(前回のあらすじ:炎上するシティ・オブ・ロンドンで跳梁跋扈する、邪悪なる英霊たち!
マシュ、エピメテウス、そしてシールダー・アイアンサイドが、彼らに立ち向かう!)
「ヒィヒヒハハハ! 追って来るかァ、クソアマ!」
「どこへ逃げても無駄です!」
セイバー・張献忠が、鞭剣を振り回し市民を殺戮しながら、炎上するロンドン市街を走る! 追うのは殺気満々のマシュ!
だが、彼の脚力は常人の三倍にも達する。このまま家屋を飛び渡り、狭い裏路地を駆け抜けていけば、容易にマシュから逃れられるだろう。
マシュは走りながら思考する。バーサーカー・ナックラヴィーは、シールダー・アイアンサイドに任せた。彼なら勝てる。
しかし、このセイバーと、あのアサシンを生かしておけば、市民が次々と死ぬばかり。なんとしても追いついて、惨たらしく殺す!
『この先は、細い路地が続いてるだ。市民はいねえ。だども、このままだと……』
被っているエピメテウスが冷静にナビゲーションをするが、マシュは奥歯を噛みしめる。追いつけない。死者が増える。わたしのせいで!
「なにか、手は……!」
『おらもお前さンも、遠距離攻撃は出来ねえだな。なんか投げるとか……あ、おらを投げつけるのはやめてくンろ』
「しません」
マシュは走りながら小石を掴み投擲!「イヤーッ!」「殺ァーッ!」セイバーが鞭剣で切り裂く!
マシュは走りながら木材を掴み投擲!「イヤーッ!」「殺ァーッ!」セイバーが鞭剣で切り裂く!
マシュは走りながら煉瓦を掴み投擲!「イヤーッ!」「殺ァーッ!」セイバーが鞭剣で切り裂く!
マシュは走りながらゴミを掴み投擲!「イヤーッ!」「殺ァーッ!」セイバーが鞭剣で切り裂く!
「バッハァー! クソボケ、そんなもんでおれがどうにかなるかァァ! 足止めにもなりゃあせんわァ!」
『ダメっぽいだな。他になにか……』
マシュは……敵の進む先を見て、立ち止まる。そして手甲を、大きな盾に戻す。背負って走るには重すぎる!
「そうか……わたしの盾は……」
マシュの瞳孔が開き、センコめいた炎が灯る!
「こう使うものだった!」
マシュは……円盤投げじみて、シールドを利き手で振りかぶる! 肩から腕にかけて、縄めいた筋肉が盛り上がる! まさか!
「イイイイイイ………!! イヤーッ!!」
ゴウランガ! マシュが十字架つき巨大シールドに縦回転を加えて投擲! これは! まさにギロチン・チャブめいた巨大シュリケンだ!
それは狭い裏路地をジグザグに駆け抜け、ゴミやコケシ、フクスケなどを切断破壊しながら高速でセイバーの背中に迫る!
「また何か投げやがったかアホがア――――ッ!!」
振り向いたセイバーから放たれる七本の鞭剣を……巻き込み、逆に引き寄せるッ! 無視できぬ質量だ!
「な、なアア―――にィ―――ッ!?」
高速で引き戻されるセイバー! チュイイイイイン! バズソーめいた処刑機械が迫る! 回避不可能!
SMAAAAAASH!!
「アバババババ―――ッ!」
ストライク! セイバー・張献忠の顔面と胴体を、シールドシュリケンがサジタル面切断! 霊核を破壊! 脳髄と臓物が溢れ出る!
「別了!」
左右に両断されたセイバーは勢いよく地面に叩きつけられ、輝く粒子となって爆発四散! インガオホー!
◇◆◆
GGGGG……ZGGGGGGGGGG……
「……むぅッ!?」
「■■■■■■■……!」
同時刻。格闘していたアイアンサイドとナックラヴィーが、同時に気配を感ずる。なにか、極めて恐ろしいものが、迫っている。
「ここは危険だ! 逃げよ!」
アイアンサイドは、セイバーの死でやや平静を取り戻した市民らに呼びかけるが、その瞬間!
SPLAAAAAAAAAAAASH! 石畳を突き破って水柱が聳え立つ!
「■■■■■■■!!!」
ナックラヴィーが怯えて後ずさる! すなわちこれは……淡水! テムズ川の泥水だ! 次々と水柱が噴出!
SPLAAAAAAAAAAAASH! SPLAAAAAAAAAAAASH! SPLAAAAAAAAAAAASH! SPLAAAAAAAAAAAASH!
『『『■■■■■■■■■■■■』』』
悍ましい意志の声が、その場の全員のニューロンに響き渡る!
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「エピメテウスさん! これは!?」
『あ……あり得ねえだ! まさか、あいつが……!』
盾を自動回収して手甲に戻し、南へ駆け戻るマシュにも、エピメテウスにも聞こえる! エピメテウスはぶるぶると震える!
ZGGGGGGGGGG……GWAM!GWAM!GWAM!GWAM!GWAM!GWAM!GRRRRRRRRR!!!
シティ・オブ・ロンドン全体が、大地震のように揺れ動く! 家屋倒壊! 地面陥没! ロンドン橋が市民を満載したまま落っこちる!
テムズ川の水面が逆巻き、津波と共に山のような大怪獣が身をもたげる!!
