平安時代以来の規模の天体ショーですが
金環日食は、月が太陽の大部分を隠す形になり、太陽の縁がリング状に輝く現象です。
ことし5月21日の朝、東京や大阪など日本の人口のおよそ3分の2に当たる8300万人が観測できます。
これについて日本天文学会は会見を行い、日本では平安時代以来932年ぶりの規模となる歴史的な天体ショーの一方で、太陽の光が網膜を傷つけ、視力の低下を引き起こす「日食網膜症」を発症するおそれがあると注意を呼びかけました。
過去には「皆既日食」の際に2万人に1人の割合で網膜症の患者が報告されたケースがあることから、今回は数千人が発症するおそれがあるとしています。
日本天文学会やアマチュアの団体などで作る「2012年金環日食日本委員会」の大西浩次副委員長は、「太陽の強い光線を、十分、安全なレベルまで引き下げる専用の眼鏡が販売されているので、これを使うことや、長時間連続して見ないようにすることなど、周知に力を入れていきたい」と話しています。
「金環日食」って何?
「金環日食」はどのようにして起きるのでしょうか。
太陽の直径は月のおよそ400倍です。
しかし、太陽と地球の距離も月と地球のおよそ400倍あるため、地球からは太陽と月がほぼ同じ大きさに見えます。
このため、太陽と地球の間に月が入って一直線に並んだときに日食が観測できます。
一方で、月や地球の軌道は楕円なので、地球から見える月と太陽の大きさは少しずつ変わります。
このため、太陽がすべて隠れる「皆既日食」になることもあれば、太陽の縁だけがリング状に輝く「金環日食」になることもあります。
東北南部~九州南部に至る広い範囲で
国内で金環日食が観測できるのは、沖縄で観測された昭和62年以来25年ぶりです。
今回は日本の広い範囲で観測できます。
このうち、金環日食が東京の都心で観測できるのは1839年以来173年ぶりで、大阪は1730年以来282年ぶりです。
今回は東北南部や関東から紀伊半島を経て、四国と九州南部に至る帯状の広い地域で観測できます。
日本天文学会によりますと、これだけの広い範囲で観測できるのは平安時代の1080年12月14日以来932年ぶりだということです。
この帯状の地域は「金環食帯」と呼ばれ、今回、この地域に住む人は日本の人口のおよそ3分の2に当たる8300万人に上ります。
「金環日食」の見え方は場所によっても違いますが、最もバランスの取れた太陽の光のリングとなるのは、「金環食帯」の中心線が通る東京、神奈川、千葉、茨城、静岡、和歌山、それに鹿児島のいずれも一部で、最大で5分間見られるということです。
「金環食帯」ではおおむね午前6時すぎに太陽が欠け始め、午前9時ごろに日食が終わります。
金環日食になるのは午前7時半ごろです。
日本で次に金環日食が起きるのは18年後の2030年で、観測できるのは北海道だけです。
サングラスや黒い下敷きを使うと危険!
日食の際に、太陽の光を直接、短時間見るだけでも、強い光で目の細胞が傷つくことがあります。
その結果、目の痛みを感じるだけでなく、物がゆがんで見えたり視野の真ん中に影が見えたりして視力が低下する「日食網膜症」となるおそれがあります。
日本天文学会によりますと、3年前、鹿児島県のトカラ列島などで皆既日食が起きた際も、全国各地で発症例が報告されたということです。
金環日食ではまぶしい光が見え続けるため、学会では、安全な方法で観測しなければ皆既日食よりも高い確率で、各地で数千人が「日食網膜症」を発症するおそれがあるとしています。
眼科医の団体や学会では、太陽を見る場合、フィルターの付いた日食観察専用の眼鏡が販売されているため、これを着用すること。
また、着用していても長時間連続して太陽を見ることは避けること。
このほか、厚紙に開けた穴を太陽にかざし、太陽の光を白い紙などに映して日食の影を観測すること。
そして、子どもは大人と一緒に観測することを呼びかけています。
サングラスや黒い下敷きを使って観測するのは危険だということです。
京都府眼科医会の佐々本研二会長は、「太陽の光を直接見るのは極めて危険で、最も安全なのは日食の影を利用して間接的に見る方法だ。安全で正しい観測方法を知らない子どもが網膜症を発症したという報告も多く、保護者は注意してほしい」と話しています。
以下のサイトも参考に
金環日食を安全に楽しんでもらおうと、日本天文学会や国立天文台、それにアマチュアの団体などが「2012年金環日食日本委員会」を発足させています。
今回の金環日食に関する情報や安全な観測方法などはインターネットの次のサイトで知ることができます。
▽2012年金環日食日本委員会=「
http://www.solar2012.jp/」。
▽国立天文台「金環日食の情報」=「
http://naojcamp.mtk.nao.ac.jp/phenomena/20120521/」。
▽国立天文台日食各地予報(日本各地での正確な金環日食の予報)=「
http://eco.mtk.nao.ac.jp/koyomi/koyomix/eclipsex_s.html」。
▽子どもたちに観察方法を指導するための教材をまとめたものは、委員会のダウンロードサイト=「
http://www.astor-eclipse.com/eclipse-learning/」から入手。