終末論ダービーレース(2)

「我が威光、栄光の一欠片に過ぎぬ。これは事実である。余に傅く尖兵の一つに過ぎぬ。これもまた、真実である」

 尊大なオーラを隠しもしない声音だった。
持って生まれた己の全て。身体、性格、才能、魂。それらの全てに、万斛の自信を抱いているような。
揺るぎない物を感じさせる声であった。その声の人物は、健康的な褐色な肌が特徴的な、極めて立派な偉丈夫であった。
腕を組み、顎を上に挙げ、見下すような態度を取るその男の姿を余人が見ても、誰も不快には思わないだろう。余りにも、サマになっているからだ。
人を見下す。その態度を取って当然――取れて当たり前。それ程までの説得力を男は有していた。

「だが……それと、雑に扱うと言う事柄は、同じ視座で語れまい」

 王の中の王たる気風を発散させるその男、オジマンディアスは、怒ると言うよりも寧ろ呆れた様な瞳で、クー・フーリン、頼光、メイヴ、そして酒呑と茨木。
この五名を見渡しながら、そのような事を言い放ったのである。

「そない言われても、こうでもしないと無事逃げられんかったからなぁ」

 言って酒呑は、目線をオジマンディアスの方から、彼女から見て右側十m方向にうず高く堆積した小山に目線を向けた。
――違う。あれは、小山ではない。それは、蹲る四足歩行の生き物だ。顔は人面、身体は獅子、背中から飛び出たるは猛禽類を思わせるような強壮な翼。
埃及の伝承において、神秘の彩りを欲しいままにする存在。聖なる獣であるとも、神の意思や言葉を伝える伝令(メッセンジャー)であるとも言われる。
その名を、スフィンクス。極東の国日本においても広くその名が知られる、伝説の瑞獣である。

 だがしかし、古の人間の殆どが畏敬を憶えたであろうその威厳溢れる巨躯からは、今や一切の力強さも感じられない。
力なく項垂れ、這い蹲るその姿の何処に、畏怖を憶える余地があると言うのだろう。餌を与えられぬまま一週間と過ぎた獅子ですら、まだ辛うじて威厳の欠片もあろうと言うに。

 尤も、そんな風な状態であるのも、無理なかろう。
顔面から身体全体、翼の全て至るまで、蓮根か、酷い虫食いにあったチーズの如く。穴と言う穴が開いていたからだ。
この状態で、今もスフィンクスは生きていた、かに見えたが。さしものスフィンクスも、この状態で生命活動を続けるのも限界があったらしい。
オジマンディアスの方に、何らかの感情がこもった目線を向けた瞬間、ズッ、と頭から地面に倒れ込み、そのまま淡い黄金色の粒子となって煙のように空へと立ち上り消滅した。

「お疲れさん」

 と、ねぎらいの言葉を投げ掛ける酒呑。

「……天空の女王はまだ、丁寧に扱う方だったようだな」

 諦めたような声音で零すオジマンディアス。

「本当に申し訳ございません、オジマンディアス王……」

「構わん、ライコウ。お前達がどのような窮地を潜り抜けて来たのか、この地からでも良く見えたわ。スフィンクスの一体で、無傷で切り抜けられた事の方が寧ろ、賞賛するべき事かも知れんな」

 心の底から悪いと思っているのか、深々と頭を下げる頼光にそんな言葉を投げ掛けた後で、オジマンディアスは、
遥かな上空に浮かぶ黄金の宮殿に目線を投げ掛ける。時に建築王、とすらオジマンディアスは、彼にしては珍しい、関心の心持ちが煌めく瞳で、ラーヴァナの持物たる宮殿を見つめていた。

「あの度が過ぎた豪奢さは、余の美観には合わぬが……万民に威容と威風を知らせしめる、と言う点で考えれば……。フン、及第点、と言った所か」

 これはオジマンディアスとしては、破格の評価であろう。
宝具として使用・運用している、あのラムセウムの建造者である男が、合格と認めているに等しいのである。
その性格上彼が、自身より優れた建築センスの持ち主であると認める事は、この世が滅ぶその時ですらあり得ない。そんな男が下す及第点と言う評価は、事実上、この世において並ぶ者がいない建造者を指し示すのと同じであった。

「『維持』の。あれは、貴様の言う所の羅刹王の宮殿で、間違いないのだな」

 と、オジマンディアスがそう言うと、彼の背後に佇んでいた、ルビー色の髪をした美少年が口を開く。
鋭い光を宿した瞳で、雲より高い位置に浮かぶラーヴァナの宮殿を睨みつける、筋肉質な身体つきを持ったその少年こそが、聖王『ラーマ』。
件の羅刹王を討ち滅ぼした大英雄、カルデアにあってはトップクラスの実力を保有する、特記戦力の一人でもあるセイバーのサーヴァントであった。

