「チョメ!チョメチョ・・・-メ公!・・・・・・リポリポ・・・ ・・・・・・ーらえ-――っ!」
どうもヘッドホンの調子がおかしい。線が切れかけているのか、音がブツブツ途切れる。すぐにでも修理したいところだが、生憎、仕事に向かわなければならないので、そうもいかない。
「えーらーそ・・・ブツっ」
ついに線が切れた。
拙者は、その場に崩れ落ちた。
EDO某所のスタジオ
「遅いわね~ぇ・・・」
「つんぽさん、また何かあったのかしら・・・」
「それが、何回携帯に電話入れても出ないんスよ」
今日はあたし、寺門通の新曲の打ち合わせ!・・・なんだけど、もう二時間も待ってるのにプロデューサーのつんぽさんが来ないの。いつもなら時間より早く来て、ロビーで音楽を聴いたりしながら待っててくれるのに。しかも、このあいだ「三味線弾いてたら、天然パーマの男に木刀でヘリコプターに叩きつけられて、ヘリごと地面に激突!」したときみたいな連絡もなくて、今、鳥羽さんが必死で連絡をつけようとしてくれてるの。
「どうしちゃったのか納豆汁・・・」
もしかしたら・・・頭に浮かんでくるのは悪いことばかり。私がうーと呻きながら項垂れると、鳥羽さんに「お通ちゃん」と呼ばれた。あたしは、かなり焦った様子の鳥羽さんから通話中の携帯電話を受け取った。電話の相手は、もちろん
「つんぼさん!?何があったんですか!?今どこに・・・」
あたしは、何を訊いたらいいか分からなかった。あたしは、きっと、鳥羽さん以上に焦ってたんだと思う。
そのとき、初めて電話からつんぽさんの声がした。
『お通殿、拙者はもう・・・ダメでどざる・・・・・・』
普段のつんぽさんの声とは遠くかけ離れた、弱くて、消え入るような声。
「えっ、一体何がダメなんですか、つんぽさん?つんぽさん!?」
もう、電話は切れていた。あたしがどんなにつんぽさんを呼んでも、返ってくるのは「ツーツー」という電子音だけ。
あたしは、電話を鳥羽さんに返して、また項垂れた。
「ちょっと、何があったっていうの!?」
ああ、ママはちょっとイライラしてる。
何があったって?つんぽさんが・・・つんぽさんが・・・なんか、よくわかんないけど、きっと今、つんぽさんは大変な思いをしてる。
でも、あたしは何て言えばいいの?
『もう・・・ダメでござる・・・・・・』
消え入るような声。
切れてしまった電話。
もしかしたら。
つんぽさんは・・・
きっと、もう・・・・・・。
あたしの意思とは関係なく、あたしが顔を上げて、ママと鳥羽さんに向かって言った。
「つんぽさん・・・死んじゃった」
最悪の答えを。
『ベン!』
「遅ぇな・・・万斉、アイツ何してやがんだ・・・」
春雨の「計画」の進み具合を報告させるために万斉を呼び出したはいいが、その万斉が時間になっても来ねェ。誰であろうと、俺を待たせる奴は腹立たしい。そいつが、待たせるのが趣味の俺ですら頭に来る_程早く来て三味線なんぞ弾いてることもある万斉なら尚更だ。
「・・・奴が来たら、話の前に灸を据えてやらねェとな・・・クク・・・・・・」
どんな制裁を加えようかと考えているうちに自然と口角が上がってくる。
丁度そのとき、近づいてくる足音が聞こえた。足音が部屋の前まで来たところで、俺は戸の方を見据える。
「おぅ、万斉遅かったじゃねぇか・・・」
だが、戸は開かずに、足音は遠ざかっていった。
足音の遠ざかっていった方から声が聞こえる。
『来島さーん!注文してた弾、届いてましたよーっ!』
・・・万斉。俺に恥をかかせるたぁ、いい度胸じゃねぇか。一遍、痛い目見せたほうが良いみてェだな。
俺は腹立ち紛れに三味線を掻き鳴らした。
奴は、今の俺をなんと呼ぶだろう。また、全てを破壊しつくすまで鳴り止まぬ狂詩曲・・・とか言うに違えねェ・・・・・・
と、また足音が近づいてくる。早足、いや、走っている。万斉の野郎、慌てて来たみてェだな。
「おぅ、万斉遅かっ・・・・・・」
走り去る足音に、廊下から聞こえる騒音―
『ロリコンじゃなくて、フェミニストですってば。だから私に銃を向けるのはお止めなさいと言ってるでしょーが、このイノシシ女!』
『だぁぁあれがイノシシ女っスか!?あー、もう、今日という今日こそは、大人しく打たれるっス。武・市・変・態!!』
―・・・・・・。
―――鬼兵隊の船に、悲しい獣の咆哮が響いたとか響かなかったとか。
あとがき
初金艮云鬼小説です。
タイトルの「彼女」はズバリヘッドホンです。実は、私も亡くしたんですよ・・・マイスウィーテスト・ヘッドホンちゃんを・・・・・・・(泣)
そんな悲しみのこもった、ちょっと長めのギャグです。どうぞ最期まで(アレ?)お付き合いください。