522 :×××review 進×香:2009/08/06(木) 23:47:52 ID:zb9uzoV8
暑い、そう感じて目が覚めた。酷く喉が渇いてるし何だか狭苦しくてまだ重い瞼をゆっくり開くと、浅黒い男の肌と尖った喉仏が
目の前に現れた。寝起きの頭はぼんやりとしていてよく考えずにそのまま目線を上に上げると、薄っすらと髭が伸び始めた顎先が見えて、
その先には穏やかな表情で眠っている進藤先生の顔があった。
あっ、と思わず声を上げそうになって慌てて口を噤むと、今の自分の状況を漸く思い出した私の心臓はドキドキとスピードを上げてしまい、
彼の体温が高いから暑かった筈なのに、自分の体中が熱を帯びて彼の温度と同化してしまう。
取りあえずこの腕から抜け出さないとどうにかなってしまいそうだし、彼が起きる前に服を着ておきたいのにがっちりと抱き込まれていて
動くと気付かれてしまいそでどうしようと悩んでいると、小さく唸った彼が目覚めたのか身動ぐから咄嗟に眼を瞑って寝てる振りをしてしまった。
程なくして腕が解かれ、彼が起き上がったのが分った。欠伸をして伸びでもしてるのかベッドが軽く軋む。
どうしようと思っていると、ふと閉じた瞼に感じる光に影が差して左耳の下辺りのスプリングがギシリと音を立てた。
額を頬を撫でてくれている彼がふっと微笑った様な気配がした後、唇に柔らかい感触が降ってきたから思わず目を開いてしまった。
「おはよう。」
「・・・おはよう。」
唇はあっさりと離れていったけれど、私の左側に横になって片肘を付き頭を手に乗せてこちらを見下ろす格好で髪を撫でられているから
距離が近いのには変らない上、優しい眼差しを向けてくれてはいるけれど確実に面白がっているのが分る表情を浮かべている。何だか気恥ずかしくて
彼に背を向ける様に身捩ぐと、くっと喉の奥の方で哂われたのと同時に背中からまた抱きすくめられ、頭の上に顎を置く位置で囲われてしまった。
「起きてたろ?」
「・・・」
「何で、そっち向くんだ?」
「・・・だって、何か、照れくさい・・・」
「思い出すか?昨日の事。」
分ってるくせに耳元で聞いてくる彼がそう言いながら左胸を掌で包み首筋に口付けるから、また心臓がドクンと打ち付けて、
ちょっと位反論したいのに何も言えなくなってしまう。
何と返事をしたら良いかも分らないし、ただ包まれているだけとはいえ胸にずっと手を置かれているのは落ち着かなくて自分の胸元へ
目をやると、丁度彼の親指が当たってる辺りに紅い痕が出来ていた。
昨日までは無かった筈だしこんな所ぶつけたりなんてしないから、どうしたのかと思わずそこに指をなぞらせると、彼が耳元で哂った。
「お前が眠ってる間に付けた。」
「・・・えっ?」
付けたって、と云う事は所謂キスマークだと頭が理解するより先に身体を仰向けに返されて、その同じ場所に音を立てて軽くキスを落すと
上体を起こして上から見下ろされる。チュッと可愛らしい音を立てたキスは妙に羞恥心を掻き立てて、いよいよどうして良いか分からない。
「キスマーク。知ってるだろう?」
起き抜けの掠れた声とまだ少し眠そうな表情がやけに色っぽくて、からかう様に唇の端を上げた哂い方や少し意地悪な口調が、
それでも絶対的に愛されてると確信出来る程に私へと向けられている優しさに混ぜられて、悔しい位に彼に捕われている自分を自覚する。
彼の顔を見ているのが耐えられなくて、重い体を起こして彼の首に巻きつくと滲み始めた視界に、幸せ過ぎると泣きたくなるのねと
思いながら、また泣いてるなんて知られたく無いから声が震えない様に気を付けながら言った。
「・・・ずるいわ。貴方ばっかり余裕なんて。」
抱き込めていた温もりがもぞりと動く気配がして目を開くと、先に起きた筈の彼女が赤くなった顔で目を閉じていた。
思わず寝ている振りをしてしまったけれど、今度はどのタイミングで起きたら良いのか分らなくなってしまってるのであろう彼女の目を
