ディラス×フレイ

『ディラス×フレイ』


作者 伊古 ◆x.khw6mpQk



春も半ばにさしかかった、心地よい季節の静かな夜。
ディラスはダブルベッドに腰掛けて、ガチガチに身体を強張らせていた。

……どうしろってんだよ!

今にも叫んで逃げ出したい気分でいっぱいである。
とはいえ、ここで姿を消してしまえば、妻になったばかりのフレイには呆れられ、事の次第を知った住人達からは冷たいのか生ぬるいのかわからぬ視線を受けるはめになることは必至。
ならば、心を鎮め、腹を括らなければいけないというのに、ディラスの心臓は壊れんばかりの鼓動を繰り返している。誰かがそこで太鼓でも叩いているんじゃないのかというぐらいである。
その音が耳元で鳴り響く中、ディラスの脳裏にいくつもの言葉がよみがえってくる。
それは、今日の昼ごろ、ポコリーヌキッチンの片隅でのことだ――


守り人になる前も、無愛想で不器用で、人とろくに関わることなく生きていたせいで、はっきりいってディラスには色事の知識と経験が圧倒的に不足していた。
そもそも誰かに恋をして、それを受け入れてもらえて、結婚に至るなど、守り人として眠りにつく前は考えもしなかった。
そんなディラスであったが、結婚式後の初夜が、二人にとってなによりの一大イベントとなることくらいは、わかっていた。
だが、式の緊張と疲労、住人達を巻き込んだ祝宴などで気力と体力を使い果たし、その夜は互いにそのまま寝入るという失態をおかした。
それからなんとなくいいだせなくなり、数日が経過。
職場であるポコリーヌキッチンで、どうしたものかと考えているところに、よく知る男たちが集まってきた。
口々に、フレイとの新婚生活はどうなんだと、からかいまじりにきかれたものの、ディラスは情けなくも沈黙で応えるしかできず。
それですべてを察したらしい彼らから、同情と哀れみをうけつつ、なぜか色事のいろはを教え込まれることとなり――結果、ディラスは頭を抱えていた。
「……」
羞恥と衝撃と、もうすでに襲い掛かってきた緊張に、疲労困憊である。
知らないわけではなかった。男と女がなにをしてどうして子を成すかくらい。でもそれは初歩の初歩だったようだ。
今教えられたことを、自分たちに置き換えてみると、血が体内を駆け巡った。


ほんとうに、俺とフレイが、そ、そそそそんなことをぉぉぉ?!

あれこれと妄想しつつ、激しく動揺しつつ、熱く火照った頬を隠す。
脳内には、乱れたフレイの姿が、次から次へと浮かんでは消えていく。自分の妄想で鼻血がでそうである。
と。
ぽん、と優しく肩を叩かれた。
のろりと顔をあげれば、上品に微笑むアーサーがいた。さすが一国の王子といえる麗しさだ。
でもついさきほどまで、あれこれと女の扱いについて詳しく語っていたのはアーサーだったりする。王族としての教育の一環であったということらしいが、あんな卑猥なことをなんでもないようにしゃべっていたとは思えないくらいの爽やかさ。
「そんなに緊張せずとも、なんとかなります。そう気負わず楽にされてはいかがですか? 案外あっさりとしたものですよ」
ああ、おまえはそうだろうよ!
経験者にくってかかろうとしたディラスが口をひらく寸前、もう片方の肩が激しく叩かれた。
いてぇと思いつつそちらを向けば、にやにやと笑うダグがいる。力いっぱいぶっとばしてやりたくなったが、なんとか堪える。相談にのってもらったことは、事実だからだ。
「そうそう、たいしたことじゃねーっテ! 失敗しないように頑張れヨ!」
「ダグ、てめえ……」
ぐっ、と親指をたてながら、応援しているのか、失敗すればいいと思っているのかわからぬことをいってくる。
ぴくぴくと頬を引き攣らせると、前方から伸びてきた手が、ディラスの手を強く握り締めた。


