国際人権条約 > 国際法(国際人権)の実現過程

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項目の説明

国際法(国際人権)の実現過程

 国際法の動態
 国際法は、国際社会における正義感や規範意識に支えられ、現在の力関係と多様な主体の利益追求の絡み合いのなかで理念として主張され、形成され、適用され、実施され、その内容が実現される。逆に、国際社会の支配的な力や支配的利益と衝突し、新たな理念の挑戦を受け、時代適合性を失ったものとして批判される、破られ、新たな時代の適合的な法規範に取って代わられる。その中間には、法の実現という名の下での国際法の濫用という現実もある。
 絶えざる技術革新などにより、絶えず新たな事象が生まれる中で、国際社会の既存の法規範と新たな事態に対応する規範意識の間にはずれが生じてくる。米国を中心とするグローバリゼーションの圧力、途上国における内戦への対応、NGOやメディアの立法論的主張などを受けて、政府官僚を含む法の専門家集団がそうした主張に基づく規範の普及、法としての技術的洗練に取り組み、大国や多数国の行動を「慣習」と擬制し、国連や国際会議で条約案をつくる。署名された条約は各国の批准を受けて拘束力のある多数国間条約となり、その規範は、諸国の国内諸勢力の抵抗にあって変容を余儀なくされつつ、しかし一定の枠内で規範内容を実現していく。
 以上の過程は、(1)国際社会における規範意識(2)国際法の定立(3)国際法の履行ないし自発的・強制的実現(4)国際法の解釈と生成・実施過程におけるさまざまな主体が営む実践的機能、などを含む包括的過程としての「国際法の実現過程」として総体的に把握することができる(大沼保昭「国際法」p.48)。

 国際法の実現過程:利益の追求と法の定立
 法は一般にある社会的要請が規範感情として社会化し、それが法学者や実務家の手で定式化され、成文法として制定されるか、あるいは慣習法、判例法として社会構成員に受容されて法として妥当する。法の内容は、国内社会では暫定的公権性をもつ行政解釈により、また私人(企業・NGOを含む)間関係では法実務家の解釈により、日々実現される。
 ただ、ほとんどの法規範は複数の解釈が可能であり、実際の解釈が分かれる。解釈上の争いは、(とくに先進国の)国内社会では裁判所の判決により、最終的に解決され、その解決は行政府が執行する事により実現される(大沼保昭「国際法」p.50)。

 国際法実現の多様なメカニズム
 さらに重要なことは、国際人権法が、国内裁判所における裁判に限られず、多様かつ重層的なメカニズムによって国内的に実現されることである。
 日本では、自由権規約や難民条約が批准され、法的効力をもつようになった1980年代から国際人権法を根拠とする裁判が増加したが、日本の裁判所は国際人権法への理解が不十分で、国際人権規範を根拠として国の人権侵害を認定する判決はほとんどなかった。しかし、さまざまな人権侵害の訴えが対象となり、裁判で審理されることはメディアによって大きく報じられ、政府への大きな圧力となった。この圧力は、日本の人権NGOが自由権規約委員会、国連人権委員会小委員会、ILOなどに日本政府による人権侵害を通報し、日本政府がこうした国際機関で弁明しなければならない状況におかれたことで、さらに強いものとなった。日本の国際人権法にかかわる事案でかなりの数を占める在日韓国・朝鮮人の人権については、韓国政府も通常の外交チャネルで日本政府に改善を要請し、韓国のメディアやNGOはそうした要求を強力に繰り返した。
 こうした多様で重層的な国際人権法の圧力の下で、日本政府は政策の変更や国内法の変更というかたちで、国際人権法の規範や趣旨を実現するようになった。女子差別撤廃条約の国籍に関する性差別禁止規範(9条)は、1984年の国籍法における父系血統主義から両系血統主義への改正というかたちで実現した。居住外国人への福祉に関する内外人平等を定める国際人権規範(社会権規約2条、9条以下)は、定住外国人への社会保障、社会福祉の適用を認める各種の国内法の改正や行政措置というかたちで80年代にほぼ実現した。自由権規約7条などに規定されている「品位を傷つける取り扱い」の禁止や自由権規約2条他の国籍に基づく差別の禁止は、外国人登録法における指紋捺印制度の撤廃というかたちで国際人権規範が国内的に実現された。
 以上のように、国際人権法の分野にあっては、人権条約に設置された人権委員会や国連人権委員会とその小委員会、欧州人権裁判所などの履行確保メカニズムが、国際人権法規範の実現に重要な役割をはたしている。しかも、こうした人権保障の監視メカニズムは、人権NGOやメディアによる人権侵害の通報、報道などがあってはじめて有効に機能することができる。国際的視点にとどまらず、民際的・文際的視点にも立脚した国際法の認識と解釈、法政策の提言が求められるのは、こうした理由に基づいているのである(大沼保昭「国際法」p.55-56)。