「……よもや見間違える筈もなかろう。あれなるは、余の宿敵にして、ランカーに君臨していた魔王。ラーヴァナが保有する『プシュパカ・ラタ』だ」

 重苦しい様子で肯ずるラーマ。 

「それにしても、よくもあの悪夢の宮殿から生きて帰って来れたものだ。我が弟であるラクシュマナや、同胞ハヌマーンすらもが手を焼いた程だと言うのに……」

「お前が知るあの宮殿の特徴から考えるに、あのライダーは恐らく俺達を迎え撃つのに全く本気を出していなかったと見える。恐らくは、試していた可能性が高い」

 そう言ったのはクー・フーリンである。

「ラーヴァナは、戦う前に先ず戦士を試す。そんなきらいは確かにあるからな……生前余が見たプシュパカの内部を、敢えて使わなかった可能性が高い」

 ラーマに曰く、プシュパカと呼ばれるあの宮殿の内部は、酒呑や茨木、クー・フーリンに頼光、メイヴらが簡単に移動出来るような空間ではないと言う。
生えて来ているのではと錯覚する程大量のラクシャーサは勿論、空間及び到達の過程を捻じ曲げて目的の場所への到着を不可能とする、空間制御機構。
局所的に数千度の気温にまで達させる罠が設置された廊下やトラップに、音速で飛来する魔力の籠った宝石を飛来させる射出装置。
縊り殺したナーガ(龍)から採取した毒素を霧状に噴射させ、神の加護を得た英雄ですら悶死させるガス室など。
その気になれば、ラーヴァナの下まで到達する前に死亡するような罠が、あの内部には無数存在した筈なのだ。
生前のラーマ達は、数歩進むのにすら神経をすり減らした程プシュパカの内部は厄介だったと言うが、クー・フーリン達が侵入した際には、そんな物はなかった。
敢えてラーヴァナは、彼らを試した可能性が高い。宝具となった影響でトラップが再現不可能になった、と言う展望は寧ろ甘いと言う物であろう。

 しかしそれでもラーマは、クー・フーリン達の脱出の手腕を高く評価していた。
脱出する際にプシュパカが見せた、数万条にも達さんばかりの、高熱のレーザー。その一斉掃射から、逃げ切れたその腕前と悪運の強さは、成程褒められるに値する。
とは言え、無事かつ完璧に逃げ切れた訳ではなかった。回避不可能な程にばら撒かれたレーザー掃射の影響で、プシュパカの下まで侵入するのに使った、
オジマンディアスから借り受けたスフィンクスは蜂の巣にされ、スフィンクスを盾にしても躱し切れないものについては、
頼光やクー・フーリン、酒呑達の三名が必死の思いで弾き飛ばす事で難なきを得た。実際の所、その脱出計画については恐ろしくギリギリの、瀬戸際作戦だった。
本当に、何か一つ歯車の噛み合いが悪ければ、プシュパカから掃射されたあの黄金の熱線で、何名かは消滅させられていた可能性だってあった。
それを思うと、ゾッとしない。羅刹王。その名前に確かに偽りがないと確信させる程に、恐るべき宝具であった。

 穴だらけになったスフィンクスの痛覚を、酒呑がもつ魔酒の影響で麻痺させるのと同時に、頼光の持つ高い騎乗スキルでこれを操縦。
ほうぼうの体で、此処東京都は府中市浅間山まで逃げて来た、と言うのが此処までの粗筋である。

 >>皆無事で、良かったよ

 立香は素直にそう呟いた。
あの戦い、この場にいる誰もが、それこそ自分を含めて。命を落としていた可能性が多分にあった程、激しく厳しいものだった。
それを、大なり小なりの手傷こそ負えど、何とか逃げ切る事が出来た。この事実が既に、奇跡に近い事柄であった。

「せやなぁ、マスター。ほんに、菊散らさんでよかったなぁ」

 >>鬼みたいなこと言って思い出させないでね

「鬼やし」

「そうだぞ、酒呑は鬼だぞ!!」

 プシュパカ内部でラーヴァナに着させられた衣装については、頼むから忘れて欲しかった。
クー・フーリンや頼光、ラーマ辺りは、ナントカの情け的な感じで黙っていてくれているが、彼ら以外は未だにネタにしてくる。
どうした!!、なにがあった!!、趣味か!?、次のイベントで配られる礼装?、と言ったリアクションが主だ。死にたくなる。
ちなみに今の立香は、あのベビードールの恰好から、最早なじみ深い、カルデアで支給される制服型のそれに着替えている。
酒呑達がラーヴァナ達と大立ち回りをしている時に、偶然保管されていたので、卓越した盗みの手管で取り返して来たそうだ。素直にそれは、有り難い。
ベビードールだと恰好が拙いとかそれ以前の問題として、礼装に備わる各種機能が使えなくなってしまうのだ。
サーヴァント達のサポートを主な仕事とする立香にとって、その不利は危険過ぎる。よって酒呑達は、ラーヴァナに遅れこそ取りはしたが、トータルで見たら十二分以上の活躍をしたと言う訳だ。

