162-衆-法務委員会-23号 平成17年06月14日
平成十七年六月十四日(火曜日)
午前九時二十一分開議
○山内委員 民主党の山内おさむでございます。
本日は、主に入国管理法の情報提供と旅券の確認義務に絞ってお話を伺いたいと思います。
大臣は、本法の提案理由説明の中で、昨年十二月にテロの未然防止に関する行動計画を策定し、その中でテロリストを入国させないための対策の強化が求められている、これも提案理由の一つとされておりますが、まず最初に、テロとかテロリストという言葉が使われておりますけれども、この定義についてお示しいただきたいと思います。
○南野国務大臣 お答え申し上げます。
一般に、テロリズムの用語は、特定の主義主張に基づきまして、国家等にその受け入れ等を強要し、または社会に恐怖などを与える目的で行われる人の殺傷行為などをいうものとされております。本法律案の提案理由説明やテロの未然防止に関する行動計画等において用いておりますテロの用語も、このことを踏まえて用いたものであり、テロリストという用語は、そのテロの実行者等の意味でございます。
○山内委員 それでは、今回新設されます規定の個人情報の海外への情報提供の点については、これはテロリストを入国させないための対策の強化の一環として規定されていることなんでしょうか、それとも違うんでしょうか。
○南野国務大臣 そういう問題点も含まれているはずでございます。
○山内委員 それでは次の質問ですけれども、今のテロの未然防止に関する行動計画によりますと、我が国でもe―パスポートの研究を進めるべきだということが規定されておりますけれども、最近の報道によりますと、外国人が我が国に入国するときに指紋と顔写真をとって、それを国内にいるときに携帯すべきだ、そういう立法を考えている、あるいは、我が国から帰るとき、出国するときにも指紋押捺を求めるというような法の研究がなされていると報道がありますけれども、そのとおりなんでしょうか。
○南野国務大臣 いろいろな問題点については、今現在検討しているところでございます。
○山内委員 問題点について研究されるのはいいんですが、指紋押捺制度につきましては、在日の皆さん方の関係でそれが随分問題となり、廃止になったという経過もございますので、政府が全く罪も犯していない人に指紋を押すように求め、犯罪者扱いと同視することは人権上大きな問題があると考えるのですが、この点の視点はきちんととらえながら議論されると聞いてよろしいんでしょうか。
○南野国務大臣 先生が御懸念の、テロリスト、犯罪者あるいは不法滞在者の流入、日本に入ってくることを水際で防止する方策を徹底すべきであるというようなところから、先生御案内のバイオメトリックスを活用した出入国管理体制の構築を求めていこうとするものでございまして、これは内閣官房に設けられましたワーキングチームにおきましても具体的な方策に対する検討を行っているところと承知いたしております。
先生の御指摘の点につきましては、出国時における旅券の不正利用や、または犯罪者の国外逃亡をも未然に防ぐという上で一定の効果があると考えておりますけれども、一般の外国人の方々に対して過度な負担を与えることなく、また、スムーズな審査手続を確保するということも必要がございますので、今後のバイオメトリックス活用に関する制度設計につきましては、ポイントといたしまして、厳格化、円滑化のバランスを十分に考慮していきたいと思っております。
○山内委員 それはわかるんですが、出国時にまで指紋を求めて、以前に日本に入国してきた人との照合までするというのは、私はちょっと、人権を配慮した運用になるのかどうか、大変危惧をしておりますので、この点は再度指摘をさせていただきたいと思います。
それから、先ほど海外への情報提供の件で、それはテロリストの入国を阻止するためにあるんだというのが提案理由説明であるとお聞きしたんですけれども、この情報提供の部分につきましては、それでは、テロリストを入国させないための対策のため以外には考えておられないと聞いてもいいんでしょうか。
○富田大臣政務官 先生の御趣旨がどの点にあろうかちょっと定かではございませんが、お互いに情報提供し合うという入管法の六十一条の九の規定ですので、テロリスト対策だけではないというふうに私は思います。
