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全世界の――
魔導書と時を同じくして、同様に大賢者によって産み落とされた書物が一冊。
それは『全世界の歴史書』の名を冠し、万物の過去を知る事の許された奇跡の一冊。
あらゆる人々の過去を、世界のあらゆる過去を、この世界に産み落とされた瞬間から知る彼女もまた、人としての姿を取り、人としての生活を送っていた。
しかし、世界は突如として、戦火の中に放り込まれる事となる。
『究極の魔導書』を生み出した大賢人、アークトゥルスが殺害され、そして、所有者を失った魔導書を求め、争いが争いを呼び、全世界で火の海を、血の川を見る事になった。
歴史書を生み出した大賢人、セギヌスは、歴史書にこの世界規模の戦火を『無かった事にするように』命じた。
彼女は歴史書として、世界の歩んだ道筋を見る事が出来る。それと同時に、因果断裂や記述改変により、その歴史を捻じ曲げて現在を作り変えてしまう力がある。もっとも、記述に関してはしばらくすれば元に戻ってしまうのだが。
改変を認識出来るのは彼女の周辺にいる人物のみである。つまり今回の改変を成功させた暁には、彼女の功績を知る者はいなくなる。
大賢人が何故歴史書を出動させたのかさえ、世界には残らなくなる。
それを知りながらも、歴史書は魔導書を探し、各地を放浪した。
だが放浪しているのは、魔導書も同様であった、さらに各地で発生している闘争が、歴史書の足取りを妨害する。
既に幾年が経過しても、その戦火は止む事を知らない。
何を目的として戦っているのかさえ、既に知らない者が大半を占める程だ。
手掛かりは無し、既に魔導書の事も、人の頭から消えかかっている頃、歴史書はついにその魔導書を発見する。
だがその魔導書は、涙を流しながら何かを詠唱している最中だった。
黄昏出凶星ノ閃輝
世界に満ちるマナを暴発させる秘術。
それは出力を抑えてしまえば大規模な爆発でしかない。
だが魔導書には躊躇が無かった。その出力は全開、世界が一瞬で吹き飛ぶ程度の破壊力はある。
魔導書の力のせいで争いが起こった。その世界の全てを無に還すのも魔導書の力。
身勝手にようにも見える、しかし、魔導書も奮闘したのだ。だがどうにもならなかった。
だから破壊する、罪悪と後悔に追い詰められたが故のシンプルな答え。
だが、歴史書ならばどうにか出来る。
歴史書は魔導書を抱きしめ、無理矢理詠唱を止めさせた。
最悪殺すつもりでもいた、しかし歴史書にはもうその意思は無い。
彼女が争いの元、災厄に見舞われた世界の『因果』そのものである。
つまり、彼女がいなかった事になれば、この現在の歴史も変わる。殺すつもりとはそういう事だ。
だが彼女を殺す以外の方法で、因果を捻じ曲げる方法があるのだろうか?
一応はある、それは『彼女の知りえる過去を抹消する』事。記憶を消してしまう事だ。
彼女は因果の元である、彼女の秘める『過去』完全に抹消し、歴史書の力で世界から『魔導書が存在した事実』と『争いの事実』を消してしまう。
しかしそれには問題もある。
魔導書を生み出した大賢人が殺害された事実も消失するため、もしかすると、その者は復活する可能性がある。
むしろ復活こそが過去を抹消する事にあたっての最大のキーと言えるだろう。
だが復活しても、魔導書はその者を一切覚えていない事になる。過去を断絶するとはそういう事だ。
大切な人物の事も忘れてしまう。それは魔導書にとってはかなり大きな
リスクのはずだった。
だが彼女は躊躇い無く、自身の過去を抹消する事を選択した。この世界を変えたい事と、『大切な人の復活』を願ったが故である。
結果として、世界は改変された。
止め処無く続いた世界規模の闘争。
金属のぶつかる音も、断末魔だってもう聞こえない。
その代わり魔導書は過去を、おぞましき記憶、大切な思い出、全てを失い、身に付けた知識も失い、背丈は随分と大きいが、その言動は幼児そのものだった。
そして
その世界から、二つの書物の消息が途絶えた。
■関連カード
最終更新:2013年07月10日 01:20