「……それにしても、全く状況が解らんな」

 沈黙を保ち続けていたクー・フーリンが、重苦しげにそう言った。

「この世界に俺が呼び出された所で、やる事は変わらん。マスターが指差して、倒せと言われた敵を殺すだけだ。特に疑問を抱く訳でもないが……他の連中は、そうも行かんのだろう?」

 狂王が口にしている事は、こう言う事だ。
何故、自分達が此処に呼びだされたのか? 立香にしてみれば、この世界における自分の窮状を助けてくれた頼りがいのあるサーヴァント達だ。
疑う訳ではないが、それでもやはり、疑問が生じる事は否めない。先ず以って疑問なのが、彼ら全員が、カルデアで契約した面識のあるサーヴァント達と言う事。
この場にいる全員、特異点へと足を運ぶ前に、事前に連れて行く為待機させたサーヴァントではない。本当はもっと別のサーヴァントを用意していた。
にも拘らず、この場にいるサーヴァントは、当初用意していたサーヴァントとは違うばかりか、あろう事か全員がはぐれサーヴァントではなく、正真正銘、
カルデアにて藤丸立香と契約を結んだサーヴァントである。これは果たして、どう言う事なのか?

「運命、なる言葉で納得するのなら早いが……。彼の羅刹王がいる地に、余が呼ばれる。……都合が良い、と考えてしまう自分がいる」

 ラーマもまた……いや。この場にいる全てのサーヴァントが、気付いたらこの地に召喚されていたと言う。
ヒロインX以外の全員は、この浅間山に一同になって召喚され、天空に浮かぶラーヴァナの居城を察知。あの場所に囚われた藤丸立香を救出に向かったのだ。
サーヴァント達ですら、疑問に思っている。カルデアにて、思い思いの時を過ごしていた彼らが突如として、特異点の東京に、何かしらの力で召喚される。
何が起こったと、思わぬ訳がない。しかし、理由も目的も、思い浮かばない。そしてこれは、これからの行動の指標も立てられないと言う事に等しい。
闇雲に動き回るだけでは、悪戯に体力と魔力を消費するだけだ。明白なヴィジョンが、今のカルデアには必要なのだ。

「んふふ~、そのヴィジョン、私が示してあげましょ~」

 突如として、この場に響く、聞き覚えのない女性の声。
この場にいる誰かの声では断じてなく、しかし、立香だけがその正体を知る女。皆が声のした方向を振り向くと、其処には張本人たる女性がいた。
シースルーの入った黒いドレス、黒い髪を姫カットにしたロングヘア、そして――背中から生える、昆虫のそれを連想させる翅……。

 >>アサシン……ペンプトス……

「あー、憶えていてくれたんですね!! 嬉しい!! アサシン・ペンプトス。右も左も解らない貴方達の持ってる情報量と、元凶である私達の持ってる情報量の公正を保つ為に、態々この世界での切り抜け方をレクチャーにし馳せ参じました!!」

 ピョンピョン飛び跳ねて、ペンプトスは喜びの意を露にしながらそう口にする。
その姿と、名を認識した瞬間、この場にいる全てのサーヴァントが武器を引き抜き、鋭い目線を彼女に送り始める。
それを受け、あわあわとした表情を浮かべて狼狽するペンプトス。よく態度と表情を変えるサーヴァントだった。

「ちょちょ、ちょ~っと待って下さいよ~!! 此処で私を倒しちゃって良いんですか? 嘘かも知れない、って解っても、情報の一つ聞いておいた方が宜しいのでは?」

 >>……今は武器を収めてくれ

 立香の言葉を受け、不肖不服と言った様子で、皆が武器をしまう。
ペンプトスの言う通りだ。口にした情報が真実か嘘かは、話を聞いた後でも吟味出来る。皆が攻撃の態勢を解いた事を見て、ホッと胸を撫で下ろすペンプトス。

「あ、危なかった~……折角メッセンジャーの役割を買って出たのに、台詞もなしに殺される何て真っ平御免ですよぅ」

「貴様が真実を語ると言う保証はあるのか?」

 オジマンディアスの言葉に、ムッと頬を膨らませるペンプトス。

「人を嘘吐きみたいに言わないで下さいよ~!! 私は本当の事しか喋らないんですから。そうじゃないと、貴方達にとってもフェアじゃないです」

「いいから早く言いなさいな、私の彼の逞しい槍が唸りを上げるわよ」

「誰が『彼』だ」

 メイヴとクー・フーリンの短いコントの後で、コホン、とペンプトスが咳払い。

「まず、貴方達の当面の目標と、私達と貴方達の勝利条件について説明しますね」

 >>勝利条件?