○山内委員 だとすると、例えば、今、この法案についてはいわゆる人身取引法という別名でも言われていますとおり、人身取引の発生を防止するためにもこの情報提供については利用されるべきだというふうに聞いてよろしいんでしょうか。
○富田大臣政務官 そのとおりだと思います。
○山内委員 それ以外にはないんでしょうか。
○南野国務大臣 今回の改正におきましては、外国の入国管理当局に対する情報提供の規定を新設している。そのことは、人身取引議定書において、人身取引の防止のための加害者や被害者に関する情報を関係当局で交換すべきことが求められております。そのほか、密入国議定書におきましても同様に、移民を密入国させることを防止するため、各国間で情報交換すべき旨が求められていることを受けたものであろうと思います。
○山内委員 ですから、人身取引の関係とテロリストの対策の関係以外については、この情報提供についての規定は適用しないということで聞いてよろしいんでしょうか。
○富田大臣政務官 今大臣の方から密入国議定書のお話がありましたけれども、密入国防止のための情報提供もあると思います。
○山内委員 密入国防止のためということは、例えば、具体的にはどういう場合に適用されるんでしょうか。
○富田大臣政務官 具体的に想定されるのは、例えば、偽造、変造旅券に関する情報をお互いに提供し合うということが想定されると思います。
○山内委員 提供する相手国というのは、どういうところをイメージして規定されているんでしょうか。
○富田大臣政務官 提供する相手国につきましては、相手国における情報提供制度や個人情報保護制度の有無、内容等を調査いたしまして、入管法第六十一条の九第二項の目的外利用の防止のための適切な措置を講ずることが可能であるかなどの点を踏まえた上で選定することになるというふうに考えております。
○山内委員 いかなる情報を提供するかについてはどう考えたらいいんでしょうか。
○富田大臣政務官 新設される情報提供規定により提供することを予定しております情報は、例えば、出入国記録、退去強制記録、偽変造文書行使情報及び偽変造鑑識技術等、入国管理当局が入管法上の職務を遂行する過程において取得した情報であります。
○山内委員 そういう具体的な情報の項目あるいはどういう国に情報提供するのかなどについて、どうして法文に書き込まれなかったんでしょうか。
○富田大臣政務官 今先生、法文に書き込まれないというふうにおっしゃいましたが、改正入管法の六十一条の九の一項、二項には今私の方が答弁しました具体的な中身までは書いてありませんが、この規定からは当然そういうことが予想されるというふうに考えております。
○山内委員 それでは、総務省にお聞きします。
総務省は、情報提供については、個人情報保護法、行政機関情報保護法についての適用がまずそもそもあるとお聞きしてよろしいんでしょうか。
○増原大臣政務官 お答え申し上げます。
いわゆる行政機関の保有する個人情報の保護に関する法律でございますが、この第二条では、個人情報とは「氏名、生年月日その他の記述等により特定の個人を識別することができるもの」、このように定義をいたしております。
したがいまして、本件の場合、法務省において、具体的な情報の内容に応じてそれぞれ御判断をされるというふうに考えております。
○山内委員 例えば、法務省がいろいろな個人情報を聞き取りによって取得したことについて、それを外国の政府あるいは政府機関に情報提供をするということは、個人情報の目的外利用にはならないんでしょうか。
○増原大臣政務官 委員御指摘の点でございますが、いわゆる行政機関の個人情報保護法でございますけれども、この第八条一項におきまして、「行政機関の長は、法令に基づく場合を除き、利用目的以外の目的のために保有個人情報を自ら利用し、又は提供してはならない。」というふうにされております。
具体的な法務省のケースがどうかわかりませんが、仮にこれが個人情報というふうにしましても、まさに「法令に基づく場合を除き、」と書いてあるわけでございまして、これを今、今般の法改正でもって法令でそれをやろうとしているわけでございますから、いわゆる第八条関係とは抵触はしないというふうに考えております。
