プロローグ(チョコケロッグ太郎)
俺の名前はチョコケロッグ太郎。ぐっと力を込めると視界の中にいる魔人能力をコピーできる、どこにでも居る普通の高校生だ!
俺は今真剣に、それはもう白刃取りできないくらい真剣に悩んでいた。原因は机の上に置かれた進路希望調査表だ。
人の将来を死体にすることは出来ても、自分の将来のこととなると全く思い浮かばねえ。かれこれ一週間、進路希望調査表は白紙のままだ。
「おいおい、チョコケロッグ~!な~にいっちょ前に悩んでるんだよ!お前の取り柄なんて一つしかねえだろ!さっさとプロシリアルキラーって書いちまえよ!」
俺を励ましたのは、隣の家に住む幼馴染、黒幕死男。ぐっと力を込めても能力をコピーできない、只の人間だ。
たしかに俺も、プロのシリアルキラーになりたいと思ったことはある。でも、その事を母ちゃんに話したら猛反対されちまったんだよな。
『いい、太郎。プロのシリアルキラーになるのは大変なことなのよ。食べていけるのは本当に一握り。それに殺したくない時にも、殺したくない相手だって殺さなきゃいけないこともある。あんたにその覚悟があるの?』
今までその場の衝動に任せてシリアルキルしてた俺は、何も言い返せなかった。なにかシリアルキラーとしての実績でもあれば、反論する勇気も出てきたんだろうけど……
結局その日も進路希望表は書き上がらなかった。受験も近いのに、自己嫌悪が募っちまうぜ!
「まあまあそんな落ち込むなって。こういう時はよ、一発シリアルキルでもしてスカッとするのが一番だろ!行こうぜケロッグ!」
全く、黒幕はいいこと言うぜ!俺は日課のトレーニングを終えた後、死男と一緒に街へ繰り出した。
うっひょ~!やっぱり人混みを見るとテンション上がるぜ!どいつもこいつも殺してえ!嫌なことも忘れて、ガンガン殺意が湧いてくらあ!さて、今日はどいつをシリアルキルすっかな!
「あの赤髪の男なんてどうだよケロッグ!世の中俺の思い通りにならない事はないって言いたげな傲慢な面してるぜ!悩んでる今のケロッグが殺すにはぴったりじゃねえか?」
ドストライク~!黒幕は何時も俺の好みのシリアルキル相手を見つけてくれる。幼馴染に収まらない、俺の最高の相棒だ!
俺たちは男の息の根を止めるため、意気揚々と後を追った。だが、男が襲うのにうってつけな人通りが少ない薄暗い裏路地に入った、その時!
「う、うぎゃばおおおー!」
「なんだ、今のは。女の人の……悲鳴!?」
「なにかおかしいぞ!急げケロッグ!」
急いで裏路地に入る。そこで俺達が見たのは……ゲゲー!赤髪の男が縛り上げられた幸薄そうな女の子に油をかけて、炎で燃やそうとしている姿だった!
「はっ!思い出したぞ!こいつの顔何処かで見たことがあると思ったが!去年連続焼身殺人で指名手配された灼熱沢燃!シリアルキラーだ!」
なんだって、黒幕!こりゃあ偶然とは言えとんでもない相手を標的にしちまったもんだぜ!シリアス!
「なっ、こんなシリアルキラーしか通りそうにない場所に一体何故人が!なには兎に角俺の姿を見られたからには生かしておけん!俺の能力で焼け死ねいー!」
不味い!こいつ魔人だ!俺は咄嗟にぐっと力を込めて、灼熱沢の能力をコピーした。瞬間!俺と灼熱沢の手から炎が現れ、空中でぶつかり対消滅した!
「な、これは……俺と同じ発火能力……いや、コピー能力か!?」
「ケロッグ今だ!女の子を!」
「な、し、しまったぁ!」
よし来た!シリアルキルを一般人に見られるわけには行かねえからな!ここは一旦退却だ!俺達は灼熱沢が動揺する隙に巻き添えで火達磨になった女の子を助け出し、どこの街にも一つはある能力バトルの舞台になりそうな壊しても問題ない寂れた廃ビルに逃げ込んだ。
火達磨になっていた女の子はショックで気を失っていたが、思いっきり息を吹きかけて火を消したことでなんとか一命をとりとめた。
しかし問題はこの後だ!ゲホゲホ!この隙に灼熱沢に逃げられてしまったら、シリアルキルができない!能力の制限時間もある!ゲホゲホ!
