の表情で受けきった。なんたる強靭な肉体!流石は氷砂糖の…ん?いやいや待て、おかしいぞ!

危うく誤魔化されるところだったが、そもそも氷砂糖、ひいては結晶体で構成された身体は衝撃に弱いはず!一回戦でそう解説されてたぞ!則本総理は偶々硬質化能力と噛み合ったからそこが克服されていたが、モブおじさんが何故澪木の拳を受けきれるのか!?

果たしてその答えは、モブおじさんの股間にあった。そう、ペニスである!もう分かっただろう!

皆さんご存知の通り、人間と違ってライオンのペニスには骨が通っている!それに加えて和姦道で鍛え上げられたペニスの硬度を考えれば…もはや金属バットでぶん殴られようともびくともしない無敵の要塞!モブおじさんは驚異的な反射神経で澪木の打撃の全てを股間で受け止め、以って無効化していたのだ!

ああ、それにしても硬質化で弱点を克服とは…そんなところまで瓜二つか!もはや運命的なまでの符合である。もしも何か…何か一つでもボタンを掛け違えていたら、総理がレイプ魔、レイプ魔が総理になっていたのかもしれない。そう考えずにはいられない。

「はぁ、はぁっ…!汚いもの、触らせないでよね…!」

澪木の息は荒い。厄介なステルス能力を持つモブおじさんと広い空間で戦うのを避け、屋上まで誘導したのは澪木自身だ。ここなら少なくとも逃げられることはない。
その選択が間違っていたとは思わないが、誤算だったのはモブおじさんの変身した姿。

則本英雄。強く…そして恐ろしい男だった。戦場を利用し、持てる武器を使いきり、泥にまみれて勝ちをもぎ取った相手。もう二度とやりたくないと思ったあの怪物が、どうしても脳裏をちらつく。理性が何と言っても、身体があの恐怖を覚えているのだ。

その結果が、この劣勢。万全のコンディションなら少なくとも互角以上に持っていけたはずだ。
では、何故すぐに能力を解かなかったのか?

当然、数合打ち合った時点で己の不利を予感した澪木はすぐに『TDL』の解除を試みた。だが出来なかったのだ。その理由はモブおじさんの能力、『MOBの『世界』(マスク・ワン・ボーダー)』である!

相手の怯えを感じ取る。素直に言えない気持ちを読み取る。和姦道の使い手であるモブおじさんにとって、それは息をするように容易いこと!澪木本人より早く彼の不調に気付いたモブおじさんは、その時点で「『TDL』のコントロール力」をこの屋上から排除していた!

能力をオフにできないことに気付いた澪木にできることは、己を強いて則本総理の幻影と戦うことだけであった。
単純な打撃では異常硬度を誇るペニスを崩せず、かといって和姦道の達人に身体が密着する組み技を仕掛けることもまた悪手。じりじりと後退しながら攻撃を捌き続けてきたが、もはやそれも限界に近い。
背中側に屋上を囲むフェンスの存在を感じる。押されれば簡単に越えてしまいそうな、頼りない高さしかない。

「クク、どうやら前戯はここまでのようだな…!」
「ほんっと下品な男…!」

そう言いながらも澪木は気を緩めず、腕を交差して防御を…否!一瞬早くモブおじさんのペニスが突き出される!

「そこだ!獲ったりぃーーー!!!」

澪木の時間間隔が鈍化する。粘ったが、もはやこれまでか。徐々に近づいてくるペニス。愉悦にまみれるモブおじさんの表情。視界の端に空飛ぶ少女。視界の端に空飛ぶ少女?

「ああああああああああああああ!!!!!!!!!!!」


青い空。濁った空気。立ち並ぶ高層ビルの数々。ここは三人の戦士のためだけに用意された特殊空間【オフィスビル街】。その中でも一際高いビルの屋上に…最後の戦士がエントリーした。


「あああああああああああああああああああアアア!!!!!!!!!!!!!!!!!」


試合が始まってからの雪村桜の動向は、一言で説明できる。迷子である!

