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4章 理事長とポップコーンとショットガンと

コンコンッ
 まずは理事長室のドアをノックする。
「失礼します」
 と言って、俺と柚花、それに洋子は理事長室に入った。
「ああ、そこに座ってくれ」
 部屋の奥にある机から、学園長も兼任している増田理事長が言った。
 言われたとおり、俺達は机の前にある来客用のソファーに座った。ちなみに、テーブルを挟んで右のソファーに俺と柚花で、左のソファーに洋子だ。
「それじゃあ、話を聞こうじゃないか」
 理事長は立ち上がると、ソファーの間にある一人掛けの椅子に座り直した。
「はい……」
 俺達は先日屋上であったことを、手短に、かといって端折り過ぎない程度に説明した。
「なるほど……」
 そう言うと、理事長は立ち上がり窓に近づいた。
「屋上の修理代は菊池君に弁償してもらおう。それで異論ないね?」
「はい」
 洋子は即答した。彼女にとっては、屋上の弁償ぐらい痛くも痒くもないのだろう……羨ましい話だ。
「なら、この話は終わりだ」
「え?もういいんですか?」
「だって、弁償してくれるなら問題ないもの」
 理事長は努めてあっさりと言った。
「それに……」
 突然真顔になると、理事長は人差し指を立てて言った。
「あんまり話を長引かせると、『笑っていいとも』を見逃しちゃうじゃないか」
「へっ?」
 理事長の、ある種爆弾発言とも言える一言に、柚花は鳩が豆鉄砲食らったような顔をした。
 だってこの理事長、普通じゃありえないくらいテレビっ子なのだ。聞いた話によると、昨年度の職員会議で『重い辞書を持って来させるなら、小型テレビ持って来させた方がウケいいんじゃないの?』なんて発言したらしい。
 俺と洋子はそれをよーく知ってるから別に驚きはしない。
「それじゃあ、私はこれから『笑っていいとも』を見る準備するから」
 そう言って、理事長は隣の部屋(資料室だったのを理事長がテレビルームに作り変えた)に消えた。

「失礼しました」
 多分本人は聞いちゃいないだろうが、とりあえずそう言ってから理事長室を出た。
「あれが、この学園のトップですか……?」
 柚花はまだ目が点になっていた。というより、茫然自失と言ったほうが正しいだろうか。
「入学式の時と、全然違うじゃないですか」
「それが理事長の策なんだよ」
「理事長はそういう人なのよ。テレビに限らず、面白いことは何でも好き。第一印象を厳格にして、次に会う時に本性を現して相手の目が点になったのを見るのが特に好きなの」
「そ、そうなんですか……」
 洋子に説明されて、とりあえず納得したらしい……かなり無理矢理だろうが。
「そうだ先輩、お昼一緒に食べません?」
「ああ、俺は構わないぞ」
「洋子さんは?」
「そうねぇ……それじゃあ、ご一緒させてもらおうかしら」
「分かりました。それじゃあ校庭で待ってますから」
「校庭?」
「だって屋上って今工事中じゃないですか」
「あ……」
 そうでした、柚花と洋子が暴れまわった(撃ちまくった)から、屋上は今閉鎖されているんでした。
「それじゃあ先輩、昼休みに校庭ですからね!」
 そう言い残すと、柚花は嵐のように走り去ってしまった。
 何であんなに急いでるんだ?
「ひ~ん!遅れちゃう~!」
 ……どうやら、移動教室だったらしい。