○山内委員 法務省は、行政機関の保有する個人情報について、外国政府あるいは機関に提供することについては目的外利用にはならないと解釈しているのでしょうか。
○富田大臣政務官 今、総務大臣政務官の方から御答弁ありましたように、今回のこの情報提供は、行政機関個人情報保護法八条第一項に規定する「法令に基づく場合」に該当し、許容されるものというふうに考えております。
○山内委員 法務省が今まで私に説明していたのとは違うんじゃないんですか。
○富田大臣政務官 法務省の事務方の方で、先生に対するレクの際に、ちょっと正確を欠いた説明をしたというふうに報告を受けております。この場で、ちょっと申しわけないなというふうなことで謝っておきたいと思います。
そのような御説明になってしまった事情としましては、本年三月まで施行されておりました旧法、すなわち行政機関の保有する電子計算機処理に係る個人情報の保護に関する法律第九条に関する整理と、新法第八条に関する整理とを混同して説明してしまったというふうに報告を受けております。
新法につきましては、先ほど答弁しましたように、端的に、新法第八条第一項によって許容されるものと整理すべきものというふうに考えております。
○山内委員 委員長、ちょっと五分ほど休憩させていただけますか。なぜならば、きょうの今まで法務省から説明を受けてきたのと全然違うことを今言っておられまして、今まで説明を受けてきたことに基づいて、私、いろいろあとの問いを構成していたものですから、整理をさせてもらいたいと思いますので、五分で結構ですから、お願いします。
○塩崎委員長 ちょっと速記をとめてください。
〔速記中止〕
○塩崎委員長 速記を起こしてください。
質疑を続行いたします。山内おさむ君。
○山内委員 では、難民の問題について少しお聞きしたいと思います。
入管当局が、迫害する国というか、迫害する側に難民申請者の情報を提供したら、もし仮にその人が強制送還された場合には、わざわざその人の危険性を高めて、そして強制送還をするということになろうかと思うんですけれども、こういう理解でよろしいんでしょうか。
○滝副大臣 仮に、難民という概念に該当する人であれば、そういうような危険性が委員御指摘のとおり生ずるおそれは多分にあると思います。
○山内委員 だとすると、クルド人難民について、出身国であり、まさに本人への迫害を行うかもしれないトルコ政府へ情報の照会をしたことは、問題があったとは思われないんでしょうか。
○滝副大臣 特定の事件を想定して委員御指摘だと思いますけれども、従来から当委員会でも問題になってきましたクルド人難民の問題につきましては、日本政府としても、この人というよりも、クルド人をめぐるトルコの情勢についてどうなのかということを複数の国に打診をし、特にイギリスに打診をしながら、実際の状況の情報交換をしながらこの問題に当たってまいりました。
その中で、このケースについては、直接的な情報交換はトルコ政府に対してできませんけれども、問題点が、裁判で公文書の成立についての真偽を争う点がございましたものですから、その部分に限って、難民ということじゃなくて、公文書の成立そのものについてどうなのかということの照会をした経緯がございますので、特に難民ということでもって意見交換をさせてもらったわけじゃないということで御理解をいただきたいと思います。
○山内委員 裁判になれば、それは裁判所で議論されていることだから公の機関で議論されていることだ、だからその時点でプライバシーというのはなくなってしまうという理屈なのかもしれませんが、UNHCRでは、訴訟になったとしてもそのプライバシーは保護されるべきだというふうに日本政府に指導をしておりますし、それからEUにつきましては難民申請者の情報を共有することはやめようというふうな取り組みもあるんですが、そういうようなEUの動きなども考えて、もう少し情報共有については慎重に行おうということは、このクルド人の入国管理局の調査の後、検討されたり、UNHCRと協議をしたりされていないんでしょうか。
