★とくべつふろく


暗闇の中、もぞりと這い出す影があった。
影は、手近な机から何かを掴み取る。
そして音を立てないよう細心の注意を払いながら、

静かに元の場所へと戻――何か踏んだ。


ドガシャーン


「うーん……何事……?」
「いたたた……あ、起きちゃった? ごめん」
「お姉ちゃん何してんの」
「……しおり」
「何」

「愛してるわ」
「すごい何かごまかそうとしてるのはわかる」



『明日の予報、雨らしいっスよ』

※SSRの本戦SS『Let it be a fine day tomorrow.』のパロディです。本文を踏まえてお楽しみください。



「断面から養分が逃げるんですよ森怨石は。最新の学説読んでないんですか? 園芸部のクセに」
甘葛モリオンは1日15冊以上のペースで父の研究に関する書物や論文を読み漁り、記憶する。
森怨石というその一点に限れば、彼女の総知識量は本業の学者を上回る。

「ヨモギの葉で包んでもいないし、トマトジュースを与えてもいない。全然使いこなせてないじゃん」
「な…………」
「いいですか。まず、大き目の森怨石に荒塩とコショウを適量まぶし、揉みこむように
 よく馴染ませます。そのままヨモギの葉で全体を包み込み、その状態で
 3日ほど寝かせます。これで大体、臭みが取れますね。

 ……で、こちらが3日間寝かせたものになります。
 熟成されて、ちょっと全体的に小ぶりになったのがわかります?
 そうしたら鍋にトマトジュース500ml、塩少々、隠し味の味噌を加えて味見。
 こちらに、先ほどの森怨石を入れて煮込んでいきます。

 ……はい、こちらが5時間ほど煮込んだものになります。
 蓋を開けますね…………わあ、いい匂い!
 あとはこれを一口大にカットしまして、お皿の真ん中に盛り付け。
 周りに彩りとしてプチトマトを沿え、黒酢ベースのソースを散らしたら完成です。

 レシピはホームページでも確認できますので、是非ご覧になってくださいね。
 ではまた来週、お会いしましょう。さようなら~」


おわり
製作・著作 NHK



「さて、少しは元気になったか? あたし達にやる事がないわけじゃないぞ」
「ちょっと驚いただけですよ……もう、大丈夫です。何ですか? 防衛ですか?」
結果として蚊帳の外となった逝谷と靴精は、部屋の角で座りこんでいる。

「ウイルスが完成したところで、道明寺にブチ込めなきゃ意味がないだろう。
その方法を考えるのは――まあ、あたしがやってみる。ヤマグチ君は、そうだな」
「あ、いい事思いつきました」

「……何?」
「『億年松』って知ってます? 盆栽サイズに育つまでに数千年もかかるっていう。
 それとコシヒカリの成長速度を交換しちゃえばいいんですよ。
 ずっと交換し続ければ道明寺だっていつかは、」
「ヤマグチ君。それあたし死んじゃう」

「あ、全然大丈夫です! “延”+“命”! これでノビノビーンすれば永久に生きられますよ」
「えっ」
「ノビノビーン」
「マジで」




「……ヤマグチてめえ」
「え、えっと……」
「全身がアザで埋まったんだけど」
「か、カッコいいですよ。ホラ、アバターみたいで」



甘葛は残った左手で、逝谷の胸ぐらを掴んだ。
襟から白い首が覗き、彼女の残り少ないアザがよく見えた。

「テメェ、死なせたくない知人がいるっつったな」
「ああ、彼女さえ生き残ってくれれば、あたしは……」
「本当にそれでいいのか。死んだら会えないんだぞ。
もう何も伝えられないんだぞ。父さんは、もう何も言ってくれない! でも、」

「テメェはまだ生きてんだろうが!!」



『だったら生きればイイじゃない』
うた:甘葛モリオン 逝谷しおり 夜魔口靴精 道明寺羅門

教室のすみっこでキミはまた溜息ついて
いったいどうしたっていうの?
明日まで生きられないようなカオして
まるで実って垂れる稲穂

だってしょうがないじゃない
アタシの残り12DAYS
どうせいつかは果てる命
刈り取られるのを待つ稲穂

いいや全ては関係ない
全部塗りつぶす我が稲穂
そうはさせない私たち
人類は稲穂じゃない

だったら生きればイイじゃない
会いたい人にも会えるよ
だったら生きればイイじゃない
明日になればノビノビーンするよ

少しでも希望あるなら 明日天気になるかもなら
だったら生きればイイじゃない



「それ見て、もっかい考えろ」
「?」

甘葛は疲労でへたり込みながら、隣の壁を示した。
汚れた白壁に、直線のアザが『印刷』されている。能力で逝谷の首元を映したものだ。
あと1センチ少々しか残っていないアザ。しかし見えるのはそれだけではなかった。
アザの延長、少し下。先ほど、能力で消費するまではアザのあった位置だ。
そこには文字が書かれていた。アザがあれば隠れて見えないだろう、小さな青い文字で。


『だ い す こ』






「お姉ちゃーーん!?」
「ゴメンゴメン、暗くてよく見えなかったんで」




(おわり。よいお年を!)



最終更新:2014年12月23日 20:01