この5年でほぼ倍増、犯行も悪質化している。
道徳心の低下が一因とみられ、学識経験者からは、社会参加の必要性を
指摘する声も上がっている。
さいたま市内のスーパーで5月下旬、買い物をしていた女(70)は、
缶詰3個を素早くバッグに押し込んだ。
巡回中の女性保安員(67)が、店を出たところで声をかけると、
女は保安員を突き飛ばした。
保安員は手に擦り傷を負い、女は周りの人に取り押さえられ、警察に引き渡された。
保安員を派遣していた日警保安埼玉事業部(さいたま市)の土方秀明部長は、
「万引きがばれた高齢者が開き直るのは、最近では珍しくない」と指摘する。
土方部長によると、こうした悪質なケースが顕著に増えている。
「いつも買っているのだから、たまにはいいでしょ」
「太陽の光の下で、色を確かめようと思っただけ」
など、あきれる言い訳も目立つという。
県警によると、2004年に摘発された65歳以上の高齢者は646人で、
万引き犯全体(4479人)の14・4%だった。06年に1000人を超えると、
08年は過去最多の1145人を記録。
全体(4850人)の23・6%にまで増え、少年(14~19歳)の1426人に迫る勢いだ。
今年も5月末までに447人の高齢者が摘発され、昨年同期の468人を
やや下回る程度で推移している。
ある県警幹部は、
「生活苦が理由の万引き犯もいるが、ほとんどはお金を持っている。
『万引きは犯罪』という規範意識や道徳心が薄れてきているのが、
増加の一因ではないか」と分析する。
筑波大の土井隆義教授(逸脱行動論)は
「高齢者だけの世帯が増え、孤立化が進んでいる。
地域社会の行事などへ参加を促し、役割を果たしてもらうことも犯罪抑止に効果がある」
と話している。