140-衆-法務委員会-5号 平成09年04月18日
平成九年四月十八日(金曜日)
午前九時三十分開議
○安倍(基)委員 私、大分以前は法務委員会、立て続けに数年間、割に何かやったことがございますけれども、久しぶりに戻ってまいりました。
今度の改正法、ある意味からいうと、本当にこれは早くやらなくちゃいけなかったことである。この前、鴨下委員がいみじくも指摘いたしましたように、今、本当に国際化の時代になってきている。それに対して、法務省は対応できるのかという問題が起こってきている。まさにこれは一番大きな一つの。例だと思っております。
大きく見ますと、今、各国がこういった人間の移動問題というものに大きく直面している時代です。今まで日本は、何といいますか、人間の移動というものに対してはそれほど大きな関心を持っていなかった。ところが、冷戦が解消し、かつ、中国あたりに門戸が開かれてきた、東南アジアもどんどんと発展してくる、日本との経済格差が非常に目についてきたということで、今まで人口の移動というものに対して我々としてはそれほど大きな関心を払わないで済んだのが、さっきいみじくも指摘されましたように、大きな経済格差がある。でありますから、これからの時代というものは、本当にこの問題に正面から取り組まなくてはいけない時代であると私は考えるわけでございます。
結局、日本というのは、大体、子供のころから義務教育を受けて出てくる、会う人間は大体似ている、わかっている。ところが、海外から来る人間というのは、全く今までの、いわば生活習慣も教育も全部違う。そういった者がどんどん入ってくることによって、行政サービスにしても、あるいは犯罪の問題にしても、非常に大きな行政コストがかかる。ましてや、いわば違法に入ってくるというように、非常に大きな社会の混乱要因である。
そういったことで、私どもは、これからの時代、どうやって法務省はこれに対応していくのか、単なる入国管理局くらいのものでいいのかどうかという問題が基本的にあると思うのです。今回の入管法の改正というのは、いわば一つのはしりではないかと私は考えております。特に今、不法入国の場合には、いわば犯罪の温床になっておりますから。
そこで、私ども、ほかの諸国が一体どういう状況になっているのかということを、やはりもう少し目を向けなくてはいけないと思います。
今回の改正に際して、従来、法務省というのはどの程度、他国における移民政策なり、あるいは不法入国についての管理体制、法的制度、そういったものに対する検討をしておるのかどうか、ちょっとお聞きしたいと思います。
○伊集院政府委員 集団密入国といいますか、人の不正規の移動と申しますか、これはもう全世界的な現象でございますので、私どもも、先進国だけではなくて、アジア・太平洋地域の入管当局等とも絶えず意見交換をしておりまして、お互いに同じ仕事といいますか、同じ悩みを抱えているということで、いろいろな機会に情報交換をして、彼らから学ぶこともありますし、我々の手法を彼らが参考になるなと思うようなこともございます。そういう意味で、この分野では国際的ないろいろな交流というのがどんどん深くなってきております。
○安倍(基)委員 非常に抽象的な答弁でございますけれども、これからの人口移動については三つの問題点がある。一つは他国からの流入をどの程度認めるのかということ。二番目はどういう条件でもってそれを自国民と扱うのか、国籍の問題。三番目に不法入国をどうやってとめるのか。この三つの大きな柱がこれからの大問題になる。
それについてどの程度皆様が、例えば帰化の条件が国際に比較してどうであるかとか、あるいはほかの国における人口の流入はどうであるかとか、例えばドイツなんかも、調べてみますと、一九八八年には四百五十万人くらいの外国人がいたのが、今や七百二十万、十年間で二百万くらいもふえておる。人口の九%まで達している。これはソ連の崩壊とか難民の受け入れとか、それから東西ドイツの合同とか、そういったものを含めまして、非常に外国人のシェアが高まっている。アメリカなども、年々大体百万人くらいの合法の移民が、それ以外に不法入国者が四、五十万ある。非常にげだ違いに大きい国でありますし、またアメリカの場合には、移民を要するに国是とする、それを余りとめないという国であるわけです。日本の場合に、これから高齢化社会になる、人口も減ってくる、所得格差が周辺と比べべらぼうに高い、そういう状況を考慮しますと、これは今のような状況の問題で済むかどうか。
ちょっとお聞きしますけれども、この数年間における日本に帰化した外国人あるいは永住を認められた外国人、どのくらいおりますか。