「そうですよ! 案ずるより産むが安しです! 当たって砕けろという言葉もあります!」
「俺は産まねえし、砕けたくねーよ!」
励ましているつもりなのだろう真剣な顔をしたビシュナルに、ディラスは叫ぶ。
愛する妻との初夜で下手なことして、ほんとうにいろいろと砕けたらどうしてくれる。フレイに、「嫌い!」とか「へたくそ……」とかいわれたら、街の展望台から身投げするしかない。
嫌な想像をして顔を青くするディラスの前で、にこりと天使の笑顔が花ひらく。
「がんばって! きっとうまくいくよ。フレイさんのこと大好きなんだよね? なら、大丈夫!」
「そ、そうか……?」
これが本当の応援だろうことをキールにいわれ、ディラスは幾分か気が和らいだ。
その向こうで、背の高い青年が、口元を扇で隠しながら目を細める。きっと口元は弧を描いているのだろう。
「いや、いっそのこと盛大に失敗してきてもいいんだぞ? そうしたら、俺がたっぷりとなぐさめてやろう」
「……どっちをだ……?」
失敗してレオンに自分が慰められるなど想像したくはない。かといって、夫との夜の生活が順調でないフレイをレオンに任せるなど、もっと想像したくない。
なにをいっているんだといわんばかりに、レオンが目を見開く。
その様子が、なんだかわざとらしくて腹が立つ!
「それはもちろんフレイにきまっている。俺は男をなぐさめるような趣味はない」
ふふん、と流し目でいってのけるレオンに、ぷちっとディラスのどこかが切れた。
「てめええええ!」
椅子を倒す勢いで立ち上がったディラスは、ははは、と爽やかに笑いながら身を翻すレオンを追いかける。
そんな二人をみて、どっと沸き立つ賑やかな笑い声が、ポコリーヌキッチンに響いた――


「あいつら、他人事だと思いやがって……」
思い返したら、余計に憂鬱になってきた。はああ、と深く深く息をつく。
家に帰ってきてから、フレイに本当の夫婦になりたいと伝えたときに、すでに精神力はゼロになったような気がする。
いやいや、こんなに緊張することではないのだ。夫婦となった男と女ならば、して当然の行為なのだから。アーサーもはじめてのときは、こんなものかと思ったというし。
きっと、経験のない男が夢見るほどの素晴らしいことはないのだ。きっとそうに違いない。現実をみれば、案外あっさりとしたものに違いない。
そうだそうだと、自分に言い聞かせ落ち着こうと、深呼吸を繰り返す。
すると、ふいにディラスの顔を影が覆った。ん? と、わずかに顔をあげた瞬間。
「ディラス?」
「うおおあああ?!」
真正面から覗き込まれて、ディラスは飛び上がった。その様子に、寝間着に着替えてきたフレイが目を丸くする。
「な、なななんだ! 驚かせるな!」
せっかくおさまりかけていた心臓が、さきほどよりなお激しく打ち鳴らされる。
「呼んでもこたえてくれないから、どうしたのかなーって」
ディラスのそんな様子がおかしいのか、くす、とフレイが笑う。
その愛くるしい笑顔にあてられて、ディラスの頬が熱くなる。
「どうしたって……べつに、なにも……」
くそ、嫁になったらますます可愛いと思いながら、わずかに顔を背ける。
「そっか」
照れ隠しにそっけなくなるディラスの態度にも、すっかり慣れたフレイが、無防備に隣へと腰掛けてくる。


