リディキュラス・ライブラリ

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究極の――



とある時代のとある時、一人の大賢者がひとつの魔導書を生み出した。
その魔導書はあらゆる力の源である元素を意のままに操り、森羅万象を司る力。
そしてありとあらゆる魔術の力を所持者に与える万能の書物。
その書物は意識を、自我を持ち、人たる姿となって賢者と共に、魔導書としてではない、人としての生活を送っていた。

しかし、その賢者の知識と才能を疎ましく思った異端の魔導士が、賢者に呪いをかけたのだ。それも禁術と言われる、強力かつ世の摂理に離反した外道の魔術。
世の摂理の根源である森羅万象の力、その力を持つその魔導書では反理の呪いを絶つ事は出来ず、呪いは着実にその体を蝕み、やがて賢者は息を引き取った。

万能の魔導書、究極の魔導書、そのような名で呼ばれていても、禁術にはなす術などない。
しかし、「万能の力が得られる」という事実に変わりは無く、所有者が無くなったその力を欲する魔導の者はおろか、魔導の才が無い者さえもが、その魔導書を求め、ついには争いにまでなった。
当然といえば当然だ、その魔導書は、持っているだけで膨大な魔力を授かり、森羅万象の流れを読み、それを操り、如何なる魔術をも行使出来るようになるような代物なのだ、例え魔力の才が無い者であろうが、昨日まで土を弄っていた農夫であろうがだ。
極端な話、それ程の代物を欲しいと思わない方がおかしいくらいだ。

魔導士達による争い。

魔導士でない者達の争い。

それらが混合し入り乱れた争い。

一国の王はそれを自身の支配の力にせんとして、国を挙げて本を取り合う。


魔導士が、

人が、

街が、

王が、

国が、


世界が。

一冊の本を奪い合うために争い、血を流し、国は滅ぶ。

収集のつかなくなった世界規模の事態に、魔導書にはもう成す術など無かった。
魔導書は唯只管に争いと無縁の地を探し逃げた、それと同時に自分を責めた、自ら命を絶とうともした、しかしそれは出来なかった。

生物としての意識、生物としての自我が死を恐れたのだ。
それでいて彼女は人ではない、死のうとしても人より遥かに頑丈だった。
火を灯し、水を生み、地を感じ、天を仰ぎ、光を照らし、闇へ沈める事の出来る魔導書は
火で燃え尽きず、水で溶けず、地に還らず、天に昇らず、光に消えず、闇に堕ちない。
森羅万象は魔導書の消滅を限りなきまでに拒んだのだ。

どうにもならないと悟った魔導書はさらに逃げ続けた、時がこの争いを止める、そう信じて自身の行方を晦まし続けた。



だが幾年の時が経過しても、争いは止まらなかった。
むしろ【奴等】自身、何を理由に戦っているのかわかっていない。過去の因縁に縛られ、未だに血の川は流れ続け、崩落の音は鳴り止まない。

その時にようやく、その魔導書は絶望を知った。
これが自身が引き起こした世界の末路であり、世界の在り方なのだと知った。


そして、その魔導書は決意した。

これが在るべき世界の姿ならば、いっそ全て無くしてしまおうと。



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最終更新:2013年05月16日 21:22