○濱崎政府委員 まず、帰化者の数について御答弁を申し上げます。
平成八年の一年間に帰化した者の人数は、一万四千四百九十五人ということになっております。なお、過去数年を申し上げますと、平成四年が九千三百六十三人、平成五年が一万四百五十二人、平成六年が一万一千百四十六人、七年が一万四千百四人となっております。
○伊集院政府委員 過去五年間に日本で永住権を取得した者の人数でございますが、平成三年に入管法の規定に基づく永住許可を受けた者、これは五千四百六十九名、平成四年四千七十八名、五年三千八百四十八名、六年六千八百四十六名、七年五千九百三十二名となっております。これに加えまして、いわゆる入管特例法に基づく永住許可を受けた者でございますが、平成三年に五百十三名、四年に五千九百八十三名、五年が四千五百四十一名、六年四千三百三十五名、七年四千三百二名でございます。
○安倍(基)委員 いずれにせよ、アメリカやドイツと比べてけた違いに少ないことは事実です。これは、一つは日本が海に囲まれているという要素もございますし、余り日本の方へどっと入り込んでくるということが過去になかったからでございます。しかし、現在の国際化の時代、海に囲まれているとはいっても、どんどんと周囲の経済情勢が高まってきて、しかも日本との格差が目に映ってきますと、これはどうしてもとめられない問題になる。
でありますから、私は法務大臣にお聞きしたいのですけれども、こういった人口移動時代に対処して、これから日本はどういうことでいくのか。帰化条件なんかにしても、永住権の付与にしても、最後にいわば不法入国者の防止、この三つの柱を、私は法務省が恐らく主管だと思いますけれども、もう少しこれから総合的に研究する体制を整える必要があると思います。いかがでございま
すか。
○松浦国務大臣 全くお説のとおりだと思います。十分勉強させていただきたいと思います。
○安倍(基)委員 第二の問題で、そうするとさっきのいわば不法入国を防止する、監視するという体制は、アメリカやドイツや、韓国あたりはまだそれほど先進国とは言えませんけれども、しかし恐らく中国あたりから大分入ってくる連中もいると思いますけれども、その辺は組織としてどういう体制でもってこの不法入国を防止しておりますか。
○松浦国務大臣 これまでもそのようにやっておりますけれども、今後、より関係機関との連携を密接にして、水漏れのないようにしていくという態度をとっていかなければならないのではないか、このように考えております。
○安倍(基)委員 私の聞いていますのは、協力体制というわけでもなくて、それぞれの国がどういう組織でもって、日本の場合には法務省があり、入国管理局があり、警察あるいは海上保安庁、そういったのが連携し合って一つの組織を持っておるわけでございますけれども、これは、アメリカとかドイツとか韓国とかあるいはオーストラリアとか、どういう体制をとっておりますか。
○伊集院政府委員 米国でございますけれども、司法省に属する移民・帰化局というのがございまして、ここが不法移民対策を担当しております。移民・帰化局には調査員に加えまして国境パトロール要員も置かれておりまして、一九九六年の移民管理責任法の改正によりまして国境パトロール要員が大幅に増強されていると承知しております。
それから韓国、台湾でございますが、韓国、台湾におきましても、我が国と同様、出入国管理担当と公安担当部局等が連携して監視に当たっていると承知しております。韓国、台湾とも、公安担当部局等というのは、軍も含めてそういうことをやっておるということでございます。それから韓国においては、出入国管理の部門は法務部の出入国管理局、それから公安担当については内務部の警察庁、海上水産部の海上警察庁等が連携して対処しておると承知しております。
○安倍(基)委員 米国の場合には、どうも国境パトロールあたりもいわば移民局の管轄下にある。
私は、日本の場合に、現在の体制は、警察があり、海上保安庁があり、そして入国管理局がある、その協力体制ということかと思いますけれども、不法入国について今までの体制でいいのかな。何も官庁が屋上屋を重ねる必要もないわけですけれども、これだけ人口の移動の激しい時代になってきたときに、そういうプリンシプルを考えるいわば研究機関とともに、実行面において、お互いに協力しているから大丈夫と言いますけれども、私は地元の警察の人間に会って聞いてみると、この不法入国者のテークケアでべらぼうに人数をとられちゃう、特に、それを捕まえて、言葉もよくわからないし、連れていく、そういうことに本当に忙殺されて、ほかのことが大分抜けてしまうというような話さえ聞くわけですね。
