2025年4月27日(日)に実際に起きたことを、著者の主観で 100% ノンフィクション で書いたものです。
【#1 起床~のぞみ70号出発前】
手探りでスマホを引っ張り出し、アラームを止める。身を起こし、一つ息をする。
辺りは真っ暗だ。スマホの画面の光を頼りに台所へ向かい、蛍光灯を点ける。春分も周り、夏至へと近づきつつあるが、それでもまだまだこの時間は真っ暗だ。Discordを開き通知を消化する。3時間前に1度起きていたため、そこまで溜まっていない。台所へ戻り、スープジャーでほったら茹でしておいた玉子を剥く。まだ低温火傷するほどに熱い玉子を流水で冷まし、お椀へ投げ込む。
食パンを生でかじり、Twitterを流す。口内の水分を奪ってくるため麦茶を注ぎ、食道へ、胃へ、押し込む。食パンを平らげ、ゆで玉子に手を伸ばす。能登・珠洲塩をつまみ、雑にふりかけ、そしてそのまま口へ入れる。良質なしょっぱさが合い、咀嚼がどんどんと進む。
朝食は終わりだ。米が炊けるまでまだ少しある。洗面台へ向かい、歯を磨き、顔を洗う。こんな顔で…とは思うが、今日はまだコンディションが良い。少しは自信を持って行ける。前髪を整え、顔をひとつ叩き、気合いを入れる。
炊飯器が歌う。保温を切り、ラップの上に米を広げる。塩昆布を適当に混ぜ合わせ、ラップで包み握る。それを2つ。片方は机の上に置き、片方はバッグに入れる。もう家ですることは終わった。着替え、家を出る。自転車に跨り薄明の街へ駆け出す。…電気を消してきたか気になり、一旦戻る。きちんと消えていた。今度こそ街へ駆け出し、ファミリーマートへ飛び込む。冷蔵庫を物色し三ツ矢サイダーを手に取る。162円。素晴らしいコンビニ価格だ。それでも最近は自販機でも取り扱ってるところも少ない。こんな早朝でも売ってくれるのだから、安いもんだ。…少しだけ邪な考えを持ちつつ、駅を目指す。サラダ油が無駄に優秀なことに気がついたローラーブレーキを効かせつつ、駐輪場へ飛び込んだ。
扉が開いた瞬間座席の取り合いとなり、何とか自分も席を確保する。30分ほどでしかないが、トンネル内や宇野線内はよく揺れる。ここは座っておきたかった。空の色が変わりつつある中、今日のトップランナー、快速マリンライナー2号は定刻通り児島駅を出る。三菱IGBTの音が、静寂に包まれた車内に響く。始発の新幹線に間に合うようにスジが引かれた列車だけあって、四国内においても、本州内においても、これが始発列車だ。そのためこのマリンライナー2号は最も通過率の低い便となっている。宇多津駅を除き、終点駅を含めた場合、昼間の通過率は75%、一方この2号は25%…近郊輸送も担うのが、この快速マリンライナーだ。
植松駅に停まる頃には日が昇り、心地の良い朝日が車内を照らす。そちらを見ると、どこかの山の頂の上に橙の円が輝いており、その光景に心が洗われる。私はこの瞬間が好きだ。朝日は希望をくれる。どんなに冷たく、寂しく、苦しい夜も、いつか終わる。その終わりを告げ、私を暖めてくれる。それが私は好きだ。
茶屋町駅で人がどっと乗ってくる。車内は騒然とし、立ち客で埋まる。とても早朝の始発列車とは思えない人の量に面食らう。宇野線に入り、分岐器の揺れでタップダンスを踊る人も居る。早島、妹尾、備前西市、大元と停まり、いよいよ終点岡山へと差し掛かる。新幹線を使う人は2階乗り換え改札へ来るよう、促される。留置線の2700系に目が行く。多客輸送のため、全ての南風号が最低5両となっている。そのため、留置されている列車も例外では無い。見てみると、2780・2730という数字が目に入る。土佐くろしお鉄道保有の30番台だ。よく見ればJRマークは無い。しかしそれ以外の外見的差異は無く、ただの2700系である。