○滝副大臣 今委員御指摘のとおり、EU諸国の中では、難民に関する情報について直接当事者国との間の難民としての情報の共有はしないようにということで、EU各国の中で情勢の意見交換というか情報交換を通じて、いわば周辺的な情報でもって事柄を進めていく、こういうようなルールになっているようでございます。
しかし、実際問題として、私どもはそういうような配慮というのは当然必要だろうというふうに思っておりますから、当然、EUがやっているような、当事者国じゃなくて、EU各国の中におけるような情報交換、情報共有、そういうものを主体にして仕事を進めていくということについては、私どもも同感でございます。
ただ、この問題については、先ほど申しましたような事情がございましたものですから、要するに公文書の作成確認ということで私ども終始したつもりでございますけれども、その後、御指摘のように、UNHCRとの意見交換を通じて、この問題については、さらに具体的に今後の問題としても、特に不都合の生じないような格好で事を進めていきたいというふうに思っております。
○山内委員 この法案につきまして附帯決議をつけさせていただこうと思って与党の皆さんと協議をさせていただいたんですが、今、日本の憲法の改正の議論がなされておりまして、その中に、プライバシーの権利、環境権を書き込もう、知る権利を保障しよう、あるいは自衛権を憲法上明記すべきじゃないか、自衛隊の国際貢献について法的根拠を与えるべきじゃないか、そういう論点がございますよね。
そういう大きな論点の中の一つに、やはりプライバシーについては書き込んで尊重していこうと。特に、日本ではその権利について十分に保障されていなかったという議論もございまして、憲法にもし書き込んだとしたら、それは日本人だけではなくて諸外国の皆さんについても人権として保障していこうという議論が今なされているわけです。
ですから、プライバシーについては、本人の放棄をするという合意があって初めて外国との情報を提供しようというようなことをすべきだと私は思うんですね。それがまさに、UNHCRが日本に勧告をしている内容の一つでもあると思うんです。それを、国連難民高等弁務官事務所の指導とか、そういう提言の精神を生かしてというような一文を附帯決議で入れていただきたいということも強くお願いしたんですけれども、与党の皆さんから、それは書き込めない、約束できないと言われてとても残念な思いをしているんです。
今、私の方で話させていただきましたけれども、個人については特に事前の合意を求めていくという形で情報提供をしていくということについては、ぜひ考慮していただきたいと思っています。
ところで、難民申請者から聞かれた情報についても、これは相手国の要請があれば、住所、氏名とか、先ほど増原政務官がおっしゃったようないろいろな情報を相手国に提供される考えなんでしょうか。
○滝副大臣 出入国管理及び難民認定法の六十一条の九の条文によれば、一般的に規定をしているように表現されているわけでございますけれども、当然、難民条約の制約がかぶってまいりますから、法務省としての扱いは、今度のこの改正、新しい条文を入れましたけれども、それがそのまま動くわけではございませんということで、当然、従来からこういう難民条約のルールに従って法務省としては事務を処理しているつもりでございますので、今後とも、これによって難民の本国に、出入国管理法に従ってストレートに情報が行くということはあり得ないと思っております。
したがって、その問題はこれからも同じというふうに御理解をいただきたいと思います。
○山内委員 そうすると、難民申請者からの個人情報については、相手国には情報提供をしない。そういう国際的な基準と全く反する、あるいはUNHCRがマンデートとして難民認定した人についてまでも日本は世界でも類のない強制送還をしたという事実もあってかなりの批判を受けられたわけですから、難民申請者からの情報については絶対に相手国には提供しないということを大臣の口からもお願いしたいと思います。
○南野国務大臣 UNHCRとの協議の上で、今も話を進めております。いろいろな事例がございますが、そのことについては、なるべくその個人の問題を考えながら、また、UNHCRの意見を尊重しながらやっていこうという体制でございます。