結ばれた長い髪から、石鹸の匂いがする。く、とディラスの胸が甘く痛む。どうしてこんなに、いい匂いがするのだろう。
ちらりと、視線を送れば、薄い寝巻きだけをまとったフレイがいる。
みられていることに気づいたフレイが、ほんのりと頬を染めて、はにかむ。
「えと、えへ……よろしく、ね?」
いつものように、なかなか言葉にもできず、行動にもうつせないディラスへ、フレイが手を重ねようとしてくる。
それを空中で捕まえて、きゅっと握れば、フレイが驚いた表情をみせて、恥ずかしげに顔を伏せる。かすかに震える細い手とその仕草に、自然と熱い息がもれた。
「……よろしくな」
「ん……」
顔を傾けながら近づけば、フレイがわずかに顎を上げてくれる。
自分だけを待つその唇に、ちゅ、と小さな音とともに口付ける。
それは、いつもの行為であるはずなのに、びりりとディラスの背骨が痺れさせた。
この空気が、これからへの期待が、感覚を鋭くさせているのかもしれない。
そのまま、フレイの丸い肩を掴んで引き寄せる。
ディラスは、このうるさい動悸がばれなければいいと思うが、それは難しいというもの。
こんなにも寄り添えば、きこえないはずがない。
フレイの手が、ディラスの胸に添えられる。ふふふ、と楽しそうな笑い声が零れる。


「ディラス、すごくどきどきしてる」
「……ああ」
さらにきつく抱きしめる。
「あのね……私もだよ?」
「わかってる」
ぴったりと隙間なく身を寄せ合えば、異なる二つの命を支える鼓動が重なっていくような気がする。
少しだけ顔を離し笑いあって、もう一度キスをする。今度は深く、互いの奥を教えあうように、探り合うように舌を絡める。
夢中になりそうになるのをなんとかおさえ、ディラスはゆっくりと顔を離す。
名残惜しそうに、自分の唇をみつめてくるフレイに、くらりと揺れる意識がどこかへ飛んでいきそうになるが、それではいけない。
ここからが本番である。
髪を括るリボンをしゅるりとほどく。春の若葉を思わせる髪が、さらりと流れる。
そのまま、ゆっくりとフレイを寝台の押し倒したディラスは、ごくりと喉を鳴らして、手を伸ばしていく。
頬に触れ、細い首をたどり、自分にはない胸のふくらみへと手を添える。指先に力をこめる。そこは、驚くほどに柔らかかった。ふにゃりと、ディラスの思うとおりに形を変える。
たよりない寝巻きの肩紐を引き下ろせば、目の前にフレイの裸体があらわになる。
恥ずかしいに違いないのに、ディラスを制することもなく、目元を赤く染めて震えるフレイを目に焼き付けながら、色づいた頂に指をかける。


全体に手を添えつつ、温かさと柔らかさを堪能しながら、ひっかく。
赤く張り詰めたそれは、柔らかな乳房とはまた違うさわり心地だ。硬さを確かめるように、親指と人差し指で、きゅう、と摘みあげてみる。
「あ……、あん……!」
「!!!」
ふいに響いたフレイの声に、ディラスは弾かれたように手を離した。
乱暴にしてしまっただろうかと、慌ててフレイの様子を伺う。
自分の口から、あんな声が飛び出したことに驚き恥じらい、口を押さえたフレイが、ディラスからの視線に耐えられないというように横を向く。
「い、痛かったか……?」
それに言葉で応えることなく、フレイが頭を振る。そうではない、ということだろうが、どうしたらいいのかディラスにはわからない。
いろいろと彼らから教えてもらったことが、吹っ飛んだ。頭の中が真っ白になっていく。
本気で逃げ出したい気分に駆られながら、だらだらと嫌な汗を流していると、フレイが口を開いた。
「あ、あのね、……ちょっと、びっくりしただけ、だから」
「そ、うか」
大丈夫だから、と頷くフレイをみて、ディラスはまた手を伸ばした。おそるおそる触れる。あまりにもそれがおっかなびっくりだったせいか、フレイが笑う。
「ん、くすぐったい、よ……」
「あ、ああ……わりい……」
もう少し強く揉みながら、また先端をひっかく。くぅ、と声を押し殺すフレイの表情から、嫌がったり痛がったりしているわけではないと確かめつつ、ディラスはフレイの胸へと顔を埋めた。
そして、ふにょ、ふにょ……と、顔全体を数度押しつけ、思う。


やわらけえー!

