沙門、唐の国にて鬼と宴す

1:

「――ほう」

 と、息を一つ、つく男がいた。

 剃髪を施した男だった。
飾り気も何も無い、朱色の袈裟と、黒色の法衣を着こなすその様子。仏僧である事は、間違いなかった。
神や仏の教えを旨とする、厳格な宗教の世界にあっても、階級(ヒエラルキー)と呼ばれるものは存在する。
そして、そう言った階級を表すのに最も適した記号は、衣服である。刺繍や色、それらによって、僧や神官の上下関係が決められる。
男の纏う法衣の色は、我流。己の好む所とする組み合わせによるものだった。何処の組織にも属していない、流れの坊主。階級など、知れていよう。

 だが、纏う服ではない。纏う雰囲気と、その雰囲気を醸し出している身体つきが、魅力的であった。
魁偉と言う訳ではない。優れた美貌がある訳でもない。涼しげな目鼻立ちと、浮かべているさくかな微笑みが魅力的な以外に、取り立てた所は男にはない。
そうであると言うのに、男の雰囲気は、十人が十人見ても、超然としたそれだと断じられる程の超越性があった。
風に漂いながら、夜の虚空に浮く雲のような男。しかし、はぐれ雲とは異なり、己の天運、己の未来の何たるかを知悉し尽くしたような賢人。そんな印象を、余人は、男の姿に抱くだろう。

 そんな男が今、往来の只中で立ち尽くし、街々の光景を眺めていた。
この街の事は、男はよく知っていた。滞在しなければならなかった年数は、二十年。これは国から取決められた約束事であった。
男はそれを大幅に早め、二年で元の所へと帰郷した。そこでの生活が、嫌になった訳ではない。
二十年と言う年数は、適当な数ではない。それだけの年数をかけてじっくりと、異国の知識を吸収せよ。そう言う意味合いが、この年数には含まれている。
日々の勉学の最中、堕落する者もいた。終わりの見えぬ勉学の切磋の果て、遂に故郷恋しさに狂ってしまった者もいた。
男は、たったの二年で、その国の文化、文明、宗教を、吸収し尽くしてしまった。男は、紛れのない万能の天才としての資質を、天より与えられていたのである。

 そんな、たかが二年の思い出しかない街であったが、それでも。
男にとってこの国で過ごした短い時間は、宝石の煌めきのように彼の記憶の中で燦然と輝いている。
今は三月の中頃であると言う。春も盛りの季節だ。この季節になると、朔北から黄塵が、春風と共に運ばれてくる。この街の、風物詩であった。
骨をも指すよな寒さであるが故に、この街の冬は刺骨と呼ばれる程厳しい。そんな冬の厳風は、今や春の日差しに雪が溶けるように温み切り、
その風が、満開になった杏子の花の香りを運んでくる。この街は、この国一番の都である事は間違いない場所であった。
大街の左右に立ち並ぶ、楡や槐樹、楊柳は、既に淡さを程よく残した緑をほころばせていた。正しく嘗て、男が遣唐使達と共に楽しんだ事もある、『長安』の春であった。

 ――記憶の中の長安と違うのは、その活気。
馴染みの通りを歩いても、毎日すれ違う者すれ違う者が、違う顔であった程、人に溢れていた長安。それが嘘のように、大通りに人がいない。
商人も、官吏も、僧も、異国人も。この街にはいなかった。あるのはただ――餓鬼道に堕ちた亡者宛らに、下腹部を膨らませた、老若男女。
その身体に筋肉はなく、皮膚と骨の哀れな姿。皮膚の上からでも明白に形が解る程に、肋骨が浮き出ており、転んだだけで全身の骨が砕けてしまいそうな程だった。
米の一粒、麦の一かけらもこびり付いていない椀を、彼らは静かに眺めていた。ある者は、椀を、己の胸に抱いたまま、じっと椀の中を見つめていた。
まるで、椀の底から、海山の幸が溢れ出てくる事を祈っているかのようだった。その前に、己の眼球が零れ落ちてしまうのではないかと言う程、亡者の目は、飛び出ていた。