○山内委員 大臣の発言は副大臣の発言より後退しているんですよ、全く。なるべくなんという話はないんですよ。大丈夫かな。難民条約に違反するんですよ。だから、しちゃいけないんですよ。それを副大臣は言われたんですよ。いや、笑い事じゃないですよ。
そうすると、法文上にきちんと、難民申請者の個人情報は相手国に通報しない、情報共有はしない、情報提供の申し入れがあっても教えない、そういうような条文をつくる、規定するということは考えないんですか。
○富田大臣政務官 現在でも提案しております改正入管法の六十一条の九の第二項に、目的外使用されないための適切な措置というふうな規定がございます。これは、相手国当局との間の文書をもって情報提供の具体的な条件、手続等を定めることになるというふうに考えておりまして、その交渉過程で、相手国当局が目的外使用を防止するための条件等に同意しないなど目的外使用を行う懸念を払拭できない場合には、情報提供に係る取り決め自体をも結べませんので、法務省としましては、新たにきちんと、今先生御指摘のような条文を設けるまでもないというふうに考えております。
○山内委員 政務官の本当に誠実な答弁に感謝したいと思っています。非常に明確に言っていただきましたので、多少は大臣の答弁で不安を覚えたのが解消された気がいたします。
ただ、政務官、一番最初におっしゃいました情報提供の立法趣旨というか提案理由が、密入国者の情報も情報交換する趣旨であると言われたのが少し気になっておりまして、難民の人たちというのは、普通の方法で入国する人たちというのがなかなかおられないんじゃないかなと思うんですね。
だから、やはり、どういう国に提供するのか、どういう情報を提供するのか、あるいはどういう方法で情報提供するのかというようなことを、できれば、この中のそういう活動をしている人たちやそれを支援している弁護士などを含めて具体的な基準を決めて法務省として公表をする、これに従って行動していただけるならこうしますよというような行為規範を公表していただけないかと思うんですが、どうでしょうか。
○富田大臣政務官 先生御指摘の判断基準の策定とか公表の可否につきましては、今後、法務省の方としてはきちんと検討してまいりたいというふうに考えております。
○山内委員 どうもありがとうございました。
それでは、外務省にも来ていただいておりますけれども、我が国は行政機関が持つ個人情報の保護について法制化をして取り組んでおりますが、情報提供の相手国が行政機関個人情報保護法というような法を持たない場合、情報提供を慎重に行うべきではないかと思うんですが、どうでしょうか。
○小野寺大臣政務官 お答えいたします。
先ほど来お話が出ておりますが、当然、この問題、相手国の制度の違いというのがございます。当然、情報提供に際しては、相手国の制度の違いというものを勘案しながら個別具体的に検討して、相手国に関しては、情報漏えいのことについて問題ないということがない限り、こういう情報提供というのは難しいというふうに思っております。
○山内委員 入管難民法の法案によりますと、「当該情報が当該外国入国管理当局の職務の遂行に資する目的以外の目的で使用されないよう適切な措置がとられなければならない。」と、ちょっと読むと消極的な規定であるのですが、これは具体的にはどういうことをイメージしたらよろしいのか。外国政府に対し日本の国内法規などで制約をかけるようなことが本当にできるのか。これは、もしできれば外務省、お願いしたいと思います。
○小野寺大臣政務官 先ほど富田政務官からお話が一部出ていたと思うんですが、当然、こういうことを相手国がしないということ、目的以外の目的で使用されないことということに関しては保証を取りつけるということになっています。
保証としましては、国際約束ということがありますが、国際約束以外の場合、文書を取り交わす方法としまして、口上書等しっかりとした対応、お互いの二国間の関係をつくるものが必要だというふうに思っております。
○山内委員 総務省と外務省の政務官、どうもありがとうございました。
それでは、法務大臣政務官に、今の外務省が言われた点についてさらにお伺いしたいんですが、仮に、情報提供をした相手国が目的外使用した、家族や関係者が命を落とした、人権侵害を受けたというような深刻な状態になったときには、では、日本政府としてはどんな責任がとれるのでしょうか。