匂わせがてらDiscordに南風1号土左くろ入りの旨を送り、階段を登る。まだ5時台ながらそこそこ混雑している。とはいえ、乗り換え改札へ向かうのに苦になるほどでは無い。慣れた動きで改札へ向かい、児島駅を通した乗車券に加えて自由席特急券を取り出す。新幹線入場の印字があるため仕方がないとはいえ、それでもいつももどかしくなる処理の遅さに、きっぷを残して行きそうになる。しっかりと穴の空いた2枚を手に、24番のりばへ向けて階段を駆け上る。堂々と佇むN700Aの横を歩く。先頭へ辿り着き、写真を撮る。西日本のK12編成。これが3時間14分、私の代わりに足となり、東京まで向かってくれる。
15号車上り側の扉をくぐり、公衆電話の跡地にバッグを載せる。ゴールデンウィーク中であるため、のぞみ号は全ての列車が指定席となる。突発的に決めたことで、時間的にも金銭的にも指定席を取る事など出来なかったため、東京までデッキ立ち席の覚悟を決めた次第だ。
【#2 岡山出発~東京到着前】
何事もなく扉は閉まり、6時1分、のぞみ70号は岡山を後にする。聞き覚えしかない扉の固定音が聞こえる。四国8600系は新幹線系のパーツが流用されまくっていることを再確認する。N700系のイカれたとしか表現できない加速力でぐんぐんと速度を上げ、東を目指して突き進む。警備の人が回ってきて、ゴミ箱、トイレ、そして始発故の施錠チェックをする。こういった裏方の実際の仕事を見られるのも、デッキ立ちの良いところなのかもしれない。
それから20分ほどで姫路駅に到着する。資料用に回していたレコーダーアプリを止め、Discordの通知を確認する。『起きた』その一言が見え、予想よりも早起きだなと思う。遅れながら、"おはよう"と返す。やはり早く起きすぎたらしく、2度寝を決行するらしい。一応寝坊せず向かっている証明を送り、トンネルばかりの景色を眺め、山陽の終わりを待つ。
岡山駅から僅かに50分、のぞみ70号は山陽新幹線の終着、新大阪駅へ滑り込む。こんなに手軽に、素早く来れてしまうのだから、新幹線とは恐ろしいものだ。大阪駅まで距離があるとはいえ、それでもこの快脚を否定することはできない。乗務員はJR東海へ交代し、終点の東京を目指す。新大阪で銀河鉄道999の音色が聞こえてこないことに少しばかり不満を覚えつつも、列車は定刻で、東海道を上り始める。
京都駅で団体客がどっと乗り込む。それまで空いていた15号車・16号車は、気がつけば満席となっていた。やはり東海道は凄まじいな、そう思いつつ列車は名古屋を目指し走り続ける。東海道に入るとやはりカーブが多い。先程よりも横に引っ張られながら、それでも揺れは少なく、おにぎりをかじる私を乗せて快適に進む。
『おはようございます』
名古屋駅に着いた頃、そんな通知が飛んでくる。本人的にも寝すぎてしまったらしい。岡山駅から1時間40分、新幹線を使えばとてもとても近い距離に、この名古屋の街はある。
名古屋を出て、この旅で最長の駅間を進む。新横浜駅まで1時間10分、ノンストップで、爆速で、走り続ける。愛知の名古屋じゃないところ、静岡をぶち飛ばすこの走りは、のぞみの高速化に貢献し、そしてその高速性で、人を、私を惹き付ける。
到着番線と号車を問われる。のぞみ70号の到着番線は覚えていない。乗換案内で調べ、18番線だと分かる。
"18番線らしい? 今は15号車前側デッキに居る"
そう返しておく。時刻は8時を周り、東京到着まであと1時間ほどになったが、そんな実感は無い。鰻を求めて唾液が止まらなくなる湖を眺めつつ、カーブに揺られ続ける。ちょくちょく報告を飛ばし、定刻通りに向かっていることを伝える。なんかよく分からない雪化粧を纏った山も眺め、まだまだ続く駅間をただひたすらに立ち続ける。