触っていたのだからわかっていたことだが、あまりの感動にディラスは泣きたくなってきた。
「ディ、ディラス……?」
戸惑うようなフレイの呼びかけに、はっとディラスは意識を戻した。
顔を赤くしつつも、なんでもない、とそっけなく呟いて、動きを再開させる。
頬をすりよせ、唇で触れ、すぐそこにある赤い果実に似たものを、ちゅ、と吸い上げてみる。
「ひゃ……! っ、う、んっ」
そうすれば、またフレイが啼いた。
自分が動けば、フレイが艶めいた反応してくれる。そのことに、ぞわぞわとした歓喜が腹の底からあふれ出す。
そんなふうにフレイをさせているのは自分で、きっと世界の誰もこんなフレイは知らない。この声も、表情も、美しい体も、すべて自分だけのもの。そう考えれば、たまらない幸せを覚える。
どうやら、思っていた以上に、フレイに対する独占欲は強かったらしい。
もっとその顔がみたい、もっと感じている声がききたい。
フレイの胸を揉みながら、つんと上向く蕾を刺激していく。
べろりと舌で押し込み、擽る。離せば、ぷるりとたちあがるのが可愛い。きつく吸い上げると、フレイの背がしなった。
「ふぁ?! あ、あっ……!」
堪えられなくなったらしい甲高い声が、ディラスの鼓膜を震わせる。


もっと、もっとみせろ、きかせろ。

獲物をおさえつけて貪る獣のような衝動が、ディラスの手を、フレイのなだらかな腹から太ももまで降りさせていく。
上等な絹によく似た肌の滑らかさを堪能し、ゆっくりと怖がらせないように足の付け根へと指を差し入れる。白い下着の上から、教えられたそこをゆっくりと辿ってみる。そこは、しっとりと、湿り気を帯びていた。
「ん、んっ、あ、ディラ、ス……! そこ、きゃあっ……?!」
く、と指を曲げ、確かめるように動かせば、ことさら大きくフレイが跳ねた。
ぎゅっと瞳を閉じて、ついディラスの腕をおさえにかかるフレイの姿に、熱があがっていく。
「フレイ……」
ちゅ、ちゅ、と白い肌に唇を落とし痕をつけながら、ディラスは顔をさげていく。
なだらかな腹をこえ、へそあたりを擽りながら、足の両脇をなぞって下着に指をひっかける。
白いレースの下着を、ゆっくりと引き降ろす。
するる、と細い足を抜けていったそれを、寝台の向こうへと放り出し、ディラスはフレイの膝裏に手をかけた。
結ばれることを受け入れたとしても、恥ずかしさのせいで反射的にこもるフレイの力を無視し、左右に大きくひろげさせる。
そして、ディラスはごくりと喉を鳴らした。髪と同じ色をした淡い翳りと、やわらかなそうな肉が形作る秘裂。


「こう、なってんのか……」
付け焼刃の知識と、目の前の現実を照らし合わせるように凝視していると、フレイが身をよじった。
「やだっ、あ、あんまり、みないでっ……! はず、かし……!」
「わ、わるい……! でも、しかたねえだろうが……お、俺、はじめてだしよ」
ぽろりと涙を零すフレイに、無神経かとは思うがそう言う。
なにしろ初心者なのだ。ちゃんと確かめなければ、肝心の場所もわからない。
男達からのアドバイスを思い出しつつ、ディラスはそっと花の中心に触れた。
「んっ、う、ん……!」
ぴったりと閉じているが、わずかにぬめる液を滲ませる場所を、ほぐすように指の腹で撫でる。
ぐ、と指先を押し込むと、フレイが全身を強張らせる。
申し訳ない気持ちになるが、かといってここで遠慮してしまえば、元も子もない。
覚悟を決めて、ディラスは指を根元まで押し込み、ゆっくりと引き抜く。きゅ、とフレイの中はディラスの指を抱きしめてくる。
「は、あ……う……! んっ、んんっ」
「すげ……」
くぷくぷと、自分の指が飲み込まれ、そして吐き出されるさまに、ディラスは熱のこもった視線を向ける。
眉を下げ真っ赤な顔で口元を覆うフレイの恥らう表情と、ディラスによってすこしずつとろけていく下半身の淫らさは、対照的かつ扇情的な光景で、ずっとみていても飽きそうにない。
そういえば、ここが女にとっては気持ちがよいといっていたなと、あいた手を伸ばす。
「ふ、う……! う、あう……! ひゃ、あっ、や、や……! ディラ、ス……!」
くに、と小さな肉の芽を優しく刺激する。指を動かすたびに滴る蜜をぬりこめるようにしてやると、がくがくとフレイの腰が震えた。
それがあんまりにも可愛いものだから、ディラスは花に引き寄せられる虫のように、自然と唇を寄せた。


