「どう? この頃の尾形の様子は?」
「はい、使える魔法の数も徐々に増えてきたようで、魔法を活用しながら色々暗躍して充実した日々を送ってるみたいです」
「なかなかやるね。1年やそこらで暗躍できるほど魔法を使いこなせるようになるだなんて、さすがはさゆみが見込んだだけのことはあるの」
「ただ魔法を操れるようになって嬉しいのはわかりますけど、調子に乗って自分の実力も顧みず強引に事を進めようとして痛い目を見ることもチラホラあるようでして……。おかげでこっちは、その尻拭いをさせられていい迷惑ですよ」
「魔法を覚えたての初心者には定番のあるあるだね。まあしばらくしたら落ち着いてくるだろうし、それに優秀な先輩がちゃんと見守ってくれてるから、さゆみは心配してないけど」
「もう、そういう褒め殺しはズルいですよ道重さんも」
「フフ、これからも頼りにしてるよ。ところで、尾形はどんなネタを中心に暗躍してるの?」
「今のメインは、あゆみんと小田氏のだーさくですね。暗躍どころか『だーさくさんの恋のキューピッド』とまでブログで宣言して、カプヲタを巻き込んで陰に陽に弄ったり背中を押したりして楽しんでいるようです。他にもメンバー内で目についたカプネタは、手当たり次第に首を突っ込んでる感じですけど」
「そういう積極性というか節操のなさも含めて、さゆみの見込んだ通りだね。すっかり魔法にも馴染んだところで、そろそろ次の段階に進むいい頃合いかな」
「次の段階……というと?」
「それはね、フフフフ……」
○
「はーい! 野中ちゃんは鞘師さんが好きじゃないですか。今のメンバーでは誰推し……?」
それはDVDマガジンの企画の中で、娘。メンバー全員で「なんでもバスケット」をした時の事やった。
2回アウトになると、罰ゲームとして「みんなの前で懺悔」をするというルールがあったんやけど、その対象となった野中氏が懺悔を思いつかず、みんなから質問を募集してそれに答えるという流れになった。
そこで、周りに積極的な動きがなさそうなのを確認した上で、勢いよく挙手して質問をぶつけたのが、はるなやった。
「今のメンバーの中では、石田さん推しです。……横顔が美しいです」
野中氏が石田さんの名前を挙げるのは予想通りやったんやけど、「横顔」のくだりで石田さんの方を向いて口元を押さえて恥ずかしがりながらグフフフと笑う姿に、周囲から悲鳴のような笑いと「気持ち悪い!」というツッコミが入る。
アユビルに興奮する鞘師さんを思い出させるナイスなキモさで、はるなも質問した甲斐があったというものや。
ただはるなの質問は、野中氏からいいリアクションを引き出すためだけのものやなく、もう一つ重要な布石としての役割が込められていた。
その効果が発揮されたのが直後のことやった。次のゲームではるながあっさりとアウトになってしまい、野中氏に続いて「みんなの前で懺悔」を実行することになってもうた。
「じゃあ、野中ちゃんのに便乗して」
そこで違和感なくすんなりと話を繋げられたのは、さっきの布石のおかげ。
「わたしは鞘師さんが好きで、入る前に普通に鞘師さんも好きだったんですけど、二推しっていうとなんかアレなんですけど、生田さんが」
「うそ!!」
まさか名前が挙がるとは思ってなかったようで、思わず大声で反応する生田さん。食いついてくれたことに内心でガッツポーズしながら、あくまで何気ない顔で話を続ける。
「……っていうのを加入当時言ってたんですよ、普通に。鞘師さんと生田さんが好きですって言ってたのに、生田さんのキャラを段々わかってきて、生田さん好きっていうのは生田さんのキャラ潰しになると思って、言うのをやめたんです。だけど、プロフィールに、『りほりほ・えりぽん推し』って書いてました」
「え~!!」「うそ~!!」
生田さんだけでなく周りのリアクションも上々。でもそれ以上に、生田さんの前で「はるなは生鞘ヲタです」と実質的に明言した、という事実が、はるなの興奮を否応なしに掻き立てていた。
さっきの野中氏のように言ったあと我慢できず口元を押さえて照れ笑いしてしまうのも、はるなの中では当然すぎる反応なんやけど、はたしてどれだけの人がそのことを見抜けているやろか。