○富田大臣政務官 先ほど、改正入管法の六十一条の九の二項の適切な措置について、相手国との取り決めをこのようにやっていくんだという御答弁をさせていただきましたけれども、そういう事態に陥らせるような国とは取り決め自体結べないと思いますが、それでも、では、そうなったらどうするんだというふうな御質問だと思います。
法務省としましては、先生御指摘のような結果が生じないよう、相手国当局との情報提供に関する条件、手続等、提供する際に万全を期していきたいというふうに考えております。
○山内委員 私としては目的外の使用を行う可能性が高い外国当局については情報提供を行わないという旨を入管法に書き込んでいただきたかったのですが、とにかく運用の面で、ぜひとも二国間協定でしっかりとそのあたりはチェックしていただきたいと思います。
それでは、旅券の確認義務の論点に入らせていただきます。
この運送業者の旅券確認義務につきましても今回の新設規定なんですが、具体的にはどのようにして確認をさせるのでしょうか。
○富田大臣政務官 旅券等の確認の程度につきましては、単に旅券様の物を所持していることを確認するだけでは足りず、運送業者として通常の注意義務を払えば発見できるような、例えば旅券とは到底言えないものを所持している場合や、本人と似ていない他人の写真が貼付されているときや、旅券の有効期限が切れている、そういった場合、これを見落として搭乗させるようなケースにつきましては確認義務を果たしたとは言えないというふうに考えております。
ただ、搭乗直前の短時間のうちに多数の乗客の旅券等を確認していただくという制度の趣旨からして、真偽の鑑定までこれを義務づけるものではありません。
○山内委員 私も真偽の鑑定まで義務づけると酷だと思うんですけれども、だとしたら、確認義務を十分に行わなかった場合に罰則規定を置かれているんですよ。その罰則規定というのがまた、実際に現場で行う船長さんたちにとっては重荷になると思うんですが、罰則規定の導入についてまで必要だったのか、あるいは、真偽の鑑定まで必要がないのに罰則規定でそういう義務を履行させるというか、そのあたりの、罪刑法定主義とも絡めて説明ができたらお願いします。
○富田大臣政務官 先生の御指摘は、罰則を科すんだからもう少し確認義務の中身を具体的に規定すべきじゃないかという御趣旨だと思うんですが、入管法第五十六条の二は、確認義務を課す目的につきまして、外国人が不法に本邦に入ることを防止するためと明確に規定しております。
不法入国にならないためには、先ほども申しましたように、旅券等の真正性と有効性、すなわち、旅券等が発行権を有する者によって発行された真正なものであること、また、旅券等の名義人とされている者により使用されており、有効期限が切れたりしていないことなどを確認される必要があり、これらを確認するためには、先ほどお話ししたような、およそ旅券等と言えないようなものではないか確認したり、貼付されている写真や有効期限等を確認する必要があるということはおのずと明らかになるのではないかというふうに解されます。
したがいまして、確認義務の内容は明確になっていると思いますし、また、業者の負担もあると思いますので、このような確認の内容、方法等につきましては、運送業者に対し、あらかじめ旅券の確認の程度等に関する指針を示したいというふうに考えております。
○山内委員 指針はもちろんだと思うんですけれども、研修とか教育とか、やはりそういうことも、飛行機の場合、搭乗員さんとか、船長さんとか、しっかりとされて、とにかくどこの港、どこの空港でも同じことがされているというようにしないと、また法の趣旨としておかしくなると思いますので、その点は徹底していただきたいと思います。
ところで、難民の件なんですけれども、難民の認定申請を例えば日本でしようと思っている人が、例えば万やむを得ず偽造旅券をつくって、日本行きの船、日本行きの飛行機に乗ろうとしたという場合に、この運送業者の確認義務によって、日本へ来てもらっては困るということになるんでしょうか。