「ほら、貴方達って特異点を幾つも渡り歩いてきて、何をすれば特異点を修復? 修正? まぁ、そんな感じにする条件とかあったらしいじゃないですか」

 立香は思いを巡らせる。
ペンプトスの言う条件で、一番簡単な修復条件は、特異点の発生源……言ってしまえば根幹を断つ事だ。
聖杯そのものを奪還したり、或いは、特異点の元凶たるサーヴァントを消滅させたり。この二つの内どれかを行えば、その特異点は解決、と言う事が殆どであった。

「じゃあ先ず、私達の勝利条件から言いますね? 私達の勝利条件、即ちそれは、『この特異点に召喚されたカルデア側のサーヴァント全員を消滅させるか、或いはカルデアのマスター・藤丸立香の抹殺』です」

 殺意が、この場に漲った。言うまでもなく、立香と契約しているサーヴァント達の。冷や汗を流しながら、ペンプトスは更に言葉を続ける。

「……って言っても、後者の立香くんの抹殺については、みーんなやる気ないみたいですけどね。あぁでも、(テタルトス)さんは例外ですかね~、あの人弾みで殺しちゃいそうですし。まぁでも事実上、カルデア側の敗北条件はサーヴァント全員を消滅させられて、カルデアに送還される以外にありませんよ」

 >>やる気が、ない?

「私達みーんな、立香くんについて恨みつらみもないですから。勿論、カルデアのサーヴァント達と私達の戦闘の余波を蒙って死ぬ~、とかは別ですけど、私達が自発的に立香くんを殺しに行く事は、ないですのでご安心」

 エッヘンと胸を張るペンプトス。

「さて、それではカルデアの皆さん側の勝利条件ですが……それは、私達『Ⅰから順番に襲い掛かってくる終数(ドゥームズ・ナンバー)全員の消滅』及び、我々の首領たる『クラス・アークエネミーの討伐』です」

 >>アークエネミー……?

 サーヴァント全員もまた、同じ言葉に反応した。知らない。聞き慣れないとかそれ以前の問題として、初めて聞く名前の存在であった。

「解らないでしょうから、説明しますね。終数って言うのは、私達側のサーヴァントの事です。全部合わせて七名いまして、全員が例外なく、ギリシャ語の数字を意味するコードネームが付けられてるらしいですよ。ちなみに私はペンプトス……5番目らしいです」

 ゼフテロスだとかプロトスだとか。あの単語が、ギリシャ語だったとは立香も知らなかった。

「で、問題はこのアークエネミーです。私達の首領と言いました通り、我々はこのアークエネミーによって召喚されたんです。そう、この星を滅ぼす為に!!」

 再び胸を張りだすペンプトス。クー・フーリンと頼光が武器を構え始めたのを見て、慌てて次の説明に移りだす。

「アークエネミーって言うのは、本当にザックリ説明しちゃいますと、『顕現する可能性が限りなくゼロに近いビースト』みたいなものです」

 全く、この場にいる誰もがその言葉の意味を理解していないらしい。疑問符が今にも浮かび上がりそうな表情を例外なく全員浮かべている。

「アークエネミー。それは言ってしまえば、星と世界、そして其処における霊長の大敵として、ガイア・アラヤ双方に観測され、座に登録されているクラス……って言うのが、(ゼフテロス)さんのふれこみです」

 >>初耳だよ、そんなクラス

「でしょうね~。このクラス、地上の如何なる手段でも召喚不可能ですし、召喚出来る可能性を持ったあのビーストⅠも、無視したらしいですから」

 >>ゲーティアが?

「アークエネミーって言うクラスの最大の特徴は、『直接・間接的手段で、その星を滅茶苦茶に出来る存在が該当』します。凄い感染力を持ったウィルスを保持してたりとか、一瞬にして大量の霊長を虐殺出来たりだとか、直接的に星を破壊出来たりだとか……まぁ最後の条件に該当するような存在は先ず呼ばれませんけど」

 >>呼ぶだけ無意味じゃない? それ

「そこがミソです」

 ビッ、と指を立香に突き付けるペンプトス。

「ビーストが何かの弾みで地上に顕現してしまう、と言うものは立香くんには説明が不要かと思いますけど、アークエネミーはそれ以前の問題です。地上の聖杯程度じゃ、絶対に召喚は愚か、その残滓だって召喚出来ないです。魔神柱が知恵絞った所でも、まぁ多分無理ですね」

 >>何で?

「アークエネミーって端的に言っちゃうと、仮想敵何ですよ。人類の創作上に存在して広く認知されてる物だとか、嘗てこの地球上で起こった大災害、嘗てこの地球上に飛来した恐るべき生命……。それが何か上位概念に記録されてしまったのが、アークエネミー。ぶっちゃけた話、そんな災害みたいな存在、好んで召喚する者もいないですし、抑止力だって地上に顕現させるのを易々許す訳ないじゃないですか。召喚する前に色んな要素積み重なって頓挫するのがオチですって」

「ですが、貴女がたはその、『あーくえねみー』と言うクラスの存在に召喚されておりますね?」

 油断なくペンプトスを睨みつけながら、頼光が問う。
ペンプトスの言葉から、アークエネミーがいかなる存在で、そして、通常は呼ばれ得ない存在である事も頭で理解した。
だからこそ、矛盾している。そんな存在がどうして、自分達の敵になっているのか?