私は、これから不法入国がどんどんふえていく時代に、通常の警察業務と入管との連係プレーだけでいいんだろうかといういわば疑念を持っているのでございますけれども、この点、ほかの国との比較というか、それを含めて何らかの検討が必要ではないか。通常の警察業務が不法滞在の人間の本当にテークケアに時間をとられているという要素があります。その辺についてどういうお考えをお持ちか、お聞きしたいと思います。
○内田説明員 不法滞在者、不法入国に対応する警察体制の問題でございますけれども、警察におきましては、この不法入国に係る組織的な動きを含めた外国人の犯罪組織に対しまして、警察庁と都道府県警察に警察官の増員を図るというような対応をとって体制を整備しているところでございまして、警察の総力を挙げた対応を図ってまいりたい、このように考えている次第でございます。
○安倍(基)委員 私は総力を挙げる挙げないということを聞いているのではなくて、これはもちろん現場の大変さはよくわかるのでございますけれども、こういった部分がほかの部分を大分圧迫するというか、もちろん犯罪捜査においては同じかもしれませんけれども、いわば不法入国者のテークケアに追われてしまうという要素が現に出てきている。この辺、ちょっと私の知識が不足なんですけれども、アメリカにおける移民・帰化局ですか、それはどういう、警察権的なものを一緒に持っているのかどうか、その辺の実情はいかがでございますか。
○安田説明員 米国の実情につきましては必ずしも私ども十分把握しておりませんが、そうした米国の事情を十分参考にしまして対処していきたいと考えております。
○安倍(基)委員 私、今ちょっと意地悪い質問になったかもしれませんけれども、もう少しこういった入国問題とか移民問題で苦しんでいる方々の国の実情をよく皆さん検討して、そのあげく、例えば、これから必ず彼らのような時代が来ると思うのです。彼らほどでないにしても、海に囲まれているからいいとは安心していられない。そうなってくると、いわば不法入国問題で苦しんでいる国、移民問題で苦しんでいる国、そういったものの先例を一刻も早くよく調べて、そのあげく今度手を打つ。私は、今回のいわば法改正、それはそれなりに早く手を打ったと思います、法整備の面で。ただ、これはその入り口でございまして、私はもっともっと、既にそういったことで苦しんでいる、経験のある国の実情をよく調べて、その辺が、法務省、警察、それぞれの各官庁における盲点じゃないか。その面で、いわば各省庁にまたがる案件について、大きな一つのワーキンググループとしてやっていく必要があるんじゃないかと私は思います。その点、法務大臣、どうお考えですか。
○松浦国務大臣 先ほども申し上げましたように、関係機関と十分な密接な連絡をとりながら、ただいま先生から御指摘をいただきましたような論議を通じて、万全を期してまいりたいと思っております。
なお、外国の問題については、御指摘をいただきましたので、十分勉強させていただくように当局に指導をいたしたいと思っております。
○八代委員長 外務省手塚難民支援室長はその辺の情報は持っていますか。
○手塚説明員 御説明いたします。
現在のところ、詳しい資料等を持ち合わせておりませんけれども、その外国の諸般の事情を調べるに当たっては、こちらもできる限りの御協力をしたいというふうに考えております。
○安倍(基)委員 私はこの問題は、各局の、いわば各省の協力体制とはまた別に、一つの機構の問題としても考えるべき問題かな。何も新しい局、ものをつくるという意味でもないのですけれども、これはやはり総合的にコントロールするようなものが必要なんじゃないかと私は思っております。
話は別件に移りますけれども、現在の監視体制、今海上保安庁はこういったものに対する監視船をどのくらい用意し、また結果的に、勾留した人間を大村収容所ですかどこか連れていくようですけれども、あれの収容能力とか、それに対しては今どのくらいどうなっているかとか、それをいわばどういうぐあいに回転させていくか。例えば、この一月から四月までが去年の数くらいの人間が捕まったというのであると、そういったものの収容能力もどんどんパンクしていくんじゃないかという気がいたしますけれども、第一の監視体制の問題、第二の収容能力の問題、その辺についてお聞きしたいと思います。