○富田大臣政務官 先生の御質問の趣旨は、そういう場合は気の毒じゃないかという点にあると思うんですが、旅券等は外国人が外国を旅行する際に必要とされる文書でありまして、国際的な一般慣行としましても、国際旅行を行う者に旅券等の所持を義務づける制度が確立しております。各国は、旅券等の旅行文書の所持を自国への入国を認める条件の一つとしているのが一般的な取り扱いであります。
したがいまして、運送業者におきましては、有効な旅券を所持しない乗客を搭乗させたとしても、当該乗客が到着国の入国管理当局から上陸を拒否され、出発地等に返還しなければならないことから、運送約款に基づきまして旅客等の搭乗手続等の際に旅券等の確認を行っているものと、これは現在でもそうやっているというふうに承知しております。このようなことから、運送業者が偽造旅券を理由に搭乗を拒否することは現在でも行われていることでありまして、今回、旅券の確認義務を課したことにより新たに発生する問題ではないというふうに考えております。
米国、フランス、イギリスを初めとする諸外国におきましても、運送業者に対して旅券等の確認義務を課しておりまして、義務違反に対しては制裁が科され、これらの国において、難民認定申請予定者であるということのみをもって確認義務や制裁が免除されるわけでないということも承知しております。
○山内委員 今の答弁でこちらは理解すべきなのかもしれませんけれども、結局、難民申請予定者であるということだけでは運送業者の確認義務は免除されない、それはわかるんです。確認義務を行使したときに、難民認定申請者で日本に行きたい、日本に行って申請をさせてくださいという人に、来てはいけないということまでも運送業者は言えるんですか。
○富田大臣政務官 運送業者が来てはいけないというふうに言うのではなくて、到着国の入管当局の方で上陸を認めるかどうかの判断をすることになると思いますので、今回の確認義務の規定と運送業者が拒絶するということには必然的なつながりはないというふうに思います。
○山内委員 できれば運用面で二点お願いしたいんですが、一点は、日本というのは難民の受け入れが世界的に非常に少ない、難民が日本に来にくい国で、唯一そういう方法がとれるのは、在外公館の塀をよじ登って、日本人小学校に入り込むとか、大使館に逃げ込むとか、そういう形でしか日本の国土に難民が入ってくるという形が想定できない国だと、難民をたくさん受け入れている国からは多少皮肉って意見されますよね。
ですから、偽造旅券を持っている難民認定申請予定者が入ってくる場合に、運送業者が確認義務の段階で入るなと言うことはない、日本の入管当局が判断すべきだと言われましたので、入管当局の皆さんにはやはり弾力的な運用をお願いしたいなというのが一点と、そういう場合に、刑事罰があるんですね。そういう偽造旅券を行使したような場合には三年以下の懲役もしくは三百万円以下の罰金に処せられるということで、実際に地方裁判所では、それを厳格に適用するとそれこそ難民の人は全く日本に入ってこれなくなるということもあって、一地方裁判所かもしれませんけれども、刑を免除したという事例もございます。
難民の人たちが日本へ入ってくるときの偽造旅券については、今言いました二つの点からも、法務当局の方で善処すべき点があるのではないかと思うのですが、どうでしょうか。
○富田大臣政務官 入管法の第七十条の二は、難民条約三十一条を受けて規定されているものでありまして、難民の保護にとって重要な意味を有するものというふうに理解をしております。難民条約第三十一条の不法入国や不法在留等の罪とあわせて成立することなく、さまざまな罪について一律に処罰しないとの制度を設けることまで求めているものではないというふうに理解をしております。
この点、現行法下におきましても、入管法第七十条の二に該当する事案において、偽造旅券の行使罪や外国人登録法上の罪もあわせて成立すること等が想定されますけれども、このような場合においては、検察当局において、起訴、不起訴の判断において、入管法七十条の二の趣旨を考慮して適切な取り扱いを行っているものと承知しております。今回の法案で新設する入管法七十四条の六の二第一項第四号の罪についても、同様の対処が期待されております。
したがいまして、入管法七十四条の六の二の第一項第四号の罪につきまして、同法第七十条の二のような刑の免除規定を設けるまでの必要性はないのではないか。