「うーん、実を言うと私も良く解らないんですよねぇ。気付いたら私も召喚されてましたので、首領が召喚された経緯まではちょーっと解りません」

「役立たずが」

「わーん酷い!! 本当なのに!!」

 >>……それで、誰なの? 君達を召喚したアークエネミーって

 其処が、最大のポイントだ。敵は解った、成すべき事も理解した。なら次は、その本丸の正体だ。

「……私達、終数を召喚し、私達にこの星を滅ぼす宿命と力を与えたそのアークエネミーの名前は、『アンゴルモア』と言います」





真名判明

【終末・恐怖】 アークエネミー



真名



アンゴルモア






 アンゴルモア。
立香は聞いた事がある。聞いた事はあるが、本当に又聞き程度の知識である。
自分が産まれるよりも前、二十世紀がじきに終わろうとする1999年。日本のみならず、世界中を騒がせた、有名な終末論があったと言う。
預言者ノストラダムスが記した、『恐怖の大王』。その頃は、この恐怖の大王とは何なのかと言う解釈で話題でもあった。
その正体には諸説あったが、多くの者は、二十一世紀に人類が足を進む前に、この恐怖の大王の手によって地球は終わってしまうのだと信じていたのだ。
勿論、恐怖の大王が来臨し、この地球を滅ぼしたのかと言われれば、西暦2016年を迎えている現状が、その全てを物語っている。星は終わらなかったのだ。
結局そのまま、ノストラダムスの予言は1999年の終わりと共に一気に風化、そしてアンゴルモアなる存在自体も、めっきり語られなくなり、忘れられてしまった。

 ――そんな存在が、アークエネミーのクラスで召喚されている。
アンゴルモア、と言う名前からでは、何を行って来て、どんな手段で霊長や地球、文明を破壊出来るのか。想像が出来ない。
真名を把握したと言うのに、対策が打てない。初耳のクラス、曖昧模糊としたアンゴルモアの逸話やキャラクター性。対処を立てられる筈もなかった。

「あぁ、首領が何をしてくるのか、って事については聞いても無駄ですよ。教えられないとかそれ以前に、私達全員が解らないですから。教えてくれないんですよねぇ」

「信頼がないからではないのか?」

「うーん、そうかも……」

 ラーマの皮肉を素で受け取る位には、如何やら終数と、その首領であるアークエネミー・アンゴルモアとの関係は、冷えているようだった。

「まぁでも、確かな事は一つですね。私達終数は、この地球上に住まう総人口の半分を優に越える人間を葬るだけの力と、それを実行する意思を植え付けられているって事です」

 >>見える、そういう風に?

 立香が試しに、この場にいるサーヴァント達にペンプトスが、自分達を葬れるだけの強さを持っているのか確認してみる。
皆が皆、首を横に振るった。強がりとかそう言うのではない。此処まで属性も、性格も、戦闘におけるスタンスすら違う全員が、一様に強そうには見えないと言ったのだ。
その中には、相手の戦闘力を見抜く確かな眼力を持った歴戦の猛者もいる。見間違いはまずあり得ない。となると、目の前のペンプトスは、本当に弱いサーヴァントなのだろう。

「そう見られてもしょうがないですね~。正直私の強さはお世辞にも褒められた物じゃない、ハッキリ言って激弱です!! 強化された今の状態でですら、終数の方々は勿論、この場にいるカルデアのどのサーヴァントと戦っても瞬殺間違いなしです。もう、最弱のアサシンですよはい!!」

 「自慢する事じゃなかろう」、と呆れた様子で茨木が言った。

「あ、もしかして、終数のナンバーが後になればなるほど強いサーヴァント!!、って思ってません?」

 >>え、違うの?

 立香は素でそう思っていた。 
ペンプトスの話によると、終数と言うメンバーは、Ⅰのプロトス……即ちラーヴァナから順番にⅦ番目まで、若い順から襲撃してくると言う。
順当に考えれば、先のナンバー程弱く、後の方ほど強い……そう考えるのも、仕方がない事であろう。

「今の内に言っておきますけど、終数のナンバーはそれぞれ、『人類にとっての厄介さ』で決まってますから。後の方になればなる程、普通の人間にとっては対処が難しくなって行く、って感じです。だから激弱な私でも、人間には対処がとても難しい方法があるからⅤ番目なんですよ」

 >>そうなんだ……

「そりゃそうですよ。そうじゃなかったら、(プロトス)さんとか、(ゼフテロス)さんとか、(トゥリトス)さんが若い数字な訳ないですよぅ。単純な戦闘だったら、多分この三人が頭抜けてますから……あ、でも(エクトス)さんは別かも知れないですね。あの人、厄介な上に半端じゃなく強いですから」