「これが、俺の過ごした長安の姿か」

 人の世界よりもなお広大な、宇宙の存在をはやくより自覚していたこの男をして、長安には、世界の全てがあったと信じて疑っていなかった。
それ程までに、この街には世界中の人間が集まっていた。世界中の物が集まっていた。世界中の活気を一つ所に集めた様な、サラダボウルだった。
そんな街が、死んだように静かであった。あるのはただ、飢えに苦しむ哀れな衆生のみ。

「お恵みを……慈悲を……」

 一歩二歩歩くと、未知の脇にいた、腹を膨らませた乞食が、男の方に椀を差し出していた。
救いを求める言葉。しかし、腹の底から救われたいと思っていながら、餓鬼の言葉には、隠し切れぬ諦念に溢れていた。
救われたいと思いながら、誰も己を救ってくれない。そう思っている事が、沙門の男には痛い程伝わってくる。そう、ただ、日々の習慣の如く。
人は夜寝て朝起きる、と言う当たり前の習慣(サイクル)を繰り返すが如くに、目の前の乞食は、今の言葉を繰り返しているに過ぎないのだ。

「……すまんな。俺は、貴殿を救う術を知らない」

 そう頭を下げ、目の前の乞食に真言(マントラ)を唱えてやる、一人の沙門。
それを唱え上げる頃には既に、目の前の男は死んでいた。椀が、カラカラと言う音を立てて地面を転がった。極度の栄養失調による、餓死であった。

「無力なものだな、仏法とは。人を蘇らせず、人の死を避けさせてやる事も出来ん」

 己の至らなさを恥じる言葉を口にした後、男は、足早にその場を去って行く。
向かう先は、狭斜。遊郭へと続く路地であった。生前は、仲間の留学僧から破戒僧だと罵られながらも、足しげく長安の美女達を侍らせていたものだ。
その遊郭へと続く道にも、活気がない。下は、田舎から飛び出して来たその日暮らしの若者が。上は、身分を隠した官吏や役人達まで。
様々な男達が浮足立ってこの通りを歩いたものだが、嘘のように、そう言った浮ついた男共の姿がない。ここもか、そう思う沙門であったが、しかし。
直に、考えを改める事となる。道すがら、腹を膨らませた乞食達が一点に集まっていたのである。
彼らは、一人の男を丸く取り囲むように、その場に座って待機していた。彼らの中心にいる男の身振り手振りを見逃さん、とするかの如し。
擦り切れた栗色の襤褸法衣を身に纏い、錫杖を持ち数珠を首に掛けた、灰色の髪の中年である。三十代後半の、酸いも甘いもかみ分けた、顔から迸る苦みが男らしい。