「ふあああっ、あ、やぁ……ん、うぅ~……!」
ちゅっと吸い上げると、フレイの手がディラスの頭にかかった。
いやいやというわりには、指先に力がはいらないようだ。ディラスには、それがもっとして欲しいというもどかしさを伝えてくるものに思えてならなかった。
蜜をすすり、ひどく敏感なその一点を刺激しながら、中を探る指の本数を増やしていく。
硬く侵入を拒んでいたところが、ディラスの愛撫にゆっくりと応えてくる。
いまにも焼き切れてしまいそうな理性をなんとか繋ぎとめていたディラスは、「そろそろいいか?」と顔をあげ、息を飲んだ。
下のほうにばかり意識をむけていたせいで気づくのが遅れたが、フレイはいままでみたこともないような、陶然とした顔をしている。
明るく、活発で皆に愛されるフレイが、こんなに蕩けた表情するとは。
返事をきく余裕もなく、ディラスは開かせたフレイの足のあいだへと、体を落ち着かせ、汗を吸い込んだ寝間着を勢いよく脱ぎ去る。
みてみれば、今まで触れてもいなかったというのに、自身はすでに硬く張り詰めている。準備万端とばかりに天を指しているそれは、どれだけディラスが興奮し、フレイを欲しているかを知らしめていた。
うまくできるかわからないという不安はまだ消えないが、恐れていてもどうにもならない。
ディラスは、さきほどまで指を飲み込んでいたフレイの秘所に、先端を押し付けた。
ぴくん、とフレイが反応する。


「……あ……?!」
のろり、と視線を動かしたフレイが、顔色を変えた。びっくりしたようすで、それとディラスの顔を何度も見比べる。
「え……?! え?! な、なんか、すごくおっきいよ……?!」
「ば、ばっか……! 知るかそんなもん!」
フレイにそんなことをいわれて、ディラスは顔を赤くする。こんなもの、いままで誰かと比べたことなどない。
ん、まてよ、とディラスは表情を硬くする。
そんなことを言うということは、フレイは誰かと比べられるような記憶があるのか? そんな邪推しかける。
しかし、ちらちらとみながら、「え、ええ~……みんなそんななの……?」と、ぶつぶつと呟いているところから、単にフレイの予想とはあまりにも違っていて驚いたのだろうことがわかって、すぐにほっとする。
「い、いいか……?」
「ふぇ?! ……う、うん……いいよ……」
もう一度問えば、今度は意識がはっきりしていたらしく、フレイが顔を真っ赤にしたあと、小さく頷いてくれた。
了承を得たディラスはゆっくりと腰を進めていく。
「く……せまいし、きつい、な……」
「う、く、ぅ~……!」
いくらほぐしたといっても、指よりはるかに質量のあるものを、フレイの中心はなかなか飲み込もうとはしない。
フレイも、痛いのか苦しいのか、唇を噛みながら耐えている。その姿に、ひどいことをしているという罪悪感を覚える。かといって、ここまできてやめられるわけもない。
ディラスは、ぐっとさらに身を沈めた。


「あ、ああっ!」
なにかを押し開いた、ごつ、とした感覚に怯みそうになる。でも、ひとつになりたい本能が、それをおさえつけた。
ゆっくりと割りいるようにすべてを押し込み、ディラスは熱い息をつきながら、眉根を寄せる。
ようやくひとつになったフレイのなかは、初めての快楽をディラスに与えてくれる。
はっきりいおう、きもちいい。
なんだこれは。こんなきもちいいことがあるなんて、知らなかった。
きつく苦しいところもあるけれど、それすらもきもちいい。
う、く、と呻きつつ、奥歯を噛み締めつつ、ディラスは思う。今にも爆発しそうだ。

くそ、たいしたことないとか、嘘じゃねぇか!