 想像以上に口が軽くて、滑らせやすいサーヴァントのようだ。
次から次へと、漏らしちゃいけない筈の情報を口にして行く。おかげで今後の方針どころか、襲い掛かってくるサーヴァントの対策すら立てられそうな様子だった。

「それじゃあ最後になりますが、カルデアVS終数の戦いの、詳しいルールを説明致しますね」

「ルールだと? 殺し合いにそんなルールも糞もあるかよ」

「まぁまぁ、一応大事な事何ですから、聞いておきましょうよ」

 「一つ」、人差し指を立てるペンプトス。

「先程も言いましたけど、私達はⅠ……つまり、プロトスさんから順番に、それぞれに合った方法で世界を滅ぼしに掛かりますし、その過程でカルデアのサーヴァントの皆様方を消滅させます」

 それは、先程も聞いた。理解出来ない所はない。「二つ」、と。人差し指に続き中指を立てるペンプトス。

「私達はこの地に召喚されたカルデアのサーヴァントを全員葬った後で、地球を滅茶苦茶にする事で、首領……つまりアンゴルモアから『聖杯』が貰えます。一部除いて、皆それが目的みたいですね」

 この情報は初耳だ。
どうやらそのアークエネミーと言うクラスの存在は、何かしらの手段で、終数のサーヴァント達の願いを叶えるだけの魔力を内包した聖杯を入手していたらしい。
それを餌に、彼らを従え、星を破壊すると言う算段なのだろう。

「三つ。これは貴方達が特に意識するべきルールなんですけど……」

 ペンプトスは、薬指を続けて立てた。

「不思議に思いません? 立香くん。これだけの数の凄いサーヴァントを従えていて、魔力の消費もないばかりか、どうしてカルデアで貴方によって召喚され、縁と絆を結んだサーヴァントだけが召喚されているのか」

 後者については、初めから疑問に思っていたが、前者の疑問については、言われてみて初めて気付いた。
クー・フーリンに頼光、酒呑童子、茨木童子。メイヴにヒロイン、オジマンディアス。果てにラーマだ。見事なまでに、カルデアにおける特記戦力ばかりだ。
カルデアに於いて強さの格が高いサーヴァントと言うのは、往々にして召喚した際の魔力消費が高い事をも意味する。
おいそれと、レイシフト先で強いサーヴァントを召喚して臨めないのは、こう言った魔力面での問題がある事も大きい。
――この特異点においては何故か、その問題が全く発生しない。寧ろ立香自体、「本当に魔力を消費してるのかなこれ?」と疑問に思う程、減っていない。
常なら嬉しい恩恵、と思ってしまうだろうが、此処ではそれが逆に不気味だった。本来不可避である筈の代償を、支払わなくても良い。
余りにも至れり尽くせりだ。何か裏があったりとか、後々とんでもない負債を支払わねばならないのでは? と身構えてしまうのも、無理からぬ事であった。

「御安心下さい。貴方方にとってデメリットどころか、その現象、私達の側にしかデメリットがないだけですから」

 >>どう言う意味?

「さっきも言いましたが、アークエネミーってクラスは星を滅茶苦茶にしてしまうって言う都合上、本来は召喚される事のない仮想敵。呼ばれるとしたら地球自身がとうとう狂ってボケたかな? 位でしかあり得ないんですよ」

 「ですが」

「万が一召喚されてしまった場合、人間達が言う所の抑止力って言う概念が、強制的にデメリットになるスキルを付与させてくるんですね。『連鎖召喚』……でしたかね。そのアークエネミー及び、それが従える眷属を倒すのに最も適したサーヴァント、または過去に打ち倒したサーヴァントが、受肉してるに等しい状態で召喚されるんです」

「む、じゃあカルデアにいる時以上に私の身体が軽いのも……」

 ジャージをはためかせて、体中のあちらこちらに目線を送るヒロインXを見て、ペンプトスが口を開く。

「はい、カルデアやマスターから供給される魔力とか以前に、抑止力のブーストがあるからなんですね。さっきも言いましたけど、ビーストⅠがアークエネミーを人理焼却の計画に組み込もうとすらしなかったのは、これが原因何ですよね。下手したら特異点の鋲代わりに用いたサーヴァントや魔神柱を軽快に上回る強さのサーヴァントが顕現しかねないんですもん。そりゃ、進んで手を組もうとする筈がないですよね」

 >>全員カルデアで召喚した、俺との記憶があるサーヴァントなのは……?

