『1回表・涙のコールド、サヨナラホームラン』
「うーん、うんうん、ふーむ、まあこんなもんでっか」
エビマル=グランディアは自分の名前が書かれたカルテを何度も見直していた。
ここに書かれている事が本当ならばエビマルは半年後には確実に生きていない。
そして例の大会が開かれるまでには姫の出国許可や会場の用意に運営委員の選出にルール制定、
どう考えても大会開催まで1年近くかかる。
王国トップアスリートのエビマルとスポーツ観戦が好きな姫が親しくなるのは自然な事だった。
彼女が日本人と協力して魔人バトル大会を開催したいと言い出し秘密裏に準備が進められた時、
エビマルもアドバイザーとして初期の段階から企画に参加し、自らが優勝する為の準備もしていた。
「まあヤレル事はやった。どうせわては勝てまへんし、娘に任すしかあらへんわ」
エビマルは満足気に言った。
「この日ぁら丁度半年後、エビマルはこの世を去る。
彼は生涯独身で親族も既に死去していたが、数年前に施設から引き取った少女が一人いた。
「今日も一日頑張るぞいっ」
ホープ=グランディア。キリング王者の全てを受け継いだ法律上の娘がこの物語の主人公である。
『2回表・旅立ちの始球式、いざプレイボール』
大会開催20時間前。既に出場する選手のプロフィールも一般に公開され
明日にはカード発表と勝負へのカウントダウン開始、そんな時。
「うああああああー!出場権取るの忘れたー!」
二頭身の少女の着ぐるみが開催地周囲を爆走していた。
「私ホープ=グランディア!どこにでもいる競技暗殺(キリング)部所属の中学二年生!
学校での愛称はホプちゃんもしくはグラちゃん!好きな物は10連ガチャ!
お父さんの夢だった大会参加の為に色々準備してエプシロンから日本に来たの!
だけど出場権を取り忘れたうっかりガール!」
着ぐるみの口に食パンをくわえ、両手両足をバタバタさせながら走る。
サリフから察するに本人の顔は女の子がやってはいけないレベルの形相にんっているはずだが、
着ぐるみの顔は笑顔で固定されてて逆にコワイ。
「あ、着ぐるみの顔そのままでした」
突如足を止め冷静な口調でそう言うと、ホープは着ぐるみの頭を時計回りに一回転させた。
ウィーン、カーッ
「我求めるは参加資格!」
顔が後ろを向いている瞬間に口部分を開閉し表情を別パーツにしたのだろう。
顔が元の位置に戻ってくると切羽詰まった表情が出て来た。やっぱり怖い。
「うおおおお、どげんかせんとー!」
ホープが鬼の形相で走り続けていると、小さな公園にたどりついた。
公園では一人の女性軽めのがストレッチをしている。
その女性の顔はホープのよく知る、いや、今や日本とエプシロンの国民の大多数が知る顔だった、
ウイーン、カーッ
ホープは着ぐるみの顔をdフォルト笑顔に戻すと彼女を指さし名を告げた。
「お前は機界四天王のピッツア!生きていたのか!」
「私そんな名前じゃない」
「冗談です。予選落仔さんですよね。んじゃいきまーす」
「いや私の名は・・・」
落子が正しい名を名乗るヒマを与えずホープは着ぐるみの右手にナイフを構え突撃する。
そして相手の視線がナイフに向いたのを確認した直後着ぐるみの右目がハズレそこから本物の右腕が伸びる!
「こっちが本命です!」
「なにぃ!」
「必殺エビちゃんハリケーン!!」
父親譲りのフェイント殺法が見事炸裂!完全に不意を突かれた落子は魔人応力を使う暇もない!
落仔に出来たのはただ片手を振る事だけだけだ!