○小原説明員 海上保安庁の取り締まり体制ということでございますが、海上保安庁は、平素から、海上における治安の維持、海上交通の安全確保、あるいは海難の救助などの非常に広範にわたる業務を実施しておりまして、巡視船艇や航空機の配備につきましては、その機能を互いに連携させるということなどを行って、最大限その力が発揮されるように配慮して、二十四時間体制で密航
取り締まりに対応しているところでございます。
特に、密航対策につきましては、昨今、非常に中国人の我が国への密航事犯が急増したということがございまして、この二月二十五日からでございますが、本庁に密航対策室、管区本部に密航対策本部を設置しまして、警戒線を設定いたしまして監視を特別に強化いたしております。
その実施につきましては、先生先ほど来御指摘のとおり、関係機関の連携が極めて重要でありますことから、従来にも増して法務省、警察庁あるいは防衛庁等関係行政機関との情報交換を強化しておりまして、さらに、海運、漁業関係者等の皆様方からの情報提供も要請しているところでございます。
また、密航船の早期発見ということにつきましては、航空機による広域監視が非常に効果的であるということから、海上自衛隊におかれましても、当庁と連携いたしまして航空機による監視活動を強化されております。
こういったことをあわせて、一体となって密航取り締まりに実効を期していきたい、密航取り締まり対策を強化してきておるところでございます。
○安田説明員 収容の点でございますが、まず、この集団密入国者は、これは私どもの方で、退去強制令書が発行されますと、長崎県の大村にございます大村入国管理センター、ここに一たん収容し、その送還手続をとっております。
この大村入国管理センターでございますが、収容定員八百名でございまして、現在約六百名を収容しております。その約九割が中国人でございます。そのために、現在中国政府との間で、これらの者につきまして、送還について鋭意交渉を進めておる段階でございます。
○安倍(基)委員 今のペースでどんどん捕まえていって、まだ収容能力があるのですか。
○安田説明員 先ほども申しましたように、大村の入国管理センター、これも八百名でございまして、このまま送還をいたしませんと満杯になりまして収容定員を超える状況になる可能性はございます。そこで、先ほども申しましたとおり、送還を早期に進めるべく、一番その比率の高い中国政府と交渉を進めておる、それによりまして送還できれば収容者が減りますので、また次収容できる、こんなことで対応していきたいと考えております。
○安倍(基)委員 中国との交渉が非常に大切だというお話も聞きましたし、今さっきの御答弁でも、中国にいろいろ申し入れて、中国における刑罰も重くなる、それからいろいろ連係プレーをやるというお話も聞きました。
では、補足的ですけれども、例えば今までのケースで、中国の方から、どういう船が出ていったぞという種類の通報なんかはあったことがあるのですか。
○佐藤説明員 これまでに、中国側の当局が沿岸警備の過程で怪しげな船が出ていったということを把握した場合に、必ずしも多くの事例ではございませんが、我が方に対して、こういった動きがあるということを通告した事例がございます。
○安倍(基)委員 いずれにいたしましても、これは受け入れる側ではなくて、やはり出す方の側がよほどしっかりしてもらわないと、これは困る。私は、さっきの御説明から、なかなか中国も協力的であるかなという印象を受けました。
そういった意味で、国際協力ということは、この問題については非常に重要な課題です。中国のようにある程度そういった規制のできる国はいいけれども、できない国になってきますと、これは大問題。これは東南アジアに随分たくさんありますから。
この問題について、ベトナムから一時期大分大勢入ってきましたね。そういうようなのが最近は大分減ってきているというのは、これは何か、かつて難民扱いにしたのをしなくなったというような事情かと聞いていますけれども、それは間違いございませんか。
○伊集院政府委員 委員御指摘のとおりでございまして、インドシナ難民につきましては、昭和五十七年以降、一時庇護のための上陸の許可によって上陸を許可してきたところでございますけれども、その後のインドシナ諸国の状況の変化を踏まえまして、平成元年から、閣議了解に基づきましてスクリーニングというのを実施いたしまして、一時庇護のための上陸許可に係る審査を厳格に実施するということを始めました。
それから、その後平成六年からは、さらに状況が変化したということで、閣議了解に基づきまして、ベトナムからの出国者につきましては、旅券を所持していない場合、不法入国者として通常の退去強制手続をとるということにいたしましたので、ベトナムから本邦に来る不法入国者が減少したということであると思います。