開かせるべく、軽くキスをする。予想通りの反応で開かれた目を覗いて朝の挨拶をすると、寝起きのせいか昨日の行為の名残か、
気怠げな声と潤んだ瞳が恥ずかしそうにチラリと向けられ、直ぐに背を向けられてしまった。
キスマークを見付てそれだとは分らなかったのか指でなぞるから教えてやると、更に頬を赤く染める。
この間から仕草の一々が初々しくて、反応も表情も普段の彼女からは想像もつかない位に可愛らしく愛おしさは増すばかりなのに、
まだ何も身に着けていない体を寄せ首元に顔を埋める様に抱き付かれ、俺ばかりが余裕だと拗ねた子供の様な事を甘えた声で言う。
実の所余裕なんて無いのだが、やはりそう思わせていたいと、自分の欲の赴くままでは優しくなんて出来やしないから煽ってくれるなとさえ
願う程に経験値の差など無意味で、寧ろ無意識の彼女の所作の全てが男の性を擽るから質が悪い。
これでは彼女自身も今まで嫌な目にも怖い目にも沢山遭ってきたのだろうが、少なからず相手の男達に同情すら覚える。しかもきっと
あの高飛車な態度でかわされてきたであろう事は明白だから居た堪れない。
暫くは慣れてない風情の彼女をからかい愉しむ事も出来るだろうが、元が勝気で覚えも良い上この艶のある美しさに何時まで優位で
いられるのかと考えてしまうのも事実だ。
取りあえず、いつまでもくっついていられるとそのまま行為を始めてしまいそうなので離れて貰う事にしようと、背に回して支えていた掌を
腰元へ降ろしくびれを撫でると耳元でわざと低めのざらついた声を作る。彼女がこれに弱い事は昨日分った事の一つだ。
「朝から誘ってるのか?」
「え?・・・なっ、そんな訳無いでしょう!」
漸く今の自分の格好に思い至ったのか勢いよく離れて上掛けを引き寄せるのを笑いながら、くしゃくしゃと頭を撫でるとベッドから降り
床に落ちていた自分のシャツを拾い上げ彼女へ放った。
冷蔵庫からミネラルウォーターのボトルを取出し幾らか飲んでボトルごと彼女へ渡しシャワー浴びてくると告げると、小さな声で
いってらっしゃいと言われた。何だか胸の辺りがこそばゆい感じがして苦笑と共にあぁとだけ返事を返すと、やっぱり翻弄されているのは
自分の方だと思いながらバスルームに向かった。
シャワーを浴びて着替えた彼女はいつものクールで強気な印象を与えるデザインではなく柔らかい織地の白いAラインのプルオーバーワンピースに
モスグリーンのクシュクシュとしたクロップドパンツ姿でカジュアルなのが新鮮でついじっと見ていると、何?と首を傾げる。
「いや、そーゆう格好も似合うな。まぁ、“香坂先生”には見えないけどな。」
「一応TPOに合わせてるもの。プライベートでまで医者に見えなくて結構よ。」
「そうだな、矢部になんか見せたら大騒ぎしそうだ。違う顔のたまきを俺以外に見せる必要はないしな。」
「・・・貴方って、結構さらっと恥ずかしい事言うわよね・・・。」
「そうか?まぁ俺もTPOで多少性格変えてるからな。」
直ぐに顔が赤くなったり動揺したり瞳を潤ませたりと分りやすい反応ばかりを示す彼女を見ていると、普段の彼女は
どれだけ武装しているのかと思う。もちろん仕事の時と私的な時間では意識せずとも多少の切替が存在するのが社会人の大概だ。
けれど彼女の場合ギャップにも程があるだろうと、その切替ぶりに感心すらする。
大丈夫とは言いつつやはり体がキツイ様子の彼女をソファに座らせて並んでコーヒーを飲みながら、今日これからどうするつもりなのかを聞いてみる。
「明日の朝まで休みだろ。俺は今日の16時から病院に戻るんだが、帰るつもりなのか?」
「ええ、一度帰るわ。着替えたいし、鍵だって、どうするのよ?」
「だから2,3日困らない程度の荷物を持って来いと言ったんだ。鍵は作れば良いし、どうせ一度病院に戻ったら暫く帰れないんだから