「げひゃぶー!」
悲鳴を上げてぶっ飛ぶ落仔!卓越した一般人のフェイントから繰り出す攻撃よりも、
フェイントに引っかかった魔人がなんとか振るったビンタの方がずっと速く威力も上なのだ。
「あんた・・・マジで一般人じゃない!何考えてるの!」
見事なフェイントから繰り出されるハエの様に遅い攻撃に二重にビkックリすると同時にほっとする落子。
魔人と一般人ではランクが違い過ぎて勝負にもならない、それは落子もそしてホープも分かっていた。
『大会参加者強さランク叩き台』
SSS:転校生、大会優勝候補、軍隊
SS:大会中堅勢、国防に関わる魔人、アルソックCM準拠の吉田沙保里
S:大会下位勢、落子、戦闘のトッププロ魔人
A:この日までに出場権を奪われた元参加者、戦闘向き魔人
B:武装した軍人単体、非戦闘型魔人、ナイフ持ったエビマル
C:吉田沙保里(リアル)、銃で武装した素人、ホープ(着ぐるみあり・ナイフあり・切り札無し)
D:エビマル(切り札・武器無し)、エプシロン兵、大会運営スタッフ、トップアスリート
E:成人スポーツマン、モヒカン
F:ホープ(武装・切り札無し)、一般人
考察材料が出るまで保留:ホープ(各切り札使用)、エビマル(各切り札使用、フェム姫)
※ホープの脳内評価なので間違いもありますし今後修正されたりもします
「ノォー!痛い痛い痛い!着ぐるみ無かったら死んでたかも!」
数メートル転がり公園のジャングルジムに激突したホープはボロボロになった着ぐるみから脱出。
「ヤバイヤバイヤバイ、魔人ってチョーヤバイ!!」
「あんたもう帰りなさい。どうせ他の参加者に私を襲うように頼まれたりしたんでしょ?」
目に涙を浮かべ歯をガチガチ鳴らすホープに落子は優しく声をかける。
「えっ、見逃してくれるんですか?というか、私が他の選手と組んでる事バレてるー!」
そう、ホープが大会開始直前にここで落子と出会ったのは偶然でも何でも無い。
ホープは参加権奪取のベストタイミングを参加者情報が公開されてから一回戦のカードが決まるまでの間と考え、
大会直前に接触しやすい落子に狙いを付け、そして他の参加者に協力を頼みこんだのだ。
さあ、「誰に頼まれたかを教えてくれれば見逃してあげる」
「わ、わかりました。言いたくなかったけど仕方ありません」
ホープは大会のパンフレットを取り出して参加者名簿の中の一番上を指さす。
「この人」
「へえ、アイツがねえ。意外」
ホープの指が下にずれて二番目の人物を指す。
「それとkの人」
「へ?・・・ああ、私を消したいから一時的に共闘したって事」
「それからkの人とこの人と」
「は?」
「仔の人とこの人とこの人とこの人とこの人とこの人とー」
ホープの指と口が高速で動き協力者を次々と伝えていく。
そして落子以外の21人全員を指した所でようやく指が止まった。
「あんたコレ、私以外全員じゃない!」
「はい、落子さん以外の全員の所にフルーツケーキ持ってお邪魔して、
『一回戦カード決まる直前に落子さん襲うんで応援してください』って頼みました。
彼らは自分以外も応援頼まれたとは知りませんが」
ホープの全身が輝き服がビリビリと避ける。
「よっしゃ来たでー!」
「な、なに?」
「解説しましょう。全員の応援を受けた私は何か雑に強くなって勝利するのだー!!」
ホープには父より受け対tだ魔人に勝つ為の四種類の切り札がある。
騙して勝つ『大嘘』、
特殊ルールで勝つ『暴食』、
戦場を壊して勝つ『天雷』、
他者の力で勝つ『結束』。
いずれも仕組みと準備さえ出来れば誰にでも使え、それ故に一回きりの使い捨てのカード。
ホープはその中の一つ『結束』を使ったのだ。
過去に合った大会の決勝で敗退者全員の声援を受けて本人の限界以上の力を発揮して勝つという事態が多発している。
この現象において重要なのは、力を受けるのが魔人である必要はない事と決勝戦である必要も無い事。
ホープはその力をこのプロローグ戦でぶっぱしたのである。これこそが切り札『結束』の正体!
「そんじゃ、この力が消えない内に倒しちゃいましょう。そーれどすこいっ!」
「ちょ、タンマタンマ!私こんなの聞いてないって・・・ギャー!」
エドモンド本田ばりの掛け声と共に頭から雑にぶちかましたホープ、
先程の攻防とは逆に圧倒的な力を持つのはホープの方。落子は雑な突撃をどうする事もできず雑に敗退した。
その後、落子はホープのアジトに引きずられていき大会終了までの間毎日ホープの代わりにスマホゲーにログインし
レベル上げとログインボーナスを受け取る仕事を与えられた。
サンキューオッチ、フォーエバーオッチ。
そしてこの結果に怒り心頭なのが他の参加者21人。
なんせ決勝の伝統芸を大会前にぶっぱされてしまったのだ。これは決勝の勝ち筋が消えたに等しい。。
「ホープこのやろう」
「ホープこのやろう」
「ホープこのたろう」
ある者は落子が怪我したらラッキー程度に考え、
ある者はフルーツケーキにつられて、
「ある者はただ面白うそうだと思いホープの応援を約束してしまった。その結果がコレである。
残りの切り札は『大嘘』『暴食』『天雷』の三種、本戦は全4試合。
果たしてホープは全力で潰しに来る魔人相手に生き延びる事が出来るのか!?