生まれてからまだ2年。人生の大半を地下と実験室、またはごく近所で過ごしてきた彼女にとって、この戦場はまるで迷路のようだった。
所狭しと並んでいる高層ビルの数々、その間を走る細かい道々、見分けがつくはずもなく、同じところをグルグルと回ってただ時間を浪費した。

流石に不味いと思った彼女の選択は、視野の獲得。とりあえず敵を見つけなくては!

思い立ったが即行動。桜七大兵器が一つ、究極の取捨選択「桜ロケット」により彼女の身体は空へ飛び立った。高層ビルを見下ろせるほどの高度をキープし、戦場を俯瞰するためだ。

そう…雪村桜は飛んでいた。本当に、ついさっきまでは飛んでいたのだ。脚部の燃料を使い切り、そろそろ切り離そうかというタイミングで、突然ロケットエンジンが停止するまでは。

「えっ!?あれ!?あああああああ!!??」

思わず叫ぶもどうすることもできず、桜は物理法則に従い自由落下!下は地面か?いや、どこかの屋上!そこには二人の人影が見える!
そもそも桜は先ほど飛行中に何らかの戦闘音を感じ取り、そちらに向けて飛んでいる最中だった。状況から考えるに戦闘音の発生源は彼ら。つまり敵。ああ、つまり!このままだと敵の目の前で落下死する!


一方その頃、屋上では戦況に異変が起きていた。

絶叫しながら落下してくる少女の姿を確認した瞬間、モブおじさんが澪木から距離をとったのだ。
それは空からの来訪者を警戒してのことではない。彼の中で生じた、非常に大きな葛藤の末の行動だった。すなわち、愛かレイプかである。

あとほんのわずかな時間があれば、澪木は倒せた。間違いない。それはつまり、この大会の優勝への道…初めて自らを求めてくれた、シロナという天使に捧ぐ道だ。だがモブおじさんは苦渋の思いでそれを捨てた。何故なら今は…それどころではなかったから。

モブおじさんはバックステップし、桜の落下予想地点に立つ。その表情は笑顔。全てを受け入れるとばかりの満面の笑み。まさか彼は落下死必至の少女のために、自らの身体をクッションにして救おうというのか!…違う、そういう種類の笑みじゃない!これは…まさか!そういうことか!

モブおじさんは股間を天高く突き上げて桜を待つ!ま、まずい!不慮の事故により少女が落下、その下で偶然にも勃起している男性の図!
このパターンは…空から美少女が降ってきて、偶然にも挿入してしまうやつ!エッチな漫画でよくあるやつだ!

歴戦のレイプ魔であるモブおじさんといえど、未だ体験したことのない非現実的セックス!一生に一度あるかないかの大チャンス!ここでセックスに踏み切らなければ、もはやセックスに失礼というもの!ライオンのセックスを知っているな!今がそのときだ!!

ペニスを天に向けたまま、モブおじさんはブリッジの姿勢をとる!確実に股間で受け止めるためだ!
さらにあんまり痛くないように『MOBの『世界』(マスク・ワン・ボーダー)』の使用により雪村桜の過剰な加速をカット!目に見えて落下スピードが減少!紳士だね!

「ああああああああっ、っつわああ!?」

着地までおよそ10mといったタイミングで突如勢いが減り、混乱する桜。だがこのままでは彼女の貞操は最悪の形で奪われてしまう!ちなみに今回もばっちりライブ映像を雪村ラボにお届け中だ!
ていうかこの試合自体が全世界放送中だぞ!勘弁してくれ!!

「ヒギィッ!!!」

蛙の潰れたような悲鳴が上がる!ああ、桜!あわれモブおじさんの慰み者に…否!声を上げたのはモブおじさんの方だ!一体何が起きている!

原因は、モブおじさんの体勢にあった。
ペニスに骨が通っていることからも分かるとおり、彼の骨格はいまやライオンのそれに近い。そしてネコ科の動物は…ほとんど背骨を反らすことが出来ないのだ!ブリッジなどしようものなら、はっきり言ってへし折れる!今、モブおじさんの背骨は見るも無残な有様になっていた。

「あわわわ避けてくださ──!」

次の瞬間、激痛に耐えかねて崩れ落ちたモブおじさんのもとへ桜が落下してきた。着地点は股間から大きくズレ、桜の臀部が獅子の頭に叩きつけられ、そして。

「あっ」

それは誰が発した言葉だったか。したたかにお尻を打ち付けた桜が思わず発した一言か、それとも冷静に状況を観察していた澪木のものか。もしくは…己の最期を悟ったモブおじさんのものか。

