その一瞬だけ過去も未来も消え去った。
『金色の王』と『海神』がぶつかり合う。
戯れにも見えた。死闘にも見えた。
その『勝者』の名は…………
「はい、オレの勝ち」
「……で、今回の要件はなんだ?」
「試してほしい奴がいる」
「そいつは誰だ?」
「少しばかり遠くにいる奴だが、呼び出せば来る。
何、ほんのちょっとばかし気になる奴だ」
「貴様がそこまでいうならば……
……で、そいつのの力量の判断は俺がしていいのか?」
「構わねぇよ、それが誤りだったらそれは単なるオレのミスだからな」
「貴様にしては随分と弱気なことを言うんだな」
「オレはそんな単純なミスはしねーよ……
なんせオレの目が狂うはずなどないからな」
「………………そうだな」
黄金の王は天高く笑う。
海神は笑わず、ただ静かに見る。
この南の島でまたなんか起こる。
◆ ◆ ◆
「アタシの国でそんなことが……」
「色々あったけど楽しかったね、サバフェス!」
「はい!」
「アタシも行きたかったな……」
「今度は一緒に行こうね」
2018年の夏イベントを終えた立花たち。
しかし、そんな中イベントに参加できなかったサーヴァントが一体。
ハワイの大王、カメハメハである。
「……しかも、ペレ様が……」
「はい……」
「いや、まあ……そういうところあるから……」
目を泳がせるカメハメハ。
恐らくは生前にペレに出会ったことがあるのかもしれない。
それはさておきいなかった間に色々あった。
「アタシはあのセイバー……渡辺綱さんを抑えるのに必死でしたからね」
「それはご苦労様でした」
「今回は碓井さんが一緒でしたからね」
召喚してから案の定、ほぼ毎日のように行われる茨木童子と渡辺綱の命懸けの追いかけっこ。
それを大体止めるのが、頼光さん(影の風紀委員)か金時か碓井さん、たまにカメハメハ。
その光景を酒を呑みながら、楽しむのが大体酒呑童子。
「ト〇とジ〇リーみたいだよねー」
「あと最近はあの眼つきのやたら悪くて無口なアーチャーさんが……極々稀に。
でもあの人は一体……」
「ああ、あの人だけは……うん」
『……ここに奴がいるのであろう? ならば、もしもの時にだけ呼べ……!
だが、心配するな、お前が呼べば俺はお前のもとに行く……それだけは約束する』
そう言って、カルデアにいるのにほぼ見当たらない。
そのアーチャーの標的は大体カルデア悪巧み四天王(四天王だが四人とは言っていない)と絡んでることが多い。
『アタシに何か用? そう、用がないなら別にいいでしょ?
ほら、アンタだってアイツにアタシごと射抜かれても困るでしょ?』
『意外にに優しいんですね』
『な!? アタシが優しいわけないじゃない!』
そして、彼女はいつも大体カルデアのボイラー室の近くにいる。
何を考えてるかは……未だに分からない。
「まあ、カルデア内だし事件が起こってもたぶん大丈夫だと……」
「そうですね」
藤丸、マシュ、カメハメハの三人でそれなりにのんびりしていた。
と、そんなところでダヴィンチちゃんから 連絡が入った。
そんなわけで久々に管制室まで向かう、三人で。
「来たね」
「来ました」
「ダヴィンチちゃん、今回は……?」
「うん! 今回もまた聖杯回収だね」
「やっぱりですか、それでハワイに行くんですね!」
「……カメハメハ、頑張りたいのは分かるけど私の説明の仕事取らないでね」
カルデアスはハワイのところ指示していた。
それを立花に付いてきていたカメハメハがすでに見ていた。
「まあ、今回もハワイなんだけどね」
「なら、やはり! アタシの出番ですね!!」
というわけで、早速ハワイにレイシフトしたのであった。
◆ ◆ ◆
「ん~~~~やっぱ熱いな~~~~」
!?
「で、貴方はどちら様?」
「俺ちゃん? 俺ちゃんはアレだ。
サーヴァント・ユニヴァースにおいては最強の実業家の小市民らしいんだぜ~~~」
二人でレイシフトしたのだったが、その場には三人いた。
その男は!