『『『■■■■■■■■■■■■』』』
長さ数十メートルにも及ぶであろう、太くグニャグニャとした触腕は、百本。大岩や家屋を持ち上げ、投げつけることも可能だ。
その根もと、触腕が集まる頭部は……頭足類のそれは、輝く巨大な、百の眼を持つ。一つの頭部に二つずつ眼があるなら、五十の頭があることになろう。
頭部の背後には、ぶよぶよとした肉塊。臓腑のありか。胴体だ。全体に異様な紋様が浮かび上がり、螢火めいて光を放つ。
これぞ、ああ、悍ましきサーヴァント。半神どころか、古代の神々にも等しき巨神、その分霊。地球、ガイアの落とし子の、ほんのひとかけら。
『狂戦士』のサーヴァント。辛うじて、そのクラスにどうにかこうにか留められる程度のもの。
ギリシア神話に名高き、三柱の『百手巨人』……その一柱。真名をば『ブリアレオス』。別名は『アイガイオン』。
真名判明
バーサーカー・ケイオスタイド 真名 ブリアレオス
知性も理性もありはせぬ。手当たり次第に触腕を伸ばし、尖端をほつれさせて触糸を放つ。
生き物を、無生物を、その貪欲な腹に収めていく。触腕で市街地を薙ぎ払い、大怪獣が上陸する!
『『『■■■■■■■■■■■■』』』
「■■■■■■■!!!」
ナックラヴィーが触腕の一本に捕まる! 淡水、泥水で出来たブリアレオスの肉体と消化液が、ナックラヴィーの肉体を灼き苛む!
間もなくナックラヴィーは触腕自体に呑み込まれ、霊核ごと溶かされてしまった。ナムアミダブツ……!
「「「「アイエエエエエエエ!!アイエエエエエエエ!!アイエエ――――エエエエエ!!」」」」
燃え盛るシティ・オブ・ロンドンを、市民も、マシュも、アイアンサイドも、アサシンたちも、てんでんばらばらに逃げ惑う! 北へ、北へ! テムズ川から離れる!
「どうします! このままでは……!」
『おらたちでどうにかなる相手でねえ! 巨人族でも神々でもどうにもならねえ相手だ! 逃げろ! 逃げろーッ!』
エピメテウスが本能的な恐怖に慌てふためく。マシュは歯噛みする。
ガイアが直接生んだ巨人。ビーストや蚩尤やメーガナーダのような、反則級に規格外の英霊だ。真名を聞かずとも分かる。聞けばなお分かる。
以前メーガナーダを涅槃へ送れたのは、鼎……聖杯の力を借りたればこそ。蚩尤の攻略もメーガナーダがいればこそ。
現状では、自分たちにあの大怪獣の暴走を、とどめる方法はない!
だが、英霊たちはシティ・オブ・ロンドンから出られぬ! 城門を通ることも、城壁を乗り越えることも、橋の彼岸へ渡ることも!
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♪Old Earth
「門……!」
ムーア・ゲートに辿り着いたマシュたちだが、潜ることは……やはり不可能!
背後にブリアレオスの触腕と津波が迫る! 狭い路地を通ることで津波は増幅され、凄まじい高さに達している!
ZZZZZZZMMMMMMM!!!ZZZZZZZMMMMMMM!!!ZBBBBBBBBB!!!
「マシュ殿! ことここに至らば、吾輩は騎士として華々しく散る覚悟! どうにか逃げられよ!」
「出来ません! 逃げることも、死ぬことも!」
「ならばァ、戦って勝つのみ!」
アイアンサイドが軍勢を展開! しかし、もはやシティの大半は水底だ! 吸収出来る火炎も乏しく、彼の甲冑も黒いまま!
「なにか、手段は……! こんなところで!」
『門を、開けるだ!』
エピメテウスの示唆を受け、マシュは冷静さを取り戻す。そうだ。門を。思い出せ、あの感覚を!
「スゥーッ……ハァーッ……スゥーッ……ハァーッ……!」
チャドー呼吸! 手甲をつけた両拳を胸の前で合わせ、迫り来る津波とブリアレオスを前に立つ!
「門をォ――――ッ! 開ッけろォ――――ッ!!」
マシュが叫ぶ! 震脚! 両拳が唸りを上げ、虚空に裏拳!
「『魔手悟空拳』!!」
KRAAAAAAAAAASH!!
ブリアレオスを倒すことは不可能だが……それは次元そのものを砕き、穴を開ける! 何処かへ通じるであろう脱出口を!
「アイアンサイドさん! 急いで!」
「おう!」
マシュ、エピメテウス、アイアンサイドが、穴に飛び込む! 直後に黒い津波が城壁と城門に叩きつけられ……。
◆
「ほう、あのシールダー、『門』を開けたぞ」
金髪の少年と、緋色のマントの男。彼らは何処かで、炎上するロンドンを観察している。
「彼女の持つ宝具は、貴方の持つ宝具のひとつと同じ力を秘めています。次元に門を開くぐらいは可能でしょう」
「英霊を召喚し、門を開く。十字架と円卓。まことに、『クロスオーバー』にはもってこいというわけだな」
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門の彼方は、何処か。敵の背後か。涅槃か、虚無か、混沌か。―――否。
「「ここは……!?」」
暗雲に覆われた空。黒くねばつく雨。聳え立つ超高層ビル群。げたげたしい巨大ネオン看板群。張り巡らされる電線網。アスファルト道路を行き交う車。
立ち並ぶ屋台。立ち込める霧と湯気。壁一面のグラフィティアート。ゴミ箱から路上に溢れ出るゴミ。
LED傘をさし、編笠を被り、レインコートを着込んで行き交う雑多な群衆。
マシュも、エピメテウスも、アイアンサイドも驚愕する。ここは―――ロンドン、なのか?
近くのネオン看板にノイズが走り、文字が書き換わった。ノイズまみれの電子音声がそれを読み上げる。
『z... Welcome to L.A. ... A.D.2049...』
ネオン看板の文字が掻き消え、01ノイズが覆う。
最終更新:2019年02月26日 11:01