関連項目

人権NGOとの関連

 国際人権法の力
 人権NGOは、国内裁判所でも積極的に国際人権規約その他の国際人権法を援用した。日本の裁判所は国際法、国際人権法の理解が十分でなく、また一般的に強い司法消極主義をとっているため、国際人権保障に反する国内法を国際人権法違反とする判決が下されることはほとんどない。そのため、裁判所における法実現を法実現の理想型と暗黙裏に想定する裁判中心主義的発想による限り、国際人権保障の国内的実現の姿は見えない。
 しかし、外国人差別の問題が訴訟の対象となることにより、外国人に関する国内法や行政と一般人の正義感や公平感とのずれがメディアを通して明らかになり、立法あるいは行政による改善がもたらされることはすくなくない。このことは、上述した定住外国人の指紋押捺義務からの除外や社会保障上の改善などとともに、サハリン残留朝鮮人の韓国への永住帰還、「慰安婦」への償い、在日韓国・朝鮮人軍人・軍属の年金、台湾人元日本兵への補償、強制連行された中国人労働者への補償など、「戦後補償」「戦後責任」といわれる分野でも一定程度認められる。
 国内裁判所における国際人権法の援用は、包括的な国際法実現過程の一環である。裁判所で敗訴したからといって国際人権法が実現されなかったことにはならない。裁判をきっかけとして法の改正や運用の改善に国際人権法の内容が取り込まれれば、それは法の実現である。こうして、行為規範中心の法実現過程という視点からみれば、日本の事例についても、国際人権法の実現過程は十分認識することができるのである(大沼保昭「国際法」p.366)。

 人権保障における民際的視点
 海洋法や安全保障にかかわる国際法は、自国の利益追求を行動原理とする諸国の政府の交渉と妥協から生まれてくる。これに対し、国際人権法は、最終的には政府の交渉と妥協の過程から条約がつくられるものの、そこに至る過程では、NGO、学者、メディアなどが国境を超えて連帯し、政府に圧力をかけ、国連の決議や多数国間条約をもたらすという力学が認められる。国際人権法の実効性は、究極的にはこうした諸国の市民の意識と運動の力に依拠している(大沼保昭「国際法」p.378)。

参考資料

外国人に対する社会保証制度の適用の推移

制度 開始年度 適用年度 関連条約
国民年金法 1959 1982 国際人権規約「難民条約」(1982)
厚生年金保険法 1941 1946
国民健康保険法 1938 1986
厚生年金保険法 1941 1946
国民健康保険法 1938 1986
健康保険法 1922 1922
児童扶養手当法 1961 1982 国際人権規約「難民条約」(1982)
特別児童扶養手当等の支給に関する法律 1964 1982 国際人権規約「難民条約」(1982)
児童手当法 1971 1982 国際人権規約「難民条約」(1982)
生活保護法 1946 1950
児童福祉法 1947 1947
身体障害者福祉法 1949 1949
精神薄弱者福祉法 1960 1960
老人福祉法 1963 1963
労働者災害補償保険法 1947 1947
雇用保険法 1947 1947
出展:手塚和彰「外国人と法」 p.266


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