血生臭い白衣にグラサン。
そして、何よりも胡散臭い喋り方。
そんな男!
「いや、何でいるんですか、ノーベルさん……」
「おっと、今の俺ちゃんは一般サーヴァントの布哇のバーサーカーだ。
俺ちゃんもハワイ観光に行きたかったから着いてきたぜ~~~~~」
(うーん、相変わらずの狂化EX……)
「それと栄誉ある俺ちゃんの賞を辞退したアホ二人を面白がってたらなんだか。
追いかけられてたからな、煙巻くついで、だ」
『『なんだと、コノヤロー!?』』
どこかから紳士と獅子の声が聞こえてきた気がした。
そんなわけで、バーサーカーのアルフレッド・ノーベルがいた。
「いやいや、貴方もカルデアのサーヴァントでしょ?」
「実のところはそうなんだぜ~~~~」
『……全く君って男は……』
「ダヴィンチちゃん、そう後ろ向きに捉えるなって~~~
頭数は多い方がいいだろ?」
「確かに……けど、ノーベルさんじゃん?」
「そうだぜ、ノーベルさんだぜ?」
「あのお強いんですよね?」
「いや、俺ちゃんはどう考えても最弱クラスのサーヴァントだぜ?」
「ダメじゃないですかー!!!」
「というわけで、カメハメハちゃんがこの場で唯一無二の最大戦力だぜ~~~」
「さ、最大戦力……! なんという良い響き……!」
仕方ないからこの戦力で聖杯回収に行くことになった。
戦力的には得には問題なかった。
しばらく、ハワイを進む。
ルルハワではないこのハワイ島を。
観光しつつも、巡っていく。
「やっぱり違う島ですね……」
「何が違うの?」
「いえ、アタシの記憶にあるハワイ島はもう少し寂れた感じですね……」
その最中、街を見て、いつもと少々違う声で立花と話す。
確かに彼女がいた世界のハワイとこのハワイは違う。
『剪定事象の一つ、その可能性から生まれた彼女』。
ハワイの大王と言ってもまだまだ若い。
平和とは言えないこの島々を統一したという偉業。
その道中は決して平坦ではなかったであろう。
そんな時である。
「おっと、多分あっちだぜ~~~」
「本当ですか!?」
「俺ちゃんの勘はそこそこに当たるし、それに……さっきから何かに観られてる」
ノーベルの勘はともかくとして。何か視線を感じたのは確かだった。
砂浜の方に絶対何かいるのは確かであった。
そして、それはヤシの木の上にいた。
それは…………
――――美しき赤き怪鳥。
⇒「ニワトリの亜種?」
「なんだ、あれ!?」
「あれはアパパネですね」
「アパパネ?」
「アカハワイミツスイの英語訳だぜ」
「なるほどね」
「ハワイの固有種の鳥ですが……ちょっと大きいですね」
「ニワトリじゃないのか……」
「ニワトリじゃないですね」
「んじゃあ、とりあえず一狩りしようぜ~~~」
あのアパパネに敵意があるのはなんとなく分かる。
ヤシの木の上から鋭い目でこちらを睨んでいる。
そして、飛翔からのこちらに向かって加速。
速い。
その速さで何体にも分身してた。
サーヴァント並みに素早い。
「全部、避けて、叩き落とすだけッ!」
一匹。二匹。三匹……。
カメハメハは大槍でどんどんと叩き落とす。
その速さはアパパネとそう変わらない。
「俺ちゃんには当たる~~~!」
「アンタ、本当に何し来たんだよ!!(カルデア制服で緊急回避)」
「だから、ハワイ観光に」
「あれ、マジだったの!?」
ノーベルは避けた。
立花が避けさせた。
「銃弾が当たらないからね」
「そうですか……!」
なんなんだ、アンタは一体。
「これでラスト!!」
アパパネの分身達は消える。
恐らく本体に攻撃が当たったのだ。
その攻撃が当たった最後の一体は。
何事もなかったようにヤシの上に戻った。
その光景にこの場の全員が目を取られた。
その刹那だった。
閃光のように『それ』はその場を駆け抜けた……。
「そこの貴様は邪魔だ、そこ退きな……!」
「ん?」
そして、一瞬だった。
