「ちょっとそこのお兄さん寄ってって~、可愛いコいっぱい居るよ~」
ピンクの板に金色の文字で「必殺遊び人」と書かれ、これでもかというほどたくさんの電球が煌めく看板を掲げる店の前で、桂は客引きに忙しい。エリザベスの行方も心配だが、金も要る。ヅラだって悩んでいるのだ。
「あっ、そこのイカしたお兄さん、どうです・・・・・・」
桂が声を掛けたのは、顔を隠すように笠をかぶり、羽織を着てはいるもの中に着流した袷の胸元は大きく肌蹴、寒いんだか暑いんだか解らないような、よく言えば伊達男風の男。その男は、桂の正面に立ち止まり、ゆっくりとかさを上げて桂に顔を見せた。
「よォ、ヅラァ、まだ捕まってねェみてェで安心したぜ」
桂の目の前に立つ男は、間違えようがない、高杉晋助だった。その姿を認めた桂は、まずお決まりのセリフを返した。
「ヅラじゃない、桂だ」
それから、高すぎを睨み付けながら、苦々しげに続けた。
「高杉、なぜ俺の目の前に現れた?次に会ったら斬ると言っただろう」
一方高杉は、何が可笑しいのかククッと笑い、
「しかし、こんな人気の多い場所じゃあ、おめェも俺を斬れめーよ」
その言葉に桂はむ、と唸った。おまけに今、桂は、刀も店の中に置いている。斬ろうにも斬りようが無い。
高杉はさらに楽しそうに口角を上げ、桂の耳元で囁くようにして言った。
「それよりもおめェ、あいつがどうしてるか、知ってるか?」
「誰のことだ」
桂の眉間に、一本の皺が刻まれる。高杉はまた、ククッと喉を鳴らした。
「エリーチャンのことだよ」
瞬間、桂は目を見開き、客引き用のボードを取り落とし、高杉の肩を掴んでいた。
「貴様、エリザベスがどこに居るか知っているのか!?」
「数日前まで、はな」
「なに!?」
「エリーチャンはな、駆け落ちしたんだよ。俺でもねェ、おめェでもねェ・・・万斉の野郎とな」
それを聞いた桂は、全身の力が抜け、糸が切れたかのようにその場にくずおれた。
「そんな・・・エリ・・・・・・ザベス・・・」
桂の長く艶やかな髪の一房を無造作に掴み、弄びながら高杉は気持ち悪いくらいの猫なで声でたしなめるように囁いた。
「なァ、だから俺は前にも言っただろう?ヅラァ。この世界は俺らから何もかも奪い取る。俺らは、この腐った世界をぶっ壊すしかねェ、って」

EDOで最もお洒落な通りにある一軒の珈琲屋で、エリザベスは万斉の仕事(音楽プロデューサーの方)が終わるのを待っていた。万斉は仕事が終わったら、エリザベスを迎えに来る。その後は勿論デートだ。だからエリザベスも、精一杯おもかしして万斉を待っている。万斉が「似合うでござる」といってくれた赤いリボンと、大きな赤いハートのチャームが付いたネックレスをつけて、睫毛もいつもよりくるりんとカールさせて。いつ万斉が現れてもいいように、コーヒーの入ったカップをかき混ぜる仕種にも気を使っている。
カランコロン
ドアに取り付けられたベルが鳴って、万斉が入ってきた。万斉はすばやくエリザベスを見つけると、小さなテーブルを挟んで向かいの席に腰を下ろした。
「待たせてしまったでござるな。一人で寂しかったでござろう?」
『あーもう、万斉さんと話したいこと一杯あったのに、万斉さんに会ったら全部忘れちゃった///』
恥ずかしすぎる会話をする二人(?)に、店内の視線が自然と集まる。
「なにあの変なやつ」「えっ、あれってもしかして、グラサンの人と・・・」「うっそ、マジありえない」
真っ黒なコートにサングラスという怪しい出で立ちではあるが、長身で洗練されたオーラを放つ万斉は、自然と人目を惹く。そして必然的に、エリザベスには嫉妬(なのか?)の視線が注がれるのだ。勿論万斉は、それをエリザベスよりも早く察知する。
「エリザベス殿、そろそろ外に出るでござる」
『ちょっとまって』
と、エリザベスは残っていたミルクティを、カップごと大きな口の中に放り込み、それから空になったカップだけを口から出した。













あとがき
久しぶりの更新です。書いたのは何日も前なんですけどね。
なんかヅラがとっても危ういです。晋ちゃんの毒牙に掛かりそうです。
次回あたりでクライマックスまで持っていけたらと思います。
最終更新:2009年01月29日 18:26