なんだこの白い粉はゲホゲホ!標的に逃げられているようじゃ、プロになるなんて夢のまた夢。なんとしても逃げられる前に始末しなくては!ゲホゲホ!
「いや、ケロッグ。どうやらその心配はなさそうだぜ。しかも逃げたと思っていたが……どうやら既に俺たちは追い詰められていたみたいだぜ!」
どういうことだ黒幕!ゲホゲホ!それはもしかしてゲホゲホ!さっきからこの部屋に充満しつつある白い粉と関係があるのか!?
「この店、どうやら廃墟になる前はパン屋だったみたいだ。さっきから漂ってくるこの白い粉の正体は小麦粉だ!やつは粉塵爆発で建物ごと俺たちを吹き飛ばすつもりなんだ!」
なんだってー!つまり俺達は逃げたと思っていたが既に追い詰められていたということか!やられた!
「クックック、ようやく気付いたか……だがもう遅い!お前が俺の能力をコピーしていても粉塵爆発は防げん!目撃者は殺せて更に事故に見せかけて隠蔽まで出来る一石三鳥の策よ!さあ断末魔を聞かせろ~!」
「う、うわああ~!」
クソ、なんてこった!黒幕……!俺のシリアルキルにつきあわせたせいで……!こいつまで殺させる訳にはいかない!俺はほんの少しでも衝撃を和らげるために、見知らぬ女の子と黒幕に覆いかぶさった!そしてその直後。
ボウ!チュドドーン!ボンボンボーン!
灼熱沢の能力が発動!小麦粉に引火し、俺達のいた建物は粉塵爆発でバラバラに吹き飛んだ……。
「ヒャハハー!キレイに吹き飛びやがったぜ!さてそれじゃあ死体の顔でも見ておくか。まあ丸焦げで誰が誰だかわからないだろうがな~!」
灼熱沢が得意げな顔で瓦礫に近づいていく。すると瓦礫の一角が崩れて、中から黒幕死男と、例の女の子が現れた。
「ほう、まだ生きていたか。だが二人しかいないと言うことは、あのコピー野郎は消し飛んだようだな。ククク、おおかたお前ら二人を庇って灰になったってところかぁ!?」
「ケロッグー!俺なんかのために……俺なんかのために……!」
「だが馬鹿な野郎だぜー!粉塵爆発を生き残っても俺様に殺されるだけだってのによ~!むしろ楽しみが増えたってもんだ!つま先からジリジリ炙り殺してやるぜ~!」
「俺なんかのために、制服を燃やしちまいやがって!うちの制服はメッチャ高いんだぞ!またお前がお母さんに怒られちまうじゃねえかー!」
ドッゴーン!黒幕が叫ぶと同時!黒幕達の更に後方、瓦礫の山を吹き飛ばし、制服の焼け焦げた、しかし無傷のチョコケロッグ太郎が現れた!
「ば、馬鹿な!あの粉塵爆発を受けて全くの無傷だと!一体どうやって……!?はっ!そ、そうか!その女!そもそも俺の炎に包まれたはずなのに今生きているのがおかしい!そいつが実は耐火能力者で、それをコピーしたのか!なんてラッキーボーイ!」
「へっ。何言ってるんだ。俺を助けたのは、この殺したくなるほど眉毛がプリティーな女の子の能力じゃねえ。この子はそもそもただの人間だしな。粉塵爆発を無傷で生き残れたのは、お前の能力、そして日々の鍛錬の御蔭さ!」
「な、ど、どういうことだ一体……?!発火能力でどうやって粉塵爆発を耐えたと言うんだ!」
「発火能力なんて嘘をつきやがって。俺は能力をコピーできるけど、内容まではわからないからな。危うく騙されるところだった……だが見抜いたぜ、お前の能力の正体!」
「何を言ってるんだ!?俺は正真正銘生まれた時から名前通り発火能力者だぞ!」
「何を言っても無駄だ。力を思いっきり込めたら、粉塵爆発を耐えられたことで確信した。お前の能力は、発火能力なんかじゃねえ!粉塵爆発を筋力で跳ね除けられるレベルの……発火能力に見せかけた、超強力な、身体能力強化能力だ……!」
心当たりは、最初からあった。あれは中学三年生のときのことだ。俺は日課である3000kgダンベルを使った筋トレを終え、シャドーボクシングをしていた時のこと。
何度目かに拳を奮った瞬間、俺の服が炎に包まれたのだ。何が起きたのか分からなかった。だが後に、拳を振る速度が早すぎて、服が空気との摩擦熱で燃え上がったのだと気付いた。
灼熱沢の能力を見た瞬間、その時の事がフラッシュバックした。
あの手から出たと思った炎は、多分摩擦で火をつけてガソリンとかで延焼したもの……そして俺が相殺したと思っていたのは、何の事はない。ものすごい速さで手をかざしたから、起こった風が火をかき消しただけだったのだ。
そう、発火能力者っぽい名前も、態々能力をコピーされた時に「同じ発火能力者だと!?」と驚いてみせたのも、全ては己の真の能力を隠すためのブラフ……!