閃光のように放たれた一撃。
パンチを放ったのか、キックを放ったのかこの場の誰もが検討が全くつかなかった。
その一撃でノーベルは大きく吹っ飛んだ。
「ノーベルさん!?」
「急所は外した。今の一撃で消滅はしないだろう」
「貴様……!」
アパパネはまた飛翔し、その男の右肩に乗った。
いや、男かもしれないし、女かもしれない。
定かではない。
「クーの槍を持つ少女……お前はカメハメハか?」
「そうだ!」
「お前は一体……」
⇒「何者だ!」
右腕にアパパネが乗っているモノ。
背後には烏賊もしくは蛸のような触手。
龍を思わせるような鱗を纏った肌。
『異形の怪物』
そう思わせるには十分であった。
「カナロア……クラスはそうだな、フォーリナーだ。
ハワイの四大神の一柱を務めさせていただいている」
カナロア。
立花も名前だけはどこかで聞いたことがある。
魔法と冥界の神の側面を持つ者だと。
『この反応はフォーリナーです!』
「あ、うん……今聞いたよ」
『間違いなく神霊クラスのサーヴァントですよ!』
「なんでそんな奴が……」
カナロアはカメハメハと立花を観察するように観る。
ビビりそうになったが、それを抑える。
「……戦う前からあーだこーだと口上を垂れる必要もない。
ただ圧倒し、力でねじ伏せる……それだけだ」
凄まじいまでの闘気。
カメハメハが戦った中で桁が違う。
底が知れない。不気味さすらある。
「戦う前……つまり……」
「行くぞ、カメハメハを名乗る少女よ……!」
「そうか。どんな相手だろうとアタシは負けない……!」
両者、高速で移動していく。
一気に距離を詰めて、接近戦を始める。
「武器は?」
「必要ない」
カメハメハの振るう大型槍を躱して、カナロアは蹴りを放つ。
まさに文字通りの神速。神脚。
「引かぬか」
「タイマン勝負に必要なのは……気合いだ!」
「その心意気はよし……だが……!」
「ハワイの海神の神技に届かすには少しばかり青い……!」
大波の如き連打。
拳法使いとはまるで根底が違う。
ただ単純に純粋な力と速さで押してくる。
「我が名をその魂に刻み込めッ!
『龍王』ァァァッ!!!」
さらに加速していく。
荒海に飲まれるような感覚に陥る。
蹴りのラッシュで連撃していく。
初撃、二の足、三の足と……防ぐことも反応することもできないほどの乱打。
「終いだ……!」
最後の一撃。
大きく、大きく吹っ飛ばされた。
まるで風に舞う羽根のように軽々と。
そして、砂浜に叩きつけられるような形で落ちた。
「カメハメハ!!」
「大丈夫です、まだ……やれます!」
「今のを耐えたか」
「無論です……大切なものを守るためなら何度だって立ち上がってやる。
たとえ相手がカナロア神……貴方だって……!」
カメハメハは砂浜に槍を突き立て、また立ち上がる。
その眼はカナロア神がよく知っている男と同じ眼をしていた。
「………戦うことに、安心など求めるな」
「それは無理な話ですね」
「やはりな、その槍を持つ者ならばそう答える。
なんせ戦いの神のクーの奴の……いや、クーそのものだからな」
「そんなことは知っている!
それよりも今回の案件を解決してカルデアに帰る、それだけだッ!」
確かに今、間違いなく……
――――『最強の大王』がその地のその場に降臨していた。
「そうか、ならば終いだ」
強く砂浜を蹴る。
砂塵が舞い、カナロア神の姿が一瞬で消える。
もはや見ることも敵わない。
敏捷EXくらいあるだろう。
そこにいるのかすらわからないくらいにまるで消えたように。
『……ッ、先輩!?』
「どうしたの、マシュ!?」
『フォーリナーの反応が……完全に消失しました!』
「な、なんだって!?」
「逃げた……?」
その数分後であった。
砂を蹴る足音が聞こえてきた。
「おう、俺ちゃんが一人で頑張って聖杯回収してきたぜ~~~~」
!?