ふと、黒い気持ちが降りてくる。…オフ会では、いつもこのくらいの時になると感じてしまうものだ。相手が自分の存在に満足できなかったらどうしよう。そんなの時間の無駄じゃないか。自分もお金と時間を使って来ているのに、来なかった方が良かったんじゃないか…そんな真っ黒い波に、攫われそうになる。…それでも、今まで決してそんなことは無かった、楽しい日々を過ごせた。なにより、ぶどうさんは私のことを信じて、今回の申し出を受け入れてくれた。その事実を信じ、私は車両の揺れに身を任せる。気付けば段々とその感情は収まり、ぶどうさんにまた会えるという期待感が、私を包み込んでいた。
新横浜駅に差し掛かったころ、ふと自分の服装について告げてないことを思い出す。洗面台の鏡の前で写真を撮ろうかと思ったが、トイレラッシュが起きていたため、諦めてドア付近で静かに写真を撮り、送る。ぶどうさんも東京駅に到着したことを、伝えて来てくれる。
品川を出て、到着は18番で間違っていないかとの話になる。あちらは駅の状況を確認し、こちらは到着のアナウンスに耳を傾ける。数秒ほどの差であちらが先に18番確定と送ってきて、こちらも数秒ばかり遅れて18番ですと送信される。前に会った時と同じく通信制限がかかっており、新幹線WiFi頼りの連絡だ。『お待ちしてます』の一言で期待と緊張はクライマックスになり、後ろに並ぶ人の列も、もはや気にしてられなかった。
【#3 東京到着~ガスト】
のぞみ70号は定刻通り終点に到着し、扉が開くのを待つ。ホームドアが開くのを眺めつつ、押さえつけがあるために開放が遅れるドアにもどかしさを感じる。やっと扉が開き、ホームへ足を下ろす。ここが久しい東京駅新幹線ホームかなどと思っている暇は無い。そこそこに混んだホームを進み、ぶどうさんを探す。顔は覚えていた。彼に近寄り、飛び付きたくなる。しかし万が一違ったら最悪お縄だ。慎重に彼を観察し、決定的な証拠を探す。イヤホン…特徴的なその見た目に、私は確信する。彼へ近寄り、彼もこちらへ気づく。やっと会えた。ただそれだけで嬉しかった。涙がこぼれそうになりつつ、挨拶を交わす。とりあえず秋葉原を目指し、ホームを抜けることにする。
乗換改札を抜け、ここまでお世話になった特急券とは別れを告げる。使用済みの入場券が出て、「要らねえw」と笑うぶどうさんから、それを受け取る。休日の朝、空いた東京駅を進み、シュポガキの広告を横目に、秋葉原方面のホームを目指す。三河安城してるという悲しい報告に笑いつつ、停車していた山手線の車両にそのまま乗り込む。4ドアやLCDなど新鮮な要素に触れつつ、短い駅間を鋭い加減速で進み、秋葉原へ到着する。児島駅からおおよそ700km、ここまで私を導いたきっぷと別れを告げ、9時半という早い時間に、私たちは目的の地へ辿り着いた。
あまりにも早いため、ネザーでお世話になりそうな すかいらーくグループの店へ上がり込む。ぶどうさんは朝ごはんを食べる時間が無かったため、ガッツリ行くようだ。私は食パン、ゆで卵、デカおにぎりと腹を満たしているため、ポテトを頼み、ゆっくりかじる事にする。