お前もここに帰って来るようにすればすれ違いも減るだろう?こっちの方が近いから体力的にも楽だしな。」
「・・・それって、一緒に住むって事?同棲、するの?って言うか、貴方初めからそのつもりだったの?」
「まあ、そんな所だな。別にお前の家を引き払えと言ってる訳じゃない。帰りたい時は帰れば良い。ただ、ここにいても不自由が
無い様にしておけば良いし、家は好きに使ってくれて構わないと言ってるんだ。」
結局一度家へ戻ると言うので、マンションの近くにあるカフェで軽い食事を済ませてから彼女の部屋へ上がり込み
折角車で来ているのだから荷造りしろと急かすと躊躇いがちに口を開いた。
「それは徐々にって云うのじゃ、ダメかしら?貴方にとっては普通なのかも知れないけれど・・・。」
「・・・普通では無い、な。そうだな、悪い少し焦り過ぎた。」
自分でも早急過ぎる事を言ってしまったと、まだ始まったばかりの関係なのにそれだけ離れている時間が歯痒いと感じる自分は
相当彼女に嵌っているのだと自嘲する。けれど彼女は目を瞠り存外だと云う表情で瞬きをして言った。
「焦って、るの?・・・強引なのが貴方の遣り口なんだと思ってたわ。ふふっ!何かちょっと、嬉しい。」
貴方も可愛い所があるのねといつもの少し得意気な笑い方をした彼女はくるりと下から視線を遣す。
その勝気な表情も魅力的だが、それは病院に行けば嫌と云う程にこれからも見られる事に間違いないのだから、やはり惑い揺れる姿を堪能したい。
「朝起きてから今まで3秒以上目を合わせてくれないからな、焦ってる。もう少し慣れて貰わないと困るんだ。だから・・・」
ニヤリと哂ってそう言うと彼女の腕を引いて顎に手を掛けるとその目を捕らえて見詰たままゆっくりと距離を縮めて唇を奪った。
腕を引かれたと思ったら熱の篭った目に捕まって逸らす事が出来ないまま口付けられた。触れるだけのそれは近付いてきた時よりも更に
ゆっくりと離れてゆき、それでも互いの額が合わさるか否かの近さで、その射貫く様な視線は外す事も叶わずに胸の奥の方が痺れる様な
感覚に襲われる。髪を梳いて耳の淵をなぞられると肩が跳ねて、また少し哂われる。再び近付いて来たと思ったら、
キスではなく唇を舐められて、目を瞑ることが出来ないでいた所為で伏せられた睫や濡れた唇から舌がのびてくる様子をまざまざと見てしまった。
聖人君子然とした平素からは、それはもう信じられない位の色気を纏い男の貌で欲情を隠そうともしない彼に、身体の真ん中から全身にズクリと
した熱が拡がり怖い訳では無いのに指先が震え出した。これ以上彼を見ていてはいけないと頭の中で警報が鳴っているのに、目が離せない。
滲み出した視界に、それでも彼の表情だけははっきりと見て取れる。
仕方が無いなとでも云う様に苦笑した彼が大きな掌で目元を覆いスッと瞼を降ろしてくれると、一滴涙が零れ落ちた。
その涙に唇を寄せられあの低い声で名前を呼ばれると背筋を何かが走る様で、消えた視界の変わりに彼の動く気配や声が更に熱を煽る。
昨日のあの波にまた攫われるのかと思ったその時、ふわりと体が浮いて横抱きにされた。
「たまき、昨日の復習だ。」
そう囁くと、ベッドへと運ばれ降ろされると同時に、強く深く口付けられる。
口内を嬲られ頭の中に霞がかかり始める。満足に呼吸が出来なくて息は上がってしまうし、体の力は抜けて思考は溶け始める。
漸く解放されると、肩を腕を脇腹を掌が這い回りあっという間に服も下着も取り攫われてしまった。
「あっ!や・・・」
体を隠そうとしてうつ伏せになると背中を唇が舌が辿り、その度に跳ねてしまう腰を押え付ける様に撫で回されてシーツを握り締めて
上がってしまいそうになる声を堪える。
「声は我慢するなって昨日教えただろう?」
背中から覆い被さる形で彼の唇が耳元に近づいてそう言うと、そのまま抱き起こされ彼の脚の間に抱えられて後ろから唇を奪われる。