◆ ◆ ◆
少々、時間は遡る。
「ハッハッハ、あのカナロア神に蹴っ飛ばされてなお無傷で生きてるなんてやるね」
「俺ちゃんの幸運はEXだからな~~~~
俺ちゃんの飛んだ方向に『たまたま』お前さんがいたからね」
ノーベルさんは無傷だった。
いや、見た目は無傷だが肉体のダメージは割と深刻なものだった。
「で、お前さんが黒幕か?」
「そうかもしれないし、そうじゃないかもしれない」
「随分と曖昧な答えだな~~~~~。
――――つか、あの嬢ちゃんと同じ槍を持ってるというと…アレか?」
「まあそうだな、オレはルーラーだ、オレの国では必然的にそうなる」
「ほう、金色の王ってのはどの時代どこの国でも大差なく変わらんらしいな~~~」
圧倒的な自信。
黄金の王が笑う。
「で、やるかい?」
「いんや~~俺ちゃん、戦いは不得意なんでね~~~」
「賢明な判断だ、なんせここで一番強いのはオレだからな」
「ほぉ~~ん、あのフォーリナーよりもか?」
「そうだ、バーサーカー……いや、『アルフレッド・ノーベル』」
真名がバレている。
特に何もしていないのに。
そして、ノーベルはスタンした。
「真名看破スキルでの拘束かよ~~~。
はぁ~~~これだからルーラー連中は~~~」
「アンタのダイナマイトの威力じゃこっからあっちに攻撃が当たっちまうだろう?」
「ご名答、当てることも可能だ、なんせ俺ちゃんは稀代の天才だからな」
「だから、邪魔されたら困る」
黄金の王は見届ける。
カメハメハとカナロア神の戦いを。
そこでノーベルはピンときた。
自分の勘を過信しまくってるので分かった。
「しかし、コレで本当に来るなんてな」
「? そいつは~~~!」
その手には黄金の杯。
間違いなく聖杯。
「マカヒキで使う杯がどうやら聖杯だったらしい」
「んじゃあ、その聖杯くれ」
「ああ、いいぜ」
「!? いいのかよ~~~」
「必要なのであろう? それにオレには必要ない」
黄金の王は聖杯をノーベルに譲渡した。
特に何事もなく。
「レイデオロさんよ、サンキューな~~~~!」
「レイデオロ……『黄金の王』か、中々カッコイイな!
キングであるオレを表すには丁度いい! だが……」
「いや、知ってるよ、お前さんの真名くらい……どうせあのお嬢ちゃんと同じだろ?」
「うむ」
そして、ノーベルは聖杯を入手し、立花たちのもとに戻ったのであった。
◆ ◆ ◆
こうして、なんやかんやで目的を果たして果たしてしまった。
「目的は果たしたし、これで帰れるね……」
「…………はい」
「おっと、不完全燃焼は不味いぜ? 帰ったら……」
「トレーニングに行きますよ……! Xさんやえっちゃんさんと一緒に!」
「俺ちゃんはパスな~~~~そういうのは柄じゃねぇし~~~。
でも、一つ言っておくがちゃんと休めよ」
「言われなくても……わかってますよ!」
課題は山積み。
立ち止まってなどいられない。
だから、もし次に相対することがあるならば……
(今度は負けない……!)
小さな王は決して折れない。
自分を曲げない。
それだけは絶対に貫く。
そう決めたのであった。
◆ ◆ ◆
「で、強かったか?」
「見所はあった。資質も悪くはない」
「そりゃあ、異世界のオレだからな!」
「女の子になってるんだぞ、異世界のお前……」
黄金の王は笑う。
海神は呆れたような表情を浮かべる。
赤き怪鳥も笑ったような鳴き声で鳴いた。
「しかし、力試しくらい何故自分でやらない」
「? それくらい言わなくても分かるだろ?」
「この国で一番強いのは――――オレだからな!」
その自信は決して揺らぐことはない。
それが自分を貫き、王になったこの男なのだから。
最終更新:2018年10月08日 01:19