その意味するところの重大さを理解してるメンバーはほとんどおらんやろうけど、きっとDVDマガジンを視てくれてはるカプヲタ、特に生鞘ヲタのみんなはきちんと読み取ってくれてるはずや。
……と、ここまでははるなの描いたシナリオ通り、まさに完璧な流れやったんやけど、問題はそこからやった。
「尾形~!!」
喜びのあまり、生田さんが立ち上がり両手を広げてくる。その反応がはるなにとって全くの誤算やった。
これはさすがに……拒否はできひん流れやろなぁ。
一瞬躊躇したはるなやったけど、空気を読んで控えめに生田さんの胸に飛び込む。手は腰に回しただけでほとんど触れるか触れないかの形式的なもので、熱烈なハグとは程遠いぎこちないものやったけど、どうにか粗相なく乗り切れたはずや。
笑って誤魔化してはいたものの、内心はかなり冷や冷やものの危ういところやった。きっとDVDマガジンを視たヲタのみんなは、はるなのぎこちないハグをヘタレだと笑うんやろうけど、これにはれっきとした理由があるんやで。あくまで自分の中でのルールやから、他人にベラベラ弁解することとはちゃうんやけど。
危ういところといえば、以前にも似たようなことがあった。
あれは確か、去年の夏頃のことやったと思う。最初はハロステの新コーナーという名目で収録していたのが、実は全国同時握手会の抽選をするというドッキリ企画やったんやけど……。
それが種明かしされた時、隣にいた小田さんが興奮のあまりはるなの身体にもたれかかって抱き着いてきたから、モー大変やった。
ドッキリやと知らされた衝撃といきなり抱き着かれた動揺で、はるなは大パニック。しかも小田さんがしばらく抱き着いたままでいるもんやから、はるなも自分の手の置きどころすらわからず、手だってプルプル震えるのも仕方のないこと。
はるながいくら自制してても、相手の方から不意打ちで来られてしまっては対応のしようもあらへん。ドッキリのわちゃわちゃで目立ってなかったとは思うんやけど、あの後もしばらく動揺が収まらず平静を装うのがホンマしんどかった。
別にはるなは、接触自体が苦手というわけやない。現にあかねちんには、よく癒してもらいに抱き着いたりしてるわけやし。
じゃあ触れられたりスキンシップされたくないほどに先輩達が苦手なんかというと、そういう見方もまったく的外れで、決してそんなことはあらへん。
はるなはメンバーでありながらなおかつカプヲタという、とても特殊な立場にいる。だからこそ、観察対象であるメンバーのみんなとは一定の距離を置いて、あまり近づきすぎたり過剰なスキンシップなんかをしてはあかんのや。
はるながしているのは、魔法を使ってメンバーに刺激を与えて、それが人間関係、カプの距離にどんな影響を及ぼすかを観察して楽しむこと。ビリヤードに例えると、はるなはあくまでキューで球を突くプレイヤーの立場であり、自分も一緒に球の一つになってもうたら、それはもうゲームとして成立せえへん。
メンバーの一人という立場でありながら、当事者に巻き込まれることなく観察者としての立ち位置を守るためには、どうしてもみんなとはあまりくっつきすぎひんように一線を引いて接するという心構えが必要なんや。
今回の生田さんやこの前の小田さんのように、それでもイレギュラーで避けようのない接触はどうしても起こってしまうんやけど、それはあくまで例外ということで、これからも自分の中のルールはしっかりと守り続けていかなあかんと思ってる。
はるながカプヲタとして、今後もずっとメンバーのみんなを観察し続けていくために。
危ういといえばもう一つ、かなり焦った出来事もあった。
あれは忘れもしない、はるなの誕生日から2日後。リハーサル前に、野中氏から誕生日プレゼントをもらったんや。
「ぜひ開けてみて」とニコニコの笑顔で勧める野中氏の前で、薄くて軽いそのプレゼントを袋から取り出してみたはるなは、あまりの予想外すぎる中身に驚きすぎて数秒間固まってもうた。
中に入ってたのがなんと……婚姻届やったから。
え…待って、、、なになになになに、これ渡す人はるなでいいん?!!!