「そっちの方が、抑止力としても都合が良いって思ったからでは? 世界で一番サーヴァントを使役すると言う事についての経験値を持つカルデアのマスターに、扱いなれたカルデアのサーヴァントを寄越す。道理だと思いますけどね。まぁ、その辺りの抑止力の考えてる事については、流石によく解りません。兎に角、良いじゃないですか。さっきも言いましたけどこの召喚にはデメリットは御座いません、貴方達にとって完全に有利な事なんです。思う存分、本気を出して下さいね」

 およそ、これから自分達を打ち倒すかもしれないカルデア、つまり敵に類する人物に送る言葉とは到底思えない。余裕、の表れなのだろうか。

「ペンプトスとやら」

「はいな」

 ラーマに対して返事をするペンプトス。

「余が召喚されたのは、そちらの言葉から判断するに『ラーヴァナを倒す役として最も適任だったから』、なのだろう。それは理解した」

 他の終数のメンバーの真名が解らない為何とも言えないが、ペンプトスの言った連鎖召喚の定義を最大限で満たしているのが、ラーヴァナとラーマの関係性だろう。
ラーマーヤナを紐解けば明らかな事だが、ラーマは過去にラーヴァナを討ち滅ぼしている。これは疑いようもない、公然の事実である。
だから、アークエネミー或いはその配下達を打ち倒すのに適切、或いは過去実際に滅ぼしているサーヴァントが召喚される、と言う連鎖召喚なるものの定義として、非常に道理が通るし納得が行く。

「聞くが、今この場にいるサーヴァント全員が、お前達終数と呼ばれるサーヴァントと、その首魁であるアークエネミーを打ち倒すのに適した戦力なのか? 言い換えれば……『まだカルデアから召喚されるサーヴァント』がいるのか?」

「『まだ召喚される』と思いますよ~。例えばそこの赤髪の美男子さんが、プロトスさんとの戦いに勝ち残れば、そのままゼフテロスさんとの戦いにも参戦出来ます。相応しい相手を倒したからお役御免、カルデアにさようなら!! ……って訳じゃないですので、安心ですね~」

 >>無傷で勝てば勝つほど、有利って事か

「その通りですよ~、立香くん。……あ。ですけど、ご注意下さいね。この場にいるカルデア側のサーヴァントですが、『プロトスさん以降の終数に有利な人も召喚されてます』。誰が誰に対応しているのかは解らないですけど、要するに、早い段階でサーヴァントの犠牲を出し過ぎると『後々首が回らなくなってしまう』ので、指揮の方はキチンとやりましょう~」

 途端に、立香の背中に重圧がのしかかった。
誰を犠牲にしてしまったか。それによって、後々の展開に重く響く事となる。そして最悪、特異点の修復が失敗する。
この特異点においては、今まで以上に自分の指揮や、培ってきたマスターとしての才覚が重要となるらしい。落ち着いて、深呼吸をする立香。平静を、呼び戻す。

「じゃ、最後の四つ目」

 親指以外の四本の指を全て立てた状態で、皆にその手を突き付けペンプトスは語った。

「勝負は明日の深夜0:00になってから。その日になった瞬間、カルデアと終数の戦いが始まります。その0:00から始まって、次の日の0:00までに、『カルデア側のサーヴァントを全員倒せなければ、その日に東京を滅ぼす予定になっている終数のサーヴァントは敗北』。消滅します。んで負けましたら、次の日の深夜0:00から、前日担当の終数の次の番号に相当する終数が襲撃に参ります。それを、七回行った後に、私達の首領を倒せれば、貴方達の勝ちになります」

 「ね、簡単でしょ?」、とでも言いたそうな目で、全員に目配せするペンプトス。カルデアのサーヴァント達は皆、神妙な顔をしていた。

「要するに、日毎襲い掛かってくる貴様らを殺し続けてれば、俺達の勝利になる訳か」

「そうそう!! 迷う要素何てないでしょ!?」

「あぁ、そうだな。単純なのは悪い事じゃない。それに――『此処でお前を殺せば、一日は自由な時間が増えるのだからマスターにとっても楽になる』」

「へっ?」

 頼光が眼にも止まらぬ速度で矢を番え、ペンプトスの顔面目掛けて、一射。
頼光自身が有する、雷の魔力放出。これを矢に纏わせた一射は、容易く音の速度を突破し、身体の何処かを掠めただけで掠った所から真っ二つにする程の威力を誇る。
その、強烈無比な威力を誇る矢が、ペンプトスの顔面に突き刺さる。刺さってなお、矢の勢いは止まらない。
ペンプトスの後頭部を鏃が貫通、顔から串刺しにされた状態のままペンプトスは矢の飛来している方向に吹っ飛ばされ、二十m程後方の樹木に縫い付けられてしまった。

「結構なお手前で」

 ヘラヘラ笑いながら、頼光の容赦ない行動を拍手で讃える酒呑童子。

「私達に敵対すると言う立場を表明し、剰え殺すとすら明言して来た相手に対し、かける慈悲はありません。それに、『今倒してはならない』とは向こうは言いませんでした。私の行いや、クー・フーリンさんの考えも間違ってはいない筈」