友人戦を1局、Botに振り回され頭が痛くなるような時間を過ごし、届いた料理に手をつける。彼の食べっぷりに軽く惚れ惚れし、それを眺めつつ軽く話をする。彼はその視線に困惑していたが、私は目を離すことをやめない。ふと隣の席から、聞き覚えのある単語が次々に出てくる。ぶどうさんと共にそちらを見ると、タブレットに雀魂の画面がデカデカとあり、ここでアガれるか云々と聞こえてくる。画面は牌譜のものだ。真面目な考察をしているらしい。ぶどうさんと顔を見合わせる。そしてぶどうさんは静かに笑い出す。「場所が場所だから(これくらい普通だよ)」と言う私も、笑いを堪えきれない。そこから話を聞いて行くうち、Discordでやった大会が…だの、こんな風に意外と接戦で…だのと聞こえてきて、やはり笑いを堪えきれない。ひとしきり笑った後、再び友人戦をし、親の倍満は役満定期をぶちかまされたり、やっぱりBotに振り回されたりしながら、私たちはガストを後にし、今日のメイン会場へ向かうことにした。
【#4 eイヤホン秋葉原店】
eイヤホン秋葉原店。こういった専門店はやはり都会ならではだ。ぶどうさんの後に続き、店へ入る。馴れた手つきで試聴機を見る彼の姿は、とても新鮮だった。様々なデザイン、性能特性…一重にイヤホンと言えども、様々あるのが見て取れる。ハマるのも納得だ。上もあるから行くよと多少強引に促される。その彼の目はキラキラと輝いている。私も、しっかり楽しもうと気合いを入れ、ぶどうさんの後を追った。
数々並ぶ有線イヤホン。その多種多様さに、感嘆の声が漏れる。とはいえ慣れない場所だ。ぶどうさんから離れないように、しっかりと後をついて行く。説明を受けながら、ぶどうさんは慣れた手つきで試聴する。私には音の違いなど分からない。ただそれを眺めるしか無かった。でも、趣味に没頭する彼の横顔は、とても愛おしく、思えた。そうしていくうちにお高いコーナーも通る。聞いてみたいけど、こいつらはゴツい4.4mmジャックなんだと、彼は言う。彼の使っているBTR3Kは4.4mmには対応していない。私も4.4mmの存在は知っていたが、それがゴロゴロ転がる場所に来るのは初めてだった。彼の気になっているイヤホンも4.4mmで、彼の目は、とてももどかしそうに見えた。
いくらか進んでいくうち、ぶどうさんのBTR3Kをに繋げてもらい、試聴することになった。確かに、今まで使ってきたものと全然音が違う。数を重ねていく毎に、それが出す音の性質の違いも分かるようになった。そして私は重低音も強く意識していることが分かった。彼も似たような傾向だと知って、少しだけ、嬉しくなった。
そうしているうち、ぶどうさんは運命的な出会いをする。BTR13。手を伸ばせる価格で、求めていた4.4mmバランス出力に対応している。…ぶどうさんは衝動と戦っていた。買いたい気持ちが目に見えていた。私はそれを見守っていた。まだ早いとDACコーナーを回るが、明らかに後ろ髪を引かれていた。1周して戻ってきて、決断にはまだ早い、試聴してから決めようと彼はペアリングを進める。まあ買うだろうなとそれを眺めつつ、反応を伺う。…試聴中、彼はあからさまに目を見開く。その姿が面白くて、静かに私は笑った。やがて彼はイヤホンを外す。そして1つ、「鳥肌立った…」。それが面白くて、やはり笑ってしまう。いや待て現行最強のBTR17を聞いてからにしよう。そう言い彼は試聴する。試聴を終えて一言、「BTR13買う」。…やっぱりそれが、面白かった。レジを待つ間、ぶどうさんはこちらへ「こんな風に変な人間なんですよ。」と話しかけてくる。…私は金毘羅で共に過ごした時から、こういう人だって分かっていた。そんな風に伝える。それを聞いた彼は複雑そうな表情をする。困らせる発言をしたことは、私が1番分かっている。そんな彼の、今日初めて知れたことは、彼の真剣な表情、そして実際に見る熱意だった。趣味へ没頭できる彼を、もっと好きになってしまった。