「さあ、誰か、瓜を買いたい者はおらぬか?」

 低く、渋い男の声を聞き、皆が、よろよろと手を上げた。食べられるものなら、食べたい所だろう。

「おう、おう。聞くまでもなかったか。よろしい、この俺が瓜を馳走してやろう」

 そう言って男は、襤褸の懐から黒い粒を取り出した。瓜の種である。
これを男は、錫杖の先で軽く地面を掘り、そこに瓜の種を植えて見せた。

「さて、この瓜の種をこうしてここに撒けば、すぐに瓜が出来る。すぐに、瓜がなる」

 杖の先で地面に土を被せる男。

「瓜がなる、瓜がなる」

 そう言って男は杖を軽く、身体の前で回転させ、経を読むかのように「瓜がなる」を繰り返していた。

「すぐに芽が出る、芽が出る」

 ――数秒後、奇跡が起こった。
乾いた土の中から、小さく頭を持ち上げるものがあった。瑞々しい緑をした、植物の若芽であった。

「さあ、伸びるぞ、伸びるぞ、大きくなるぞ」

 男がそう口にする度に、芽は太く、長く伸びて行き、遂には複数本の蔓となる。

「葉が生えた」

 葉が生えた

「花が咲いた」

 花が咲いた。一つ、二つではない。十、二十。
その花は直に落ち、それまで花があった所が見る見るうちに大きく膨らんで行く。

「さあ、もっと大きくなるぞ」

 更に、膨らみが大きくなる。もうハッキリと解る。それは、明らかに瓜の形であった。
複数のふくらみは見る見るうちに、大きく熟れた瓜となり、それが独りでに、瓜の蔓から離れて行き、十何人の乞食達の所へと、ころころ、と転がって行った。
瓜は、乞食一人につき一つ、しっかりと行き渡っていた。大ぶりで、齧り付きたくなるような青々しい香りを放つそれの誘惑に耐え切れず、
彼らは皆、瓜の腹へと齧り付いた。「ああ、うまい……」そう言って、乞食達はバタバタと、路上に倒れ込んだ。至福の笑みを浮かべたままに。
路上で沙門が見た、餓死した乞食達は皆、苦しみと絶望の最中にあるかの如き、険しい表情を浮かべたまま亡くなっていたが、栗色の襤褸法衣を纏う男の回りの乞食だけは、天国を見たかのような表情であるところが、また、異様であった。

「見切ったか。俺の術を」

「見切りました、貴方の術を」

 安らかに眠る乞食達を見下ろした後で、栗色の法衣の男が、言った。

「この俺の術を、術だと看破出来る者など、そうそうおったものではなかったが……さぞ、名のある阿闍梨と見た」

 そう、沙門は読んでいた。
先程、灰色の髪の男が生らせた瓜とは即ち、男の魔術によって生み出された幻であった事を。
瓜の種を植えるまでが、実際に彼が行った事。其処から先は全て、乞食達の『こうあって欲しい』と言う願望を元に投影された、ただの幻だったのである。

「阿闍梨などとは滅相もない。私はただの、旅の沙門ですよ」

「謙遜は人の自負を傷付けるものぞ、御坊。時に自惚れと解っていても、己の実力を誇る事も、世を渡る術だ」

「私が阿闍梨でないと言うのは、事実ですよ。それに、貴方の術は大層見事な物でした。ここまで見事な幻術(マーヤー)を操る等、ただ者ではない」

 「――そして」

「その幻術を、人を救う為に用いるなど」

「……フッ。厭味の上手い御坊だな」

 一瞬だけ、無表情を保っていた栗色の法衣であったが、直に、笑みを綻ばせた。己の無力を実感する、やるせない、すてばちの笑み。

「無力なものよ。仙界にまで通じる験力を得ても、人の腹を膨らます事すら出来やしない。人の飢えを満たす為には、麦や米が必要なのは、馬鹿でも解る真理だと言うのに……俺の学ぶ仏法は、その馬鹿でも解る道理すら満たせない」

「如何なる仏法も、人を直ちに救う事など出来はしない。貴方も、私も。その了解に達しているのではありませんかな?」

「そうだな……だが、それでも」

「救えるかも知れないと思った、ですか」

 目線だけを、栗色の法衣の男は、目の前の沙門に送った。
それを受けて、剃髪した男は、幻術を用いた男の方へと近付いて行き、男が先程種を植えた所に、軽く手を伸ばした。
――カッと、今度こそ栗色の法衣は驚いた。種を植えたままの地面から、急速に蔦が伸び始め、伸びた蔦から見る見る内に、瓜が生り始めたのであるから!!

「厭味で、こんな事をした訳ではない。救えたのに、救えなかった訳じゃない。ただ、この長安に来たのが先程の事と、瓜の種がなかったから、出来なかったのですよ」

 サッと、沙門が手を伸ばす。そこに、栗色の法衣の男が、種を一粒落して見せた。
この種の一粒を以って、沙門は、長安の民の全てを救うと言うらしい。そんな偉業が果たして、出来ると言うのか。