衝撃に弱い結晶体で構成されたモブおじさんの頭部は、少女の尻の下でバラバラに砕け散った。

あまりにも呆気ない最期である。だが彼は…愛よりレイプをとったことを、きっと後悔していない。


【モブおじさん:死亡】


何かよく分からないが勝利に向けて一歩進んだ。桜はそう前向きに捉えてもう一人の男の方を向き、そして眼前に迫る拳を見た。

「うわっ!」

瞬時に身体を捻り、緊急回避!そのまま敵の腕を掴みにいくが、躱され更に追撃の下段蹴り!桜は後ろに飛んでこれも回避し、視線を澪木の心臓のある場所へ向ける!今だ、桜レーザーが…出ない!?馬鹿な!

桜はそのまま距離をとり、呼吸を一つ。
先ほどから妙な胸騒ぎがしていた。空中から落下したとき…かつてないほどの「死」を感じた。そして今。何故か今、ひどく不安になっている。今の自分はどうしてか…首が取れたら死ぬ気がする!

そのえもいわれぬ違和感は、無理やり言語化すれば「人間性」といったところか。雪村桜は薄らと、自分が人間になったことを理解し始めていた。


対する澪木も心中穏やかではない。亀のように殴られっぱなしだった一回戦と比べて、敵は随分とキレのある動きをしているように見える。何らかの訓練を積んできたか。まあ、それはいい。脅威を感じるほどではない。それよりも…何故姿が変わらない?

『TDL』は間違いなく発動しているのに、桜が変身する様子はない。傭兵時代の経験から完全に自由意思のない「機械」に関しては能力の対象外だと分かっているが、目の前の少女がそれらに属するものだとは思えなかった。ただの直感だが、どうにも違和感が残る。

…澪木祭蔵には分からない。雪村桜自身にも、理解できているわけではない。ただ彼女は心のどこか奥深くで、「人間」を異形と捉えていたから。自分とは違うものだと思っていたから、『TDL』はいつものように、対象を異形の姿に変えたのだ。

「ねえ…別に答えなくてもいいんだけど、一応聞いておくわ。あなたは、何者なの?」

揺さぶりをかける。実際、どうでもいい質問だった。相手が何かを考えてくれたならその隙をつける。ついでに情報が得られればラッキーという程度のもの。

「私は雪村桜です。あなたは何者ですか?」

返ってきたのは、やはり何の意味もない答えと質問。澪木は「さあ、何者でしょうね」と呟きながら再び接近した。
相手が仕掛けてこない以上、恐らく待っても何も得られない。未知の攻撃にだけ注意して肉弾戦で押し切る。一先ずの方針は立った!

一方、桜も今の応対の間に現状把握を済ませていた。桜ロケット、桜熱膨張…駄目もとで桜七大兵器の発動を試してみたが、そのどれもが不発。間違いなく戦力が低下している。
そしてこの状況は恐らく澪木の能力によるもの。自分は今人間に変身しており、耐久力も著しく落ちている…はず。そもそも人間の経験がないので、確証など持てはしない。

まさか食らって試してみるわけにも行かず、迫り来る澪木の右腕をかいくぐり顎先へ掌底を放つ。
あっさりと避けられ、伸ばした腕を掴まれた。まずい。即座に両足で跳び全体重を澪木の腕に任せて宙吊りになり、握力が緩んだ瞬間に腕をねじって拘束を解く。
そのまま澪木のつま先へ向けて着地するがこれも躱され、また掴まれないうちに一旦退がる。

なんとか、戦えている。桜の頬を汗が伝う。今日の朝まで取り組んでいた「雪村ラボ(通算)百人組み手」の成果だ。
一回戦でスタッフたちが文字通り死ぬ気で取った戦闘データを解析し、実戦を以って桜の身体に学習させた。さらに対戦相手の舞雷不如帰の動きも出来る限り解析し、桜に最適化させて組み込んでいる。

