モザイク卵と調節卵

胚の様々なパーツがどのように発生してゆくのか、その運命が比較的早期に決まる卵をモザイク卵という(「卵」とは本来一つの細胞なので、モザイク「卵」ではなく、モザイク「胚」のほうが正確なのだが…)。
それに対し、運命の決定時期が比較的遅い卵を調節卵(調整卵)という。

モザイク卵の代表例はクシクラゲ(有櫛動物:刺胞動物の近縁)。
クシクラゲは正常に発生した場合、クシ板と呼ばれる体構造を8列持つことになる。
しかし、2細胞期で胚を構成する細胞を引き離すと、4列のクシ板を持つクシクラゲが二個体発生してくるし、4細胞期で引き離すと、2列のクシ板を持つクシクラゲが四個体発生してくる。
つまり、最初の受精卵はクシ板を八列、2細胞期の各々の割球はクシ板を四列、4細胞期の各々の割球はクシ板を2列作るように、運命が決まっているのである。
モザイク卵の他の例には、ホヤ・ツノガイがある。

クシクラゲに対し、われわれヒトを含めたほとんどの動物は調節卵である(イモリ、ウニなど)。
そのため、例えば何らかの理由で、ヒトの二細胞期に割球がバラバラになると、形も機能ももちろん正常な、一卵性双生児が生まれてくることになる。

また、ウニの4細胞期にある胚をバラバラにすると、小さいながら完全なプルテウス幼生が四個体生じる。

しかし、二分する時期を8細胞期に変えると、動物極側の4細胞塊からは永久胞胚(胞胚から先の過程に進めない)が生じ、植物極側の4細胞塊からは不完全な胚が生じ、つまり、発生は正常に進行しないようになる。
このことが示しているのは、ウニの胚は、4細胞期から8細胞期へと移行する間に、調節卵からモザイク卵に変化した、ということである。

また同じ8細胞期でも、赤道面ではなく、経度に沿って(つまり縦に)二分すると、それぞれが小さいながら完全なプルテウス幼生になる。
このことから、動物極側の割球と植物極側の割球には性質の違いがあって(これを極性と呼ぶ)、発生をきちんと完了させるためには、その両者が必要であることが分かる。

発生における細胞質の役割

ウニの未受精卵を用いて、同様の実験を行うことができる。

ウニ未受精卵の動物極側半球を受精させると、発生は途中で停止して永久胞胚が生じ、植物極側半球だと不完全な胚が生じる。
それに対して、動物極側と植物極側の両者を含む半球を受精させると、発生はほぼ正常に進行して、やや小さいながら完全な胚が生じる。

軟体動物の一種であるツノガイは、卵割初期に、極葉と呼ばれる細胞質の突起を生じる。
この極葉を発生途中で取り除くと、発生が正常に進行せず、完全な幼生が生じなくなってしまうことがわかっている。

このことからも、細胞質は発生途中で、重要な役割を担っていることが示される。
最終更新:2009年05月21日 17:54
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