私の次のスマホがそれなりに高性能であることから、BTR3Kは不要だという結論に落ち着き、そのまま買取窓口へ向かう。譲渡証明に個人情報を書く必要があり、ちょっと気まずい空気になる。心配しないでも、私は何も見ないし、万が一見てしまっても忘れる。彼から離れ、同フロアの中古品を眺める。それでもいつか、もっと親密になれたら…そんなことも思ってしまう。
評価待ちのため、中古品関係をうろつく。「所有欲に負けて失敗した人の物」という説明が、妙にしっくりくる。自分は普段使いする予定なので、きちんと自分に合うものにしたいと、そう思った。
有線イヤホンのフロアに戻り、先程までは聞けなかった4.4mmのものを聞く。彼が聞きたかったものも含め、色々と。
「ぶどうの匂い…?」
彼にバレる。ロッテのキシリトールガムシリーズ、そのグレープ味だ。グレープを選んだのは…まあ、別に意識してなかったわけではない。
…そして出会う。良い音だと彼も試聴を勧める。確かに、良い。広い音域が、自然に出ている。これだ。手を伸ばせる手軽な価格で、音が好みのものと、出会えた。見てみれば、3.5mmモデルもある。3.5mmジャックなら、私も使える。私はこれに心を惹かれたまま、買取の呼び出しがかかったので、一旦上へ戻る。思ったより高く売れたと、彼は喜んでいた。
やはり私はあのSG2が良いと、あの場所へ戻る。迷わず手に取り、レジに並ぶ。会計を済ませ、HPがピンチな財布を眺め、それでも満足感に包まれてぶどうさんの元へ戻る。まだ少しばかり見て回りたいと。まだ時間があるので私もそれに同意し、後ろを着いて回る。お高いイヤホンも試聴する。BAドライバを21基搭載とかいうまさしくアメリカンなイヤホンも試し、2人して物量の暴力に屈する。あれは凄かった。
【#5 別れ】
そろそろ時間かと店を出る。店の前でガラポンを回し、私の時は黄色い玉が出る。ステッカーが貰えた。これも宝物だと、しっかりと袋にしまう。駅までの道を歩き、右に寄った車と、臨場した警視庁の刑事課の車を横目に、帰りのきっぷを取り出し、改札を通る。山手線の列車が先に到着し、それに乗る。その車内で記念の写真を撮る。前回会った時は非公式だから、写真は撮らないよって言ったなと思い出す。きちんと会えた。前よりも長い時間を過ごせた。それが、嬉しかった。
時間も経ち、少し混雑している東京駅を、乗換改札へ向けて進む。彼から離れないように、背中を追いかける。あっという間に改札についてしまう。もう、別れの時間だ。会えて嬉しかった。一緒に過ごせて幸せだった。まだまだ一緒に過ごしたかった。沢山の気持ちが溢れて、どんな顔をすればいいか分からない。そんな様子を見て、彼は笑う。なんで笑ってるんですかと誤魔化そうとするものの、あまりにも大根役者だ。自分はどうなっていると意識を向けると、心拍が異常に早いことに気がつく。ああ、やっぱり私は彼が好きなんだ。
耐えきれず彼に飛びつく。彼の身体、温もり…彼がそこにいると分かって、胸がいっぱいになる。離れたくなかった。ずっとこのままでいたかった。でも、これ以上は涙を堪えきれないと、僅かな時間ながら、離れようとする。しかし彼の手は私をそっと包み、軽く背中を叩いてくれる。温情ながら受け入れてくれた嬉しさに、余計に泣きそうになる。早く離れないといけない。深く息を吸い、彼から離れる。別れ方が分からない。流れに身を任せ、彼と別れを告げる。「また会おう」…そう言ってくれて、とても嬉しかった。最後に手を合わせ、背を向けて改札機へ歩く。その手できっぷを放り込み、改札を抜ける。のぞみ169号博多行き、24番のりば。そちらへ向けて、足を運ぶ。
幸せでいっぱいだった。とても嬉しかった。そして少し、寂しかった。
そんな沢山の感情の籠る私の胸は、ぶどうの香りでいっぱいだった。
最終更新:2025年04月29日 21:38