適当なこと教えやがって、あいつら全員ぶっとばすとまで考えたものの、理性がたもったのはそこまでだった。
あとはもう、考えらることはフレイと、ひとつになった喜びと――腰から脳に駆け上がり全身を支配していく快楽のことだけだった。
「フレイ、わるい……!」
それでもなけなしの意識でそう侘びて、ディラスはフレイに覆いかぶさった。
「え……? あ、きゃっ、ひ、うっ、ああ――!」
本能が、ディラスの体を動かしていく。
フレイに過度な負担を強いているとわかっているのに、止められない。
交わるたびに、粘着質の音が大きくなる。フレイから零れる蜜が、ディラスの動きを助けていく。
わななくフレイの肉を強く擦り上げ、奥を突いて、引き抜いてまた深く犯す。
何度も何度も繰り返す。
ほろぽろと、フレイが涙をこぼしても、それすらディラスの心を滾らせる。


「は、あ、あっ! んくっ……! あ、ディラス……っ、もう……!」
許して、とフレイの悲鳴が部屋に響いたころ、ディラスのほうもまた、限界がきていた。
「っ、フレイ……! フレイっ!」
愛しい名を呼びながら、ディラスはその瞬間に手を伸ばす。さらなる快楽を引き寄せようとする。
「っ、く……!」
「あう、う……! ふ、あぁ……!」
ぐ、と一際フレイを強く突き上げ、ディラスは腰を震わせる。
ふたつがひとつと錯覚するくらいにフレイを強く抱きしめ、動きをとめたディラスは、熱い精をフレイに一滴残さず注ぎ込んでいく。
やがて、体の力を抜けば、はぁ、はぁ、と互いの乱れきった荒い呼吸が部屋に満ちていることに気づいた。
フレイが、ちいさくみじろぎする。視線があうと、ふわり、微笑まれた。
「ディラ、ス……ぅ、ん……すき……」
「フレイ……」
掠れ気味に己の名を囁き、その心を伝えてくる唇を、やわらかく塞ぐ。小さな舌先が懸命にのびてくる。力の入らぬ腕が、ディラスの背へとまわる。きゅっと抱きしめられて、たまらなくなる。
ああ、おかしくなりそうだ。いや、もうおかしいのかもしれない。
ぼんやりと天に昇ったような浮ついた心地でそう思う。
ゆるり、とディラスは腰を動かす。まだ、くすぶっていた熱が、炎に変わる。
「ん、ん……?!」
繋がったままの場所の違和感にようやく気づいたのか、フレイが声をあげる。
「ひゃ、んっ! え、ディラス……?! あ、あんっ」
円を描くように緩やかに腰を動かせば、フレイが戸惑いながらも甘く啼く。
「フレイ、もう一回……!」
一度吐き出したくらいでは、満足できない。もっともっと、この体を味わいたい。自分だけを刻みたい。
「……ええっ?! あ、ふぁ……んっ!」
細いフレイの足を抱えなおし、ディラスは早急に、引いた腰を突き上げる。
声にならない悲鳴をあげて、喉を逸らすフレイを激しく揺さぶりながら、ディラスは愛する女を抱く快楽へとますます溺れていった。