先生先ほど地裁の判例もあるというふうに言われましたけれども、高裁の方でまた別の意見にもなっているようですので、法務当局としては、現在の段階ではこのように考えております。
○山内委員 ただ、これは、交渉させていただきました結果、附帯決議の中には入れていただけそうなんですが、念のために答弁で確認させてもらいますけれども、運送会社による旅券などの確認に当たっては、庇護希望者の庇護権や家族的な結合などが阻害されないように、十分な配慮がなされる必要があると思います。法務省としては、その恣意的な運用がなされないようにぜひともお願いしたいと思うのですが、大臣、どうでしょうか。
○南野国務大臣 今回の法改正といたしましては、運送業者に対して旅券等の確認を義務づけるものでございます。その結果、偽造旅券であることが判明する、そういうような場合には、運送業者は、運送の約款に基づいて、航空機等の安全確保等の視点から、みずからの判断によりまして搭乗拒否等を行うこととなるわけでございます。
旅券等の確認の方法や程度につきましては入国管理局におきまして指針を作成いたしますとともに、運送業者の職員を対象とした偽変造旅券の確認方法等につきましても、先生が先ほどもおっしゃっておられましたような研修会、そういったものを随時開催することによりまして指導を重ねていく予定でございますが、旅券等の確認方法、またその程度といった事項を超えて運送業者への指導を行うことは、入国管理局の立場からは困難でないかなというふうにも考えられます。
○山内委員 難民の皆さんにかかわらず、在留特別許可、あるいは上陸特別許可、仮放免、在留資格の更新、変更などの出入国管理制度の運用につきましては、今後とも引き続きましてその基準づくり、それから公表を私どもは本当にしてほしいと思うんですけれども、その公表の可否につきまして、できれば外部の識者も加えていただいて透明性の高い運用をお願いしたいと思うのですが、どうでしょうか。
○南野国務大臣 先生おっしゃるとおりでございますが、わかりやすく透明性の高い出入国管理行政を実現するということは、これは本当に重要であると認識いたしております。
そのために、上陸または在留審査関係におきましては、在留資格に関する解釈上のポイントを公表したり、または、我が国への貢献が認められて永住許可された事例等を公表するとともに、これに関するガイドラインを策定しまして公表したところでございます。また、在留特別許可及び仮放免につきましては、裁量的な処分であるところでございますので、在留特別許可につきましてはその透明性を向上させること、そういう観点から、許可された事例を公表する措置を講じておりました。
昨年三月に策定いたしました第三次出入国管理基本計画におきましても、各種手続の透明性を向上させる方策について言及しているところでございます。
それぞれの処分の性質等も十分勘案しながら、引き続き、公表事例の充実や、またガイドライン策定の適否の検討を行ってまいりたいと考えているところでございます。
○山内委員 外国人が、約二百カ国の人が二百万人ぐらい常時日本にいるというほど国際化が進んでおります。外国人が入国するときに、リエゾンオフィサーも含めて二重三重のチェックを受ける、そして宿泊した旅館でも旅券番号の記入が求められる、そういう社会になっていきます。
これが行き過ぎますと、やはりどうしても外国人というのは危険な存在あるいはテロリストじゃないかとみなすような風潮にもなってきますし、そのうちの一つが、怪しい外国人を見つけたら法務省に教えてくださいというような、ああいうホームページにもなってくると思いますので、日本がどういう方向を目指していくのか、国際社会に冠たる存在として日本をこれからも売り込んでいくという姿勢をとるなら、やはり外国の国籍を持つ人についても我が国の法制度の中でしっかりと人権尊重を果たしていく、守っていくということが必要だと思うということを指摘させていただきまして、質問を終わります。
ありがとうございました。
○南野国務大臣 先ほどの答弁のところで、昨年三月と申し上げましたが、本年三月の間違いでございますので、訂正いたします。
最終更新:2009年02月07日 08:40