と軽くパニック状態になるのも仕方のないことやと思う。
よくよく見ると、どうやらそれは婚姻届が印字されたファイルというただの面白グッズやとわかりどうにか混乱を脱することができたんやけど、いくらネタやといってもこれを同性の女の子にプレゼントとして送るってどうなん?野中氏は帰国子女やから、そういうのに全然抵抗ないってことなんやろか。
ふと気づくと、野中氏が困ったような顔ではるなのことを見ていた。ああそうか、はるなの感想を待ってるんやな。
「ありがとう。でもはるななんかがホンマにこれもらっちゃってええの?」
急いで返事せなと反射的に口にしてすぐ、失敗したと後悔する。はるなの言葉に慌てた野中氏が、顔を真っ赤にしながら弁解を始めてもうたから。
「あ、あの、私は別にその、女の子が好きだとかはるなちゃんと結婚したいみたいな、そういうんじゃなくて、はるなちゃんは大阪人だから何かネタ的なものプレゼントしたくて……」
「いやいやいやいや、それはよーくわかっとるから大丈夫やで。ネタ的なものという前提でホンマ嬉しいでという話やから」
ボケた相手に頓珍漢な返しをして相手にボケの意味を一から説明させてしまったような、それこそ大阪人にあるまじき野中氏のネタ潰しをしてもうた。
『野中氏が何をくれるか楽しみにしとったけどまさかこんな素敵なプレゼントをもらえるなんて嬉しいわぁ……ってなんで婚姻届やねん!!』
ってくらいにベタなノリツッコミしとくのが正解やったか、と後悔しても後の祭り。
後日12期ラジオで話題が出た時、2人笑ってプレゼントネタを話せたから野中氏も別に引きずったりしてなさそうで安心したんやけど、それでももらった当日は2人とも何となく気まずい雰囲気になってもうたことが、苦い記憶とともに今でも胸に残ってる。
ただ開き直るわけやないけど、いくらネタ的なものといっても誕生日プレゼントとして婚姻届を送るのはさすがにどうかと思うで。
メンバーでありながらカプヲタのはるなは、観察者の立場を守るためにできるだけメンバーとは過剰な接触を避けるようにしている。そんな中で唯一その例外に当たるのが、12期なんや。
はるなにとって12期は、カプヲタ以前に同期であるというのが大前提の認識。だから12期の3人に対してカプヲタとしてのマイルールは適用せず、先輩達と比べて普通にスキンシップをとったりくっついたりもしてるんや。
その代わり、12期にはカプヲタとしての視点をできるだけ持ち込まない。それがはるなの中での同期ルール。
そんなことを言いながら、あかねちんの工藤さん好きを冷かしたり、自分達ではーちぇるとかコンビ名を付けて仲良しアピールしたりもするんやけど、逆に言えばその程度で、カプヲタとしてガッツリ観察することは決してせえへん。
あ、まりあかねのあの絶妙な不仲漫才は、見てて面白いからつい観察してまうな。あれはカプとは外れたところにある面白さやから、あくまで別物の扱いやけど。
そんな前提で同期と接しているからこそ、たとえ冗談でも婚姻届なんてカプを思いっきり連想させる……というかズバリそのもののプレゼントをもらってしまうと、同期ルールが揺さぶられて動揺を避けられへんわけで。
変にカプを意識されられてしまうと、それこそこれまでのように同期として普通にしてきたスキンシップなんかも取りづらくなるから、ホンマ勘弁してほしいわ。
もちろん野中氏がカプ的なことなんて微塵も考えてへんのは承知の上やし、我ながらちょっと自意識過剰すぎかもしれへんなという自覚もあるんやけど。
「尾形をね、観察者の座から引きずり降ろすの」
道重さんの『次の段階』は、まったくもって予想外の驚くべき内容でした。
「えっとそれは……。ごめんなさい、もう少し詳しく説明していただけませんか?」
「これまで尾形はずっと、周りのメンバーに魔法をかけてカプネタを引き起こしたり火に油を注いだりして、その様子を観察して楽しんできたんでしょ?そしてそのカプネタの中に、尾形自身は絶対に選ばれることはない。だって自分が当事者になったら、客観的に観察のしようもないわけだしね。その前提を覆して、尾形を他のメンバーと同じ立ち位置まで引きずり降ろすってこと」
「要するにそれって……」
ようやく道重さんの言わんとすることがわかってきました。
「尾形ちゃんをカプ要員の一人として巻き込む、つまり誰かメンバーと尾形ちゃんのカプを成立させる……ということですか?」
「そういうこと。別に成立までいかなくても、ラブコメのゴタゴタに当事者として巻き込むだけでもとりあえずは十分だと思うけど」
「でも、何のためにわざわざそんなことをするんでしょうか?……あ、そっか! 尾形ちゃんがずっと観察者でいるということは、そのためにメンバーと多少なりとも距離を置いてるわけだから……。観察者の座から引きずり降ろしてあえてメンバー内のカプネタに巻き込むことで、グループにもっと溶け込ませようという、道重さんの優しい親心なんですね!!」