だが、付け焼刃である。
避けても避けても次の攻撃が飛んできて、逆にこちらの攻撃は通用しない。
澪木の猛攻は徐々に防ぎきれなくなっていくのに、桜の攻撃は一度たりともクリーンヒットしていない。

まるで桜が落ちてくる前のモブおじさんと澪木のように、劣勢側がフェンス際へと追い込まれる。油断せず最善手を打ち続ける澪木祭蔵を相手に、桜ができることはほとんどない。
そして遂に桜の肩にフェンスが当たった。

「これで終わり…最後まで諦めなかったの、とってもかっこよかったわよ。貴女はきっと美人さんになるわ」

それは澪木の本心だった。明らかな実力差。ほぼ一方的に殴られ続け、それでも粘り続けた桜の気迫。少女らしからぬその執念が、澪木に最後まで気を抜かせなかった。だからこその、賞賛。

「まだ…終わりじゃ、ないです…」

息も絶え絶えといった様子の桜が言葉を返す。澪木は満足そうに頷き、凄まじい速度で右拳を振りぬいた。手応えは、ない。

桜は後ろに跳んでいた。言うまでもなく、そこはフェンスの向こう側。最後まで意地を貫いたか──

ほんの一瞬だけ浮かび上がった桜の身体が、重力に従い落ちていく。

澪木の視界からその小さな身体が消える。と同時に。

今振りぬいたばかりの右腕に、縄が巻きついた。


「なっ…!」


ご存知…ああ、ご存知だろう!桜七大兵器が一つ、残された最後の良心「桜カウボーイ」だ!
最後の良心の名は伊達ではない。桜七大兵器の中で、これだけは唯一桜の身を削らない外付け兵器!袖の中に隠されたこの兵器に、桜は最初から全てを賭けていたのだ!さあ地獄へ付き合ってもらうぞ!

だが澪木は瞬時に己の置かれた状況を理解し、フェンスにしがみついた。両足にあらん限りの力を込めて、予想される衝撃に備える!次の瞬間!

「んぐぅっ!!!…っ舐、めんじゃないわよ…!!」

果たして彼は耐え切った。フェンスに覆いかぶさるようにして屋上に踏みとどまり、右腕一本で桜の体重を支えている。それでも半身を乗り出すところまでは引っ張られ、目線の先に縄を掴んだ桜の姿を確かめる。
地上までの距離が遠い。もしもこのまま引きずられて一緒に落ちれば、先に地面へ叩きつけられるのは自分かもしれない。

「ふっ、ぬぅ…!!はあああああ…っ!!」

このまま我慢比べに付き合うつもりはない。たかが少女一人の体重…引き上げられないほどではない!

同様に、桜も我慢比べに付き合うつもりはなかった。いかに最後の良心といえど、桜七大兵器の一つ。桜カウボーイがただの縄であるはずもなし。桜が持ち手のボタンを押すと、10mは伸びていた縄の部分が即座に縮む!伸縮自在がこの兵器の真価だ!

澪木の眼前に桜の頭が高速で迫る!だが、フェンスに身を乗り出して踏ん張っている澪木に避ける術はない。突き出た顎に、桜の頭突きが炸裂した。

「ごがっ!!」

澪木の意識が混濁する。脳震盪だ。一瞬足の力が抜け、前のめりに倒れそうになるが、ぎりぎりで堪える。敵の姿はどこだ。縄の先に気配を探る。そして。

とん、と背中を押される感触があった。次いで両足が浮く。

鈍化する時間感覚の中、空中で身体を捻るようにして上を向く。先程まで自分が立っていた場所に、雪村桜が立っている。立場が逆転したか。

…否。澪木にももう分かっている。桜はその手にもう何も持っていなかった。


最後の良心、桜カウボーイ。どこにも繋がっていない命綱と共に、澪木は落ちていった。


【澪木祭蔵:死亡】


──第2回戦:オフィスビル街STAGE、決着。 勝者、雪村桜(初号機)。



【現在判明している桜七代兵器】

非人道兵器「桜レーザー」
自らの命を削る大技「桜チェーンソー」
残された最後の良心「桜カウボーイ」
究極の取捨選択「桜ロケット」←New!
人類共通の敵「桜熱膨張」←New!
最終更新:2018年03月26日 01:08