「それでは」

 そう言って、急いでその場を去ろうとする沙門。

「――待たれよ」

 栗色の法衣の男が、声を掛けて沙門を止めた。

「御坊。何の為に都に来られた。全てを人から奪い尽くす飢餓に覆われた、この末世の具現たる長安へと」

 背を向けず、沙門が答える。

「私なりのやり方で、この都を正す為、でしょうか」

「都の、何を正す」

「私が正そうと思った事柄の全てについて、全力で取り組みます」

「……その正そうとするものが例え、同じ仏門の者で、衆生に救いを齎そうと志していた者であろうとも、か?」

「御仁。『仏道を最も間違って歩む者は、誰ならん僧侶である』。その事を、御仁程のお方が、知らぬ訳でもないでしょう」

「そうか。……そうだな」

 シャン、と、錫杖を軽く鳴らして、今度は、栗色の法衣の男が背を向けた。互いに、異なる方向へと歩み始めようとした。

「縁があれば、また逢えようぞ。御坊、貴殿の世直しが、成就する事を祈っている」

「有り難いお言葉、感謝いたします。それでは」

 そこで、背後の男の気配が遠ざかって行く。
その事を、安らかに眠る乞食達の只中で立ち尽くす、法衣の男が噛みしめる。

「……『前』、『後』」

 そう口にした瞬間、シャン、と錫杖を鳴らしながら、横薙ぎに一閃。
刹那、彼の背後に、それまでずっとそこにいたかの如く、二人の女性が佇立していた。
額に1本の円錐状の角を生やした、青い肌で、六尺程の身長に、割れた腹筋。そして、大斧を背負った、胸の大きい凛々しい美貌の女性。
もう一人が、額に円錐状の角を2本生やした、赤い肌で、四尺半ば程の身長。そして、金剛杖をその手に持った、平坦な胸の愛くるしい少女。
両者は共に、体格も、肌の色も、手にした武器も違うが、唯一の共通点があった。それは、彼女ら二名は共に、最低限局部を隠せるような胸当てと股間当て、そして紐で構成された、露出度の高い服装をしていると言う事であった。

「お呼びですか、馬鹿験者」

「いい加減普通の服にしてください、馬鹿験者」

 呼び出されるなりこの言いよう。どうやら二名の鬼女の服装は、目の前の法衣の男の趣味であるらしかった。

「……見ていたな? 今しがた俺の前に現れた、恐るべき仏僧の姿を」

「えぇ、見ておりました」

 青い肌の鬼が言った。

「……震えが、止まりませんでした」

 赤い肌の鬼。努めて無表情を保とうとしていたが、身体の震えが、止まらないと言う様子だった。それは、青い肌の偉丈夫にも、同じ事であった。

「あれが、俺達が何れ相見える事になるであろう男だ。その姿、目に焼き付けて忘れぬようにしておく事だ」

「勝てますか?」

「さぁな」

 赤い肌の子鬼の言葉に対して、肩を竦める男。

「強く、固く信じていれば、或いは、だ。ただ、厳しい戦いになる事は、確実だろうな」

 「――それでも」

「験力を思うがままに振るって、この街を救うのは、この『長安のキャスター』よ。俺は、あ奴……『長安のグランドキャスター』の思惑なぞ、超えて見せるさ」

 長安の空に向かって、長安のキャスターは静かにそう宣誓した。
地上は地獄の坩堝であると言うのに、長安の空には、胸のつかえがスッと下りるかのような、見事な青が広がっているのであった。

2:

 皇帝の居城である、長安の宮殿には、人一人存在しなかった。
官吏も、近衛兵も、一人もいない。この宮殿に残る事を選んだ人物の全員が、等しく死に絶えたからである
想像を絶する、体中の皮膚や筋肉が生きたまま裂かれるような飢餓。泥水や尿ですら、飲む事を躊躇させぬ地獄の渇き。
この宮殿にいる事を選んだ者達は、苛まれ、殺される事になった。その犠牲者の中には、時の皇帝である順宗も含まれていた。
順宗は、喉を掻き毟った状態で、玉座に座ったまま死に絶えていた。下腹部を膨らませ、飢餓で死に至るその様子は、およそ皇帝の死に様とは思えない。
天帝とすら言われた皇帝が、事もあろうに貧民の如き死に方をしているのである。であるのに、纏う衣服だけは、豪奢を極るものであると言うのだから、その二律相反さは想像を絶する。