頭に浮かんだ疑問に対して、納得できそうな答えもすぐに導き出すことができた、そう思ったのもつかの間。
「そんな面倒なこと考えてるわけないじゃない」
あっさりと道重さんに否定されてしまいました。
「では一体何のために……?」
「そんなの簡単、面白いから。さゆみが楽しむために決まってるでしょ」
なんという剛速球ど真ん中な答えでしょうか。
「よく考えてみなよ。尾形がこれまで距離を置いて観察者に徹してきたのは、観察のためなのはもちろんだけど、それ以上に自分にカプネタは似合わない、自分にはああいうのは無理だという、無意識のうちに拒絶反応を起こして避けてるというのも大きいと思うんだよね。『あたしには恋愛なんて無理だから』『そんなキャラじゃないから』と自分の殻に閉じこもって色恋沙汰と距離を置いてきたヒロインが、何かのきっかけでいきなり恋愛騒動に巻き込まれて恋心が芽生え、それまでの凝り固まった自分の気持ちと葛藤しながらも、ズブズブとハマり込んでいく。それってラブコメの典型パターンの一つじゃない」
「なるほど……。これまでの段階は、尾形ちゃんの観察者としての立ち位置を強調するための前振りで、次の段階で一気に当事者まで突き落とす。その振り幅が大きいほど盛り上がりも大きいというわけですね」
「もう一つ。これまでカプネタを観察してきた尾形が、気づけば自分がいつの間にか観察される側になっている。この逆転現象の妙も見逃しちゃいけないポイントだよね」
「観察者だったはずの尾形ちゃんを更に観察する道重さん、という二重構造ですか……」
道重さんの策士っぷりにはただただあきれ……もとい、感心するしかありません。ただ、道重さんは真意を全ては明かそうとしない人なので、これまでの説明がどこまで本心なのか、それ以上の深い意図が隠されていたりするのか、私如きにはまったく読めないことではあるのですが。
「問題は、どうやって尾形をカプネタに巻き込んでいくかなんだけど……」
その時、私の背筋にゾクリと悪寒が走りました。
「まあ、細かいことまで言わなくてもわかってるよね。方法については任せるから、よろしく頼んだよ」
やっぱりそうなってしまうんですね……。途中からある程度の覚悟はしていましたけど。
「ところでさ、メンバーの中で尾形とカプが成立しそうな娘って誰かいる?」
「そうですねぇ、可能性が高そうなのはやっぱり同期の3人だと思います。野中ちゃんとの『はーちぇる』はいつも一緒にいて仲の良さが際立ってますし、羽賀ちゃんとの『はがおが』もくっついたり抱き着いてる姿をよく見ますし。まりあちゃんとの『はるまき』については積極的な接触は多くない感じですけど、まりあちゃんのKYな前向きさが尾形ちゃんに向けられたら面白い化学反応を起こしてもおかしくないような気がします」
「うーん、同期相手じゃ普通すぎてちょっとインパクトが弱いんだよね。尾形が先輩とまさかの……!! というのが理想なんだけど」
「先輩相手だと尾形ちゃんが距離を置いてることもあってなかなか難しいかと。あゆみんとほんの少し距離が縮まってるかななんて感じることはありますけど、尾形ちゃん的にはあくまでだーさくキューピッド工作の一環でしょうし。後はまーちゃんが尾形ちゃんにたまにくっついてることもありますけど、まーちゃんは誰にでもあんな感じですからそれ以上は期待できないでしょうしねぇ」
「さゆみとしては別に、はるなんとの『Wはるな』でもいいと思ってるけどね」
ちょっ、いきなり何を言ってるんですか!?
「MCでの2人の掛け合いもなかなか好評のようだし、それに尾形と2人でお出かけしたことがあるってのも大きなアドバンテージだしね。結構お似合いに見えるけどなぁ。なんならいっそのこと、誰かいいカプの相手を探してみてそれでうまくいかなかったらはるなん相手で決行を……」
「いやいやそんな気を回していただかなくても大丈夫ですから!ちゃんと尾形ちゃんにピッタリのカプを見つけますんで!!」
「フフフフ、そこまで言うのなら期待させてもらおうかな」
はぁ……。ほとんど無理やり言わせておきながら、本当に道重さんはズルい人です。
「まあ別に急がなくても、上手くタイミングを見計らいながら徐々に外堀から埋めていってくれればいいから。一体誰が尾形のカプの相手に選ばれるか、その手腕も含めて楽しませてもらうよ。よろしくね、はるなん」
さて、大変なお役目を仰せつかってしまいました。具体的にどのように工作していくかですが、尾形ちゃん本人に働きかけるよりカプ候補の相手に働きかけてまずは距離を縮めていくのが正攻法ですかね。
ここまで来たら開き直って、色々策を張り巡らせていきながら私自身も存分に楽しみたいと思います。
これから覚悟しておきなさいね、尾形ちゃん。
(おしまい)
※参考http://i.imgur.com/C8KdSL1.gif
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