粉塵爆発を耐える力を俺はコピーできていない……そう錯覚させるための……巧妙な心理誘導だったのだ!
「いや違うって!それ俺の能力じゃないって!素の筋力が凄いだけだって!普通シャドーボクシングで服に火はつかねえよ!っていうか3000kgのダンベル持てる時点で気づけよ!化けモンじゃねえかお前!」
「たしかに化けモンみてえな能力だ……ただの高校生である俺を、粉塵爆発すら耐えられるようにしちまうなんて……だが、残念だったな……!」
俺は拳を構えて油断なく灼熱沢との距離を詰めていく。そして右拳!灼熱沢の全歯がぶち折れて宙に舞う!
「は、はがばぁー!?」
「同じ身体能力強化能力を持ってるなら……体を鍛えている俺のほうが、その分強い……!」
「う、おおおー!死ね、死ね、燃え死ねこの化物がー!」
やぶれかぶれとばかりに、例のガソリンに火をつけるトリックを使ってくる灼熱沢。しかし身体能力強化を使った今の俺には、お灸をすえられた程度の熱さしか無い!俺は構わず、全力で拳を振るった。
「ア、アバシャアアアアアアアアア!」
ドッパァーン!もはや恐怖で能力を保つこともできなかったのだろう。拳を受けた灼熱沢の頭はザクロのように破裂し、周囲に飛び散った。
「灼熱沢、お前は強かった……。能力を隠し切る話術も……小麦粉を使って粉塵爆発を起こす策も……総て俺より上だった……。お前の敗因は、一つ。能力にかまけて、日々の鍛錬を怠ったことだ……!」
邂逅から9分20秒。時間ギリギリだったが……シリアルキル、コンプリートだ!
「……へっ、やっぱすげえよ、ケロッグのシリアルキルはよ。お前なら、絶対……!」
黒幕が言った。俺は無意識の内に、拳を高々と突き上げていた。
翌日!俺は再び進路希望調査表の前でうなされていた。
あれから。助けた女の子にお礼を言われたり、警察から感謝状と指名手配犯を殺した懸賞金300万を貰ったり色々あったけど……将来の悩みは無くならない。
思い返せば、俺が殺して来た相手は悪人ばっかりだ。最初に殺したのは三億円事件の真犯人だったし、この前はハイジャック犯、その前は銀行強盗帰りの銀行強盗をシリアルキルしちまった。
もっと沢山、無辜の民も殺して、殺したいから殺してるって世間にアピールしたいんだけど……適当に選んだらいっつもそうなっちまうんだよなあ。こんなことで、プロのシリアルキラーになれんのかなあ……
「心配すんなって!素性に関わらず、殺したい相手を殺すほうがケロッグらしいよ!それに悪人ばっかり殺してても、シリアルキルしてればシリアルキラーさ!」
ありがとよ、黒幕!そう言って俺を励ましてくれるのは、お前だけだ親友。
「所でケロッグ、お前前に、実績が云々って言ってただろ?もしかしたら、その願い。叶うかもしれないぜ」
ほうほう?詳しく聞かせてくれよ。もしかして、シリアルキラーの大会でもあるのか?
「ああ、実はそのとおりなんだよ。滅多にない機会だからよ、参加しねえかケロッグ?」
黒幕は実に楽しそうに笑いながら、言った。
「GOっていう……世界最高の人殺しを決める大会に、さ」
俺の名前はチョコケロッグ太郎!由緒正しきチョコケロッグ家に生まれた、普通の高校生だ!
そんな俺だが、いろいろあって世界最高の人殺しを決める大会に出ることになっちまった。ちょっぴり不安もあるけど、プロのシリアルキラーになるには避けては通れねえ道だ。
見ててくれよ母ちゃん!大会で優勝して、胸を張って、プロのシリアルキラーになるって……あんたに言えるようになるからな!
うお~辛抱たまらねえ!大会でもガンガン、シリアルキルしまくってやるぜ~!