「も~、酷いですよ~。いきなり不意打ちする何て~!!」

 ――絶句したのは、この場にいるサーヴァントの中では頼光と、彼女の実力をよく知る酒呑と茨木だった。
特に後者の鬼二名に至っては、頼光について快い感情は抱いてはいないが、彼女の有する実力についてはある意味、カルデアの誰よりも理解しているし信頼している。
まさか彼女が、仕損じる。そんな事はあり得ないと思っていたのに、実際この場には、ペンプトスの声が響いていた。
声のした方向に皆が顔を向けると、果たして其処には、いた。顔面を矢で撃ち抜かれた傷など、何処へやら。
矢で顔を撃たれたと言うのに、その可愛らしい顔には傷は勿論、怒りの感情すら浮かべていないペンプトスが佇んでいた。浮かべる笑みは、微笑みである。

「其処にいるトゲトゲしたお兄さんみたいな事を考えるサーヴァントがいるだろうからこそ、私が説明役に選ばれたんですよね。殺されてもこうやって復活しますので、殺される度に復活して説明続けるつもりでした」

 「まぁ、説明全部終わってから殺されるってのはちょっと予想外でしたが」、と補足するペンプトス。
その言葉の後で、両腕を大きくバッと、勢いよく広げて、芝居がかった挙措を行いながらペンプトスは言葉を続けて行く。

「確かに私は最弱のサーヴァント。終数は勿論の事、カルデアにいるどのサーヴァントにも……下手したら立香くんにですら殺され得るサーヴァントです」

 「ですが――」

「私を殺せるサーヴァントは数多くいますが、私を『滅ぼせる』サーヴァントは何処にもいません。あなたも、あなたも。あなたも、あなたも、あなただって」

 指でサーヴァントを指して行くペンプトス。クー・フーリン、頼光、ラーマにヒロインXにオジマンディアス。皆、錚々たる面子である。
彼らで殺せないサーヴァントの方を探す方が、寧ろ難しい程の顔ぶれであった。

「そう、私は不滅のサーヴァント。万古不変とは即ち私。この世で最も多くの人命を奪って来た暗殺者。同じグランドアサシンであった“山の翁”さんだって、この私を滅ぼす事は不可能だと断言しましょう」

「……貴様が、冠位の暗殺者?」

 その言葉に反応したのは、オジマンディアスだった。見えない、とでも言いたそうな顔だった。

「はーい!! 終数唯一の冠位資格持ちのサーヴァント!! 無限の軍勢で貫く者――終末のⅤ、グランドアサシン・ペンプトスもとい、『ベルゼブブ』でーす!!」





真名判明

終末のⅤ グランドアサシン・ペンプトス



真名



ベルゼブブ






 ベルゼブブ。
その名前は、恐らくカルデアにスカウトされる前の立香ですら耳にした事がある、超ビッグネームである。
キリスト教圏にその名が広く膾炙されている、悪魔の中の悪魔。旧約・新約どちらの聖書にもその名前が伝えられ、
数多の預言者・数多の聖人と敵対してきた大悪魔だとも、悪霊の頭であるとも言われている。それがまさか、こんな能天気の具現のような女性であったとは……。

「順当にいけば、貴方達と戦う事になるのは、今日から数えて六日目になりそうですね。私は聖杯が欲しいので、弱いなりに全力を出しますよ~」

 そこで、ペンプトス――もとい、ベルゼブブの身体はふわふわと浮かび上がり始める。

「それじゃ、伝えるべき事もお伝えしましたし、明日に備えて英気を養って下さいね~」

 そのまま飛び去ろうとした時、ガッ、と。ベルゼブブの細い身体全てを、巨大な何かが掌握した。
それ自体が激しく燃え盛っている、百倍以上にまで拡大させたような右手である。手の射出された方向を見ると、其処には茨木童子が右腕を構えさせていた。
ベルゼブブの無敵性を、何らかの加護によるものと考えたらしい。その加護ごと、茨木の宝具である羅生門大怨起で無効化させこの場で殺そうと言う算段か。
理に適っている。もしも、ベルゼブブの加護が、茨木の宝具で突破出来るのであれば。

「去ね、白痴め」

 グッ、と茨木が右手を握る。それに連動して、放たれた羅生門大怨起の燃える手もまた、ベルゼブブの身体を握り潰す。
飛び散る血液。だが、茨木の宝具が纏う超高温で、飛び散った傍から瞬時に蒸発、血色の蒸気となってしまう。

 >>倒せた!?

「チィ……手ごたえが軽過ぎる。本体は無事であろうな」

 歯噛みするように茨木が答えると、彼女の宝具が煙みたいに消え失せて行く。成果がないと判断した為、自ら消したらしい。
あんなような得体の知れないサーヴァント達が、後七名。それに加えて、アークエネミーなる聞いた事すらもないクラスとも、これから干戈を交えねばならぬとは。
この特異点もまた、一筋縄では行かないのだろうな、と言う事をいやがおうにも立香は再認させられたのであった。

「……悪魔、と言う割には……」

 ベルゼブブが消えた場所を眺めながら、ラーマが呟いたその言葉が、今の立香には遠いのであった。

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最終更新:2018年03月14日 16:51