「せんぱーい、こっちですよー」
「おう」
 昼休み、校庭に行くとすでに柚花と洋子が来ていた。
「幸一も手伝って」
 そう言って、洋子がブルーシートの一端を手渡してきた。
「それにしても、なんか花見みたいだな……」
 シートの端を引っ張りながら思った。
 校庭には桜の木が植えられている。季節が春ということもあって、さながら花見のようだった。
「残念だけど、お酒は用意してないわよ」
「あったら逆に困るって」
 さすがに学園内で飲酒なんかしたら、良くて停学、下手すりゃ退学になっちまう。
「先輩、洋子さん、準備できましたか?」
「ええ、OKよ」
 さっそく洋子がシートに座った。俺と柚花も続いて座る。
「さてさて、今回はどんな料理かしら」
「今回は中華風にしてみました」
 柚花が重箱(前回のより大きめ)の蓋を開くと、これまた色々入っていた。エビチリ、ホイコーロー、チンジャオロースーなどなど、確かに今日は中華風だ。
「いいなぁ、柚花は料理上手で」
「洋子はダメなのか?」
「ダメっていうか……」
 洋子にしては珍しく、言いにくそうにしていた。
「洋子さん、食品関係がちょっと……」
 柚花も苦笑いしている。
「ちょっとって何だよ」
「えっと……」
 柚花はちらっと洋子を見た。
「……いいわよ、言っちゃって」
 そう言って、洋子はため息をついた。あまり聞かれたくなかったらしい。
「実は……洋子さん、昔から塩と砂糖の区別がつかないんです」
「……はい?」
 何か、とっても不吉な、それでいて懐かしいフレーズを聞いた気がしたのだが……。
「……柚花、もっかい言ってくれるか?」
「だから、塩と砂糖が見た目で区別できないんです」
 ……聞き間違えではなかったらしい。
「塩と砂糖って……そんなの、漫画か何かじゃないんだから……まじかよ……?」
「悪かったわねっ!」
 あれこれ言われて相当気に障ったのか、洋子はむくれた。
「なあ洋子、もしかして、小麦粉と片栗粉も区別つかないのか?」
「うっ……!」
 図星だったらしい。
「ダメですよ先輩、追い討ちかけちゃ!」
 柚花が止めたが、もう手遅れだった。
「いいわよいいわよ、どうせあたし私は、料理下手のヘタレですよーだ……」
 洋子は既に、シートの端で一人しゃがんで『の』の字を書いていじけていた。

 その後、いじけた洋子を宥めたり、エビチリが異様に辛くて柚花が水を求めて駆け回ったり、煮物の豆を柚花が取ろうとしたら飛んで洋子のおでこに直撃して、そこから口論になって……
パパパパパッ!
ガンガンッ!
 ……今に至るわけだ。
「ちょっと柚花!どうしてあたしを撃つのよ!?」
「最初に撃ってきたのは洋子さんじゃないですか!」
ガンガンガンッ!
パパパパパパッ!
 どうして、おでこに豆が当たっただけで銃撃戦になるんだ……?
「おいおい……校庭も屋上の二の舞か……?」
 事実、そうなりかけていた。花壇には種の代わりに弾丸が植えられ、1階の窓ガラスは言うまでもなく。
 二人とも、懲りるということを知らないらしい……。
ドンッ!
「っ!」
 いきなり、柚花の足元に大穴が開いた。
ドンッ!
 続けて、洋子の足元にも同様に大穴が開いた。
「な、何これ……?」
「あ、あれは……!」
 柚花が校舎の方を見た。俺もその視線の先を追った。
「全く、校庭まで工事させる気ですか?」
「り、理事長……?」
 視線の先には、理事長室の窓に寄りかかり、ショットガン片手にポップコーンを食べている増田理事長がいた。
「そんなにドンパチやられたら、テレビが聞こえないじゃないですか」
 って、生徒にショットガン撃った理由がそれかよっ!?っていうか、校庭よりテレビの音の方が心配っ!?
 俺の心のツッコミをよそに、理事長は慈愛のこもった笑顔でこう言った。
「また『笑っていいとも』の最中にうるさくしたら、この『ベネリM3S』で今度は脳天打ち抜いて、脳漿を撒き散らせますからね」
 それだけ言うと、理事長は窓を閉めた。
 理事長、言ってることが教職者のセリフじゃねぇよっ!
「……」
「……」
 それを見て、柚花と洋子は持っていた銃を、それぞれの鞄にしまった。
「ま、まあ、とりあえず飯食おうぜ」
「そそ、そうね、そうしましょ」
「はいっ、急がないと昼休みが終わっちゃいますから」
 そして一瞬の間の後、俺達は同時に思った。
 ――理事長は、絶対に敵にしちゃいけない……。
最終更新:2009年05月23日 22:39
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