「あーあー、今日はついてねぇなぁ・・・スッちまった分そーすっかな・・・はぁぁあぁぁあ」
僕の隣を歩いている銀さんは、聞いてるこっちまでネガティブになるような溜息を吐いた。
「だから僕、何回も今日は止めにしようって言ったじゃありませんか」
僕が銀さんに文句を言うと、神楽ちゃんも便乗してくる。
「そうネ。今日から銀ちゃんのイチゴ牛乳はナシアルヨ」
「オイオイ、それどーゆーことだよ!?だったら先にあのでけぇ犬、どっかに捨ててこいよ!」
「定春は家族アルヨ!たとえ、ふりかけご飯すら食べられなくなっても捨てたりしないアル!イチゴ牛乳ぐらいで熱くなってんじゃねーよ、大人げねぇな。この糖尿天パ」
「ぁあ!?天パは関係ねーだろ!?俺だってな、悩んでんだよ!!」
銀さんと神楽ちゃんは、歩きながらしょうもない喧嘩を続けている。そろそろ仲裁に入った方がよさそうだ。
「まあまあ、二人とも落ち着いて。冷静になって今後のことを考えま・・・ブニ」
「冷静!?天パをバカにされて冷静になっ・・・ブニ」
「これはアタシと銀ちゃんの問題ネ・・・ブニ」
「『ブニ』って何!?」
ハモッた。
僕たちが恐る恐る足下を見ると、そこには

人が転がっていた。

僕たちは、それぞれの片足で、地面に転がっている人を踏みつけていたのだ。
「・・・って、ちょぉぉぉぉおおおっっ!さりげに非常事態ですよ!?はっ、早く、足、どけてくださいよ」
銀さんと神楽ちゃんが足をどけると、「地面に転がってる人」をよく見ることができた。長身で、体格のいい男だ。顔は見えないけど、ツンツンした髪も、結構高そうなコートも真っ黒で、背中に背負った三味線には、銀さんのブーツの跡が残っていたが、幸い割れてはいないようだ。
「あの・・・大丈夫ですか?・・・もしもし、もしもーし!」
応答はない。
「オイ、これちょっと・・・ヤバくね?死んでたりしないよね?」
「警察が来る前に、さっさと逃げるアル」
とか言って、銀さんと神楽ちゃんは方向転換しようとする。
「ちょっとアンタら、逃げようとしてんじゃねーよ!アンタらだって踏んづけてたでしょーが!」
僕たちが内輪モメを始めようとしたそのとき
「・・・ん・・・ぬしら・・・その魂のリ・・・・・・」
「喋ったぁ!?銀さん、この人、なんか喋ってますよ!」
男が顔を上げたので、僕たちはその男の顔を見ることができた。と言っても、男はサングラスを掛けていて、あまり表情は読み取れなかった。
男の顔を見た瞬間、銀さんの表情が険しくなった。
「おめーは、高杉んとこの・・・」
僕たちの周りの空気が、一瞬にして張り詰めた。僕は成す術も無く、銀さんと、地面に転がったままの男を見つめていた。
「ヘリごと地面に叩きつけられて生きてるなんざ・・・あんたバケもんか?・・・・・・えーっと、倉田君だっけ?」
銀さん自ら、緊張の糸をぶった切ってくれた。
「うろ覚えかよ!折角、なんかシリアスな感じになってきたのに、何やってんすか!?」
「だってさぁ、よくよく考えたら名前訊いてなかったし、前に会ったときだって『兄ちゃん』って呼んで・・・アレ?そういや今日はヘッドホンしてねーのか?」
さっきとはうってかわって、軽い口調で倉田さん(仮名)に話し掛ける銀さん。しかし男は、サングラス越しにこちらを見つめるだけで、答えようとはしない。
「オイオイ・・・ヘリごと地面に突っ込んで、耳が聞こえなくなったってか?いや、あの時は確かに俺も悪かったけどさ、そっちもそっちでお互い様ってゆーかー・・・・・・」
銀さんがなにやら、へらへらと言い訳を並べていると、倉田さん(仮名)は突然泣き出した。
「・・・くっ・・・拙者の・・・・・・拙者の、ヘッドホン・・・・・・否、拙者の・・・恋人・・・・・・」
それだけ言うと、男は再び地面に突っ伏した。男の頭の周りの地面の色が、みるみる変わっていく。凄い勢いで泣いてるよ!?この人。
「だぁぁああ――――――!わかった、俺が悪かった。謝るから。三百円あげるから。俺のイチゴ牛乳も分けてあげるから、お願いこんなところで泣かないで!?・・・神楽!定春にこいつ運ばせろ!」
こうして男は、万事屋銀ちゃんに運び込まれることになった。

 

 

思いつきで書いた話のに、長くなりました。B5版ルーズリーフにして4枚半の長さです。ピッチピチのネタを活かせるSSが書けるようになりたい!

最終更新:2008年11月18日 16:31