「ごめんなさい、急に呼び出したりしてしまって」
さらりと、事もなげに言うさくらに、亜佑美がかえって戸惑い言葉が出なかった。数秒沈黙が続く。それから、何とか亜佑美が言葉を紡いだ。
「やっぱりさっきの、小田ちゃんだったんだね…」
「はい、そうです。石田さんに話したいことがあって、だけど他の皆さんには出来れば黙っていたいことだったので頭の中にお話しさせて頂きました」
さくらは穏やかな口調を崩さない。だけど、話を急いでいるようにも感じた。
「手短に、率直に言います。石田さんはカップルになりたいと思ったことはありませんか?もし今からカップルになれるとしたら、なりたいですか?」
亜佑美はハッと息を吸い込み呼吸を止めた。
沈黙が訪れた。亜佑美にとっては長い長い沈黙だったけれど、それは実際には数秒。その間、亜佑美は身動ぎすることさえ出来なくなっていた。
頭が真っ白になる。何も考えることが出来なくて、ただ頭の中に梵鐘のようにさくらの言った『カップルになれる』という言葉が木霊した。さくらの様子を窺うことも、出来そうにない。
亜佑美の沈黙をある程度予想していたのだろう、さくらは返事を待たず話を続けた。
「私の先生は、今その魔法を研究しています。カップルでない人、自覚を持たない人が恋のキュービッドにより、だーさくさんになる魔法。だけど、誰にでもなれるというわけじゃないんです。石田さんと小田。二人だけに、その可能性があります」
「なんでうちらが…?」
震える自分の声を、亜佑美はぼんやりと聞いていた。話の内容は、多分理解出来ている。だけどまるで心が身体を抜け出して上から眺めているように現実感も、感興も沸いてはこなかった。
「石田さんはご自身が『失恋体質』であることをご存知ですか?」
……………
小田さくら 「スプ水先生」の指令により飛竜に乗ってM13地区にやって来た謎の少女。
(おしまい)
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