288 :夕闇に染まる 矢x太:2009/03/24(火) 21:07:03 ID:8ReUBkEx
じゃあ自分も矢部太田川でw




「好きなことを好きにやるために勉強するんじゃないの?」

 患者である子供に問われたとき、矢部は返答できなかった。 どうして人は働くの。 どうして人は生きるの?
 尋ねられて出てきた言葉は僕は人を救いたいから医者になったんだ、というものだけ。 それは一時しのぎの言葉かもしれないし100%の人を助けられるわけでもない。
 非力な自分に打ちのめされたことも何度だってある。
 だからこそ、直球で問われた言葉に矢部は言葉に詰まってしまったのだ。
 夕暮れ時、ぼんやりと医局の窓を開けて空を眺めていると扉が開く音が耳に届く。 後ろを振り返ればマグカップをふたつもった太田川の姿。

「なーにしてるの、研修医」
「・・・・別に」

 マグカップの中には紅茶が入っており良い香りが鼻孔をくすぐる。自然と気持ちが落ち着いて嘆息を落とすと太田川は少しだけ笑ったのを空気で感じた。
 何がおかしいんだ。 視線を投げれば彼女は髪をふわりと揺らして彼の右肩にぽん、ぽんと手をおいて叩くと「悩み事?」と尋ねる。先に質問をしていたのは矢部だったが見抜かれてしまい思わず顔を背ける。
 図星だ。 けれど悩んでるなんてこと、この女に知られたくはない。 ・・・それすらも、あっさりと見抜かれてしまったけれど。
 致し方なしに全て吐露すると、太田川は少し目を丸めて夕焼け空に視線を送った。 なるほど、物事をしんみりと思考するにはセンチメンタルになる状況がいいとはよく言うが夕焼け空は正にその状況にふさわしい限りだ。


「・・・飲みにいこっか」
「お前な、結論ないのかよ」
「ないねぇ、だから一緒に飲んで考えようよ」

 だいじょーぶだいじょーぶ。
 リピートしながら、彼女はマグカップの中に入った紅茶をティースプーンでくるりとかき混ぜてみせる。
 ・・・なんとなく、矢部も視線を紅茶へ落とすと、そこには何だか泣き出しそうな自分が情けなく映って見えた。


同じ夕焼けでも進香のSPとは違った矢部太田川コンビの雰囲気が合れば良いなってことで。
最終更新:2009年08月15日 22:31