太陽もすっかり昇りきったお昼時。
足音もけたたましく、ディラスはポコリーヌキッチンに駆け込んだ。自分の職場で、恩人の店であるという意識は、いまは遥か彼方に吹っ飛んでいる。
「おい! おまえらよくも騙してくれたな!」
勢いよく扉をあけ、全員がそろっていること確認したとたん、ディラスは叫んだ。
「騙したなんて人聞きの悪い。どうしたんです?」
食後の紅茶を優雅に口に運んでいたアーサーが、カップを下ろして目を丸くする。
そんなことをいわれるようなことなどしていないという顔である。
いきなり怒鳴られたほかの面々――ディラスに、色事のいろはを教えてくれた男達である――も、似たような反応をしている。
その「自分達はなーんにも関係ないですよ」といった様子が、ディラスを余計に苛立たせた。
ぴきき、とこめかみあたりを引き攣らせつつ。
「おまえら、さんざんよってたかってたいしたことねえとか、いってただろうが!」
ぶるぶると握り締めた拳を震わせながら、再び叫ぶ。
と。
「「「「「……」」」」」
どうやらなにかを察したらしい彼らは、一様に沈黙し――そうして、顔を見合わせ目配せしあう。
「お、おかげでフレイに悪いことしちまった……くそ!」
暴走し、フレイがベッドから起き上がれなくした張本人であることは棚に上げ、ディラスは悔しげに顔を歪めた。


フレイとのはじめての交わりは、理性がどろどろに溶けてしまうくらいに、よかった。こんなにもいいものだと教えてくれていたならば、もっと別の覚悟を決めたというのに。いやまあ、聞かされていたとしても、理性が本能をおさえたかというとあやしいが。
できるなら、朝一番に彼らを責め立ててやりたかったが、フレイの代わりに畑やらペットの世話をしていたため、この時間になってしまった。
どうしてあんなにしちまったんだ、と、くったりとダブルベッドで眠るフレイを思い出し、後悔しきりのディラスに向けて、アーサーが商談のときにみせるような笑顔をむける。
「それはそれは、随分と楽しまれたんですね」
「どうりで今日はフレイの顔をみないと思った」
なるほど、と言いながら、何事か納得したらしいレオンが手にした扇をしなやかに閉じる。
他の面々は、とくになにもいわないが、どこかものいいたげである。
「……はっ!」
その、じっとりとしたいくつもの視線に、ディラスはようやく、自分が口にしたことのあやうさに気づいた。
明確には言ってはいない。だけれども、相談に乗っていた彼らにしてみれば、すぐになんのことかわかるだろう。
まずい、と僅かに逃げ腰になった瞬間。 
「よーし、つかまえろ」
レオンが、たたんだ扇でディラスをさした。
「おウ!」
「はい!」
まっていましたといわんばかりに、いつの間にか距離をつめていたダグとビシュナルが、ディラスの腕に飛びついた。


「いだ、いだだだ?!」
容赦なく、ぎりぎりと後ろへと腕を回されて、ディラスは思わず声をあげる。
そこへ。
「はい、あーんして?」
にっこりと、今日も眩しいくらいの天使の笑顔で、キールが自分のデザートであろうケーキを差し出していた。
フォークの先に乗った真っ白いクリームの向こうにあるのは、いつもの笑顔だ。無垢な子供の愛らしさが滲むような、キールの笑顔。だれもが思わずつられて笑いたくなるような。
だがそれが、いまのディラスには空恐ろしいものにみえた。
「う、ぐっ……?!」
ひっ、と悲鳴をあげて薄く開いた口へと、ねじ込まれるケーキ。その甘さが、ディラスを苛む。
「次はこれだよ!」
にっこにっこと、クッキーをとりだして押し込んでくるキールからの攻撃に、体が震える。
ああ、忘れていた。こいつらもにくからずフレイを想っていたことを。
そんな彼らに、我を忘れるくらいフレイとの夫婦の営みに没頭したといえば、こうなることはある程度予想できただろうに。
菓子を口に詰め込まれるという拷問に等しい行為を受けながら、ディラスは遠のく意識で己のうかつさを呪った。



夕方頃、よろよろとした足取りで、帰ってこない夫を探しにきたフレイに発見されるまで、ディラスはポコリーヌキッチンの片隅で、甘い菓子に囲まれたまま放置されていたという。



やりすぎには、ご注意を。

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最終更新:2012年08月31日 03:02
ツールボックス

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