その間も胸元に手は回され捏ねられ、唇が外されるともう片方の手は私の中心へと進められた。
「ぁっ…。ん、んぅ…やぁ、っ!」
くちゅりと水音を立てながら、ゆるゆると彼の指がその際を弄ぶ。我慢できなかった声は唇から零れ落ちて、それと比例するかの様に
とろりと溢れ出すそれを絡め取る彼が態と音を響かせるのが恥ずかしさを煽るからか、自分のキャパシティを超えた快楽に対する
生理的なものなのか分からない涙が頬を濡らす。
「や…ね、ぇ、進藤っ先せ…っん、ぁ…も、やあっ…」
力が入らない体は彼に背を預けだらしなく開かれた脚は閉じられず、聞こえてくる自分の嬌声や水音も、どこに触れられても
鋭い反応を隠すことが出来ないこの全てが恥ずかしくて堪らない。なのに昨日知ったばかりの悦びを求める体は与えられ続ける
愛撫にもどかしさを募らせ、早くもっと欲しいと願ってしまう。
「何が、ヤなんだ?本当はもっと、欲しいんだろう?」
「ん、っあ…も、許し、て…。はっあ…ぁんっ!」
「ひっ!んぅー、あっ、あぁ…ぅんんっ…ぁあっ、くぅ!…や、ゃああ!」
仰向けにベッドに戻され胸を舐られながら指を蕩けたそこへ挿れて掻き回され、膨れた先端を摩り上げてはばらばらに中の指を動かし
抉る様に内壁を擦る様にされ、ついに背が大きく反り肌が粟立つと世界が白い光に塗りつぶされた。
そこからは暫く記憶が無い。気が付くとまだ惚けた様な状態の私を腕に抱きしめて髪を撫でてくれていた彼が、
もう病院に行かなければならない時間だと独りごちる様に言った。
「鍵は掛けてポストに入れて置くから、このまま少し休んでろ。」
ついさっきまで酷く情に塗れた顔をしていた男とは思えない程の、まるで風邪で寝込んでいる子供に言い聞かすかの如く優しい
物言いでベッドから抜け出そうとする。その姿をぼんやりと目で追って気が付いた。結局彼の衣服が乱れる事は殆ど無く
私だけが昇らせれてしまったのだと、サディストなのではと疑いたくなる位散々に弄ばれ、あんなに熱を孕んだ貌をしていたのに
きっと私の為を思っての事だと思うと切なくなる。
ベッドから降りようとすると弱い力でシャツの袖を引かれた。まだとろりとした表情の彼女が掠れた声で言う。
「…貴方は、あ、の…どうしたの?その…ちゃんと、気持ち良く、なれなかったでしょ…?」
眉を下げ言い辛そうにしながらも、そう聞いてくる彼女は瞳を揺らして見上げてくる。
「お前な…、そんな事聞くか?分かるだろう?それ位、態々言わせるな…。」
そんな事を真面目に聞かれると、何だかこっちまで恥ずかしくなってくる。大体、初めての彼女に続け様になんて最初から
する気は無かったのだ。それを善がる姿が見たいと我慢が出来なかったのは自分の方なのに、健気な事を言ってくれる。
そう思って苦笑を漏らすと、お前の気にする事じゃないと教えてやる。
「でも…ごめんなさい。…私が、もっと、ちゃんと出来れば貴方にももっと良くなって貰えるのに…」
しゅんとしてしまった彼女を見て、愛しく思うのと同時に少し悪戯心が出てきてしまった。
「じゃあ、俺の事名前で呼んでくれないか?」
「えっ?」
「名前、まさか知らないんじゃないよな?」
「知ってるわよ!でも…」
「いつまでも進藤先生って呼ぶつもりか?たまき。」
「…一生。」
「次からは、そう呼べよ?じゃあ、行って来る。」
「いってらっしゃい、一生。」
照れくさそうに名前を呼んでくれた彼女はあまりに可愛くて、少しずつ自分の染めた色へ変わってゆくであろうと思うと
嬉しくて堪らない。明日の朝病院へ出勤して来た時の彼女はきっと完璧なまでにあの“香坂たまき”だろう。
多分自分の方がいつもの彼女を前にどうしようもなくなってしまうかも知れない。病院では手を出さない様にしなければと
緩む頬を引き締め肝に命じながら彼女のマンションを後にした。
最終更新:2009年08月15日 23:26