○安倍(基)委員 それから、中近東あたりから大分来ますね、これは余り不法入国はないのかもしれませんけれども。一応今のところ不法入国というのは、いわば中国くらいが大宗であって、ああいった遠くの中東あたりから来る者は相当いるのかどうか。また、彼らの国、つまり中国との関係ではそこそこ協力的な体制がとられているけれども、中東諸国についてはそういった体制がとられているのかどうか、お聞きしたいと思います。
○伊集院政府委員 委員も御承知のことと存じますが、一時イランからの入国者が非常にふえて、そのまま不法に残留するというケースがあったわけでございますが、これはイラン政府と協議いたしまして、イラン政府との間にあった査証免除取り決めというのを一時停止しようということを決めまして、それ以後は、イラン人の不法残留者でございますけれども、相当減っているというようなことがございます。
○安倍(基)委員 監視体制についてはそのぐらいにしまして、では、法案の問題につきましてお聞きしたいと思います。
刑罰を重くしたのはいいのですけれども、それぞれ刑罰というのは、ただ重くすればいいわけではなくして、ほかの列とのバランスを見ていかなければいかぬ。通常の場合には、そういった問題についてはいろいろな審議会とかいろいろなものを重ねて決めていくのがいわば通例ではなかったかなと思いますが、今回の刑の決定あたりについて、そういったプロセスをとられたのか、あるいはとられていなかったのか。とられていなかったとすればどういうバランスをとったのか。こういう、けしからぬ、けしからぬという面で厳しい罪を科すのは当然かもしれませんけれども、これは法体系でございますから、ただただ厳しくすればいいという話でもない。
でありますから、このいわば罰則の決定について、どういうプロセスをとられたかとられなかったか。あるいは、とられなかったとすればどういうバランスで刑を決めたのか。二点についてお聞きしたいと思います。
○樋渡説明員 お答えいたします。
本罪は、ほとんどのものが、今まで入管法でありました不法入国葬、不法上陸罪の幇助罪を本犯に直すという規定でございます。したがいまして、今までない罪を新たにつくるというのではなしに、これまであった幇助罪というものが余りにも軽過ぎるというところからこの刑を引き上げようとしたものでありまして、当局と法務省の刑事局とで相談しつつ、本件の法案の改正、この法定刑を決めさせていただきました。もちろん法制局にも御指導をいただいております。
その刑のバランスでございますけれども、第七十四条第一項の罪、これは、本邦に入らせ、または上陸させる罪でございますが、それと第七十四条の四の第一項は、本邦に入った、上陸した者を収受し、運搬し、蔵匿するという罪でございます。その法定刑につきましては、密航者を集団で我が国に送り込む行為といいますものは、個々の密航者本人の不法入国あるいは不法上陸に比べまして、我が国の公正な出入国管理を害する程度というものははるかに大きいというふうに考えますので、不法入国罪あるいは不法上陸罪の法定刑が三年以下の懲役もしくは禁錮または三十万円以下
の罰金でありますことから、これよりも重い刑を定めることといたしまして、五年以下の懲役または三百万円以下の罰金としたものであります。
また、営利の目的で我が国に密航者を集団で送り込みます行為は、我が国の出入国管理秩序の根幹を害する最も悪質な行為であるというふうに考えられますので、刑法第二百二十五条、これは営利目的等略取及び誘拐罪でございますが、その法定刑が、営利目的である場合には非営利の場合の二倍としておりますことと、営利目的事犯につきましては、罰金刑を併科することによりまして経済的にも引き合わないことを感銘させる必要があることなどを考慮いたしまして、一年以上十年以下の懲役及び一千万円以下の罰金を併科するというふうに決めさせていただいたものであります。
○安倍(基)委員 これは、ほかの国の法制にそういう例はありますか。
○樋渡説明員 お答えいたします。
例えば、アメリカにおきましては、指定されたところ以外の場所から外国人を入国させ、または入国させようとする者や、営利の目的で違法に入国した外国人を隠匿し、または隠匿しようとする者につきましては、その外国人のそれぞれにつきまして罰金刑もしくは十年以下の拘禁刑といたしまして、またはそれを併科することとしております。