 誰一人としていなくなった、長安の宮殿。その、皇帝の謁見の間にただ一つ、生命体の反応があった。
いや、それは果たして、生命体と呼んで良い物なのだろうか。この、長安を――やがて中国全土を飢餓と渇きの地獄に叩き落とす、この悪魔を。一つの命として、数えても良いのだろうか。

「……」

 それは、色艶の悪い黒い馬に騎乗した、これまた黒いローブを身に纏った誰かであった。
この長安に呼び出されてから、それは、一言たりとも言葉を発した事がない。動けば、ガサガサと何かが擦れる音が、ローブの内側より響くだけ。
ローブの袖からは手が出ない。ローブと一体化した、被っているフードの中には、夜闇の様な暗黒の空間が広がっているだけ。
何一つ物を語らず。何一つとして感情を表に出さず、その存在は、長安全土を飢餓の底へと叩き落した。

 それが、この存在が、この地上に存在する意義だからである。
仮に、この存在を『彼』と呼称するなら、彼は、この地上に於いて上位存在や『神』と時に称呼される存在に産み出された、人に対する『罰』であった。
末世を生きる人間に対する、絶対の殺害権利を持ち、地上の人間を正当な手段で淘汰する事を赦された、四つの内の一つ。四色の内の、黒。
地上から人類が消え去らない程度に、人類を殺害するシステム。それこそが、謁見の間に佇んでいる、『長安のライダー』なのである。

 ガサガサ、と言う音が一層強くなる。システムが、感知する。
自分を滅ぼし得る、自分とは違う体系から生まれた『神』によって派遣された、救世(ぐぜ)の使徒が。
ローブが揺れ、フードがパサリと脱げて、その顔が露になった。ローブの中には、初めから、顔も頭も存在しなかった。
――『麦』である。枯れて、茶色になった麦だけが、黒ローブ騎乗者の首の辺りから、ゆらゆらと揺れていたのであった。

3:

「せっかく隆ちゃんと過ごせた長安にやって来れたって言うのに……」 

 往来の真っ只中で、ヘタリと腰を下ろす女がいた。
牡丹の花が随所にあしらわれた、殆ど尻のあたりまでスリットの入った旗袍(チャイナドレス)を纏う、桜色の長髪が眩しい女性だった。
非常に肉感的な身体つきをしており、更に、身体にフィットする服装を好むのか。九十cmは堅いバストはしっかりと前に出、尻の方はぴったりとドレスに張り付いて、男の劣情を誘う形になっていた。

 だが何よりも目を引くのは、その愛くるしい顔立ちだろう。
パッチリ開かれた瞳、すっと伸びた鼻梁。蓮の花ですら枯れる事を選ぶ程瑞々しい桜色の唇に、柳の様な眉。
世が世なら、それこそ大王のハレムに加えいれられ、それどころか本妻にすら選ばれても何の問題はない程の美人が、泣きそうな顔で、て言うかえぐえぐ泣きながら空を仰ぎ見ていた。

「何でどこにも食べ物がないのおおおおぉおおおぉおおぉおぉぉぉおお!?!!!?!!!! お腹空いたあぁああぁぁああ!! びえーん!! ……あ、英霊だからお腹空かないんだっけ? でも空くのは空くのおおおぉおおおぉおぉお!!」

 と、其処らに餓死者が転がっている状況で、仰向けに倒れて駄々を捏ね始めた。
それらに気付いていないのか。それとも、気付いた上でやってるのか。どちらにしても、余程の大物か、ただの馬鹿である。

「茘枝(レイシ)食べたいいいぃいいいぃいいぃ!! もうやだぁ!! 英霊の座に還る!!!!!!!」

 ……残念な美女。もとい、『長安のアサシン』は、何処がアサシンだ馬鹿とでも言いたくなる程目立ちながら、十分たっぷり泣き続けた。勿論、自分が何故、この場所に呼び出されたのかも、知らぬまま。

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最終更新:2017年05月09日 23:05