また、イギリスの例におきましては、不法入国者の入国を確実なものとし、または助長する準備に関与した者につきまして、罰金もしくは七年以下の自由刑とし、またはそれを併科することとなっております。
○安倍(基)委員 一応御説明を受けましたけれども、それでは、さっき質問者から出た話ですけれども、彼らが就労している、こちらへ来た以上は働かなければいけませんけれども、就労の際の身元チェックというのは、たしか不法入国者を雇用してはならないという規定ができていると思います。チェック体制として、アメリカの場合、一九九六年の移民管理責任法には身元のチェックのためのいわば規定というのがあるはずでございますけれども、日本においても、不法入国の労働者を雇ってはいけないという規定はたしかあると思いますけれども、それをチェックする義務とかチェックの便法とか、そういうような考え方は今回の法改正においてとられなかったわけですか。
○安田説明員 御指摘のアメリカのことでございますけれども、アメリカにおいては、外国人を雇用する者は、移民国籍法によりまして、当該外国人が就労できる資格を有する者であるかどうか社会保険カード等によって確認する義務が課せられており、確認せずに不法就労外国人を雇用した場合の罰則が定められておるところであります。
ところで、我が国の場合でございますが、入管法でこのような義務規定については規定を設けておりません。しかし、そうした外国人が就労する資格を有しないことを知りながらこれを雇い、不法就労活動をさせるなどをした場合には、不法就労助長罪、入管法の第七十二条の二でございますが、これによって処罰されることとなっております。したがいまして、この不法就労助長罪を活用することにより、こうした事案に対処できる仕組みとなっておるものと考えております。
今回の法改正ではどうかということでございましたが、私どもとしましては、この不法就労助長罪を活用することで対応していきたいと考えております。
○安倍(基)委員 助長罪というのは送り込む側を罰するわけですね。受け入れる、雇用する側を罰する規定ではないのですね。そこはどうなんでしょうか。
○樋渡説明員 不法就労助長罪といいますのは、例えば正規の在留資格を持っておりましても資格外活動をする者がございますし、そもそも在留資格のない方、不法入国、不法上陸をしている者もおりますけれども、そういった外国人の方々を支配下に置いて就労させるあるいは援助するという罪でございます。
○安倍(基)委員 どちらかというと、就労させるというか、雇用者の方、いわば雇った側を罰するというよりは、そういう雇わせるように持っていった人間を罰するということですね。
○樋渡説明員 具体的な事例にもよりますけれども、とにかく、そういう資格のない方々を雇う者も雇わせる者も不法就労罪の罪に問われるということがあり得るわけであります。
○安倍(基)委員 いずれにしましても、アメリカのような、つまり、雇う人間がそれをチェックして、照会してというような、そういう種類の規定は今回はないわけですね。そこはどうなんですか。
○樋渡説明員 そういうようにチェックしなければならないという義務規定は我が国の入管法にはございません。しかしながら、当該外国人が就労する資格を有しないことを知りながらこれを雇って、不法就労活動をさせるなどをした場合に、不法就労助長罪が適用されるわけであります。
なお、そういった資格を雇い主が確認する義務はございませんけれども、働く方の外国人につきましては、入管法第十九条の二によりまして、働こうとする外国人からの申請に基づいて、法務大臣において、当該外国人に対し、同人が就労資格を有する旨を証明する文書を交付することができる旨が定めてあります。したがいまして、雇い主の側はその就労証明書を確認すれば、あるいはとってくるように指導すれば確認できるというふうになっております。
○安倍(基)委員 いずれにしましても、雇われる側の方は隠して雇ってもらうわけですから、その辺は余り大したあれではない。やはり雇う側がきちっとそれを把握して、不法かどうかを確かめるということをきちっとしなければいけないのじゃないかと思います。私は、この点についてまだいろいろ、アメリカの制度をいわば参考にして、改善の余地があるのではないかと思います。
それでは、ちょっと話題というかあれは違いますけれども、私、非常に心配しているのは、人口の移動の関連で、北朝鮮が今非常に食糧難で困っていますね。中国のようにちゃんと出るところを押さえてくれるところならいいのだけれども、北朝鮮がもし崩壊でもしたら大量の難民が来るかもしれぬ。これは一つの想定ですけれども、例えば西ドイツなどであれだけ大勢の外国人が入り込んだのは、どんどん難民を受け入れたという要素も随分あるのですね。ソ連が崩壊し、東欧諸国が流動化して、次々と難民が入ってきた。それはさっきお話ししたように、人口の九%がいわば外国人になってきた。ドイツの場合には非常に純血主義ですから、なかなか国籍を認めてやらない。そういうところで非常にドイツは社会問題になってきておるという話がございます。これは、アジアにおいてはあれほどの難民というのは出てきておりませんが、北朝鮮がもしどうにでもなった場合に、難民がどっと押し寄せたらどうするんだろうというような非常に危惧があるのです。
これは、法務省の問題では必ずしもないので、内閣全体の問題で、たしか一遍どこか官房長官がそれにちょっと触れたことを発言して、大分マスコミにたたかれたというような話もちらっと私は記憶にございますけれども、この問題は、一体、政府としてどう考えているのだろうか。官房長官あたり呼んで一遍聞いてみようと思ったのだけれども、また予算委員会であれば聞けるのですけれども、なかなかこの席まで出てこないようでございますが。こういった難民問題、具体的には今北朝鮮でございますけれども、こういったことが発生し始めたときにどうするのか。これは必ずしも夢物語じゃないのでございまして、現に起こり得る問題、いわば中国や東南アジアは今経済成長どんどんしていますから、大挙難民みたいなのはございませんけれども、そういったものも将来あり得る。これは単に人道主義、人道主義とばかりは言っていられない要素もあるのです。
この点について、いわばこの法案と直接関係ないわけですけれども、大きな意味では関係があるというので、現在どのような検討をなされておるのか、どういう状況にあるのか、お答え願いたい
と思います。
○山崎説明員 御指摘の点につきまして、政府におきましては、昨年五月、現橋本総理からの指示を受けまして、四項目につきまして、我が国周辺地域におきます我が国の平和と安全に重要な影響を与えるような事態が生じた場合を中心としまして、我が国に対する危機が発生した場合とか、そのおそれがある場合における必要な対応策について、現在、鋭意検討を進めているところでございますが、その一つとしまして、今先生の御質問にありましたように、大量避難民対策につきましても検討を進めております。
ただ、この検討につきまして、特定の国または地域を前提にしているものではございませんが、いずれにしましても、内閣官房の安全保障室を中心としまして、関係省庁の御協力を得まして、今現在、鋭意検討中のところでございます。
○安倍(基)委員 というのは、現在ちょっとまだ表へ出せないということでございますか。
○山崎説明員 現在検討中ということでございまして、まだ内容等について申し上げるような段階にないということを御理解いただきたいと思います。
○安倍(基)委員 ここで無理やり答えを引き出すわけにいかないでしょうから。ただ、これは大きな課題として、いわば入国管理とちょっと次元は違いますけれども、難民問題は入国問題との絡みが大きいということを御理解願いたいと思います。
最後に、冒頭で述べましたように、私は、いわゆる人口移動に伴う問題というものは、二十一世紀に入って必ず大きな問題となってくる。これだけの所得格差があり、人口の移動が可能になってくると、今まで日本は単一国家というか単一民族で来ましたけれども、これは必ずアメリカやドイツが経験したような要素を多かれ少なかれ持ってくる。
でございますから、法務省も、単に入国管理局の一問題じゃなくて、もっとこれに対応する、いわばいざという場合にどう対応するのか、国籍問題あるいは帰化をどうするか、あるいは合法的に入ってくる人間の資格をどうするか、違法に入ってくる人間をどう防ぐか。この三つの柱を中心に今から、既にそういったことを経験した国の御努力を勉強するというか研究し、かつまた、いわば管理体制も現在のままでいいのかどうか、警察権を含めてどこかほかのところへ一括して持たせた方がいいのかどうか、機構のいわば再検討も含めて検討した方がいいかと思いますけれども、この点、大臣の御所見をお伺いしたいと思います。
○松浦国務大臣 具体的に問題が起こっているわけでございませんので、具体的なお答えはできかねますけれども、一般論としては安倍委員のおっしゃるとおり十分検討していかなければならない問題であろうかと考えております。
○安倍(基)委員 これをもって一時間になりましたから終わります。
最終更新:2009年02月07日 08:18